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聖女は魔領に譲渡されました

作者:

前編後編に分けようと思ったのですが後編で詰まってるのでとりあえずこれだけ投稿します。

筆が乗れば今回のものを修正しつつ後編も投稿しようかな〜くらいの気持ちなので、出会いの短編としてでもよければお読みくださると嬉しいです。










時刻は昼の盛りだというのに、薄暗くじめついた空気の漂う石造りの広間。

ぼんやりと浮かび上がるように魔術による炎が灯されたそこには、王座に深く腰掛けた黒髪の男とななめ後ろに控える銀の髪の男、そしてそれらと向かい合う形で跪く長い薄水色の髪の少女がいた。

他には人影はなく、部屋の隅の暗闇に時折コウモリの赤い瞳がちらつくばかりのそこは、シンと静まり返って誰もが口を閉ざしている。

少女は頭を垂れたまま動かず、長い間その体勢でいるというのにフラつきもせず衣擦れの音すら立てない。

暫く静寂が続き、銀髪の男がちらりと王座に座る男へ視線を動かすとほぼ同時に黒髪の男は重々しく口を開いた。


「……あの国の人間は阿呆なのか?」


長い沈黙を破った一言のわりに、その声には酷い呆れと困惑が滲み出ていた。

続いて思い出したように男が「顔を上げて楽にしろ」と目の前で跪く少女に声をかけ、自身も肘掛けに頬杖をつく。

それを受けて顔を上げた少女は、ゆっくりと伏せていた薄いエメラルドの色をした目を開き、何度か瞬きをした。

彼女の名前はスティラ、家名はなく、ただのスティラである。

すっきりとした美しい顔立ちの彼女はその目を黒髪の男と銀髪の男へとゆっくり滑らせ、無表情のまま薄い色の唇を開いた。


「恐れながら、魔王様」


「……なんだ」


答えたのは黒髪の男だ。

そう、この黒髪の男はスティラが呼んだ肩書の通り魔の国を統べる王、すなわち魔王である。

銀髪の男はその右腕とも呼ばれる魔族であり、そしてそんな二人がいるこの広間のある場所は魔王城。

その二人には人間には見られない角や尻尾、羽や鱗…そういった魔族の特徴がしっかりと存在していた。その特徴のないスティラは正真正銘人間で、そしてなんと人間の国では聖女と呼ばれる立場であった。

そんなスティラが何故一人魔王城で魔王に跪いていたのか……それは先程魔王が口にした「阿呆である」と言った発言と関係がある。

人間の聖女が、人間の国を馬鹿にされて発言の許可を求めた。当然反論が来るものと魔王は若干厳しい顔を面白そうに歪め、その先を促す。

右腕である魔族も静かに冷たい視線をスティラに向けているが、スティラはそれらを正面から受け止めながら涼しい顔でさらに言葉を続けた。


「愚かなのは一部ですし、そんな彼らを表すのであれば阿呆ではなく馬鹿でございます」


ほとんど同じですが、彼らは頭の作りからしてとんでもない愚か者ですので。

表情一つ変えずにそう言い放った聖女に、魔王とその右腕はズルッとガクッと体勢を崩すことになった。






事の始めは、今から遡ること一月程前であった。

人が人の為に統べる国では、長年膠着状態を保っていた魔族に動きがあったとてんやわんやの大騒ぎになっていた。

それもこれも、どうやら何百年か前に眠りについた魔王が目覚めたのだというので、これを機に人間の国へと攻め入って来るのではないか…という懸念が不安を呼び大騒ぎ、といった具合である。

魔王が眠りについたあとは高い地位…人間でいう貴族にあたる魔族が魔領を統治してやりくりしていたわけだが、魔王が目覚めたのであればきっと侵略をしてくるに違いない!という偏見でもあった。

最高位の聖女として教会で毎日祈りを捧げ不安に駆られる民の心に安らぎを届けるため働いていたスティラは、正直目覚めたという知らせがあっただけで何をそんな大げさな…きっと王家からすぐにこの混乱を収めるお言葉があるに違いない。と思っていたのだが……。


「スティラ、君には魔王の元へ行ってもらう」


「…はい?」


それも、金髪碧眼、まつ毛もバサバサの無駄にキラキラしい男……この国の第一王子がそうつげてくるまでの間であった。

スティラは祈りを捧げる姿勢のままそのキラキラしい目に五月蝿い王子……アルバン王子とそれに寄り添うように立ちその腕にしがみつく様にしている薄桃の色髪の少女……ビアンカに視線を向け、上記の通りの間の抜けた声をもらす。

