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第九話:夜明けの明星ダイムラー四号

 【イシュナ歴一四五七年 七月三日 一三時四二分】


「あんまりこのルートに乗りたくはなかったんだけどなぁ……」


 それから二人はクリスと別れ、一転違うルートを取っていた。スタート地点からチェックポイントまでの直線コースを迂回するようにルートを取っていた進行計画は、レミーによってめちゃくちゃにされ、ぺトラはしぶしぶ最短ルートを取ることにしたのだ。


「後方、問題ないか?」


 不意に放られた修一の言葉にぺトラは顔を上げ、軽く周囲に視線を飛ばす。


「大丈夫。異常なし」


 そう言うとぺトラは再び手元の地図に目を落とす。そうして眉間にしわを寄せながら頭の中で今後の進行ルートを組み立てていった。

 ぺトラが今のルートを嫌う理由は当然あった。まずは単純にこのルートを選ぶ者が多いということ。レースという競技である以上、スタートからゴールまで直線距離を通った方が早いのは明白だ。それだけにこのルートを選ぶ者は少なくない。ただでさえ過酷なスカイハイを生き残るために、避けられる戦いは避けて消耗を抑えようというのがぺトラの作戦だった。

 そして、もう一つ。このルートを通るには今目指している場所を通過しなければならないのだが、ここが問題だった。


「方角は合ってる? 問題なく進めてたらそろそろ見えてくる頃なんだけど」

「あぁ、大丈夫だ。けどまぁ……ここまで何度か戦ったからなぁ……」

「まぁ大丈夫だよ。今から行くところは早く着いてもあんまり意味ないから」

「そうなのか?」

「うん。行けばわかるよ」


 【同日 一三時五四分】


「……ん、あれか?」


 それから少し飛び続け、少しずつ小さな岩場や島が見えるようになってきた頃。不意に修一が声を漏らした。


「どうしたの?」

「でっけぇ山がある」


 そう言う修一の目の前には、それまで小さな岩場しかなかった海上に、唐突に巨大な山が現れていた。レミーに連れられていった山よりもさらに一回り大きく、横に広がっていた。山、というよりは海原にそびえ立つ壁のようだった。


「あ、そこそこ。どこかに降りれる所ない?」

「また山越えか……ゴーレムはごめんだぞ」

「今度は大丈夫。皆通る道だから、少なくとも安全に通る方法はある」


 ぺトラの言葉に返事を放り、修一は着水できる場所を探した。幸い近くの岩場に機体を寄せられそうな場所が見つかり、着水の後ゆっくりとその場に機体をつけた。


「……よし、ここでいいか」

「うん。降りよう」


 軽い言葉を交わした後、二人は地に足をつけた。周囲を見回し観察してみると、ちらほら魔道具や飛行生物が視界に映る。


「人がいるな」

「皆一旦ここに泊めるんだ。無駄な消耗は避けたいし、ここで襲われることはないと思う」


 ぺトラはそう言って目の前に広がっていた足を向けた。修一も後に続き、しばらく坂道を登っていく。

 途中、何度か少し開けた場所に出る。そこではいちいちそれなりの数の参加者達がたむろしていた。皆各々の場所で機体の整備や相棒の魔法生物の世話をしており、単なる岩場のはずなのだがかなりの賑わいを見せている。


「すげぇな……流石直線コース」

「やっぱり皆ここは通るんだね……まぁこれくらいの人数ならまだ想定内だよ」


 見れば参加者達だけでなく商人が露店を開いてまでいる。その賑わいの中を修一とペトラは言葉を交わしながら歩いていった。


「しかし、さっき言ってた早く着いても意味がないってのはどういうことだ?」

「まぁついてきてよ。向こうに行けばわかるから」


 何故かもったいぶるような言い方をするぺトラに対し、修一は怪訝な顔をしながらもついて行く。喧騒に満ちた坂道を進んでいくと、やがてとびきり開けた場所に出た。その先には崖があり、そのまま海に続いているのだが、そこまで行くと近くで休んでいる参加者はいなくなっていた。


