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マギア・マキア  作者: アイカキアイ
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第二話「初回授業 説明」

「初めまして。今日から魔術を教える講師。シン・ベルセクトだ」

シン・ベルセクト。

そう名乗った男を一言で表すなら黒だった。

カザリのような黒い髪に全てを呑み込まんとする黒い瞳。学院の講師たちが普段着ている白衣ではなく黒い軍服に身を包んだ若い男。歳だけならばアイリス達と差程変わらないだろう。

「早速で悪いが今から第一訓練場に向かう」

シンはこちらの違和感など気にすることもなく行動を要求してくる。

「ちょっと待って欲しい」

カザリが手を上げ立ち上がる。

「……何だ?」

「自己紹介だけして終わりなのか?急過ぎてこちらは置いていかれているのだが……」

そう、それだ。とアイリスは心の中で強く同意する。

たった数秒で相手のことなど知ることは不可能だ。それはシンからしても同じだろう。

レンへと目を向けるとカザリ同様訝しんだ視線をシンに飛ばしている。

「ここでは不要な心配だ。説明なら第一訓練場で行う。今は各自準備を行い向かってくれ」

シンはそう言い残すと教室を後にした。

「「「………」」」

教室に再び沈黙が訪れる。

「あれは……何だ……?」

カザリは理解できなかった。

「つまんねぇ野郎だな」

レンは見るからに不機嫌になった。

「とりあえず……行こっか」

アイリスは一旦思考を止め、動いた。

急に教室に入ってきては一方的な自己紹介と指示だけして出ていった謎の男への不信感を募らせながら三人は学院に併設された実技授業の際に利用する修練場に歩を進める。

「ったく。なんなんだよあいつ」

吐き捨てるようにレンが言った。

「教室に入ってきていたはずなのに一切気配を感じ取れなかった。そこも奇妙だな」

「今は向かうしかないよね」



━━修練場━━

そこは実際に魔術を使用してもいいように魔力を含んだ特殊な素材で作られた構造物。

申請を出せば授業外でも生徒が使用出来る場である。


三人が修練場に入るとそこには既にシンの姿があった。

「各自武器は持ってきたな」

シンの言った通り、三人はそれぞれ戦闘で使用する際に用いる武器を携帯している。

アイリスは学院より支給される両刃剣。

カザリは故郷でよく使われるという反り曲がった片刃剣。刀。

そしてレンは同じく故郷で使っていたと思われる腕部分のみの鎧。小手。

修練場に向かう時点で三人は実戦を想定した授業と察していた。でなければ普段の授業で修練場など使わないのだから。

「改めて確認するが、ここミレミア王立魔術学院は優れたマギアを育成する場所だ」

シンはこの学院の概要を説明し始めた。

「んだよいきなり。今更そんな―」

レンの文句はシンの手で制止された。

「……続けるぞ。通常、授業は二十人前後の組に分けられ行われる。しかし例外としてその年度の入学試験により別格と扱われた生徒は特待生として少数の組で授業を行う。今年は君たち三人だ」

それはこの場にいる三人が最もよく知る事実だ。

「先に言われたが、今更このような説明をするのには当然理由がある」

シンの目線は不機嫌になりつつあるレンへと向けられる。

「その理由とは?」

カザリが冷静に質問する。

「ただの選抜組じゃないってこと?」

アイリスの考えにシンは首肯し答えた。

「ああ。本年度より急遽制度が導入された。具体的にはこれからの実技授業は修練場での訓練を除き、()()()()()()()()()()()

シンから伝えられたのは三人には到底信じられない内容だった。

魔術師(マギア)を志す以上、必然的に戦闘能力が大きく求められる。ゆえに厳しい進級試験に合格した三年生は経験を積むために戦線にて実地訓練を課される。そう、特待生とは言え入ったばかりの一年生三人が行う授業としてはあまりにも非現実的な内容だった。

「はぁ!?ふざけてんのか!」

いの一番に反発したのはレンだった。

今まで抑えていた不安を爆発させるようにシンへ距離を詰め、軍服の胸ぐらを掴み上げる。

「よせ!レン!」

カザリがレンを止めようとしたが伝えられた事実を受け止めるのに反応が遅れてしまった。

「カザリ!お前は納得できんのか!?手早く言えば、さっさと死にに行けって言ってんだぞこいつは!」

「でもダメだよ。いきなり掴みかかるのは!落ち着いてレン」

「逆になんで落ち着けるアイリ!」

アイリスの説得も虚しくレンはますます怒りを募らせていた。

胸ぐらを掴み上げられ、今にも拳を振り上げそうなレンをシンはただただ冷たい目で見つめていた。

「んだよその目は!俺たちの命は消耗品か!」

魔術師(マギア)はこの国において魔術を使用する兵隊と変わらない。多くが外敵マキアと戦う為に戦線へ送られ命を落とす。世界最高峰の魔術大国と呼ばれるここミレミアでも戦線に送られた魔術師(マギア)達の多くは五年以内に命を落とす。それはここ魔術学院の卒業生も例外では無い。

