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第16話 一億総宗教家時代

 9月30日

 会社にネザを連れてきた。「ヒマだから連れて行け」と、うるさいからだ。

「あー、この会社もいい加減に嫌になってきたな。右を向いても左を向いてもバカばかり、滅入るねまったく。営業のAなんかは、得意先からムリな注文ばかり取ってくるし、経理のBはとにかく仕事が遅いんだ。ろくなやつがいない」

 おれのグチにネザが反応する。

「右も左もバカだらけってこと?」

「まったくそのとおり」

「右を向いたら田んぼでした。左を向いても田んぼでした。といったらあなたが田んぼのど真ん中に居るってことになるよ」

「ん? おれが田んぼの真ん中ってか。どういうことだ」

「あんたがバカど真ん中ってことです。田んぼに水が張られていてキラキラと水面が光ってきれいかもしれない。でもそれは見ない。稲穂が出そろって風になびくそのウェーブがきれい。でもそれは見えない。

 あんたが見るのは田んぼのあぜ道の雑草だったり、水路につまったゴミだったり。もっと良い面を見るように心がければ、あなたの左右は素晴らしい人ばかりってことに気づくと思うよ」

「そうかぁ~?」

「得意先がムリな注文するのは当たり前。それをこなすのが仕事です。経理は間違うことなく仕事をするのが当たり前、仕事が遅くても正確に仕事をこなすなら、いいことです」

「そうかぁ~?」

「すべてを感謝の対象として見るようにすれば、あなたが素晴らしい人や物に囲まれていることがわかると思うよ。出会う人、出会う物、すべてが感謝の対象であって、すべてが神だと思って接するとすごいことがおきるよ」

「すごいこと? なにが起きるんだ」

「あなたも感謝の対象として見られ、あなたも神として接してもらえるようになるよ」

「おっ、それ悪くないね。ひょっとしておれのエンジニアとしての業績が評価されないのは、おれが回りを評価してなかったからなのかな」

「そのとおり、それでね。まず最初にやることがあるよ。それを実行しなさい」

「しなさいって、なにを実行するのさ」

「わからないかなー、わたしを神として見て、感謝するんですよ」

「小うるさいバラの妖精が神?」

「妖精じゃなくて精霊です」

「うるさいな、どっちでも同じだ」

 ネザととりとめのないおしゃべりをしていたら、上司がおれの同僚を叱りだした。そいつがポカミスをして面倒なことになったのだ。おしゃべりネザが言う。

「あの上司はわかってないね。あの部下の気質、仕事の仕方をよくわきまえて、部下がミスをしないように仕事の手配をするべきなのに、それができていないね。

 今は宇宙からの波動が変わって、とても繊細な波動が来ています。だから生き物は少しのことでとても傷つきやすいんです。昔のように頭ごなしに叱るとダメージが大きいんです」

「そんなこと言ったって、どうすりゃいいのさ。あの上司に『宇宙の波動が繊細だから、やさしくしてね』とでも言うのか」

「まぁ、そうです。今は、個人の祈りのような微少な波動でも通じやすいんです。だから、あなたが心の中で祈れば通じます。何度も祈っているうちに本当に変わりますよ」

「どう祈るのさ」

「あの上司の幸せを祈ってあげましょう。『あなたに感謝します。いつもありがとうございます』あの上司の顔を思い浮かべて念じてください」

「いつから宗教家になったんだよ。なんで上司の幸せを祈るんだよ。おれの同僚の幸せを祈ってくれよ」

「今は、一億総宗教家時代です。昔、高名な宗教家が説いていたくらいのことは、日本人なら全員知ってますよ。

 あのトロい同僚が、上司に感謝の念を送り、幸せを祈るのが一番いいですね。すると二人の関係が大きく変わってきますよ。あなただってわたしの優しさで徐々に変わってきていることを実感しているでしょう」

「なるほど、おれが最近凶暴になってきたのはネザのせいか」

「怒っても何も解決しないんです。怒る理由は、怒る本人の心にそぐわないことが起きたからで、相手が誰であろうと関係ないんだよね。もし怒らなければならない相手と縁があったのなら、自分も同じ程度のレベルだからだよね。

 100人で仕事をしても10人で仕事をしても同じこと、心に不満が起きるから怒るんだよね。もし自分の心にそぐわない人との関係を断って、どんどん人を減らしていって、この世に自分一人しかいない状況になったら、なぜ一人しかいないんだといって怒る。結局は自分本位の心が原因なんだよね」

「ほう、ネザも成長したな、もうおれに怒るのはやめようね」

「怒ったことなんかないよ。いつも感謝しているよ。たまにトゲが当たっちゃうのは風の仕業だと思うよ。

 でね、怒って相手を変えさせようとしてもムリなんです。怒れば怒るほど相手は緊張し、ストレスを感じて余計に失敗しちゃうよね。なぜ失敗するかといえば、能力が低いか、運が悪いからだよね」

「準備不足ちゃうん?」

「準備をちゃんとすることができない程度の能力か、準備中にじゃまが入る運の悪さだよね」

「ふむ、準備ができない程度のオツムで生まれちゃった運の悪さが原因じゃね?」

「おー、その通りですね。ということは、怒るよりも、相手の運が良くなるように祈ってあげる。これが一番ってことだよね」

「ふっ、あまいよネザ、世の中そんなんじゃー、生きていけないよ」

「昔はそうだったかもしれないけれど、今は違うと思うよ。世の中の波動は本当に繊細になってきているんだよ。怒るのをやめて『この人は幸運です』って祈ってあげること。『幸運になるように』じゃあだめだよ。『なるように』祈るということは、その人が不幸な状態でなければ祈れないから、『幸運になるな、不幸のままでいろ』と願うことと同じだからね」

「じゃあさあ、『世界が平和になるように』って願いは、今が平和じゃないっていうことが前提ってことだよね。平和だったら『なるように』なんて願えないもんね。『平和になれ』という願いは平和になったら願えないから、『世界が平和になるように』と願う人は、いつまでも平和になるなよって願っているってことになるぞ」

「うん、だから『世界平和感謝』って祈ればいいよ。実際この地や空には精霊と呼ばれる存在がたくさんいてね、365日、24時間、その寿命が尽きる刹那まで平和のために働いているんだよ。その働きがなかったらこの星はとっくに死の星になっているよ。それらの尊い存在が働いていて、この程度の平和がなんとか保たれているんだよ。

 人間って1年の内のほんの数秒間、神社やお寺で世界平和を祈るよね、あんたはそれすらしないけれど。それなのに一瞬たりとも休まずに平和のために尽くしている存在に対して、もっと世界を平和にしろって命令しているんだよ、ほとんどの人はね」

「命令なんかしてないよ、願っているんだよ。どうぞこうしてくださいって。あれ? これって言葉は丁寧だけれど命令していることになるのか。ああ、もう、そんなに細かいことはどうでもいいだろう」

「今は波動が繊細だって言ってるでしょう。精霊の言葉を信じなさい」

「信じなさいって、お前は神か。だいたいだな、怒る上司とおれの同僚の話をしていたんだよ。確かにあいつはトロいから怒られても当然だけどさ、でも良いやつだよ」

「そう、しかもダレかさんより営業成績は上だしね」

「おれはエンジニアだっての! 営業はたまに手伝わされるだけなの! 口数の減らんバラだ。あーぁ、あの高貴な雰囲気が懐かしい」

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