「……こういうことかよ」

「そういうこと。まだ少し時間あるし、今のうちに補給を済ませよう」


 崖まで出ていくと、不意に修一が渋面した。その隣でぺトラがなんでもないように口を開く。

 二人の目の前にはそのまま断崖絶壁が広がっていた。その先にはやはり一面の海があるのだが──、

 魚。

 羽の生えた無数の魚が、爆音を響かせながらあちらこちらで跳ねまわり、飛び回り、ぶつかり合っている。崖下を見ても、逆に中空を見上げても、必ず銀色に光る魚の姿が目に映る。まるで何かを訴えかけるかのように、一匹一匹が一生懸命に空中を跳ねまわっていた。


「……」


 修一は黙って眉間をつまみ、深く息をつく。

 ──なんだこれ?


「レミーに会う前、川で飛び魚っていう魚を見かけたの覚えてる?」


 不意にぺトラが修一に声をかけた。


「飛び魚は空を飛ぶこともできる魚なんだけど、それの他にめちゃくちゃ繁殖力が高いっていう特性もあるんだ」

「いや増えすぎだろ!?」


 修一が飛び魚の群れ──というよりは嵐を指さしながら叫ぶ。


「そう。増えすぎるんだ。そしてこの時期になると飛び魚たちは子供を産むためにこのあたりの海域に集まるんだけど……あそこ。見て」


 そう言ってぺトラが遠くを指さした。それにつられて修一が視線を飛ばすと、遥か向こうでなにやらキラキラと銀色に輝いている竜巻が見えた。


「この辺りは気流がめちゃくちゃになっているエリアがあるんだ。海底に翠晶石の鉱脈があるみたいで、それが悪さをしてるらしいんだけど、とにかくそれに巻き込まれてかなりの数の飛び魚が命を落として、種としてちょうどいい数になる」


「……なるほど、仲間が死んで安全な位置を知ったやつらが集まってこうなるのか」

「そういうこと。ここを通るにはでたらめな乱気流の中を進むか、もしくは飛び魚の中を通らなきゃいけないんだ。よりにもよってここが直線コース上に重なるとはね……」


 ぺトラが小さくため息をつく。


「それ以前にこの中通るのは流石に無理だぞ……?」

「そこは大丈夫。ここは日に何度か通れるようになるから。今からだと……うん。一時間後くらいかな」


 訝し気な顔をする修一をよそにぺトラはなんでもないように言う。。相変わらず飛び魚達は派手な音をたて飛び回っていた。


 【同日 一四時一五分】


「本当に一時間後に通れるんだよな」

「大丈夫。ここにいる人たちも皆それを待ってるんだから。驚くよ?」


 飛び魚達の嵐から離れ、再び喧騒の中に戻ってきた修一とペトラは、今後について軽く話をしていた。

 今いる場所は最初のチェックポイントであるミトローネの手前であり、飛び魚の嵐を抜ければミトローネにはそのまま向かえるらしく、一気に向かうことにした。


「その為にはちゃんと補給……を……って何してるの君!」


 停泊地に戻り、瑞雲が見えてきた頃ぺトラが不意に叫んだ。


「すごいな……見たことない機関を積んでる。第三……いや第四世代クラスの馬力は出るか?しかし推進システムが何だかわからないな。魔術式が仕込まれてるようには見えないし、かといって風孔も見つからん……まさか新しい推進システムが?」


