第八話:勝利宣言と笑う声
【同日 一六時四五分】
「くそ……全然大人しくならねぇなこのデカブツ!」
「修一!」
ゴーレムの背で修一がそう呟くと、不意に下で声がする。見ると、ぺトラが瑞雲の後部銃座に座り声を上げている。
「出れるよ!」
「よし来たァ!」
そう叫ぶと、修一がゴーレムの背から手を離した。
「だんちゃああああああああくッ!」
重力に引っ張られ、落下しながら空中で姿勢を整える修一。その下には──エンジンを唸らせながら搭乗者を待つ瑞雲。
「今ッ!」
声と共に修一が運転席に落ち込んだ。機体が激しく揺れぺトラが抗議するが修一は構わずせっせとベルトを装着し計器に目を走らせる。
と、その時空中で軌道を変えたゴーレムが瑞雲に真っすぐ迫ってくる。
「やばっ……!」
すかさずぺトラが機銃を向け引き金を引くが修一の非常識すぎる搭乗に気を取られていたせいで反応が遅れ、対して効果を生まない。
「待ちな!」
瞬間、ゴーレムの頭付近で小さな爆発が起こる。衝撃にゴーレムは声を上げ、軌道がずれ瑞雲の数メートル後方の水に落ちた。
「クリス!」
見ると瑞雲から少し離れた位置にクリスが立ち、拳銃のような形をした魔道具を握っていた。先程の爆発は彼女によるものだろう。
瞬間、水柱が上がりゴーレムが飛び出す。視線は既にクリスの方を向いており、標的が変わったことがすぐに読み取れた。
「え」
その事実に気付いたクリスは即座に銃をしまい、後方へ一気に走り出した。その後をゴーレムが追っていく。
「修一! クリスが!」
「わかってる! 今出るからそっちも準備しろ!」
言うなり修一がエンジンの回転数を上げる。ゴーレムが起こした波がおさまってくると同時に瑞雲もゆっくりと進みだし、離水の態勢に入る。
「ひいいいいいっ!」
ゴーレムの鉄拳が振るわれ、岩を砕く。それにあわせてクリスの元気な悲鳴が上がった。
「思ってたより速い……! やっぱり飛べるなんてずっこいよ!」
ゴーレムが上空から振るってくる拳をかわしながらクリスが叫ぶ。途中ふりかえりながら先ほどの爆発を何度か起こすが、見た目の割に威力が低い爆発は不意打ちのアドバンテージを失っていれば大して効果は無いらしい。
だんだんとクリスとゴーレムの距離が狭まっていく。ついにゴーレムは振るった拳がクリスの金髪にかすったところで滅茶苦茶に振り下ろすのをやめ、真っすぐに狙いを定めた。
「!」
頭上の殺意に気付いたクリスの足が止まってしまう。今まさに振り下ろされようとしている大きな拳を前に両手で頭をかばい、悲鳴を上げる。
瞬間、その悲鳴は銃声にかき消された。
「!」
クリスが顔を上げると、ゴーレムともう一つ大きな影が頭上を飛び去って行った。緑色の機体に鳥が翼を広げたようなデザイン──瑞雲だ。
「間に合った!」
後部座席で機銃を展開しながらぺトラが叫ぶ。
ゴーレムと瑞雲はそれぞれクリスを飛び越えるように水平に飛ぶと、ある一点で真逆の方向へと旋回する。
今の一瞬でゴーレムの目標は瑞雲へと切り替わり、更に操縦席に修一の姿を見つけると一際大きな咆哮を上げた。
「!」
そのままゴーレムは不意に横旋回の動きから上昇し、瑞雲の上空を取る。
「修一! どうするの!?」
「クソ、垂直に上昇できんのかアイツ!」
修一が悪態をつくと、そのままゴーレムは真っすぐに瑞雲へ向けて急降下した。
「あぶねっ!」
とっさに操縦桿を切り、旋転し空中で半身になる。すると一瞬前まで右翼があった場所をゴーレムの拳が体ごとかすめていった。