それをどう捉えたのか知らないが、アルバンはやれやれといった芝居がかった動きの後再び口を開いた。


「魔王から、聖女を一人魔領へ寄越せと手紙が来たのは知っているだろう」


「えぇ、ひどい騒ぎでしたから」


「だから君に行ってもらう」


アルバンの言葉に、スティラはぱちりとゆっくり瞬きをした。

スティラは最高位の聖女、聖女はこの国に一人ではないが、最高位というのは国にとって重要であるということだ。

そして、記憶の通りであるならば魔王は聖女であれば誰でもよいと言ってきたと知らせを受けている。

そして、もう一つスティラには解せないことがあり、姿勢はそのままでほんの少しだけ首を傾げた。


「わたくしは、アルバン殿下の婚約者ではありませんでしたでしょうか?」


そう、スティラは平民出の聖女であったがその力の強さからすぐさま聖女のトップへと祀り上げられた。そして、その力をより強く国のものとするために王家との婚約も同時に。

しかし、それを口にした途端アルバンの顔が歪むのがスティラにはよく見えた。


「…ビアンカから話は聞いているぞ、君は仮にも聖女でありながら他人の…ビアンカの成果を奪い取って最高位の地位を手に入れたそうではないか…!」


「そのような事実は無いのですが……ビアンカ様がそのように?」


ちらりとスティラが、未だにアルバンの腕にしがみつく様にしているビアンカへ視線を向けるとビアンカは大袈裟に体を震わせた。

可愛らしい見た目のビアンカは貴族出の聖女だが、スティラは彼女と大して話したこともなかったはず。

そう思って何か声をかけようとしたが、その前にアルバンの怒鳴るような声に遮られる。


「ビアンカを怯えさせるのはやめろ!教会において身分の差は無いものと扱うとはいえ、平民出の者が貴族出の聖女であるビアンカを脅し、その働きを我が物とするなど!そんな女を私の婚約者などにしておけるものか!」


「ですから、わたくしの働きはわたくしの…」


「ええい!まだ言うか…!恥知らずめ!」


「アルバン様…!もういいのですっスティラ様はきっと毎日お疲れになって……だからわたしはスティラ様のために……、だから……っ」


「あぁ…っなんと健気なのだビアンカ…!それに比べてスティラ…君は、何を考えているかわからない愛想のない顔、王家に対しての敬意も見えない…!とにかく、これは決定事項だ!さっさと荷物をまとめろ!」


ふるふると震えて悲しげによくわこらないことをいうビアンカに困惑顔のスティラは、これまたよくわからない事を怒鳴るアルバンに睨みつけられてもはや困惑どころか虚無の顔をしていた。

人の言葉を最後まで聞きましょうと王家の教育では学ばないのであろうか、あと涙も出てない女の言葉を鵜呑みにするなとも。涙が出ていても鵜呑みするなと言いたいが。


「……なるほど、それは国王陛下からの王命であると?」


「…っ、つべこべ言うな!君はビアンカに謝り、大人しく魔王の元へ行けばいいのだ!」


つまり、王には話も通さず来たと。

スティラは無表情の下で顔にありありと「めんどくさい」と浮かばせたが、アルバンの目にはしらっとした目を向けるスティラが映るばかりである。


「わたくしからビアンカ様に謝るような事はございませんが……婚約は破棄、魔領行きはわたくしであると」


「ふん!ビアンカの代わりになれるのだ、最後くらい役に立てば良い!」


つまり、本来魔領行きなのはビアンカである、と。

スティラはアルバンにもビアンカにもさして興味は無かったが、王に申し立てに行って面倒事に巻き込まれるのも、万が一きちんと調べられて無実を証明され婚約が継続となるのも御免であった。

国王陛下はたまにお会いする分には穏やかでまともな人に見えたが……とまで考えていたスティラは、急に腕を捕まれ立たされた事で思考を現実に戻す。

気づけばいつ近寄ったのかアルバンの側近候補である男が忌々しげにスティラを睨みつけてその腕を掴んでいた。

早く支度をしてさっさと行けと言うことらしい。気が早いなとスティラは内心ため息を吐く。


「痛いので離していただけます?逃げたりしませんわ」


「誰がお前の言葉を信じるものか、馬車は用意してある、そのままでいいからさっさと出ろ!」


どうやらアルバンの取り巻き数人で押しかけてきたらしく、祈りの間の前で控えていた侍女たちがおろおろとこちらを見ているのがスティラには見えた。

彼女たちには悪気などなかったのだろうと判断し、スティラは痕になりそうなほど強く掴まれたまま引きずられるように教会の外へと連れて行かれる。

そこでようやく、王子相手に戸惑っていた侍女や神官たちも慌てて人を呼びに走ったようだが遅い。突き飛ばされるように馬車の中へ押し込まれ、荷物をまとめろとは何だったのだというほど性急にその扉が閉められた。


