戦い①
ぐしゃぁ
やってやった。
やっちまった、初めてだこんなの。
殺…したのか?
いや、殺したんだ。
くそ、いくらゾンビとはいえほとんど人間じゃないか。
いや、元人間じゃないか。
それでもっ、やらなきゃやられるのは俺だ。
僕はそう思い、手に持つそのバールを化け物どもに向けて振り回した。
ーーーーーーー
!!
気づいたときには視界が布のようなもので覆われ、手足が縄で縛られあっという間にサンドバッグのように詰められてしまった。
その間の抵抗はむなしくただ、うめき声をあげるだけだった。
「んんっ。んーーんっ」
「おい、こら暴れんなよ」
「こんなに暴れるやつ久々だな」
「まあそれも仕方ないってのは分かるけどよ、俺たちは仕事だ」
俺のことをぐるぐるにしたやつらは今俺のことを拉致しているというのに仕事がどうとかいう話をしている。
俺はこのまま人身売買などに連れていかれるのだろうか。
いや、そうなんだろうな。
くそっ、何もできねぇ。
「むぐんんーー。」
「ああもううざってえなおとなしくもできねえのかよ…どうせ死ぬのに」
「ばかっ、それは言うな。あくまで俺たちは非公認、秘密組織だぞ。もし一般人に聞かれて、サツでも来たらどうすんだ、おい」
「それもそうだがよー、こいつが悪いんだぜ?もうよくねえか?ヤク使わせろ」
「…使用を許可する」
ヤクってなんだ?何をされるんだ?
抵抗しないとやばい!
「んー。むーん。んーーーーん!」
「んじゃあ、打つぜ。そらよっと」
何か注射器のようなもので刺されーーーーー。。。。。
「これ・安心・て運・るな」
「ああ、そうだ・」
「んじゃ・とっ・と終わら・るかぁ」
ーーーーーーーー
それ以降の記憶はなかった。
一体俺はどうなって?
それにここはどこだ?
ヤクのせいか?視界がまだぼんやりして。
真っ白い部屋?監禁室?
モニターと机。机の上に手記とバール?か。
それと監視カメラ。
やっぱり俺は監禁されてるんだな。
まあ俺の人生もそこまでだっ
「起きたようだね」
ったな
考えてる間に話しかけられた。
「お前は誰だ?ここはどこだ?何のために?人身売買か?」
「おいおい質問が多すぎるだろう。いくら他人より頭が回るからと言ってねぇ?」
「そんなことよりも今の状況わかってんのか?おまえに質問権があるとでも思って?」
「人権があるだろ!人の自由を踏みにじ」
ガチャッ
「るの…か。。」
直後現れた武装したSPのような人物のせいで、俺は黙るしかなかった。
「そうだそれでいい。賢くて助かるよ」
「立場は俺のほうが上と分かってもらえて何よりだ。」
「…時間もないんでぱっぱと話そう。」
「いくら分担作業とはいえ、毎日三千人もの人を捌くんだ。人事部が火を噴いちまう」
「君の名前は確か?黒川 宣弘クンだね?」
「あぁ、そんなに縮こまなくてもいいんだ。うなずくかしてくれ。」
俺はこくりとうなづいた。
「よかったよかった。管理書に間違いがないみたいで」
「時々あるんだよぉ、人違いが」
「世界のためとはいえ違法労働が過ぎるんだよなぁ。まあ今はいいか」
本当にこいつは何を言っているんだ?話が読めない。
「失礼します、少しお時間のほうが…」
SPがそういうと
「あぁ済まない済まない。癖なんだ、直すように努力はするよ」
「じゃあ本題にとっとと入ろう。」
「黒川 宣弘クン君は今日死んだ。」
は?死んだってなんだよ拉致されただけだろ?
「正確には書類上殺させてもらったんだ」
「だから君はもう黒川 宣弘クンじゃない。もし希望があれば名前を変えてもいい。」
「まあ便宜上、黒川 宣弘クンと呼ばせてもらうがね」
「すまないが黒川 宣弘クン先に断っておくと今はまだ、情報を多くはしゃべれない。」
「だから手短に言う、今から君は一人でゾンビと戦ってもらう。」
「とはいっても君にはいくらか、いやとても多くの疑問が残るだろう。」
「だが今は関係ない。今君がしなくちゃいけないのは、ゾンビと戦って生き延びることだ。もちろんこちらの指定数は、駆除してもらうが。」
「あとほかに言っておくことはあるかな?」
「ああそうだ、そうだよ思い出した。初めての戦闘となると生き物を殺せないよ~なんてことを言う大バカ者もいるがね、戦わなければ、君が、家族が、友人が、人類が。負けて滅びるんだよ」
「それはこういう戦いだ。生き残りたいなら殺せ。それだけだ」
俺はこの男の言っていることがほとんど何も理解できなかった。
「それじゃあ私とはこの辺でサヨナラだ。」
「君が死んだらもちろん会えないし、いきのこっても専属オペレーターを付けるから、私じゃあない」
「それじゃあ幸運を、SP君悪いが困っていたら必要最低限の説明してあげてくれ。悪いが時間もないが」
プツン
そうして、意味の分からないうちにビデオ通話が終わった。
「抵抗しないならばしゃべってもいいぞ」
SPにそう言われ、俺はどっとため息をついた。
「なあ、おいそこのあんた。説明してくれないか?意味が分からない」
「心配するな必要事項はすべて話した。」
こいつもダメか。
一体ここの奴らは何を言っているんだ。
それにゾンビってなんだよ?
でもまあ、ただ拉致されて殺されるよりかはましか。
よし。前向きに行こう。
そう思って前を向くとモニターに変化があった。
ーーー
転送まで残り3分24秒。
ーーー
転送ってなんだよ、でもまあ話の前後からして、俺がゾンビと戦う場所への転送ってことか。
ていうか転送技術とかあるのかよ。
まじで意味わかんねえ。
「おい、そこのあんた、この部屋をよく見てもいいか?」
「ああ。構わん。しかし出ることは許されない」
「わかってるよ、死にたくなんぞねえ」
そういい俺は部屋を残り時間で見ることにした。
もし本当にゾンビがいて戦うのだとすれば、武器が必要になると思ったからだ。
部屋はくまなく探したが、バール一本しかなかった。
手記を読む時間はないと思ってポケットにしまうだけにしておいた。
ーーー
転送まで残り0秒
ーーー
モニターにそう表示された瞬間、俺は意識が飛んだ。
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目が覚めると今度は、廃村のようなところにいた。
反吐が出るようなにおいもした。
「くそ、なんだよここやっぱりほんとにゾンビなんか出るのか?」
『黒川 宣弘さん 残り討伐必要数 35体 ゾンビ総数 35体』
「うおっなんだよこれ?」
イヤホンも何もしてないってのに、頭ん中に言葉が浮かんできやがった。
やっぱりゾンビが出る可能性が高いよな。
そう思った俺は、バールを構えた。
「ははっ、バールが武器なんてその辺のゾンビゲームによくある展開じゃないか。クソッ」
少し周りを探索しようとしていると、
パキッ
結構大きい音で枝を踏み鳴らしてしまった。
「まずいな」
う゛お゛お゛お゛おお゛おお゛
という雄たけびを上げて本当にゾンビが出てきやがった。
「おいおい嘘だろ?まじかよッ」
俺は全力でその場から逃げた。