第四話:約束だ
【イシュナ歴一四五七年 七月一日 三時一五分】
「ついに来たね……」
「あぁ、そうだな」
六月も終わり、七月が始まった。同時に、ついにレース開催の日が来る。スタートからまだ多少時間はあるが世界各地から集まった空の住人達はもう待ちきれないとばかりに続々と会場入りし、スタート地点に〝相棒〟達を並べている。
まだ日も昇らずあたりは暗いというのに参加者の熱気は高まり、乗り物を照らす照明があちこちで点灯しており暗さは感じなかった。
その中にあったぺトラも流石に平常心とはいかなかったようで、瑞雲の傍に座り込み、強張った表情で周囲を見渡している。一方の瑞雲はマスターのおかげでかなり機能が回復しており、修一としても満足のいく性能を発揮できるようになっていた。
ペトラの用意周到な性格のおかげか、スタート前に済ませなければならない準備はすぐに終わり、残すはエンジンを動かすのみとなった。ペトラはそんな中、神経質に自分の持ち物を何度も確認しているが、一方で修一は暇を持て余し、出店で買ってきたこの世界の幼児向け玩具で遊んでいる。
「……呑気なもんだね」
「まだスタートまで時間があるんだ。まだ緊張しなくもいいだろ」
「いやそうだけど……」
修一の言葉にぺトラが曖昧な返事を返す。なんとなしに彼女の視線を追ってみると、どうも他の参加者が気になっているらしい。
「やっぱり有名人が来てたりすんのか?」
「有名人なんてもんじゃないよ」
ぽつりとそういうと、指をさしながら一人一人解説を始める。
「まずあの人」
恰幅の良い髭面の男が指される。
「あの人はゾイ・ポラット。空飛ぶ絨毯の理論を完成させた魔法使いだよ」
「空飛ぶ絨毯……?」
「……あ、その三つ隣。あれは吸血鬼のシャンブルゾン公」
「吸血鬼?」
「あそこにいるのは教皇ベッソン聖、竜人王ブレア、天才銃工シグル・トーマ……」
「ちょ、ちょちょ、ちょっと待て」
たまらず修一が話を遮る。
「何さ」
「思ってたより俺の常識が通じなくてびっくりする」
「当たり前だろ。ここは修一の世界とは違うんだから」
そうだった──。内心舌打ちする。この世界に来て一ヶ月程経ち、ある程度この世界について理解したつもりだったがいざスタートに立ってみれば目の前には相変わらずの未知が広がっている。知らずの内に右手で口を覆っていた。
「本当にすごい大会だよ……思ってた以上に大変かも」
「……そうかもな。まぁ、なんでも勝つってのは大変さ」
修一がそう言う。ぺトラが振り返ると、いつになく神妙な表情をしていた。
「……本当に、な」
【同日 三時二五分】
「じゃあ、改めて確認なんだけど」
それからしばらくして、修一による機体の最終チェックが終わったと見たぺトラは海図を取り出し、そう切り出した。
「基本的にスカイハイはチェックポイントを通過しながら通って行く必要があるんだ。今回はそれが二か所ある」
「やっぱり少ねぇな。てっきりいっぱいあるもんだと思ってたんだが」
「今回は第百回ってことで、色んなルートを選んで自由なレースができるようにって配慮なんだって。まぁおかげで今回みたいな作戦ができるわけだけど……えっと、まずここ」
ぺトラが海図の中央あたりを指さす。そこには〝ミトローネ〟と書かれた赤い点があった。
「最初のチェックポイント、ミトローネ。できるなら明日にはここに到着したい。その為に今日はスタートの後にこう……進もうと思うんだ」
そう言いながらぺトラはスタート地点からミトローネまでのルートを指でなぞって見せるが、そのルートはかなりの大回りだった。
「やっぱり直線ルートじゃダメなのか?見た感じ特に障害物もなさそうだが」
「前も言ったけど、直線ルートは修一が思ってる以上に皆使う。近道を通りたいところではあるんだけど、このルートだとしょっちゅう誰かと戦うことになると思う。その分リスクも上がるし、足止めも喰らうから今回のレースは基本的に確実なルートを通る方針で行こうと思う」