「逃げようなどと思うなよ!せめて最後くらい聖女らしい働きをしろ!」


「わたくしが居なくなれば教会の祈りが不足しますが」


「うるさい!今まで君の分まで働いていた本来最高位であるはずのビアンカがいるのだ!なんの問題もない!」


馬車の窓から覗き込むようにして会話すれば、怒りでキラキラしい顔を赤くしたアルバンが怒鳴る。

いくら人目がほとんどないとはいえ王族が外でそのように怒鳴るのはいかがなものか、とは思ったがスティラには関係ないので黙っておいた。


「左様でございますか、では、頑張ってくださいませ」


「…っこの…!さっさと出せ!!」


アルバンの言葉に慌てて発進されたせいでガタンッと大きく馬車が揺れ、スティラが背凭れに手をついて耐えている間に教会はどんどん遠ざかっていく。

逃げ出せないことも無かったが、動く馬車から出るとなれば無事では済まない。

なによりも、あれだけ散々言われたスティラはすっかり呆れて教会に戻っても面倒事に巻き込まれるだけだと椅子へと腰を下ろした。

さて、魔領との境まで連れて行かれるのだろうけれど、そこから魔王の元へはどうやっていけばよいのだろうか……スティラはそんな事を考えながら座り心地の悪い馬車の中で目を閉じたのであった。







「……という次第でありまして、わたくしをここへ送り出したのは国の総意ではございません」


「……阿呆なのか?」


「ですから、馬鹿なのでございます」


「いや、そちらもそうだが……何故お前はのこのこと大人しくここまで来たのだ…」


話を一通り聞き終わり、疲れた様子でため息まじりに言った魔王に同意するように右腕が頷く。

それを受けて、表情こそ変わらないがスティラがこてりと小首を傾げる。着ているのは聖女の正装である白いローブで、所々土で汚れていた。

途中でいまそこにいる右腕が拾ってきたとはいえ、ここに来るまで過酷な状況であったのは見て取れる有様である。


「魔王様がお呼びになったのでは?」


「いや……、それは、そうなのだが」


「……言ってはどうですか、半分冗談だったのだと」


「まぁ、ご冗談であんなことを?」


「いや待て、確かに聖女を貰い受けられるのであれば願ってもない話だったのだ」


右腕のぶっちゃけに、スティラの魔王へ向ける目が少しだけ「馬鹿なのかな?」という温度を含んだことに、魔王は数百歳という年甲斐もなく若干慌てた。

実際魔領としては聖女の力を欲していたし、末端でもいいのでその力を宿す娘が欲しかった。魔王復活に恐れおののいているらしいと聞いたので駄目元だったのは否定できない。

しかし実際やってきたのは最高位の聖女、それも王子の婚約者……元、婚約者である。思ったより随分大物が来てしまったので驚いていた。


「……しかし、王子の独断であったのならば国は聖女の交換を願い出るのではないか」


「まぁ、それは困ります」


「困る?」


全く困ってない無表情で言われたが声色は困っている風だったので、魔王は一応聞き返した。それにスティラは頷き返し、頬に手のひらをあてる。

数日手入れをされていない髪はすこしベタつき、頬も手も土で汚れていたがその姿は儚げな美少女だ。

ますます王子が無理に送りつけてきた理由がわからず魔王は密かに眉を寄せるが、飛び出てきた言葉にガクッと肘掛けから肘をずり落とすことになる。


「あの馬鹿王子の婚約者に戻るなんてまっぴら御免です」


「……」


「視界に居るだけで五月蝿いんですよね、あの王子、顔が五月蝿い」


「顔が……」


「えぇ、自意識過剰で自信過剰ナルシストのマザコンなのです、しかも婚前交渉を断ったら別の女に手を出してこのザマですもの、クソ食らえって感じですわね」


「クソ……」


「あらやだ、教会を出たからか口調が荒れてしまって……ごめんあそばせ」


相変わらずの無表情でつらつらと自国の元婚約者をボロクソにいう美少女に、魔王はひくりと口の端が引きつるのを感じた。ついでに斜め後ろで右腕が面白そうなものを見つけたというオーラを出し始めたのでそれにも頭痛がしそうだった。

魔王としては婚前交渉がどうとか別の女に手を出して……とか気になる事もあったが、一先ず本人が堪えているかどうかは別として目の前の人間が酷い目にあってきたらしいというのは理解できる。むしろそこしかわからない。

