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裏の支配者  作者: アスダラ
2/3

依頼

ポールはこの日も「梟」に顔を出していた


「マスター、いつものを」

そしてL字カウンターのいつもの隅の席に陣取る

席に着くや否や胸ポケットからタバコを取り出し、銀色のライターで火を点ける

一息つくころにマスターからグラスに注がれたビールが渡される

ここの暗黙のルールの一つにビールが出された時は仕事の話があるとなっている

酒に酔った状況で仕事の話をされては困るからだ

ビールを一息にあおり、グラスを空けるとバーの個室に移動する

個室のドアを開けると中には男が二人座っていた


「ようポール。お前がこの仕事をするのか」

そう言うのはがっちりした体型で熊のように大柄な男だ

「久しぶりですね、森さん。で、その隣の方は誰ですか」

隣に座っている正義感の塊のような森に比べると一回りくらい小さく、30歳くらいの男の方を見る

「こいつは新入りの佐藤だ。今回の仕事から俺と一緒に行動することになった」

佐藤と呼ばれた男は軽く会釈をし、ポールをにらみつけている

どうやらまだこの仕事に納得をしていないかのようだ

そして目の色に気づいたのか驚いたようだ

「悪いな、まだまだ新入りでな」

「いえ、気にしないでください。新入りの方はみな同じですから」

「そう言ってもらえると助かるわ。で、今回の仕事なんだが、こいつだ」

そう言うと、懐から一枚の写真と情報の書かれた紙を差し出す

「こいつは人を殺したはずなんだが、証拠が足らない。それに犯人として別の人物が捕まった。確実に身代わりだ。奴は今までも何度か同じように疑いがかけられ、そのたびに別人が捕まる。奴は金を使い、すべてをもみ消す。金があれば何をしても許されると思っているクズ野郎だ」


ここでの仕事はいわゆる殺しを請け負うことだ

今回の依頼をしてきた森は警察組織の人間だ

警察はある程度の状況になるまで手を出すことはできない

そしてその間に新しい被害者が増えていくケースが多くある

しかも、そのまま逃げられる場合もある

そこで法を無視し、実力行使を行う集団が彼ら裏の支配者たちである

だからこの仕事に関して、良く思わない者が一定数警察組織には存在する

そのためこのことを知るのは限られた人物に絞られている

法を守らないものを捕まえるために警察に入ったのにも関わらず、それを無視する存在である裏の支配者に仕事を任せるのは葛藤が伴うものだ

佐藤ももれなくこれだ

そして裏の支配者たちは警察からの仕事の依頼は基本的に断ることはできない

これもここでの暗黙のルールの一つだ



「わかりました。ではなるべく早く処理をしておきます」

「頼むぞ」

森は金をテーブルに置くと佐藤を連れてバーを後にする

「こんなことは果たして許されるのでしょうか」

佐藤は森に投げかける

「まあ、なんとも言えんはな。罰を受けるべき人物に罰を与えることは正しいと思う。が、それは法の下であるべきだ。だが、それだと全員を罰することは難しいだろ。それを俺らの代わりにしてくれる存在はありがたいとも思うよ」

「そうですか。私はまだ納得できません。法は絶対でそれを無視することはあってはならないと思います。さらにそれを法を無視するように我々がお願いをし、それを黙認するなんて」

「最初はそう思うだろうな。ただ、それも必要なことだ。何度か彼らに依頼していくとわかるようになるさ」

「そうですか。もし、彼らが今回の仕事を失敗したらどうするんですか。捕まったりしたら警察の信頼は失墜するのはもちろんとんでもないバッシングを受けますよ」

「そこは安心しとけ。彼らに失敗はありえんよ。彼らは俺たちのような人間と同じ扱いにしちゃいけない。一度、仕事ぶりを見る機会があったらこのことが嘘でないことがわかるさ」

森はニヤリと笑みを浮かべた




残されたポールは新しいタバコを取り出し火を点ける

すると間もなく、店員の一人がネグローニを持ってきた

それを飲みながら今回の標的に関する情報を見ていく

標的は男で年齢は30歳。交際相手の女を殺した疑いがある。どうやら、別れを切り出されたことで殺したと考えられている。

それらの情報と行動範囲を頭に入れるとその紙を手にしているライターで燃やす

ある意味、ここでの仕事は存在しなかったことになる

警察の関与は何もなかった、それがここでの仕事の暗黙のルールだ

「さて、明日から取り掛かるかな」

残りの酒を流し込むと席を立った




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