なるほどなぁ、と修一が息をつく。
「たぶん、予定通りに行ければ明日には到着できるはずだ。そのあと、次のチェックポイントはここ……仮設都市マルダ。スカイハイ開催の度にゴール前に作られる海上都市。だけど、ミトローネから一気に目指すのは距離があってできない。だから、どこを経由していくか、なんだけど……」
と、その時会場に小気味よいメロディが流れた。
「お?」
「開会セレモニーが始まるみたいだ。もうそんな時間か……」
ぺトラがそう呟くのと同時に、空に浮かんだ気球から派手な恰好をした二人組が手を振り始めた。恐らく開会式の司会なのだろう。
『さぁ!いよいよスタートの時間が近づいて参りました!』
『ここからは開会セレモニーと余興となります!楽しんでいきましょう!』
会場全体から歓声が上がる。実際そうなのであるが、祭りの会場にいるかのようだった。これから死と隣り合わせのレースが始まるなど微塵も感じられない程の和やかさである。
「……いよいよ始まるんだね」
「なぁ、ぺトラ」
開会セレモニーが始まったことでぺトラが重苦しく口を開く。その表情には緊張が滲み、再びやや青い顔になった。そんなぺトラに対し、修一が突然言葉を放る。
「指切りげんまんって知ってるか」
「えっ?指……なんだって?」
聞き慣れない単語にぺトラが怪訝そうな顔をし、言葉を返す。
「〝指切りげんまん〟だ。俺のもといた国だとな、約束をするときにこれをする」
「約束をする時にする儀式ってこと?だとすると……契約魔法の一種?」
「いや……そんなたいそうなもんじゃなくてな……」
大真面目な顔をして考察するぺトラに修一は調子を崩されたような顔をするが、そのまま言葉を続けた。
「……魔法じゃないが、おまじないってやつだな。俺たちはこれからこのレースに挑む。だから、約束しよう」
そう言って修一はぺトラに小指をつきつけた。
「俺は必ず、お前をゴールまで連れていく」
ぺトラが驚いたように顔を上げる。
「……」
「約束だ」
ぺトラが一瞬考えこむような顔をする。そして、探るように言葉を紡いだ。
「……わかった。じゃあ僕も約束する」
「?」
ぺトラが小指を突き出した。
「必ず優勝する。これでお互い約束したことになるだろ」
今度は修一が面食らったような顔をした。そして笑う。
「よっしゃわかった。約束だ」
そしてしっかりと、指を組み返した。
「ゆーびきーりげんまん」
『目指すはゴール!狙うは優勝!今年も歴史に残るレースを!』
「うっそつーいたーら」
『今!ここに!』
「はーりせんぼんのーますっ」
『第百回スカイハイの!』
「指切った」
『開催を宣言します!』
再び歓声が会場を満たし、二人の小さな約束は爆音にかき消された。
【同日 七時二分】
『さぁ!いよいよレースが始まります!』
司会の男の声が会場に響く。開会セレモニー同様、その宣言も唐突だった。
既にレースの参加者達はそれぞれに準備を終え、今にも飛び出しそうな雰囲気を放っていた。既に数刻前までの和やかさは無く、闘志、覇気、果ては殺気まで感じ取れるひりついた空気が周囲に漂っている。その中で修一は瑞雲の操縦席に座り、珍しく神妙な面持ちでゴーグルを目元まで下ろした。その背後ではぺトラが海図と目の前の銃器を神経質に何度も確認しながらなにやらぶつぶつ呟いている。
『今年は第百回の記念レース!皆さんの健闘を期待します!』
「ペトラ、大丈夫か?」
「……大丈夫。何度も確認したし、準備もしっかりした。うん。大丈夫。勝ちにいこう」
「おう」
ふと、上空に一機の気球が新しく現れた。その中で着飾った旗手がこれまた派手な深紅の旗を振り上げている。あれがスタートの合図なのだろう。
