第10話 ログインボーナス
9月12日
会社から帰宅。おれはいそいそとパソコンの電源を入れる。帰宅後最初にするのは決まってこれだ。次に気が向いたらネザの水を替えてあげたりする。
ネットゲームの住人であるおれは、ゲームのログインボーナスをもらわないと損をした気分になるんだ。現在継続中のゲームは四つだから、帰宅後すぐにこの四つを巡回する。
ネザが遠めから言葉を投げてきた。
「ゲームにログインするとお宝がもらえるんだね。ねえ、この部屋には神棚っぽいものがあるけれど、あれにはお参りしないの?」
数年前におれは手製の簡単な神棚らしきものを作った。カラーボックスの上にA4の紙を敷いてホームセンターで売っている一番安い御社を置いただけ。それに近所の青砥神社のお札と鶴岡八幡宮のお札を入れてある。
仕事で鎌倉に行ったときにせっかくだからと、有名な鶴岡八幡宮にお参りしたことがある。一直線に伸びる長い参道は両脇に木が生い茂っていて気持ちが良い。その木々から伸びる枝は参道を覆い被さるようにせり出していた。
参道を歩いていると突然頭上の枝から1メートルくらいある青みがかった灰色のヘビがドサッと目の前に落ちてきた!
ビックリ仰天したが、まわりにたくさん歩いている人たちはまったく気にも留めないというか、気がつかない。キャー、とかワーとか騒ぎになって当然だろう?
おれは立ちすくんでそのヘビを見ていたが、ヘビはすぐに参道脇の木々の中に隠れてしまった。なんだったんだ今のは! 誰も気づかないってどういうことだ? 蛇神という言葉があるくらいだから何か意味があるのかなと思い、それ以来、数年に一度は鶴丘八幡宮に参拝してお札をもらってくる。お札を置く場所がないのでしかたなく神棚を買ったというわけだ。
「ん? あー、神棚かい。気が向いたら手ぐらい合わせるよ」
ネザには素っ気なく返事をしてゲームに向かう。
「違う世界へのログインボーナスと、遊びのログインボーナス。遊びのボーナスはもらうけど違う世界のボーナスをもらわないなんて、もったいないよー、違うの世界のお宝はすごいよ」
ネザの言葉が気になった。なんですと、一日一回神棚に手を合わせるのって、違う世界にログインすることになるのか。違う世界ってなんだ?
「ネザさま、なにがすごいのかな。一応お聞きしますけど、どんなお宝があるんですかね。宝くじに当たりやすくなる運とかですか?」
「違う世界とは、心の世界。それはねログインすればもう当たってる。感謝できるというお宝をもれなくゲットです」
「感謝できるお宝? なにそれ?」
「今度、一緒に神社にお参りしようよ。わたしを神社に連れてって」
「あの~、お宝の話の続きは?」
「神社で、気が向いたらお話しします」
ネザの気が向くような神社に行くことが、次のミッションって感じか。おれはとりあえず神棚の水を新しくして手を合わせた。それからネザの水も取り替えた。