6話「終わった王家、私の進む道」
「どうして、どうして……こんなことに、なってしまったんだ……」
何も見えぬような暗闇の中、王子エーデルハイムは怯えきった表情で呟く。
彼は今、クローゼットに隠れている。
城内に侵入者があったためだ。
従者一人と共に身を隠し、暗殺から免れようとしているのである。
「どうか、心をしっかりと」
「う、う、う……ううっ、どうして、こんなっ……ううっ……」
「落ち着いてください」
「ぐすっ、う、う……いやだしぬなんていやだしにたくない……ずび、っ、ぐしっ……うう、ううう、うううう……ぢにだぐだいよおおお……」
エーデルハイムの心は既に折れてしまっていた。
王子らしい振る舞いすら保てない。
今の彼は、まるで、子どもように――ただひらすらに殺されることだけを恐れている。
「ぢにだぐないいい……いやばあああ……ころだないでええええ……」
「お静かに!」
「……っ、っく、ひ、っく」
「そうです、落ち着いて」
だがその直後クローゼットが開いて。
「王子様、みーっけた!」
侵入者の男が不気味にニヤリと笑う。
「いやあああああ! いやだああああああ! しにたくないよおおおおお!」
それがエーデルハイムの最期の言葉となった。
――そう、彼もまた殺められたのだ。
そして王族はこの世から消えた。
皆殺められたのだ。
そして、最後に残った一人となった国王は、民が集まった広場にて皆の前で処刑された。
こうして王家が所有する国は倒れ、民たちによって営まれる新しい時代がやって来ることとなるのだった。
◆
「アイリスさん」
珍しく向こうから声をかけてきたと思ったら。
「何ですか? ローゼリアさん」
「貴女がいらっしゃった国ですが、王家が倒れたようです」
期待したような私語ではなく用事だった。
「え! ど、どういう……」
「つまり、王家はなくなったのです」
「そんな……」
「民によって倒されたようですね、どうやら」
「そうなんですか……教えてくださってありがとうございます、ちっとも気づいていませんでした」
閉鎖的なこの部屋の中では外の情報を得ることはできない。
「王子エーデルハイムももうこの世にはいないのです」
「そういうこと……ですよね」
「アイリスさん、国へ戻られますか?」
どうだろう、私……帰りたいのかな、あの国に。
エーデルハイム、ネイル、私を陥れた憎い人たちはもうそこにはいない。城で働いていた人たちももうちりぢりばらばらになっているだろう。城もまともに機能していないだろうし。
でも、あそこには嫌な思い出しかない。
「……私は、あそこへ戻った方が良いのでしょうか?」
するとローゼリアは「それは貴女が決めることです」と答えた。
それはそうか。
当たり前だ。
私の人生を決められるのは私しかいない。
「そうですよね……仰る通り、そう思います」
「少し考えてみられますか?」
「はい。そうしたいです。すぐには……決められそうになくて。すみません……」
「いえ、謝る必要はありません。では決まればお伝えください」
「はい……! ありがとうございます……!」