「さぁ、始まるぞ。今更ビビッてなんかないよな?」
「……当たり前だろ。修一こそ。逃げ出さないでよ?」
「なめんじゃねぇ。約束しただろ?勝ちにいくさ」
「……うん。勝とう!」
瞬間、勢いよく旗が振り下ろされた。
今日一番の歓声、というよりは雄叫びがあちらこちらから上がり、レースが始まった。
右を見れば人外が羽を広げる音、左を見れば宙へ浮く為の呪文を詠唱する声。それぞれがそれぞれのやり方で空へ旅立っていく。
「行くぞ!」
修一が言うが早いか、機体前面で大きくエンジンの唸る音がする。少しづつそのボルテージは高まり、やがてぺトラはゆっくりと背後へ引かれる感覚を覚える。ついに瑞雲が発進した。
「!」
手元が一瞬暗くなる。不意に顔を上げると、一匹のグリフォンがこちらへ向かって急降下してきていた。
「修一!」
「応戦!」
指示を受け、手元の機関銃に手を伸ばし、グリフォンへ向ける。そのまま流れ動作で引き金を引くと、銃口から爆音と共に銃弾が吐き出されていった。
しかしグリフォンは即座にそれに反応し、ぺトラの展開する弾幕を悠々と超えてくる。
「当たらない!」
「撃ってりゃ当たる!」
やがてグリフォンは銃座に座っているぺトラがその瞳の色を確認できるほどに肉薄する。
「!」
しかしそこでやっと銃弾が翼に着弾した。グリフォンは大きな悲鳴を上げると騎手を振り落とし、激しく暴れながら瑞雲から少しずれた水面に墜落する。
「やった!」
「っ、と……!」
更に幸運は続く。グリフォンが墜落したことでゆるやかな波が発生し、少しづつスピードを上げている瑞雲を後押しした。
「よし……よし、もうちょい……!」
修一が計器を見つめながらそういう。操縦桿を握る手に力がこもり、フロートが水を離れられるだけの速度を得る瞬間を今か今かと待ち続けた。
「!」
瞬間、後方で大きな水柱が上がる。先ほどのグリフォンが復活し、こちらの姿を捉えた。
「まだやるの!?」
驚愕するぺトラをよそにグリフォンは一声大きくいななき、瑞雲へ向け一直線に突っ込んでくる。すぐに機関銃を向け弾幕を展開するが、翼を損傷する前と遜色ない速度でそれをかわし加速する。
「──!」
グリフォンの騎手が何か叫んだ。それを合図にグリフォンは軽く飛び上がり、落下の速度をつけて瑞雲の主翼に爪を立てようとする──
「!」
が、それは空を切った。すんでのところでついに瑞雲が離水し、浮かび上がったのだ。
それでも諦めないグリフォンは第二撃を加えようとする。
その瞬間だった。
「うわあああああああっ!?」
視界の左上からすさまじい速度で飛んできた別の飛行機がグリフォンに突っ込み、遥か彼方へと吹き飛ばしてしまう。突然の乱入者に驚いたぺトラが目を凝らすと、木製の複葉機のようだった。しかしその主翼は既にズタズタで、今の衝撃でいつ墜落してもおかしくない程にボロボロだった。
「え……えっ?」
「あれだな」
修一の声がする。ふと頭上に気配を感じ顔を上げると、丁度今の複葉機が飛んできた方向で〝それ〟は起こっていた。
「!」
耳を劈く大音量で咆哮するワイバーン、それに群がるように攻撃を加えている飛行機、魔道具、人外の生物達──。そのサイズ差は圧倒的で、ワイバーンが大きいのかそれとも相手が小さいのかわからなくなるほどだった。
「ブレア……と、ペギー」
ワイバーンの背中に乗っている男の姿を捉えたぺトラが小さく呟く。周囲の必死な叫びをまるで嘲笑うかのように悠々と竜の背中に設けられた椅子に座り、自信げに笑っている。あれだけ激しくワイバーンが暴れれば落ち着いて座っていることもできないはずだが、ブレアの座っている場所だけは違うようだった。
「あれか、さっき言ってた奴」
「あいつらは今関わらない方がいい。優勝候補の一人だし、どのみち最後の方でたぶんぶつかる。今はほっとくべきだよ」
