5話「お返しは難しいかな」
「何を言って……?」
ローゼリアはらしくなく動揺しているようだった。
「お手伝い、何か、私にできることはないですか!?」
ある意味はこれはただの思いつき。
でも、できることならやりたい、という思いに偽りはない。
「お、お手伝い……? 何を仰っているのです、いきなりそのような……」
「すみません、今急に思いついたんです」
つい照れ笑いしてしまう。
すると彼女は苦笑。
「そうですか。しかし、手伝いなど、貴女にさせることはできません」
「どうしてですか!?」
「魔神様より、きちんと世話をするよう命令されておりますので」
「ええ……ああ、でも、そういうことなら無理ですね……」
お返しをしたかったのだけれど……そういうのは難しいだろうか?
◆
――アイリスがいなくなって数週間。
王国には災難が降りかかっていた。
というのも、隣国の王子と婚約する予定となっていた王女ネイルのこれまでの発言に多くの嘘が混じっていたことが判明したのである。
それによりネイルの信頼は地に堕ち、また、彼女の信頼のみならず王国の信頼までも急激に堕ちゆくこととなったのだ。
一般家庭であれば「彼女は嘘つきだ」という認識で済んだかもしれない。ただそれが王女ともなれば、その身は公人でもあるため、印象の悪化は彼女に関してだけでは収まらないもの。彼女の悪印象は国の悪印象にまで自然と繋がってしまうものである。
そして、それによって、王国は隣国から多くの取引を取りやめると言われてしまって――食糧輸入までも停止、国はこれまでの歴史において最大とも言える危機に遭遇してしまうこととなる。
ただ、根源たるネイルやその兄エーデルハイムは一切気にしておらず、相変わらず贅沢を続けていて。
それによって、国民の中から「王族こそが悪」「王族を終わらせねば国が終わる」といった声が出始め、やがて打倒王家の活動が大きくなってゆく。
――そんなある日、ネイルは一人の男によって暗殺された。
ネイルを殺した男は拘束され処刑された。だがそれがより一層民の怒りを膨らませることとなってしまって。やがて、王族の多く――否、ほぼ全員が、殺しの対象となってしまう。王族数名は殺され、何とか助かった者も暗殺に怯え生きることとなる。その中には当然王子エーデルハイムも含まれていた。




