4話「感謝を胸に」
あれから数週間が経ち、体力は回復してきた。
そして、ローゼリアとの日々にももうすっかり慣れた。
最初のうちこそ何とも言えない気分になることもあったものの、今ではすっかり慣れ、ローゼリアの淡々としたところに違和感を覚えることもなくなって。
そうして今がある。
「焼き鴨ロースです」
今夜の食事のメインは肉だ。
香ばしい匂いがする。
「ありがとうございます。とっても美味しそう……」
思わずそんな声が漏れてしまった。
そのくらい見るからに美味しそうだったのだ、目の前に現れた皿の上の料理は。
でも、出される料理が美味しそうなのは今日に限ったことではない。これまでも色々貰ってきたけれど、そのほぼすべてが美味だった。塩辛いものも、甘いものも、どちらも。香りも良く、好みに合う、そんな料理だったのだ。
ここの料理人の腕は凄い。
「それ、魔神様も好きな料理なのですよ」
「あっ。そうなんですか! でも、そういうことだと、私が食べてしまって大丈夫なのでしょうか?」
「ええ、それを出すようにと」
「もしかして魔神様が?」
「そうです」
彼なりに気遣ってくれている――のかもしれない、なんて思って。
少しばかり心が温かくなった。
「魔神様って、とてもお優しいですね」
たとえ人間でなくても、心の優しさという意味ではエーデルハイムたちよりずっと勝っていると思う。
「ええ……貴女のここへ来るまでの話を聞いて同情されているようです」「あ、そうなんですか」
「気の毒な娘だと言っていました」
「……初めてです、誰かにそんな風に言っていただけたのは」
思えば、これまで私に優しくしてくれた人はほぼいなかった。
誰もが私を悪女と思っていた。
嘘に騙されて。
本当の私を見ようともしてくれなかった。
「私、ローゼリアさんにも感謝しています」
「……どういうお話です?」
「だって、いつも色々してくださっているではないですか」
「あの……意味が」
「感謝している、そのままの意味です」
するとローゼリアは静かに目を伏せて。
「私には特別なことは何もしていません。ただ、命令に従い、すべきことをしているだけのことです」
そんな風に返してきた。
そう、彼女にとってこれは仕事で、やるべきこと、やって当たり前のことなのだろう。でも私からすれば当たり前のことだとは感じない。だって、彼女はそれを放棄することだってできるだろうし、もっと雑にやることだって選べるだろうから。
私のことなんてどうでもいいはず、なのに彼女は日々丁寧に対応してくれている。
それだけで感謝するに値する。
「あ、そうでした! 少し良いでしょうか?」
「何でしょう」
その時ふと思い立って。
「ローゼリアさんにお返しさせてください!」
言えば、珍しく彼女の眉が動いた。