赤い目を何処か遠いところに向けてため息を吐いてから、魔王はスティラを休ませるための指示を出すことにした。

名前を呼ばれた魔族のメイドが音もなくスティラの後ろに現れ、振り返ったスティラに恭しくお辞儀をする。


「……その者についていけ、湯浴みをしている間に部屋を用意させる」


「まぁ、ここに置いていただけるのですか?」


「……聖女が欲しいのは本当だからな」


「ありがとうございます、心より感謝申し上げますわ」


礼の姿勢を取ったスティラに、魔王は若干疲れた様子でひらりと手を振ると「もういい、疲れているだろうからはやく下がれ」と返して自らも立ち上がる。

そこでようやくスティラは魔王の容姿をゆっくり見たが、話に聞いていたのと随分違うのだな、と心の中で思った。

人間の間では魔族は恐ろしい悪魔のような姿だと言われているが、目の前や後ろにいる魔族はとても美しい容姿をしている。

その中でも、目の前の魔王は少しうねる艶のある黒髪に、少し不健康そうであるが白く美しい肌、輝くルビーのような真っ赤な瞳の凛々しい男性に見えた。

もちろん魔族特有の角がその頭に堂々と生えていたが、それすら美しく年頃の乙女はうっとりとしてしまいそうな美丈夫である。

スティラは元婚約者の顔が五月蝿くて嫌いだったが、この魔王の顔は落ち着きのある美しさだな、と感心した気持ちでそれを見上げ、再び礼をするとメイドに促されるまま退出した。


そこからはスティラは正直あまりおぼえていない。

薄ぼんやりと灯りの落とされた浴室に案内されて文字通り身ぐるみを剥がされ、全身を磨かれたあとほんのり甘い柑橘系の香りのする少し白く濁ったお湯にゆっくり肩まで浸かりながら髪を洗われたまでは覚えている。

まるで話に聞く貴族のご令嬢のような待遇だと思いながらうつらうつらとして、寝ぼけ眼で湯から上げられたあとは多分マッサージを受けて髪を乾かされながら肌の手入れをされた。

もうそこまでしかわからず、たぶんそのあと自分は眠ってしまったのだろうな……と薄い天蓋のかかるベッドから天井を見上げてスティラはぼんやりと思った。

メイドのだれかにベッドまで運ばせてしまったのだろうか、とか、部屋を用意させると言っていた気がするけどそれがこの部屋だろうか、とかゆっくり目を動かして内装を観察する。

灯りは落とされているのでカーテンの隙間から差し込む月明かりしかないが、一通りの家具が揃った落ち着きのある部屋に思えた。

ころりと寝返りをうてば、ほどよい反発力のあるベッドに張られたシーツは滑らかで、枕もふかふかとしてほんのり花のような香りがして思わず顔を埋めてしまう。

掛け布団を撫でると細やかなレースと刺繍が指先に感じられて、値が張りそうだということしかわからない。


「魔王城……思っていたよりずっといいところね…」


ビアンカは王子に取り入りたかったのか、それとも魔王城に来たくなかったのか…はたまたその両方であったのかはわからないが、恐らく平民であるスティラを煙たがっていたのだろう。

平民ということでたくさんの嫌がらせを受けてきていたのでスティラは今更何かを思うこともなかったが、今ばかりは感謝をしてもいいかもしれないと思った。


「(それに、魔族の方からの思ったような差別も殆ど無かったし……)」


魔族と人間は魔の森と呼ばれる魔物の溢れる暗く深い森に隔てられてはいるが隣の国で暮らしている。

けれどもお互いほとんど関わり合おうとはしてこなかったし、人間は魔王が目覚めたというだけで騒ぎ立てて眠れぬ夜を暮らすほど魔族を恐れていた。

教会でも魔族の信仰する神は邪神であり我々が信仰する神こそが正しく主神なのであると言って憚らなかったわけで、そこに魔族を差別する意識がすでにあらわれていた。

とはいえ、王族や貴族、教会の神職者にとってはそうかもしれないがそれ以外…平民や貧困者にとっては正直どうでも良い話でもある。スティラはそちら側であったので、余計一部の教会の人間からの当たりは強かったと記憶している。

そんなわけだから、人間のそんな態度を見ていたら魔族に快く思われないとスティラは考えながら魔領へと向かってきたわけだが……


「(柔らかいベッドに清潔なシーツ、メイドさんたちもあまり喋らなかったけど手つきは優しかった……)」


平民というだけで雑な扱いをされていた事もあったので、スティラはそれだけで魔族への好感を深めていた。

もちろん今自分に付いてくれていた世話係達は仕事をきちんとする者たちであったので、今の教会での扱いに大して不満も持っていなかったが、それでもやはり平民と侮られている空気くらい感じていたのだ。

聖女など…自分が居なくても代わりがいる、なんとなく自分でも思っていた事なので、アルバンにそう言われたのも傷つきはしない。


「……あした、何をすればいいのかちゃんと聞いておかなくては駄目ね」


仮にも最高位の力を持つ聖女だから、祖国から交換の申し出が来るかもしれないという魔王の言葉は信憑性があった。

しかし、一度送りつけたものをそれより力の弱いものと交換して欲しいなどなかなか言えるものではないし、国王陛下ならどうするか…などもスティラにはさっぱりわからない。

それならば、このままここで生きていく可能性は高いのだから今はそれについて考えていこう。

再びやってきた睡魔に身を任せるため、スティラは瞼を閉じると小さく息を吐いた。






ちゅんちゅん、と小鳥の鳴き声で目を覚ましたスティラが思ったことは、魔領にも普通の鳥が居るのだな、ということだった。直後なんとも形容しがたい獣の遠吠えも聞こえたのでやはり魔領であったかと思い直したが。

