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第20話 海と星

 12月20日

 世間はクリスマス一色だ。街路樹まで鎖のように電球の帯がまとわりついている。

 このごろ、ネザの口数がずいぶん減ってきた。分身を新しくするために、葉っぱもずいぶん切ってしまい、残りは一枚しかない。しかし、冬はどうせ葉を落とすからいいだろう。バラは12月頃から3月くらいまで休眠させないと春に花が咲かない。だから冬の間に枝を剪定し、春に備える。


 12月25日

 世間はにぎやかだが、こちらはヒマだ。部屋から外をながめれば満月が輝いている。なぜだろう、ネザと過ごすようになってから満月の夜は心がうずく。

 なにかを思い出せそうなのに思い出せない。大切なことを忘れているような気がしてならない。丸い月、輝く月、月を凝視していると、宇宙がとても身近に感じられる。誰もがそうなんだろうか? おれが変なのだろうか。

 おれは自分が変だとは思わないが、世間での評価はわからない。案外みんな自分は少し変と思っているのかもしれないな。

 月だって自分は変と思っているかも知れない。月に意識はあるのだろうか? 地球に意識はあるのだろうか? 太陽には? 銀河系には? この広大な宇宙自体、意志をもって活動しているのかも? 

「あー、やっぱりおれは少し変だな」

 自分で納得したところで、しゃべらないネザに「おやすみ」を言い、眠りについた。


 3月27日

 東京の空はネオンが明るすぎて星は見えない。けれど今日は空気が澄んでいるせいか珍しく夜空のところどころに星が瞬いている。

 ネザも冬眠中のようで、もうすぐ春なのに眠りっぱなしだったのだが、この日、珍しく声を発した。もう冬眠から目覚めたのかな。

「今から、海と星が見えるところまで、わたしを連れて行って!」

 ええっ~、もう夜11時だ、寒いし、やだなと思ったが、久しぶりにネザがしゃべったので大洗の海岸まで車を飛ばした。海岸近く、磯前神社のそばにある大洗公園パーキングに車を入れた。

 ネザは星を見ているようだった。車の外に出て空気を吸った。波の音は何度も繰り返す。真っ暗な空間に星たちが浮かぶ。

「波の音がなければ宇宙にいるのと変わらないな」

 おれがいうと、ネザが、

「そう、宇宙にいたんだよね、わたしたち。終わろうとするときにしか思い出せないのはなぜなの。いつもそうだった。終わりの時にやっと思い出せる。次こそは、と決意させるためなのかな」

 ネザが変なことを言い出したが、あまりにも寒いので、車に入った。もう夜中の2時だ。星だけの世界。闇が車を包んで宇宙に浮かんでいるようだった。

 暖房をかけたのでウトウトしてきた。おれは夢うつつでネザに話しかけた。

「ネザ知ってるかい。ここは海の底にお姫様が居た伝説があるんだ」

「うん、わかる。海の中でも生きられるよ。宇宙と海は似ているね。人の世界に行く時には、海の中を通ればちょっとは安心して行けるんだよ。ネッ知ってる? わたし、最初にイルカに入ったんだよ」

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