第2話 無邪気な船人
「ねえ、孤独感って知ってる?」
「なにそれ?」
「心が通じ合う相手がいないんじゃないか? 自分だけしかいないという感覚よ」
「なにそれ、そんなのわかんないよ」
「じゃー、憤りは? 正義感や非難の気持ちから怒りを発する感じ」
「なにそれ、そんなのあるわけないよ」
「ところが、地球っていう星に行くと味わえるんだって」
「あー、あの銀河の端っこにある、まだ若い太陽のところの青く見えるとかいう」
「そうそう、わたしの友だちがそこに行ってさー、テレパシーが通じないから、自分の気持ちを伝えたり、共通の意識を確認したりするのすら大変なことだったっていってたよ」
「えっ、思ったことが伝わらないの? 共有されないの??」
「地球に住んでいる三脳人はさ、わたしたちでは考えられないような複雑な感情を持っているんだって」
「地球人って全員、脳が三つに分離してるんだってね、外側と内側と中心と」
「そうそう、それで、その星はさ、熱い鉄が主成分で、溶けた鉄が固まって冷めた部分に住んでいて、それが流れたり、ぶつかったりしてるんだって」
「エー、そんな不安定なとこに住めないよ」
「そー、安定してないからこそ、自然に逆らってもムダという感覚だったり、常に流動的な事象を受け入れるんだって」
「はー、アトラクションとしては面白そうだね。おれたち退屈してるし」
「ところがそこに住んでいる三脳人はさ、脳が複雑だから精神も複雑で、わたしたちでは考えられないような、芸術や文化を創造できるらしいよ」
「あー、おれベートーベンとジョンレノン知ってるし。あれ地球の三脳人でしょ?」
「わたし、考えたんだけどさー、三脳人に生まれ変わって、精神的にバージョンアップしようかと思うの。一緒に行かない?」
「おまえ、充分、愛に満ちてるじゃん。三脳人の2倍くらいあるんじゃない」
「ところがさー、どこの星の人もすごい期待してるらしいよ。三脳人に」
「いろんな星の人が三脳人に期待して、自分たちのDNAを供与して、自分たちの精神が高まる可能性を探っているって聞いたことがあるよ」
「わたしたち、宇宙の法則が因果律だってこと常識じゃん」
「だね」
「でもさー、愛を高めていって完全なる博愛主義になれたとしても、お互いを完全にゆるし合うとかだよね」
「そう、完全に理解できること、すなわちゆるし合えることだよね。すばらしいね。それで十分だね」
「でもさー、その根本原因である感情が起こる原因ってのがあるよね」
「そう、因があるから果がある。感情が起こるにはその原因があるね」
「でもさー、わたしたちって三脳人に比べると感情が乏しいから、複雑な精神構造が学べないのよ」
「脳が三つに分かれてるなんてステキだね。地球人はその脳のおかげで精神的に複雑で、それゆえに我々には想像もつかない飛躍があるかもね。その脳の構造に地球人はきっと感謝してるだろうね」
「ところが脳が三つに分かれていることを知った地球人は、その脳を欠陥脳として悲観し、その脳の欠点を補うために宗教ってのを作り出したらしいよ。3つの脳のバランスが悪くてメチャクチャなことをするから、脳が暴走しないように“神”を仮に置いて心を縛るんだってさ」
「地球人って輝く宇宙人を見ると神さまだ!って思うんだってね。それっておもしろすぎ! “神”ったって、地球人はたくさんの宇宙人に関与されているから、宇宙人はみんな友だちや、家族、親戚なのにね。それをあがめちゃうんだから困ったね」
「三脳人は、表面の脳は賢く生きようとするし、中間の脳は自分だけたくましく生きようとするし、深い脳は本能的に生きようとするしで、もう、自分がどうしたいのかもわからないんだって。
理性的になったり、情緒的になったり、衝動的になったりで、もう、神に近い心境から動物丸出しの本能的行動まで、行ったり来たりしてるんだってさ」
「うーん、その三つの脳、それぞれが違う愛を持っているのかな」
「三脳人の愛って、自己愛、溺愛、盲愛なんてのがあるらしいよ。低いレベルの愛なのかな?」
「キリストさんが愛を教えたけど、少し時間がたったら、全然違う愛に定義が変わってたっていってるね。三脳人には愛だけじゃダメってことかな?」
「わたしたちはみんなで気持ちを共有できるから愛があれば十分だし、それがすべてだけど、地球では間違った愛があるってことは、愛とは別の重要なものがあるのかもね?」
「愛以上のものはないでしょ。でもその愛がねじ曲がって解釈される脳の構造があるってことは、おれたちの理解を超えてるね」
「愛を正すものかぁ~、自己愛とかっていう自分中心の心から脱するものかな? わたしたち自己愛ってほとんどないから感覚がわからないね。みんなで愛を共有すればそれで十分だから、それ以上考えられないしね」
「もしかして、三脳人って自己愛を脱して博愛に至る方法を知ってるのかな。おれたち最初から普通に博愛主義だから、それ以上進歩しないからね。それで満足だし」
「地球の中でも、最も気候が複雑に変わって、しかも陸地が絡み合って火山が噴火したり地震があったりして、自然観から宇宙観を感じて、感情が特別に複雑な人種がいるらしいよ。その人種は海に囲まれた島に住んでいるんだって」
「うん、その島国は『すべての神の島』って名前らしいよ。島ってことは、そこの三脳人はある程度は共通の認識があるんだろうな」