昨日丁寧にマッサージされたからか足の疲れは微々たるものだが、揉み返しが酷く体が重い。

スティラがぼんやりとしていれば、程なくして控えめなノックの音と共に見たことのあるメイドが音もなく入室してくるのが見えた。

スティラの目が開いている事に気づいたメイドが小さく声をかけるので、スティラは慌ててベッドから出ようとするが手で制されて困惑しながらも大人しく上体を起こすだけに留める。


「おはようございます、聖女様」


「おはようございます……あの、魔王様から私のお仕事については聞いていますか?」


「その事ですが、お食事のあとに魔王様ご本人からお伝えすると言伝を預かっております……こちらをどうぞ」


「あ、はい……ありがとうございます…」


手渡されたティーカップを大人しく受け取り、スティラはおそるおそる口を付ける。爽やかなレモンと微かなハーブの香りのする少しぬるめの紅茶で、知らず力の篭っていた体からほっと力が抜けるのを感じた。

静かに見守っていたメイドの存在を思い出して慌てて飲み干そうとするのを見透かされ「ごゆっくりで大丈夫です」と言われたスティラがちびちびと飲み、ようやく飲み終わった頃にお湯を張った桶がベッドの横に持ってこられる。

優しく顔を洗われ、手入れをされながらスティラは無表情ながら少しおろおろとしてしまった。

教会でもこんな丁寧に扱われたことはない。最高位の聖女で王子の婚約者とはいえ、平民……所詮その程度のものだったのだから。

やっとベッドから出て立つことを許されたかと思えばふかふかの椅子へ座らされ、丁度やってきた応援のメイド達が髪を梳かし服を宛てがいながらテキパキと用意をしていく。


「聖女様は涼しい色合いの方ですから、白や淡い黄色でもいいかもしれませんね」


「魔王様と朝食ですし、黒でもいいかもしれません」


「そうですね、たしか黒地に金の糸のものが……装飾は目の色に合わせましょう」


「よろしいかと。……えぇ、素敵ですわ聖女様」


真面目そうで涼しい顔をしていた最初のメイドが少し微笑み、スティラに手鏡を渡す。覗き込むと、華美ではないが程々に飾り付けられた自分の姿が見えて、スティラは数回瞬きをした。