 見ると、瑞雲に見知らぬ男が取り付きなにやらぶつぶつ言っている。今にも工具を取り出し装甲を外し始めそうだった。

 ぺトラは慌てて男に走り寄り、横からいきなり突き飛ばした。男の方は不意打ち気味に喰らった一撃に驚き、そのまま横っ飛びに倒れこむ。


「あっぶな……何かしてないよね……?」

「……あー、悪い。お前達のか、それ」


 男はよろよろと立ち上がると、未だ警戒を解かないぺトラに対し砕けた態度で言葉を放る。


「おいあんた、人の物に勝手にべたべた触るのは感心しねぇぞ」

「いやすまん! 見事な機体だったからつい、な。まだ機体には何もしてないから安心してくれ」

「まだ?」


 からからと笑う男にぺトラの眉間のしわが深くなっていく。


「俺はロディ。機械技師の端くれだ。ところで、こいつは何て言うんだ?」


 ロディは今度は修一に言葉を投げる。服装からして修一の方が機体に詳しいと判断したのだろうか。


「瑞雲。いい機体だろ」

「ズィ……何?ジウン?」

「ず、い、う、ん、だ。」


 瑞雲、という発音ができず、何度もジウン、ジウンと呟いている男の姿を確認する。身長はぺトラよりは大きいが修一よりは小さく、年齢も相応のものなのだろうと推察した。プラチナブロンドの髪を無造作に切り揃え、厚手のジャケットを着用している姿は修一にかつて元居た世界で戦ったパイロットたちを思わせた。


「あれ、ひょっとして君……ロディ・ダイムラー?」


 と、そんな男に対しぺトラが口を開いた。


「お? 何だよ俺のこと知ってるのか? 有名になったもんだな」

「知ってるのか?」

「知ってるも何も有名人だよ。この世界にはラムダラっていう大手の魔道具開発組織があるんだけど、そこの次男」

「お、なんだよ俺も有名になったもんだな!」

「とんでもない変わり者ってことでね」


 ロディと修一が転がる。


「本当に俺はどこ行っても悪評しか立ってねぇな……そこまで変わり者だとは思ってないんだけどな」


 頭を掻きながらロディはそう言うが、ペトラは微妙な視線でロディを刺した。


「しかしラムダラの御曹司がスカイハイに参加だなんて。新製品のテストでもしてるの?」

「ま、そんなトコだ。せっかくだし、俺の機体も見てくか?」

「いい」


 再びロディが転がる。


「なんだよ見てけよ! 自信作なんだよ今回はぁ!」

「自信作?」


 ふと、その言葉に修一が反応した。


「自作の機体で参加してるのか?」

「おうさ! 見てな、今呼ぶ」


 そう言ってロディが指を鳴らす。すると少しの沈黙の後、上空から乗用車程の大きさの魔道具が現れた。楕円形の機体に推進機構と見られるスラスターが四つ取り付けられていた。機体表面には複雑な模様が書き込まれており、修一にはわからないが恐らく魔法技術が使われているのだろうと解釈した。


「自立機動……ピグマリオン術式を使ってるの?」


 まるで生き物のようにロディの傍に降り立つ機体を前にぺトラの声が明るくなる。珍しいものを見つけ、好奇心が刺激された時の声だ。


「お、わかるか? 苦労したぜぇ? 基本的にピグマリオン術式はこのサイズの魔道具には使わない。なかなか定着しないもんだから素材の選定からやり直しになったりな……」

「素材は紺生鉄鉱か……、リンゴー術式でもよかったんじゃない? ピグマリオンだと統括回路の生成がかなり運頼みになるでしょ」

「リンゴーは定着が確実だが複雑な命令が理解できないからなぁ。ライゲイ鉱が用意できれば話は別だが、エンクルーヴ係数が緑光領域に到達しやすい紺生鉄鉱の方がレップ理論の観点から──」

「おい待てわかる言葉で会話してくれ」


 たまらず修一が輪って入った。


「おっと、失礼……つい盛り上がっちまったな。なかなかこいつの良さをわかってくれる奴は少なくてな」

「まぁ、なんかすごい機体だってのはわかった。名前はなんて言うんだ?」

「〝夜明けの明星ダイムラー四号〟」

「だせぇな!」


 三度ロディが転がった。





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