7話「魔神のもとへ、しかし」
「魔神様がお呼びですので、ついてきていただけますか?」
ある日のこと、ローゼリアがそんなことを言ってきた。
「あ、はい! もちろんです」
取り敢えず明るく返す。
感じの悪い返し方とならないよう気をつけなくては。
だからこそ一段と明るい声で。
「では案内しますので」
「あのー、私、この服のままで大丈夫でしょうか? 部屋着なのですが」
今は部屋にいる時に来ている服を着ている。この服はここに来てから貰ったものだ。艶のあるきれで作られたシンプルな白色ドレスで、高級感という意味では問題などないのだが、ただこれはあくまで部屋着として貰ったもの。それを着て主たる魔神のもとへ行って問題ないのかというところは定かでなかった、だから尋ねたのである。
「お召し物は何でも構わないかと」
さらりと問いに答えてくれるローゼリア。
「あ、そうですか」
「ええ。我が主はそういった細かいことを気にされる方ではないのです」
それはそうか。
彼は小さなことをあれこれ言うような厄介な性質の持ち主ではない。
「確かに。優しいですもんね」
「ではこちらへ。ついてきてください」
「はい!」
そうして私はローゼリアと共に部屋を出たのだが。
通路を歩き出して数分が経った時、突然、角を一人の男が曲がってきて――その手には小型の刃物が。
「一人ずつ殺してやるッ!!」
男は叫ぶ。
その手に慣れていない様子で握られた刃物の先は明らかにローゼリアを睨んでいて。
その狙いは私ではない。
でも、無差別でもないのかもしれない。
――もしかして、ローゼリアが狙われている!?
そう思ったのとほぼ同時に身体が動いていた。
「危ない!!」
私は咄嗟に男とローゼリアの間に入った。戦闘職になんて就いたことのない私だ、それらしい対処をすることなんてできるわけもなく。ただ何のやり方も持たないまま災難に踏み込んだだけ。
そしてこの腹に刃物が刺さる。
「なっ……」
私が割って入ってくるのは想定外だったのか、男は武器を突き出しておきながらも動揺しているようだった。
「アイリスさん!!」
痛みと共に、ローゼリアのらしくない鋭い叫びが脳へ届く。
「逃げて……ください……」
「すぐに救護を呼びます!」
「狙いはローゼリアさんです多分……」
「そんな」
刺された私はそのまま地面に倒れ込むことしかできない。
「逃げて……」
――そこで私は気を失った。
◆
何か声がして、意識が戻る。
「目覚めたか」
その声につられるように右側へ視線をやれば、そこには魔神がいた。
少し懐かしい、彼の顔。
「あ、はい……えと、私は……」
「刺されたのだろう?」
「……あ。そうでした!」
がばっと起き上がろうとして、制止される。
「まだじっとしている方が良い」