王子の婚約者や聖女という立場上着飾って人前に出たこともあるが、なんだかその時よりもしっくりとくる。

ドレスもワンピースに近く動きやすいし、スティラはいつもの重々しいローブやヒールの高い靴などよりこの姿が好きだと素直に思った。


「ありがとうございます……あの、けれどわたくしは魔王様への献上品ですので…ここまでしていただくのはご迷惑ではないでしょうか」


「いいえ、魔領にとっても聖女様は待望の存在、問題がないようでしたら、快適に過ごしていただくためにもこのような事は当然です」


「そうなのですか……いえ、そうですね…それについても魔王様からお話を伺います」


「はい、それがよろしいかと。……そろそろお時間も近づいてまいりましたね」


魔族が自分を理不尽に殺したり酷使するつもりが無いことは昨日の今日でスティラは理解していた。

だからといってこんな高待遇は逆に何かあるのではと勘ぐってしまう気持ちもあるが、魔王本人から直接話を聞けるのであれば理由を今急いで聞く必要もない。

メイドの手を取りながらやはり朝であるというのに薄暗い廊下を歩きながら、スティラはそう考えつつ失礼でない程度に内装を観察した。

魔王城というのだからもっと禍々しいのを想像していたが、それは外観とあの広間くらいのもので、廊下や室内は薄暗い以外シンプルで綺麗である。

時折見かける魔族の使用人らしき人達も見た目以外は人間と大して変わりなく思えた。

少し軋んだ大きな扉が開ききると、その向こうに昨日も見た姿が見える。黒くてとてもわかりやすい。


「……魔王様、お食事に招待いただきありがとうございます」


「…あぁ、よく休めたようで何よりだ」


「はい、お恥ずかしながら昨晩お世話をしてもらいながら寝てしまったようで……そういえば、わたくしを運んでくださったのは…」


ちらりと後ろに控えるメイドにスティラが目を向けるが、それに気づいたメイドがちらりと魔王へ視線をやったあと「私ではございません」と小さく頭を下げる。

魔王の手前勝手に発言するのは良かったのだろうか、と話を振っておきながらスティラは思ったが、誰も気にした様子がないのでそういうものなのかと納得した。

引かれた椅子に腰掛け、それでは誰がとスティラが小首を傾げるが、どうやら誰もその疑問に答えてはくれないらしい。


「……その方にお礼とお詫びを申し上げたいのですが」


「……いや、それも…その、仕事のうちだ、わざわざ言うほどのものでもないだろう」


「えぇ、もしかしたら相手は知られたくないかもしれませんしね、そっとしておいてあげてください聖女様」


「フィラルド…!」


ひょっこりと扉から顔を出して会話に加わってきたのは、昨日魔王の後ろに控えていた魔王の右腕らしき魔族だった。

銀の美しい髪を後ろに流しながら、唸るように名前を呼んだ魔王にひらひらと手を振る姿は昨日の物静かな様子とは打って変わって軽薄そうに見える。

スティラが立ち上がって礼をしようとするのを手で止めてスタスタと空いていた椅子に近づき座ると、近くの使用人に「僕のぶんも」と短く指示をしてニコリとスティラに笑顔を向けた。

どうやらこの人が来る予定は無かったようだが顔色一つ変えず追加の料理が運ばれてくる。


「食事を始める前に改めて魔領へようこそ聖女様、僕はフィラルド・リンテール、そしてあっちが魔王のディルベント・ローデンスです」


「あ、ご丁寧にどうも……スティラです、家名はございません」


「あぁ、確か最高位の聖女様は平民の出だとか!なるほどそれで……まぁ魔領では地位とかほとんどどうでもいいのでお気になさらず、それこそ王と結婚なさっても文句も出ません」


「おい!」


スティラがペラペラと機嫌良さげに話すフィラルドに目を丸くしていると、魔王…ディルベントがギロリと睨みつける。

当のフィラルドは笑みを崩さずそれを見返していた。スティラだけが内心冷や汗をかきながらそれを見守っていると、はっとしたディルベントが形の良い眉を寄せながらため息を吐いた。

ぐりぐりと米神を指で揉みながらじとりと一度だけフィラルドへ視線を向けたが、眉尻を下げて赤い目がスティラを見る。


「すまない、フィラルドはいつもこの調子でな…」


「今のは貴方の怒鳴り声に怯えたんじゃないですか?」


「まだ言うか…!……んんッ、こほん……その、コイツとは昔馴染みでいつもこの調子なんだ、ただのじゃれあいだと思ってくれ」


「はぁ……」


「……せっかくの食事が冷める、マナーについて咎めることもないから好きに食べてくれ」


はぁ…とため息を吐いたディルベントの姿がすっかり疲れきっているように見えて、スティラはなんとなく憐れに思いつつ二人が食事に手を付けるのを見守ってから自分もフォークを手に取った。

土地が違うので味や食材について心配もあったが、見たことがないものでも口にすればおいしく食べられたことにひっそりと胸をなでおろす。

暫く食事に集中していたが、ペースが落ちてきたあたりでディルベントが口を開いた。僅かに伏せられた赤い目はまつげと前髪の影によってすこしだけ深い色に見え、遠目であるにもかかわらず人を惹きつけるものがある。

先日の様子とは違って見えるのはフィラルドだけではなく、この魔王もあの威圧的で不遜な態度が嘘のようであるとスティラは感じた。


「…何故聖女を欲したのか、その理由から話そう」


「……はい」


佇まいを直したスティラをちらりと見てから、ディルベントも水を一口飲み込むとかるく咳払いをして落ちてきていた横髪を耳に掛ける。その絵画のような姿に、スティラはなんだか見てはいけないようなものを見た気がしてフィラルドを見るふりをしながら目をそらした。

視線の先でフィラルドがニヤニヤしていたのですぐに戻したが。


「まず、魔領や魔の森には、人の体に害となる瘴気がある事は知っているか?」


「はい、聖女として神の力を受けたわたくし達はそれを人の世から払い、清める事を役目としていますね」


「そうだ。その瘴気が過ぎれば魔族にとっても毒になる事は?」


「それは……」


スティラはそんな話を聞いたことがなかった。それを反応から察したらしいディルベントは「やはりな」とわかっていたとばかりに頷いてみせる。

教会では魔族こそが瘴気を撒く存在であると教えられていたため、その瘴気が魔族にも毒になるなど考えられもしていなかった。

聖女であるスティラが瘴気の影響を受ける事はまず無いのでのこのこと魔領までやってきたが、思えば魔領で感じる瘴気は魔の森の比ではなかったかもしれない。


「……おそらく人間の間で伝わっている神の話もこちらと食い違っているのだろうな……、まぁいい、今はその瘴気の話だ」


「わたくしが魔領の瘴気を払えばよいのですか?」


「簡単に言えばそうだな、だが、その……もう一つあってな……」


祖国でやっていた事とほとんど同じなのだと聞いて拍子抜けしていたスティラは、続けてなにやら言い淀むディルベントに小首を傾げた。

ウロウロと天井を右へ左へ行き来する目をみて、天井に何かあるのかと見上げてみたがスティラの目には美しい彫刻の施された天井が見えるだけである。

あーとかうーとか言っているのが魔王なのだが、周りの使用人は目を伏せて沈黙を保っていた。スティラから声をかけるべきか悩んでいれば、痺れを切らしたフィラルドが頬杖をつきながら呆れた目でディルベントを見ながら口を開く。