「はいよ、了解だ!」
修一が威勢よく返事し、エンジンの回転率を上げる。そうして瑞雲が加速すると、丁度一瞬前まで機体のあった場所をワイバーンに握りつぶされた飛行機が通過していった。
「……やばいやつ」
「コースに出るぞ!」
修一の声に反応しペトラは視界を戻す。既に脱落者があちこちで出ている中、瑞雲は無事離水し、空へ飛び上がった。
『さぁ、レースが始まり、ほとんどの参加者が丘から飛び出していきましたね。戦闘集団は早くもコースへと出ています!』
空に司会の声が響く。同時に、瑞雲は十分な速度を得て、コースへ機首を向けた。
『始まりましたね!今回は第百回!勇敢な参加者達の健闘を期待しましょう!』
『ようこそ!』
『スカイハイへ!』
瞬間、瑞雲を含めた先頭集団の真下にあまりに唐突に、巨大な大穴が現れた。修一が滑走路代わりに使った大きな川はこの穴の中に流れ落ちており、見事な程巨大な滝を形成している。
「なんだこりゃ!?穴!?」
「下降して!」
ぺトラが叫ぶ。その瞬間、機体が強い風に煽られた。
「うッ!?」
咄嗟に修一はぺトラの言葉に従い、操縦桿を前に倒し急降下の姿勢に転じた。
『今大会最初の関門!デキャンの滝!まずはこの滝壺へ向けて決死のダイブ!その後、滝壺から続く大洞窟、通称〝巨蛇のはらわた〟を翔け抜けてもらいます!』
瑞雲は前傾姿勢になり、高度を速度に変換しながら猛スピードで穴の中へ潜っていく。ぐんぐんと右に触れていく速度計の針を横目に修一は空力ブレーキを展開し、高速の中で制御を手放さないよう険しい表情をした。
周囲に目を配ると、同様に皆滝壺を目指して急降下に転じている。穴は相当深いようで、底が見えづらい。機体を起こすタイミングを少しでも間違えれば事故は免れそうにない。
「思ってた以上に危ないレースだなオイ……ぺトラ、索敵任せた!」
「わかった!」
操縦桿を握りなおす。一瞬だけ訪れる機体を起こすタイミングを見失わないように集中する。
「まだだ……まだ……」
周囲の魔道具や飛行生物達は既に姿勢を起こしたり、減速を始めたりしているが、瑞雲の速度は落ちない。一瞬のタイミング、速度をさほど落とさずに水平飛行に転じる瞬間を──
「ここだ!」
叫び、操縦桿を一気に引き起こした。主翼に取り付けられたエルロンがそれに合わせて向きを変え、前傾姿勢だった瑞雲が水平に体を起こしていく。
「うおぉおおぉぉおおお起きろおぉおぉぉぉおおッ!」
瞬間、瑞雲が水平飛行に転じた。機体下部の脚が一瞬水面をこすったがそのまま機体は真っすぐに飛び始めた。
「視界がそんなに良くないな……早いトコ抜け出したいが……」
ゴーグルを外し、周囲に目をこらしながら修一が呟く。滝壺からは確かに直径数十メートルはあろうかというほどの大きな洞窟が続いており、先に穴に飛び込んだ参加者達が次々に奥へと進んでいくのが見える。視界の隅にダイブに失敗したと思われる参加者達が呆然とした様子で水に浮かんでいるのを認め、まずは最初の関門を抜けたことに安堵する。
「修一!」
しかし次の瞬間、ぺトラの叫び声が響く。驚いて視界を凝らすと、視界のあちこちに宙に浮く絨毯が写り込んだ。
「これは……」
「まずい……まずいよこれは!アイツに見つかった!」
「やぁ、珍しいものを持っているね」
ひょっこりと、まるで本当にそう音がするくらい唐突に修一の視界に健康そうな丸顔が映り込む。目に悪そうな派手な色使いの服を纏い、すべての指に大きな宝石の指輪をはめているその姿はうさんくさいことこの上無い。
「ゾイ教授……」
「おや、私の名前を知ってるんだね。感心感心」
ぺトラの叫び声に、修一が記憶を呼び起こす。
こいつは確か──、空飛ぶ絨毯の理論を完成させたと言っていたな──
「まぁ私のことはいい。それよりも君たちのその機体だが」
