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第二十六話:僕はお前を越えていく

 【同日 八時二一分】


「修一! 修一なの!?」

「あぁそうだ! 俺だ! 幽霊でも幻でもない! 正真正銘、本物の西澤修一だあああぁあぁあああぁああああっ!」


 一気に操縦桿を引き、急上昇する。谷底から、天を目指す。今や谷はまばゆいばかりの光に包まれ、それに背中を押されるように瑞雲は上昇した。


「でも……なんで!」

「伝説は本当だったんだ!」


 興奮したように修一が叫ぶ。


「強き者の魂によって願いを叶える! そうだろ! お前は谷に認められたんだ! ここがその奇跡の谷だったってことだ!」


 瞬間、ついに機体が空へ飛び出す。


「何!?」


 それを見たブレアが、始めて焦ったような声を発する。谷底から突然飛び出した光は、新緑の機体をゼリア山脈の空へと送り出した。


「あれは……!」


 それを見た飛行士たちが歓喜の叫びを上げた。その中でクリスも、希望の眼差しを向ける。


「馬鹿な、まさかここが奇跡の谷、いや、それ以前に伝説が本当だった……? ふざけたことを……!」

「よし! ペトラ、もうひとふんばりできるか」


 修一が操縦席で振り返り、そう告げる。


「当たり前だろ。ぼくは〝強き者〟だ」


 ペトラも振り返り、笑い返した。


「おっかえりー。ホントに死なないねアンタ」


 ふと、レミーが瑞雲の隣に並ぶ。その姿を見つけた修一は破顔して笑ってみた。


「おうレミー。コイツが世話になったな」

「なに嫌味?」

「実際そうなんだろ?」


 ため息をつくレミー。それを見て修一はまたけらけらと笑う。


「さてぺトラ。俺は何をすればいい?」

「……僕はブレアを倒しに行く。あそこまで連れて行ってくれる?」

「よしきた」


 そう言って修一が操縦桿を切る。瞬間、機体の横に炎が伸びてきた。

 続いて大きな咆哮。見るとすぐ近くでペギーが大きな口を開けていた。


「うっ!?」


 再びペギーが炎を吐く。すんでのところで瑞雲が炎をかわす。


「ちっくしょ……! 行かせねぇってか」

「修一!」


 操縦桿を握ったまま舌打ちする修一の背後でぺトラが叫ぶ。


「あ!?」

「あそこに降ろせる!?あそこまで行けたら自分で走っていける!」


 そう言ってぺトラが指さした先には大きな池があった。


「あそこか……駄目だ。着水できるほど広くねぇ」

「それでもいいよ」

「は?」

「僕をあそこに落としてくれ!」


 一瞬、修一が黙る。


「……馬鹿なのか?」

「当たり前だろ。僕は君の相棒なんだからさ」


 瞬間、瑞雲の機体が逆さまに反転した。


「……そうだったな」


 そう言う修一の口角は上がっていた。


「ハハッ、ハハハ! そうだな! よしじゃあ準備しろ! 大馬鹿野郎を叩き落としに行ってやるッ!」


 修一がペダルを踏みこむ。機体の軌跡が大きく変わり、ぺトラの示した池へ一直線に降下していく。

 それを見たペギーが一声大きく吠えると瑞雲へ食らいつこうと牙をむいた。しかしそこへ数発の銃弾が飛来する。


「!」

「空は任せろ! 俺の代わりにあのカナヘビをぶん殴ってこい!」


 一気に操縦桿が引かれ、機体が上昇を始める。急激なGに二人そろって苦悶の表情を浮かべるが、その中でぺトラは風防に手をかけ、なんとか開いた。


「ううううううううううッ……!」

「おい馬鹿早く跳べ! 俺まで墜ちちまうだろうが!」

「わかってるよちょっと黙ってて!」

「早くしろおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」

「うるっさああああああああああああああああいッ!」


 叫び、ぺトラが跳ぶ。重力に引かれまっすぐに池に吸い込まれていく。そのまま空中で姿勢を制御すると突き刺さるように水面へと落ち込んだ。


「うう……痛たたちょっと脚打った」


