第18話 陰謀論iN暴論
11月1日
会社から帰宅、最近の楽しみは風呂上がりにビール。そしてYouTubeを見ながらメシを食う。最近のお気に入りは陰謀論だ。
「また、ネット?」
「ん? ネザか珍しいな。最近おとなしかったじゃないか。なんか用か」
「今日は何を見るの? また陰謀論ってやつ?」
「察しがいいな。いいかネザ、秘密結社と金融界が世の中を裏で操作しているんだ。そのうちみんな、気がつかないうちに奴隷のようになるんだよ」
「あなたはもう奴隷よね、陰謀論の。陰謀論を読む、言う、聞く。最初のうちはおもしろく感じるかもしれないけれど、そのうちに、世の中の出来事には裏があり、なにかの陰謀ではないかと勘ぐるようになるよ。そのうち自分に起きた出来事も、これは何かの陰謀ではないかと思うようになるよ。
自分に良いことが起きても、これは何かの陰謀ではないかと勘ぐるようになるし、自分が幸せだと感じることが起きても、これは何かの陰謀ではないかと思うようになる。この幸せには何か裏があると思い、幸せさえも感謝できず、幸せさえも疑ってかかる。
だから陰謀論を読む、言う、聞く人は永遠に幸せになれないんだよ。そして、そういう体質になったら、なかなか抜け出せないよ。だから、陰謀論は『見ざる、言わざる、聞かざる』だよ」
「うーん、反論したい。おまえの言っていることは暴論だ。
もしかしたら、しゃべるバラが目の前にいるのは、何かの陰謀か!? おれはどこかの秘密研究機関の実験台にされているのかもしれないぞ。どっかに監視カメラがあって、24時間見張られている。そんな気がしてきたぞ」
「やれやれ、重傷ですね」
おれは陰謀論から離れることにした。一般人であるおれが、あるかないかわからない世界の裏側を熟知し、その結果、かってに不幸になるんじゃ割に合わないからね。陰謀さん、サヨーナラ―。
11月2日
帰宅直後にパソコンに向かう。
「スピリチュアル、アセンション。っと」
「お帰り~。また、ネット? 今度は何を見てるの?」
「お、ネザか、今日はな、アセンションさ、次元上昇ってやつだな。知ってるかネザ」
「何となく知っているよ。あなたは今3次元空間にいるのよね」
「そうさ、地球はこれから5次元に向かうのさ。それにうまく乗っからないと手遅れになってしまうのさ」
「3次元より5次元がいいの?」
「当たり前じゃないか、1次元より2次元。2次元より3次元の方が自由度が高いような気がするだろ。だから5次元に行きたいのさ」
「まるで隣りの芝生が青く見えるから、そっちに行くみたいに思ってるのね」
「違うのか? アセンションってそういうものだろ」
「まず、次元の数が多いほど優れているとか、素晴らしいとか思うのが間違いです。すべての次元は等しく尊いものであり、他と比べる必要はないんだよ」
「ネザ、何を言ってるんだ。次元が高いほどいいに決まってるじゃんか」
「もう一度言いますよ、次元の数が多いほど優れていると思うのは間違っているよ。すべての次元は等しく尊いものなんだよ。あなたが一番感謝しなければならない次元は、今いる次元なんだよ。今いる次元が良くないから他の次元に行きたいとか、他の次元と比べて劣っているとか思う必要はないんだよ。
今、あなたに縁のある次元を、もっと大切に思って感謝することによって、あなたの周囲の波動が変化するんだよ。
だから5次元がいいとか、7次元がいいとか、他の次元をうらやんだりしないで、自分の次元に最大限の感謝をし、大切にすることが大事なんだよ。今いる次元を感謝の気持ちで満ちあふれるようにしましょうね」
ネザのいうことは正しいのだろうか。上の次元ほど良い次元と思うのだが、今の次元を感謝でいっぱいにすればいいという。こんなことを考えていると、ネザがおれの心を読んでいった。
「卒業式で咲く桜と、入学式で咲く桜は同じ桜なんだよ」