「こいつがどうかしましたかい先生」
修一が軽妙な様子で返すと、ゾイは小さく息をつき、言葉を続けた。
「学者というものは、常に自分の好奇心に従えというのが私の持論でね。そして今その好奇心が君たちのその機体に向いているのだよ」
「どっか陸の上で会えたらじっくりお見せしますよ。今はお互いに急いでるでしょう?」
「まさか。今見せてくれたまえ」
瞬間、絨毯の色が一斉に変わる。深い緑色だった六枚の絨毯達が一斉に紅く染まった。
「やっば!」
即座に操縦桿を切る。瑞雲はその場で横転し、横旋回の軌道に入る。
「うわっ!」
「ぺトラ!チャンス逃すなよ!」
かろうじて聞こえた修一の声でなんとか持ち直したぺトラは機銃に飛びつき、めまぐるしく回転する視界の中で相手に狙いをつける。
「ほほほ、鈍重な!」
ゾイはそんな瑞雲の動きに合わせ絨毯を操り、瑞雲を包囲するように複雑な飛び方でついてくる。
瑞雲が旋転すれば距離を取り、縦旋回を加えればまとわりつくように詰めてくる。途中ぺトラの機銃によって撃ち抜かれる絨毯もあったが、多少の損傷では墜ちないらしい。
「くそ……!」
修一の表情に焦りが生まれる。瑞雲は複座の水上機にしては軽快な運動性を持ち、偵察機として生まれながら爆撃、戦闘もこなせる万能機であるが、相手がそもそも飛行機以上の運動性を持っていては如何ともしがたいのだ。
「!」
その時、ゾイが放った火球が尾翼に着弾した。金属でできているはずの尾翼には呆気なく火が付き、炎上し始める。
「あ、火ついた!?」
運転席から修一の焦ったような声がする。
しかしその刹那、ぺトラの脳裏に解決策が浮かぶ。
「修一!火はなんとかできる!そのまま飛んで!」
「あ!?なんとかできんのか!?」
そのまま返事を待たずにぺトラは右手を燃える尾翼に向け、左手を機銃の弾倉に沿える。
すると、その場に小さな魔法陣が出現した。魔法陣ぼんやりと光り、その光が強くなった一瞬を逃さずぺトラが口を開く。
『混ざれ!』
瞬間、瑞雲の機体後部が一瞬光に包まれる。それが収まると尾翼の火が消えていた。
「は?消えた?今合成って言ったか?」
「ほう、その機械と火を合成したのかね」
「そういうこと」
ぺトラがにやりと笑い、改めて機銃をポラットに向ける。引き金を引くと、銃弾と一緒に火炎が放たれた。
「絨毯は燃えるだろ!これで逆転だ!」
攻防が逆転する。防戦一方だった瑞雲は即席の火炎放射器を得たことで優位に立ち、絨毯達はまるで意思を持っているかのようにその炎をかわして飛ぶ。
「ふむ……思ったよりできるみたいだね。ここは引いておこう」
何度か絨毯と火炎のやりとりを経た後、突然ゾイがそう言う。それを合図に絨毯達は青く色を変え、隊列を組むと一目散にどこかへ飛んで行ってしまった。
「はぁ……はぁ……」
「……大丈夫か?」
「だ、だいじょうぶ……」
いきなりの激戦に加え、瑞雲の戦闘機動によって激しく揺さぶられたぺトラは若干青い顔をしながら返事を返す。二人がゾイと戦っているうちに他の参加者達もあらかた散らばっていったようで、やっと一息つけそうな様子だった。同時に洞窟も抜け、久しぶりに降り注ぐ陽光に住こち安堵した。
「すげぇな……なんだ今の」
「合成魔法。複数の物を一時的に掛け合わせて別の物を作り出す魔法だよ。この世界じゃ基礎の基礎だから、だいたい皆使えるよ。あとはここから発展した接合魔法とか、逆に切断魔法とか、色々」
「やるじゃねぇか」
「あんまり魔法は得意じゃないからやらないけどね。さぁ、先を急ごう!」
こんにちは! ラケットコワスターです!
宣伝のために三話まで公開していた本作でしたが、頒布してから時間が経ったということもあり本日から最終話まで公開していきます! ネット小説大賞にも応募している作品なので、ぜひ「わたしのせかい」共々応援よろしくお願いします!