「こういうのは言い淀めば言い淀むほど言い出しづらいですよ、それに黙っていては拗れる」


「しかし」


「聖女様だってサクッと言ってくれたほうがいいでしょう?」


「えっ、わたくし、ですか?……そうですね、何か困難な役目なのかもしれませんが、元は殺される覚悟すらして参りましたので……ある程度覚悟はしております……」


「待ってください人間から魔族ってそんな悪魔みたいに思われてるんですか?ウケますね」


「ウケてる場合か馬鹿め!殺される覚悟をしてきたとはどういう事なんだ……」


「もちろんタダで殺されるつもりはありませんでしたよ、そうなるようだったら使える中で一番強い魔法をかまして爪痕くらい残すつもりでしたので」


なんで変なところで逞しいのだ……と遠い目になるディルベントとは対象的に、フィラルドは楽しげに目を細める。

いくら神の加護があり魔力の多い聖女とはいえ、魔族の王に一人で敵うわけもない。そしてスティラがそれを分からないほど愚かではないとフィラルドは感じていた。

ただ思い切りが良いだけか、それとも何か別のものか……まぁ今はこちらをある程度信頼してくれているようなので関係ないか……と考えを巡らせる。

そしてそんな考え事を一瞬していたと思わせない笑顔で、サンドイッチを一つ摘みながら口を挟んだ。


「まぁそんな心配いらなかったという事で結果オーライではないですか、大丈夫ですよ痛い思いはしませんから」


「なるほど…?」


「それに聖女様には選択権があります、僕は魔王様…ディルベントを推しておきますがね」


「フィラルド!」


再びギロリと睨みつけた赤い目に「わぁこわい」などと棒読みで良い、フィラルドはサンドイッチを口に詰め込んだ。

フルーツとクリームの挟まれたものらしく、スティラがまだ無いかと視線を巡らせていると、ディルベントに睨まれながら素知らぬ顔でフィラルドが同じものの乗っている皿をスティラの側へ寄せてくれる。

手を伸ばそうとしたスティラだが話が終わっていないことに気づいてふと顔を上げ、射殺さんばかりにフィラルドを睨みつけるディルベントと、ニッコリと笑みを浮かべるフィラルドを交互に見た。


「……選択権、魔王様を推すとは、なんのお話ですか?」


「あぁ、すみませんそこを言ってませんでしたね!聖女様の結婚相手です」


「……はい?」


「いえね、まず魔族の体の造りの説明からになるので詳しいことは省きますが……魔族に人間が祀る神…ルース様の加護を受けた人間、つまり聖女の血を混ぜたいのです」


ぱちぱち、とスティラが瞬きをする視線の先でフィラルドが笑み、視界の端でディルベントが険しい顔をしている。

フィラルドが言うには、魔族が聖女と番うことで瘴気への耐性を高め、後の世にも徐々にその力を継承していきたいらしい。

なるほど、とスティラは自分が死ぬまでの短い期間ただ聖女の力を使うより、血を残すほうが効率的であるな…と頷いた。

聖女の力は血に宿るわけではないが、神の加護は高い確率で子へももたらされる。

スティラの知識では自分を聖女たらしめた神、ルース様は魔族の祀る神イスク様と敵対していると聞いていたが、魔領では違うらしい。そうでなければ敵対している神の血を受け入れたい等と思わないだろう。

暫しスティラが考えているのを二人はそれぞれ真逆の面持ちで見守り、やがてスティラが小さく頷く。


「…わかりました、フィラルド様が魔王様がよろしいとおっしゃるのであれば、それが一番なのではないでしょうか?」


「…いいのか?お前は確か人間の王子と元婚約者なのだろう」


「昨日も言ったとおり、万が一にも婚約者にもどるのは御免です、魔王様と婚約したとなれば国に連れ戻されることもないですし……」


「そういえばそんな事言ってましたね」


「複数人の子を産んで多く血を残せと言われなかったので安心しております」


「そんな悪魔のような事を言うと思われてたんですか??」


まずは聖女様にこちらでの伝承と常識や暮らしを知ってもらう必要がありますね…とフィラルドが初めて遠い目をしたのを見ながら、ディルベントも微妙な顔をする。

スティラはもちろんそんなことを言われていたら特大の攻撃魔法をブチかまして逃げるつもりだったが、そもそも思い描いていた魔族像と随分違うらしいと思い直していたので半分は冗談だ。