そして一年生までもが戦線に送られると伝えられた以上、戦線の状況は嫌でも察しがつく。

地獄。そう言える状況なのだろう。

「……違う」

シンの口から出た言葉は否定だった。

「レン・カグツチ。君の言いたいことは分かる。一方的に要件だけを伝えているのは事実だからな」

「認めやがったな……。どんだけ取り繕っても―」

「だが君たちに死んでもらう気は一切無い。戦線へ向かってもらうが生きて帰ってきてもらう」

シンは低く冷えきったような声であったが宣言するように言い放った。

「どういう……こと?」

「ただ送られる訳では無いということか?」

アイリスとカザリが疑問を投げかける。

シンは首肯する。

「それなら修練場に呼び出す必要は無い。徴兵とでも理由をつければいい」

確かに。とアイリスは納得した。

この青年はおそらく軍人だ。胸元のバッジを見るからに階級もかなり上だ。にもかかわらずこれから戦線に送る生徒の前に姿を現し。言ったのだ。

――初めまして。今日から君たちに魔術を教える講師。シンてベルセクトだ。――

自分はあくまで講師だと。

「……いきなり要件を伝えすぎたな。謝罪しよう。しっかりと説明するため離してくれ」

レンはシンの目を睨みつける。

とても冷ややかな目。しかしそこにレン達への軽蔑などは感じられなかった。

「レン。離してあげて」

アイリスも同じもの感じていた。こちらを害する意思は無いと。

しかし。

(なんだかすごく、()()()())

レンはシンの胸ぐらから手を離す。

「……悪い。熱くなりすぎた」

「かまわない。こちらも配慮が欠けていた」

シンは服の乱れを直すと改めて三人に向き直った。

「先に謝罪を。君たち三人に戦線へ出てもらうのは事実だが、君たちの命を軽んじるものでは無い。最初に伝えておくべきだった」

シンは三人に対して頭を下げた。

そして説明を続けた。

「すでに察しはついているだろうが、戦線は今人手不足に陥っている」

三人の予想は残念ながら当たっていた。

「兵の数が足りないというよりは質が劣っている」

「質。言い換えれば練度か」

シンは首肯する。

「我々の敵マキア(災いを呼ぶ者)は各個体の能力が非常に高い。その上制御するべき魔力を制御すること無く特攻紛いの攻撃をしてくるため止められない」

災いを呼ぶ者(マキア)。優れた魔術の素質を持ちながらもその特異性を制御出来ずに暴走してしまった魔術師の成れの果て。そこに理性は残っておらず、人への敵意のみで動いていると言われている。

「この現状に対して王国軍部は今までの人海戦術ではなく、より優れた少数による精鋭部隊の創設を立案した。軍部だけでなく王国全土から優れたマギアを集める計画。私はその計画の魔術学院を担当している」

レンが手を挙げる。

「つまり俺たちは学院じゃなくてあんたが選んだってことか?」

「そうだ」

「何で?学院なら二年生や三年生がいるのに私たちなの?」

アイリスの疑問はもっともだった。

「優れた即戦力が欲しいなら既に経験を積んだ先輩方でいいのでは?」

カザリもアイリスに同意する形で質問する。

「確かに。現状では二年生、三年生の方が経験を積んでいる分優秀だ」

シンもその部分を認めた。その部分は。

「しかし、本当に必要なのはただの優秀な部隊じゃない。()()()()()()()()()()()

「最強……。俺たちが?」

「君たちは入学したばかりだがその素質は今の三年生を遥かに上回る。そもそもこの三人は入学成績から選んでいない」

シンから告げられたのはまさかの事実だった。

「はぁ!実際は違ってことかよ」

「ああ、三人とも優秀だが入学試験の見方ならば上にはもっと多くの生徒がいる」

その事実を聞いた三人は露骨に落ち込んでいた。()()

「なんだ……。私違ったんだ」

「むぅ……。無念だ」

「はぁ……。まじかぁ……」

三人の落ち込みようを見てシンはまたもや配慮が欠けたと感じていた。

しかし。

「入学試験で求められるのは優れた総合力だが今求めているのは違う。他を圧倒する()()だ」

俯いた三人の目線が再びシンに向けられる。

「説明するのは簡単だがそれは自分たちで感じるのが一番だろう」

レンは腰に差した剣を抜いた。

「もしかして」

アイリスは気づいた。

「なるほど」

カザリは納得し刀を抜き。

「一番手っ取り早いな」

レンは両手にはめた小手を打ちつけた。

魔術師が己と相手の魔術について理解を深める最も()()()()()

「ああ。こちらも君たちの今を知りたい。ゆえに……戦闘訓練だ」

()()。人間が魔術を扱うより以前から存在した対話手段の一つ。それは相手の力や技量だけでなく思いすらも伝え合う。

「遠慮は要らない。殺すつもりでかかって来るといい」

突如として一人の新任講師と三人の生徒たちで戦いの火蓋が切って落とされた。

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