第6話 ネザの転生
ネザが再び語る。
「わたしは地球に着いた時、しばらくは四次元中層界に霊体としてとどまりました。着いた場所は目標の島国ではなく、砂漠の国に降りました。ほかの場所へ降り立つ選択肢はありませんでした。
この地では人間以上の存在を神と呼び、神の名のもとにすべてが行われていました。しかし、驚いたのは、一部の指導者は悪感情そのままの人たちで、純粋な心を持った人たちが虐げられていたことでした。
わたしは三脳人に生まれ変わることを躊躇しました。あまりにも愛がないその現状に、いままで感じたことがない感情を覚えました。今思うとそれは恐怖という感情でした。
そこでわたしは霊体のまま地球を観察し、海の中の生物で興味深い生き物を発見しました。それはイルカという生き物で、純粋で楽しいことが好きという、わたしにピッタリの生き物でした。わたしはとりあえずイルカに入りました。
イルカでいる間はとても楽しかったけれど、わたしが地球に来た目的は、三脳人の複雑な精神を自分で体験し、愛以外の大切なものがあるならそれを学ぶこと。自分の精神レベルを最高度に発達させるために、愛を広め、愛を高めることです。
このままではその目的を達成できません。わたしは地球のこともある程度わかってきたので、三脳人に生まれ変わることにしました。やはり選択肢はなく砂漠の国に生まれました。
三脳人になって、最初は意思すら通じない相手に自分の思っていることを話し、協力して物事を成功させるのが楽しかった。悪事を企む人を改心させたり、宇宙では体験できない複雑な感情を知るうちに、三脳人の欲に駆られた行動と感情を深く研究したくなりました。
わたしはあえて悪い人たちと混じり合いました。その結果、悪感情から悪感情が生み出され、自分の思い通りにならないと怒りを覚え、裏切られては人を怨み、鎖のように果てしなく続く劣悪な感情から抜け出せなくなっている自分に気がつきました。二十歳のころ、私は悪い病気にかかり、この生を終えました。
次の生では、生まれ出るときに、愛を説く仕事を選ぶことを決心しました。しかしいくら愛を説いても聞いてはもらえませんでした。この時の生涯は人に殺されました。
わたしは殺される寸前まで、わたしを殺そうとする人の刃物の下で愛を説き続けました。復讐に復讐をもってするのが当たり前の環境で、愛に生きるのは困難というよりも危険でした。
人を殺めるのは自分の欲望だけを満たす自己愛、人を騙すのも自己愛、人を傷つける行為はすべて低いレベルの愛から生まれ出るものだと知りました。それでもそれは愛から生まれ出た行為なのだから、希望はあると信じました。
地球の三脳人は夢遊病者のようなもので、自分が何をしているのかそれすらわかっていないと知りました。三脳人は他人とのつながりが極端に希薄なため、自分と他人は別人だと思っています。人をあやめる行為は自分をあやめることと直結していることが理解できていないとわかるまでにずいぶん時間がかかってしまいました。
危険を承知で愛を説く仕事を選んだのに、三脳人を信じていわたしなのに、わたしの心は悲しみ、怒り、恐怖、恨みなど、それこそ宇宙では体験できない負の感情でいっぱいになりました。
怨みは怨みでは解決しません。怒りは怒りでは解決しません。次の生涯ではそんな簡単なことすら忘れてしまい、怒りを怒りで返すという低い波動に染まってしまいました。
そもそもわたしはなぜこのような低い波動に波長が合うようになってしまったのでしょう。その原因はなんだったのでしょう。それは、わたしは大丈夫、わたしは決して低レベルな感情に同調したりしない。
わたしは、「わたしなら大丈夫」という、驕り高ぶりの感情を心の基本として持っていたことが欠点であったと、今ならわかります。
心のほとんどが、怒り、驕り、むさぼりの低意識になりつつある危険な状況の中、やっとの思いであなたに助けを求めたけれど、「怨み」、「自分最優先」という心がテレパシーを鈍らせました。テレパシーは共有することが前提なので、自分さえよければと思う心が強くあると、能力が発揮できないのです。
あなたがもし、この地球にいるのなら、わたしのように脱落しないで使命をまっとうしてほしい。そう願ってわたしは、あなたとの約束「人のために生きる」、この思いを歌にしました。歌にすれば、なぜ歌を作ったか、その動機や必要性を忘れてしまっても、歌の内容は残るからです。
それからわたしは人間ではなく、木に生まれ変わり、自由を失いました。
なぜ、わたしが木に生まれ変わったのかというと、自分だけが良ければいいという気持ちが強すぎて、自分の利益に固執し、まるで根が生えたように自分の利益を譲らず、他人のために一歩も動くことがない人生を送ることによって、その場から動けない境遇が備わったことと、ウソをつくことを覚え、人をだまして生きた報いで、口がないほうが魂の成長につながる環境として木に生まれかわったのでした。
わたしが砂漠の丘の上の木であったころ、やっとあなたを見つけ、会えたときは喜びでいっぱいでしたが、そのとき少年であったあなたは、盗みを覚え、次の生では、最悪の環境に生まれるような魂となっていました。
わたしはなんとかあなたを救いたいと思い、「人のために生きる」この言葉を歌に託してあなたに伝えました。それは宇宙にいたころに二人で決めたこと。二人が忘れてしまっていても、何かのきっかけで思い出すかもしれない。そう願ったのでした。
そしてあなたは盗みをやめ、人の道を生き、次もその次も人間として生きましたね。そして今、ホームセンターの廃棄処分の中からわたしを見つけてくれたのです。