第15話 25パーセントでストレスゼロ! の日々
「ネザ、よく聞け、世の中ってのはな、ストレスでできてるんだよ。この前の『食べられる家』とは真逆で、食えねぇヤツらばっかりでストレスだらけなんだよ。おれさまのような超優秀な技術者が、たまに営業に駆り出されたり、もうイライラすることだらけなんだよ。世間のヤツらと一緒に満員電車に乗って通勤してるだけでストレスなんだよ」
「あなたはエライ人だもんね。人間なんてバカバカしいよね。100点よね」
「クッソー、そんなにエラかないわい! まぁ点数でいうと76点くらいだな、もうちょっと上だな86点くらいだな。うん」
おれのざれ言にネザが上機嫌でしゃべりだす。
「普通の人は最初に少し高めの点数をつけて、やっぱり思い直して低めの点数にするんじゃないの?」
「欠点が見当たらないんだよ、おれって。まぁ、しゃべるバラに説教されるのが欠点だな」
なおもネザは機嫌良くしゃべりだす。
「人間って50点の生き物なの。だいたいみんな50点。それが他の人には100点を求めるので、怒ったり、文句言ったりしちゃう。ストレスを感じちゃう。不満たらたらでね。欠陥のある人が、欠陥のある人を、おまえは欠陥がある。と指摘する。まぁそんな感じ。
生きていくためにはいろんな人と関わっていくでしょう。50点の人と50点の人が、協力して仕事をすると100点のものができると思っているから、不満たらたらなの。50点の人と50点の人が、協力して仕事をすると、25点のものができる」
「なに?!」
「うるさい! できるの! 半分と半分で一つのものが出来ると思っているのが間違いだと思えばいいの。元々半分のもの同士が、半分ずつ出し合い、半分ずつ削られると、結局半分の半分になるの。
だから、人と仕事をする、人に頼みごとをする、その結果が期待の25パーセントあれば、大満足! と思えばなんの不満も起きず、ストレスゼロ! だよね。
だいたいね、自分に縁がある人って自分と似たりよったりなの。その中で25パーセントの法則で生きれば不満を感じずストレスゼロ。ストレスゼロなら、もう100点!
そうそう、あなたにはまだ早いけれど今のうちに言っておくね、この期待の25パーセントでOKというのは夫婦でもそうだよ。夫婦こそ相手に100点を求めてしまうけれど、それでは幸せになれないよ。夫婦こそ25点、相手に求めるのは25点です」
「なんでそんなこと知っとるん?」
「だって、歩いてる人たちの会話って、相手に求めることばっかりなんだもん。説教したくもなるってもんよ。なにか物事をやって前回すごくうまくいったのに、今回うまくいかないと、すぐ文句をいう。前回が出来過ぎで今回が普通なんだから不満に思う必要はないのにね」
「うーん、わかったような、わからんような。納得できるような、できないような。結局あれだ、出来過ぎたことを基準にしないで、何もしなかったらゼロ、25パーセントも前進したら祝杯というわけだ」
おれの回答にネザが付け加えて言う。
「高速道路を100キロで走るより、100キロに向かって加速しているときの方がエネルギーは大きいよ。だから努力している状態なら祝杯なの。あんたみたいに営業成績が10人中ビリでも、1位に向かって努力したんなら祝杯よ。ビリでも祝杯なの」
「わかった、わかりました。クソッ、この前会社に連れて行けっていうから、ポケットに入れて連れてったらこれだ。見んでもいい営業グラフを見やがって、おれはエンジニアなんだ、営業を手伝わされただけなのに、なんでおれの名前があるんだよ、クソッ、クソッ!」
「クソッ、って言うけれど、糞は食べ物と同じくらい大事なもの。感謝の対象ですよ。食べ物に対する感謝がない証拠です」
「うるさいぞ、葉っぱの分際で! 人間さまに説教するな。燃やすぞ!」
そのとき、突然、光のようなものが右斜め前方からぶつかってきた。槍を持つ少女、精霊ネザがぶつかってきた。脳の真ん中で白い光がはじけ、何かの思念がジワジワと広がる。
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万物の霊長たる人間には大切な役目があります。
万物の霊長たる人間は、自分の意志で行動することができます。自分の意志で善行を行うことができます。
動物も植物も岩も自分の意志で良い行いをすることはできません。しかし、万物には成長する意志があります。
岩も木も動物も、進化の歩みの中にあり、精神や心を向上させたいと思っています。世の中のために尽くせば善行となり、善行は徳となり、徳は福をもたらします。岩から木へ、木から動物へと自由度が増し、自由な意志が得られるまでその歩みは続きます。
魚や動物、植物が自ら世の中のためになることをするのは自由な意志がないので困難なことです。しかし、善行を積む大きなチャンスがあります。それは人間に食べられ、その人間の細胞の一部となり、細胞の一部でいる間に、その人間が良い行いをすることで、食べられた動物、植物も善行を積むことになるのです。
良い行いをしたい。その気持ちをもった生き物を食べさせてもらったのだから、その思いが集まってできている人間は良いことをしなければなりません。
良い行いをする人間に、私たちは感謝しています。良い行いをする人間に、良いことが起きるようにすべての存在が応援します。あなたがたは人間でいられることに感謝してください。人間でなければ自由な意志で行動できないのです。
自分の意志で良い行いができるあなたにお願いします。わたしたちも自由になりたい。わたしたちが自由になった時、その時は恩返しのためにわたしたちも良い行いをしたいと思います。
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一瞬のようでもあり、長い時間が過ぎたようでもあった。おおよそ今のような想いが脳に広がり、溶け込んでいった。
「なるほど、おれのまわりにはベジタリアンがいて見習おうと思っていたが、ストレス社会を乗り切るために肉食はいいんだな。
よし、おれはここに宣言しよう
全ての生き物を代表し、肉をもりもり食べて、世の中のためにつくすぞ、それが人としての務めだ」
「肉を食べたいだけでしょ」
「かっこよく決めたのに。ネザ、今日の味噌汁の具にするぞ」
「トゲ入り味噌汁、飲めるものなら飲んでみな。フフッ」
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