11話「未来へ続く道」
実家へ戻って、その日は一日、両親と共に穏やかに暮らした。
久々に食べる母の料理は美味しかった。
貝のだしで作られたスープには一味による辛みがあって刺激的だったし、チキンを焼いたものも香ばしさとほどよい甘みが重なった絶妙な味つけ。
とても懐かしい味だ。
昔はよく母が作ってくれた料理を美味しい美味しいと言って食べていた。
「本当に帰ってしまうのね……」
「ええ。でもまた帰ってくるわ。だから母さん、ごめんね」
「いえ、いいの……だってそれがアイリスの選んだ道なんだものね」
夜が明けて、母はようやく私の選択を受け入れてくれた。
「アイリス、元気でな」
「ありがとう父さん」
そうして私はまた北の魔神のもとへと戻る。
◆
「戻ったようだな」
「はい」
戻ってすぐ、魔神が会いに来てくれた。
もう情報が伝わったのか。
想定よりずっと早い。
この情報網はなかなか凄まじいものだ。
「言っていた通りになったな。……もう帰ってこないだろうと思っていたが」
魔神は私の言葉を信じていなかったのだろうか。
……それはちょっと寂しい。
「親には少し無理を言ってしまいましたが、何とか戻ることができました」
「そうか、ご苦労」
「あの、魔神様。少し良いでしょうか?」
「何だ」
「これからはここで働かせてください」
思いきって言ってみた。
もうずっとここでお世話になっている。
でもいつまでも世話される側ではいられないだろう――いや、たとえそれが許されることだとしても、それでも、私が許せないのだ。
主でもないのに何もせずだらだら過ごすなんて。
「何かできることはありませんか? 雑用でも構いません」
言えば。
「では、我が妻となるか?」
意外な言葉が返ってきて。
「え……」
「そうすればいつまでもここにいられる」
それはさすがに想定していなくて。
「えええええ!!」
大声を出してしまった。
◆終わり◆