「あんにゃろ……! 垂直上昇できるからって調子に乗りやがって! 俺だって雷電とか秋水に乗れてりゃなぁ……!」
修一が恨めしげにそう言うのと同時に、陸地を離れ海へと出る。機体の下に地面が無くなると修一はすぐに操縦桿を切り、機首を下に向けて急降下に転じる。
その先にはゴーレムが海面スレスレを低空飛行しており、瑞雲は降下で得た速度もそのままにその背後につける。
「そこだ!」
チャンスとばかりに機銃を唸らせる。先ほど修一が浴びせた拳銃弾とは大きさが段違いの銃弾は的確にゴーレムの翼を捉え、激しい火花を散らしながらへし折ってしまう。
「よし!」
操縦席で修一がガッツポーズを決める。しかしそれに反してゴーレムは墜ちることなく飛び続けていた。
「……あれ?」
「なにやってるの!?飾りなんて放っときなよ!」
背後でぺトラが声を上げる。
「飾りだぁ!? んなわけあるか翼が無きゃ飛べるわけねぇだろ!」
「でも現に飛んでるじゃないか! 空を飛ぶ人工物は魔力で姿勢制御ができるから推進力さえあれば飛べるんだよ! 翼はあくまで飛行能力があることを示す為の物だって学校で習わなかった!?」
「じゃあ本当に飾りなのかよ!?」
「当たり前だろ!?」
「当たり前であってたまるかあああぁぁぁああぁぁぁあぁぁぁあぁぁあああああッ!」
修一が叫ぶ。対してゴーレムは弾幕が止んだと見てまた上昇に転じた。
「くそ! あいつまた上に……!」
「撃つよ!」
ゴーレムが瑞雲の上を取り、そのまま機体後方へ行ったタイミングを見計らってぺトラが機銃を向ける。
展開された弾幕は獰猛な音と共にゴーレムへ飛来するが、修一程熟練していないぺトラの銃撃ではゴーレムに有効なダメージを与えるに至らず、大して効果は上がらないように見えた。
「どうする……! 機体の性能は明らかに向こうの方が上だぞ……!?」
操縦席で修一がそう呟く。通常、飛行機は上昇するにも旋回するにも運動エネルギーを消費するため、それに変換する為の位置エネルギー──高度が必要となる。その為空中戦を戦う軍用機は少しずつ上昇して高度を稼ぐのだが、垂直に上昇できるゴーレムは極めて短時間に高度を稼ぐことが出来る。
この時点で明らかに不利なうえ、瑞雲は離水してからすぐゴーレムに挑んだため十分な高度を確保できず、もともとの保持エネルギーが少ない。そんな状態で上を取られてしまい、絶望的なまでに不利な状況に追い込まれてしまっている。せめてもの救いは今度はこちらの攻撃が通るということだが──、
「じゃああいつの推進力をやるしかねぇか……!」
答えを出す。ゴーレムは装甲が厚く、撃墜するにはそれなりの労力が必要だろう。ましてただでさえ不利な相手。長期戦は避けたい。
ゴーレムが再び降下する。それに合わせて修一はペダルと操縦桿を操作し、捻り込むような機動でかわした。ついでその一瞬で相手の体を観察する。
推進力は体から噴き出している魔法エネルギー。どう生成しているのかは不明だが、そういうものだと納得することにした。で、それを足の裏、腰、脇腹の三か所から噴出している。アンバランスな位置ではあるが、先ほどぺトラが言うように姿勢制御も魔法で行っているとなれば気にすることではない。
「便利な体しやがって……! 羨ましいぞこの野郎!」
瞬間、修一が仕掛ける。既に海面スレスレを飛んでいるゴーレムへ向けて同じように降下体勢を取り、翼のもがれた背中へ銃弾を浴びせかける。硬い装甲を貫くには至らないが、それでも多少のダメージはあるようだった。