「……しかし、聖女にも選択権はもちろんある、良いと思う者がいたら正直に言ってもらえれば悪いようにはせん」


「そうですか……、そういった事はよく分からないのですが、つまり保留ということですか?」


「そうなりますかね、しかしまぁ結婚について前向きに考えていただけて僕としては随分安心しました」


「王子との婚約も政略的なものだったので」


それもそうか、とまた一つサンドイッチをつまんだフィラルドに習いスティラもフルーツサンドをつまむ。

既に馴染み始めたスティラの図太さに微妙な顔をしていたディルベントが小さくため息を吐きながらお茶をいれてもらっているのを見ながら、ふとスティラが顔を上げた。


「ところで、わたくしが魔王様の妻になる場合第何側妃になるのでしょう?」


それとも、立場的に愛人でしょうか?いえ、愛…は無いので妾と言ったほうが?と首を傾げたスティラに、ぴたりと男二人の動きが止まる。

魔王は数百年生きていると聞くし、妻の一人や二人いると思っての発言だったが、使用人までぎしりと身動ぎしたのを感じてスティラは地雷だったかと内心慌てた。

表情はあまり変わらないが焦るスティラの目の前で、まずフィラルドがちらりとディルベントに視線を向けて直後「んぐっ」と笑いを耐える奇妙な声をだしたので、まず魔族にとっての地雷というほどではないと分かりそうなものだが、スティラはディルベントに視線を向けていてフィラルドは見ていなかった。


「……ひとつだけ、ハッキリさせておこう」


「は、はい…」


「人間はどうかしらないが、魔領では地位ある者でも正妻以外を家に迎える事はしない」


「あ、…はい…そうなのですね」


人間でも王家や貴族でなければなかなか許されないことだったので、スティラはなるほど平民に近い結婚への価値観なのだろうとすこしだけほっとする。

しかしディルベントの空気は重々しく、周りの使用人達はチラチラと目配せしているこの状況にスティラはまだ不安を残していた。


「な、ので……」


「はい……」


「……」


「……」


「……」


「……?」


「…、…ッおい!笑うなフィラルド!」


「あはははははッ!僕に当たらないでくださいよ!!」


ぷるぷるとしていたフィラルドについにディルベントが怒鳴り、ガタンと音を立てて立ち上がる。

スティラは急に始まった兄弟喧嘩のような光景に困惑気味だったが、大人しく「お前がいるから!」だとか「僕が居なかったら話進んでなかったじゃないですか」だとか言い合うのを見ていた。どうやら自分が怒らせたわけではないらしい。

しかし、怒りからか僅かに白い肌を赤くしたディルベントを見上げていたスティラの視線とディルベントの視線がかち合い、ぐっと顔を顰めたディルベントがツカツカと扉に向かって早足で遠ざかっていくので慌ててスティラが席を立つ。

流石に城の主が立ち去るのをぼーっと見守るわけにはいかない、という理由だったが、礼を取ろうとする直前にくるりと顔だけ振り向いたディルベントから声がかけられた。


「…っお前が俺を選ぶなら、俺は生涯お前だけを愛するからな!」


「……」


きょとん、と目を丸くしている間にも、ディルベントは使用人があれ程重そうに開いていた扉を自分で軽々と開けて出ていってしまった。

部屋に残されたのは冷静さを取り戻した使用人と、まだ笑いながら今度は野菜を摘んでいるフィラルド、そしてぽかんと立ち尽くすスティラだけ。

昨日から世話になっているメイドに促され座り直すスティラの前にティーカップが置かれて、そこから立ち昇る湯気を眺めながら、ようやく笑いが落ち着いたらしいフィラルドにスティラが僅かに眉尻を下げて顔を向ける。


「あの…」


「ふふ、ふは…っ!…んっんん、失礼……何ですか?」


「生涯愛する、ということでしたけれど…」


「はい」


「……魔領では、夫婦は愛し合わないといけない決まりなのでしょうか……」


魔王様にそのような努力をさせてよいものですか?とスティラが首を傾げる。

分かりにくいが困り顔のスティラのその言葉に、食堂からは再びフィラルドの大きな笑い声が響いたのであった。



あの魔王様はわかりにくいが、昔馴染みのフィラルドには感情の機微がよくわかる。

謁見の間で顔を上げたスティラに数秒見惚れていた事も、ここに置くといったときの僅かに嬉しげに緩んだ顔に言葉をつまらせたことも、魔領で無防備に眠るのを呆れつつ部屋まで運び、何もできずそそくさと自室へ逃げ帰ったことも……

あの堅物が、まさかこの年になって面白いこともあるものだ、とフィラルドは机に突っ伏し痛む腹筋を撫でさすりながら明日からの楽しい日々に思いを馳せた。















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