 よろめきながら池から上がる。するとその先には、ブレアが立っていた。


「……!」 


 ──こいつの前に現れるのは三度目だ。

 一度目は逃げた。二度目は負けた。

 三度目だ。もう逃げない。負けない。

 見えるか、おい。覚悟しろ。また来てやったぞ。


「ブレアああああぁぁぁぁああぁぁぁあぁぁああぁぁあぁぁあああぁあぁあああぁあッッッ!」


 山脈に響く咆哮。ブレアはついに怒りに顔を歪ませ、同じように吠え返す。


「調子に乗るなああぁあああああぁああああぁああッ!」


 叫び、剣でそれを迎え撃つ。ペトラが繰り出した一撃は防がれ、その瞬間剣が砕け散るった。


「死ねッ!」


 折れた剣を握り降り立ったペトラをさらに追撃する。素早く剣を振り上げ、大上段から振り下ろす。


「!」


 しかし、それも防がれた。


「何故……剣が」


 その一撃は、ペトラの手に握られた一振りの剣によって受け止められていた。しかし、その剣は砕けてなどおらず、勇ましい輝きを放っている。


「貴様……まさか!」


 ペトラが、叫ぶ。


「〝剣製魔法〟ッ!」


 まるで昔からそうしていたように、口をつくようにその言葉が飛び出た。それに応じるように、ペトラの空いた片手に、剣が現れる。


「ロストパラダイスに開眼しただと……!?」


 それは紛れもなく、ロストパラダイス〝剣製魔法〟。どこからともなく剣を生み出し、操る最強の魔法。このタイミングで、ペトラはそれに開眼したのだ。

 そのままペトラはブレアの剣を弾き飛ばし、もう一振りの剣で反撃する。


「くっ!」


 始めて、ブレアがペトラの攻撃を回避した。


「ブレア」


 それを見て、ペトラは静かに告げる。


「答えは出たな。ここが奇跡の谷だった。言い伝えも本当だった」

「……」

「そして、谷は僕を選んだ。僕はもう弱くなんかない!」

「さっきから言わせておけば……」


 ブレアが静かに呟き、剣を構える。そして足早にペトラと間合いを詰めた。


「調子に乗るなッ!」

「お前こそ!」


 そのまま大上段から勢いよく振り下ろした。ペトラは咄嗟に手にしていた剣で受け止める。ペトラの細い剣は大剣の一撃を受け止めきれず砕け散ったが、すぐまた新しい剣を生成し、大剣を弾き返した。


「力もなく!」


 また砕ける。


「野望もなく!」


 また創る。


「ただ生まれ持った命を一時の平穏の連続を得る為だけに使う!」


 砕ける。創る。


「人生を浪費するそんな生き方など! 軟弱! 愚劣!」


 砕ける創る砕ける創る砕ける創る砕ける創る砕ける創る──


「!」


 ガキン、と鈍い音がし、ついにブレアの剣が止まった。ぺトラが何千、何万と生成した剣の中についにブレアの一撃を止める剣が現れた。


「……へぇ。お前はそう思ってるんだ」


 ぺトラが顔を上げた。その顔は血に濡れていたが、不敵に笑っている。


「初めてお前に共感できた。そうだ。この世に生まれたなら、〝強く〟ならなきゃ意味が無い。でも、お前のそれは……!」


 ぺトラが力をこめる。鈍く、大きな音が響きブレアの剣が弾かれた。


「僕の欲しい〝強さ〟じゃないッッッ!」


 切り返す。ついにブレアの側の剣が弾かれた。


「僕の知ってる強い奴は! いつでも夢に向かって走っていた!」


 クリスが満足そうに笑う。


「どんな時だって自分に正直だった!」


 どこかからか銃声が響く。


「新しい時代を作るって! 頑張っていた!」


 ラムダラの一団が哮るのが聞こえた。


「……いつだって、誰かに手を差し伸べていた!」


 ペトラの背後を瑞雲が横切る。風が吹き、ペトラの背を強く押した。


「力だけが強さじゃない!」


 ペトラが剣を構える。ペトラの背を押す風が渦巻き、強さを増していく。

 そうだ。強さとは──

 圧倒的な、力だ。

 全てを解き明かす、知識だ。

 日の下を歩く、尊厳だ。

 新しい時代への、希望だ。

 自分に正直に生きる、自由だ。

 全てに手を伸ばす、慈愛だ。

 ──前に進む、意地だ!