「沈め沈め沈め沈めッ……!」
銃撃の反動でゴーレムが海面に押し込まれていくことに気付いた修一はそのままゴーレムを水没させることを狙った。既に航空機ならスクラップになっている程の弾丸が撃ち込まれ、ゴーレムは呻くように一声鳴くと海面に突っ込んでいった。
「やった!?」
「いや、さっき一緒に海に墜ちた時すぐ出てきただろ。まだ来る! ……クリス!」
ゴーレムが水没したのを好機と捉えた修一は風防を開き、クリスに向けて声を張った。
「さっきあのデカブツに撃ってたアレ! まだ撃てるか!?」
「え? あ、あぁ……これかい? 撃てるよ!」
そう言ってクリスが一丁の拳銃を抜いて見せる。修一の持っているそれに比べてお粗末な見た目ではあるが、先ほどゴーレムを爆破して見せていたのはこれだろう。
「よし! ぺトラ、あれやるぞ!」
「あれって!?」
「混ざるやつだ!」
「合成魔法? 無理だよ! クリスのあれは発破魔法を使った魔銃だと思うけど、たぶんコレアティ術式を使った外部展開になってて──」
「あああつまりどういうことだ」
「合成魔法を発動するには近くに合成対象が無くちゃいけないんだけど、クリスの銃は着弾と同時に爆発するんだ。あの爆発を合成できるくらい近くで起こすならこの機体に当てて爆発させなくちゃいけない!」
そこまで聞いて修一が頭を抱えた。
「マジかよ……」
「修一!」
ぺトラが叫ぶ。はっとして後方を向くとゴーレムが海中から現れた。
「もう少し溺れててくれよ!」
叫び、操縦桿を切る。機体は空中で横転して間一髪ゴーレムの突進をかわした。
「……!」
瞬間、修一が目を見開く。
「ぺトラ」
「何?」
「近くで爆発が起こればいいんだよな」
「うん……まぁ」
「クリス!」
操縦桿を切り、クリスの方へ戻りながら声を張り上げる。
「合図したらそこのでかい岩を撃て! 何があっても爆破しろ! いいな!」
「え? あ、あぁ……わかったよ!」
修一が飛び去りながらクリスの傍にあった大きな岩を指さす。
「ちょっと修一、何する気!?」
「機体の傍で爆発を起こす! お前も準備しとけ!」
修一の言葉にぺトラは首をかしげながらも、言われた通り魔法陣を展開して合図を待った。
ちょうどその時、ゴーレムがまた戻ってきた。正面から瑞雲を捉え、まっすぐに飛んでくる。綺麗に衝突コースだ。
しかし修一は今度は操縦桿を切ろうとしない。むしろ目の前の照準器を慎重に覗き込んでいる。
「おう……ここまでずっと正面勝負だけ挑んできたのは褒めてやる……こっちもそのでっけぇ顔にいい加減ぶちこんでやりてぇと思ってたトコだ……」
両者の距離が縮んだ。一切速度を落とさず、ひたすらに真っすぐ突っ込んで行く。
「もっぺん墜ちろ!」
瞬間、瑞雲の機銃が先に火を吹いた。獰猛な爆発音に押し出された銃弾はそのまま真っすぐにゴーレムに飛び込み、乾いた顔面を抉る。
一時的とは言え視界を奪われ、さらに正面からの衝撃によろめいたゴーレムは、軌道をそらして地面へと突っ込んだ。
「よし! 行くぞ!」
そう叫ぶと修一がいきなり操縦桿を切った。瞬間、天地が逆転し、視界が振り回されたぺトラはかろうじて瑞雲が百八十度旋転したことを理解する。
「修一!?」
「準備しろ!」
高度が下がる。ゴーレムに続いて高度を落とし、地面すれすれの低空飛行へと移った。
