3話「魔神との対面、でも意外と?」
「お主が聞いていた娘だな」
「アイリス・メイリニアと申します」
彼の目からは得体のしれない迫力を感じる。
こうしてじっと目を合わせているだけでも何となく心に負担がかかる気がする。
……変な意味ではないけれど。
「極寒の中に放置されていたとか」
「はい……」
「元は何をしていた」
「王子と婚約しておりました」
「そうか」
彼は淡白な人だった。
ここにはあっさりした人が多いのだろうか?
「ただ、嘘によって婚約破棄され、生贄として……」
「それでここへ連れてこられたのだな」
「はい。……そうです」
「それは気の毒であったな」
「……お騒がせしてすみません」
彼はとても静かな人で、会話に困ってしまった。
どうやって話を続ければ良いのかが分からない――もっとも、物理的に怖くないだけましなのだけれど。
「まあよい、しばらくここにいるがよい」
「……良いのですか?」
「ああ。そしていずれ戻りたければ戻れば良い」
「そうですか……それは、ありがとうございます」
そこまでで話は終わり、彼――恐らく北の魔神は去っていった。
「ローゼリアさん、今のが?」
「魔神様です」
ローゼリアは少し冷たい雰囲気もある女性だが、質問すれば大抵きちんと答えてくれる。
そんなところは好きだ。
言ったことを聞いてもらえる、それはとてもありがたいことだと今は思う。
「やはり。静かな方ですね」
「ええ、とても静かなお方です」
「でも……あまり怖そうだとは感じませんでした。意外と優しい方なのかも? と思いました」
「そうですか。少し意外ですね」
「どういうことです?」
「もっと恐れられるかと思ったのですよ」
彼は背がとても高く目つきも迫力のある人だった。また、着ているものも真っ黒で、どことなく邪悪な王というようなイメージで。でも、見た目のイメージはそんな感じだけれど言葉からは優しさも感じられる、そんな人物だった。
……人や人物といった表現は間違っているのかもしれないけれど。
「魔神様を恐れる人間は多いでしょう?」
「はい、確かに……そうですね、噂が怖いものが多いですから」
「なので貴女も同じかと」
「私ですか? そうです、私も……怖い存在かと思っていました。実際会うまでは。でも会ってみて……少し印象が変わったのです」
するとローゼリアは微笑む。
「アイリスさん、貴女は自分の目で判断できる人なのですね」
彼女は嬉しそうだった。
落ち着いた女性の笑み。
それはどこか魅了されるもので。
「そんな……ことないですよ」
ローゼリアが笑いかけてくれて嬉しかった。