「いくぞ!」


 叫ぶ。風は更に強くなり、竜巻となってペトラを包んでいく。その奔流は鋭く天を突き、樹木の網を、さらにその先の黒い太陽へと伸びていく。


「止めろ! ペギー!」


 ブレアが叫ぶ。それに応じてペギーが風の奔流へ飛び込んでいくが──


「させるかあぁぁああぁあぁあぁああぁあぁああぁぁぁああぁああぁああ!」


 修一が、レミーが、ロディが、シャンブルゾンがゾイが飛行士達が、巨大なうねりとなってペギーに突っ込んでいく。巨大なうねりは巨大な龍に喰らいつき、滅多打ちにして空の下、地上へと叩き落とす。


「何!?」

「いけぇペトラ!」

「ぶちかませえぇぇぇっ!」


 瞬間、ペトラが天に向かって突き上げた剣へと風が集まり、巨大な風の剣を生成した。


「やらせはせん!」


 瞬間、ブレアが叫び、前に飛び出す。撃ち落とされたペギーに乱暴に手を触れ、その魂を吸収する。

 ペギーの魂が抜き取られ、一振りの剣が生成される。それにエイド達が集まり、こちらも巨大な龍の形をした剣を生成した。

 その場に生まれたあまりにも膨大なエネルギーがが世界を裂く。まるでいまそこにあるあらゆる存在を否定するかのような衝撃が辺り一面に叩きつけられていく。


「僕が欲しかったものは……力だった。誰よりも強く、誰よりも優秀な、力が欲しかった。でもそれだけじゃ駄目だった。駄目だったんだ! 力は強さの一つでしかなかった! お前より力がなくても、お前より強いヤツはたくさんいた!」

「力こそもっとも優れた強さだ! 誰にも文句は言わせない! 誰にも俺に並び立たせない! 唯一絶対! それでもお前は俺より強いというのか!?」


 ブレアが叫び、剣の大きさが増していく。いまやその大きさは大樹と同等になっている。


「当たり前だろ! なめんじゃねぇッッッ!」


 ペトラの剣も巨大化した。ブレアの剣より一回り大きくなり、


「ふざけるなぁぁぁあぁぁあぁあああぁあぁあああぁあぁぁああああぁあああ!」


 それを追うようにさらにブレアの剣が巨大化する。


「うおおおおおぉぉぉぉぉおおぉぉおおぉぉおおおぉぉぉおおぉぉぉおおおッ!」


 またペトラの剣も巨大化する。二振りの剣は今や天を突き、空の上、その果てにある黒い太陽へ切っ先を向けている。


「究極死霊魔法!」

「究極剣製魔法!」


 二人が叫ぶ。


「〝ダウィンスレ──」

「〝瑞雲〟ッッッ!」


 巨大な剣の切っ先が弾ける。そこからまるであらゆるものがあふれ出るように、凄まじい量の雲が飛び出し、天を覆っていく。


「なッ!」


 ペトラの剣は際限なく巨大化していく。黒い太陽が放つ暗い陽光を覆い隠し、祝福の雲が刃となり、龍の刃へと迫る。


「いけええええええぇぇぇぇええぁぁあぁああぁぁぁぁあぁぁああああああぁぁぁッッッ!」


 太陽が裂かれる。

 死龍の翼が砕け散る。

 龍の首が──、

 落ちた。


 ***


「──ならば……答えろ」

「力を破ったこの強さは、お前は──何なのだ」


 ブレアが、小さく呟く。その前には、剣を突きつけたペトラが立っていた。


「……僕は僕だよ。意地っ張りな、ただの人間」


 そう言ってペトラはブレアの前に剣を突き立てた。そして、背を向ける。瞬間、背後に立つ真っ二つに裂けた大樹が音をたてて倒れた。


「僕はお前を越えていく。これで、僕とお前の因縁はおしまいだ」


 歩み出す。その先へ、目的地へ。

 そんなペトラを歓声が迎えた。





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