速度は落ちず、むしろ降下によって増し、そのまま地面と平行に飛んでいく。
その先には──
「クリスぅ!」
「嘘だろアンタぁ!?」
驚愕するクリスなどお構いなしに瑞雲は速度を増し、真っすぐに彼女へと向かう。
「行くぞクリスぅ! そこだあぁぁぁぁああぁああああぁぁぁぁあああああ!」
「はああああぁぁああぁぁぁぁあああぁぁぁあ!?」
「撃てえええええぇぇぇぇぇぇぇえええぇえぇッ!」
「いやあああああぁぁああぁぁああぁぁぁぁあああぁぁ!」
直前で機体が軌道を変え、先ほど指定した岩へと向かい始めた。瞬間、修一が〝合図〟を出す。
わけもわからないままクリスは銃の引き金を引き、岩に着弾させ爆炎を発生させた。
「ぺトラ! 今だ!」
「ぎゃあああああぁぁあぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁ!」
「やれええぇええぇぇぇえええッ!」
『ま……混ざれ!』
瞬間、機銃が発光する。
「!」
「よくやった」
修一がにやりと笑うと瑞雲はその場を脱し旋転。元の状態へと戻った。
機体のすぐ傍で爆発が起こったのにも関わらず機体に傷はない。煤けた場所すら。つまり──
「成功だ!」
瞬間、地面にささっていたゴーレムが咆哮を上げながら飛び上がる。その勢いを使って瑞雲へと向かってきた。
「来た!」
「ぶちかましてやれッ!」
修一が叫ぶと同時にぺトラが機銃を向ける。そして引き金を引いた。
何発もの銃弾が景気よくゴーレムへと飛来し、着弾する。
瞬間、連鎖的に何度も爆発が起こり、まるで花火のような衝撃が空に走った。
「よし! 行ける! 行けるよ!」
「勝ち筋が見えたな、一気に決めるぞ! 掴まれ!」
そう言うと修一が操縦桿を切る。軌道を変えた瑞雲に対しゴーレムは混乱と怒りから一際大きな咆哮を上げると瑞雲へと突撃した。
「おっと」
斜め上空から飛来したそれを修一は捻り込みを加えた螺旋軌道でかわし、ゴーレムの背後上空を取る。
「舐めんじゃねぇ!」
突然視界から消えた瑞雲を探すゴーレムに対し修一はそう吠え、またしても旋転し機体を上下反転させると背後のぺトラに声をかける。
「準備はいいか」
「当たり前だろ」
「いけえええええええぇぇええぇぇぇぇぇぇぇえええええぇぇええぇえッ!」
何発もの銃弾が降り注ぐ。正に雨あられと落ちていくそれは、ゴーレムの体表か地面かの区別もつけず着弾次第爆発を起こし、破片と埃を巻き上げゴーレムの巨体を隠してしまう。
「もっとだ! もっとぶちこんでやれ!」
機体がゴーレムを飛び越えてもまだ終わらない。即座に瑞雲は上昇に転じ、機体の持つエネルギーが飛行不可能になるまで銃座の銃口をゴーレムに向けさせる。
背中、腰、脚──当たれば爆発する特殊弾は狙わずとも当たりさえすればダメージとなる。
「ううう……ッ!」
ぺトラの手に力がこもる。腕の中で暴れる機銃を抑え込むように、ひたすら機銃から吐き出される弾幕をゴーレムに向け続ける。
そしてついにゴーレムの背中が砕け散った。
「!」
爆発に紛れて岩が砕け散る音が響き、硬い装甲が剥がれ落ちていく。その下から装甲に覆われていた背中が露わになる──
「噴進砲!?」
修一が驚愕の声を上げる。装甲が剥がれ落ちたゴーレムの背中には無数の穴が開いており、その一つ一つに小さなミサイルが埋め込まれていた。現代の日本語で言うならばそれは──多連装ロケット砲。
「な……何アレ!?」
「ああ全く進んでんなぁこの世界の科学は!」
愚痴を吐き捨てるように叫ぶと同時に瑞雲がエネルギーを失う。空中で一瞬制止したかと思うと、反転しそのまま真っ逆さまに落下し始めた。
「修一!」
「もうこれしかねぇ! 掴まってろッ!」
そう叫ぶと同時に修一は迫りくる地面へと目を向け、その先──地面と機体の間に転がるゴーレムを見据えた。背中の穴からは今まさにミサイルが放たれようとしている。
「!」
一瞬の後、ミサイルが穴から顔を出し、放たれ──
「吹き飛べえええええぇぇぇぇええぇぇえぇぇえぇぇえッ!」
着弾。ゴーレムの背中に白熱した銃弾がまるで光の柱のように降り注いだ。飛び出したばかりのミサイルは全てゴーレムの背の上で爆発し、連鎖的にぺトラの銃撃以上の爆発を引き起こす。
「修一! 修一! もう機体を起こさないと!」
「あぁ!? なんて言った!?」
爆発の最中不意にぺトラが叫んだ。しかし攻撃を続けている修一には爆音にかき消され声が届かない。
「機体を引き起こして! ぶつかっちゃう!」
「なんだよ!? 聞こえねぇ!」
「機体! をッ! 起こせッッッ!」
瞬間、瑞雲がゴーレムの爆発に巻き込まれる。
「!」
空高く上がった黒煙に一気に突っ込み、その中で連鎖的に起こるゴーレムの爆発に紛れてその姿も見えなくなってしまった。
「ぺトラッ!」
その様子を見てたまらずクリスが物陰から飛び出した。
「……修一ッ! 返事してくれっ!」
もうもうと上がる煙と熱波によって一気に熱された空気をこらえながら懸命に叫ぶ。
しかし返事はない。いつの間にか周囲の音はゴーレムの爆発に全てかき消されてしまったようだった。
「……!」
言葉を失う。一瞬で二人の友人は爆炎に飲み込まれてしまい、姿を消してしまった。
あれだけの爆発だ。恐らくそれに巻き込まれたとあれば──
瞬間。
一際大きな火の手が上がった。
「ッ!」
熱波を吹き飛ばすようなさらに熱い爆風が発生する。突然のことにクリスは反射的に腕で頭を庇い、身を守った。
その時、視界の隅にゴーレムの目であった宝石が映り込む。ということは今の爆発はゴーレムが完全に破壊された音──
「勝っ」
不意に音がする。もう一つの爆発音、いや、これは──
「た」
断続的に響くこの音は──
「ぞおおおおおぉぉぉおおおぉおぉおおおぉおぉおぉぉぉおおぉぉおぉッッッ!」
エンジン音。
「修一! ぺトラ!」
黒煙の中から瑞雲が飛び出した。少しすすけた機体の中では修一が破顔させて笑っていた。
「どうだぺトラ! 勝ったぞ!」
「はぁ……全く……無茶して……」
操縦席で勝ち誇ってみせる修一とは対照的に銃座ではぺトラがげっそりと息をつく。
ちらと銃座の外へ目をやる。ゴーレムは完全に沈黙し、爆発で黒焦げた巨体を燻ぶらせていた。
「……ふふ」
突然、笑いが漏れる。
「お、笑ったな?」
「? あれ……」
内心、嬉しい。自分は勝ったのだ。あんなに大きく、強大なゴーレムを打ち破ったのだ。それを自覚すると、今度ははっきりと口角が上がった。
「……ふふ、そうだね。勝ったんだね。僕たち」
「おう! 勝ったんだぜ、俺たち」
そこから二人は堰を切ったように笑い出した。勝ったのだ。自分達は、あのゴーレムに勝ったのだ。その事実は気分を高揚させ、ぺトラの目指す〝強さ〟へと近づいた気がした。
「勝った! 勝ったんだ!」
「ああ! 勝ったぜ! やったな!」
二人の勝利宣言は笑い声に包まれ、既に日の傾き始めている空へ響き渡った。