VR人間性
一発ネタを書いたら予想以上に某作品リスペクトになってしまったので初投稿です
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Another Life。
それは所謂ファンタジー系VRMMOで、謎に時代を先取りした意味のわからん技術力がウリ。というか他にVRMMOなどという物を作り出せるような企業も無いので、事実上シェアを独占している。
欠点は運営がめちゃくちゃ胡散臭いのとヘッドギア型のハードで脳味噌いじられてそうで怖いこと、あと運営がユーザーをゴミカスだと思ってることくらいだ。それでもゲーマーは業が深いので、命を投げ捨てる覚悟でこのゲームに飛び込んでいくユーザーが後を絶たない。
*可能性が芽生えた日
そんなゲームの新鮮な犠牲者がまた一人、この町に降り立つ。平凡そうな青年の姿をしたプレイヤーは、物珍しそうに辺りをキョロキョロと見回していた。
「これが、VRMMO…すごいな、まるで現実にいるみたいだ」
初期スポーン地点である魔法陣のすぐ後ろにある石碑をペタペタと触りながら呟くプレイヤー。その後ろ姿に、声を掛ける者がいた。
「──また、新たな可能性が芽生えた」
「え、誰!?」
突然後ろから声を掛けられ、びっくりしちゃったプレイヤーが振り向く。先程まで誰もいなかった筈のそこに、いつの間にか机と椅子が設置され…椅子には、紫色のローブを着てフードを目深に被った人物が座っていた。
机には水晶玉が置かれている。服装と相まって、その人物は占い師のように見えた。
「あのー…あなたは?」
「可能性は無限だ。何か大きなこと…強大な魔物を打ち倒して英雄となるもよし、新たな技術を開拓して莫大な富を築くもよし。はたまた、気ままに旅や趣味に興じてただこの世界を楽しむもよし…さあ、君は何を望む?」
「え、僕?」
プレイヤーの質問には一切答えず、一方的に語りかける占い師。これがNPCってやつなのかやっぱりリアルだな、と首を傾げるプレイヤーは、これをチュートリアルか何かだと理解したようだ。
「そうだな、僕は…英雄になってみたい!リアルじゃ目立たない僕だけど、このゲームなら何かを起こせそうな気がするんだ!」
「ふむ、なるほど…その道には多くの苦難が待ち受けるだろう。どれ、私が君の未来を占ってしんぜよう」
そう言うと、占い師はカードの束を取り出す。慣れた手つきでシャッフルすると、扇状に広げてプレイヤーに差し出した。
「さあ、この中から一枚選びたまえ」
「は、はい。よーし…これだ!」
意を決してカードを引くプレイヤー。裏返してみると、そこには『毒』と書かれていた。
え、とカモが声を上げると同時に、カードの文字から毒ガスが噴射される!
「うわぁぁぁっ!?」
毒状態となり、苦しそうにするカモ。わかるよ、苦しいよな。なんかやたらリアルな吐き気と眩暈がするもんな。
「おおっと!毒を引いちまったかぁ!可哀想に、お前は英雄の器じゃねえってよ!」
「え?え?なん、これ…え?」
突如として豹変した占い師…俺を見て、混乱したように口をパクパクさせているカモ。おいおいそんなリアクションするなよ、魚みたいで笑うわ。
「ああ、ところで占い料金支払って欲しいんだけどな?やっぱりさー、こっちだって商売でやってるわけじゃん?タダで占ったりするわけにもいかねえんだよな、これが。まあ、お前は始めたばかりの新規さんだし?初回ボーナスとか諸々込みで、五千クレジットでいいからさ」
「え、それ初期資金全額じゃ…」
「あ、払えないとか言うのは無しね?もう占いしちゃったからさ、取引は成立してるんだわ。それで払わないってなるとー…ちょっと痛い目見てもらうことになるかなー」
合図を出すと、石碑の裏に隠れていたチンピラ三人がぞろぞろ出てくる。全員あくどい顔をして、初心者を食い物にする行為に一切の躊躇もないクズばかりだ。毒状態でなおも苦しんでいるカモを取り囲み、これみよがしに武器をチラつかせている。良識の欠片もないゴミ共め。
「ひ、ひぃ…」
「まあこういうわけだからさ、さっさと支払わないと…知っての通り、このゲーム痛覚も再現されてるからね?」
「わ、わかりました!払います!払いますから!助けてください!」
「うーん…あ、俺今ちょっと装備とかアイテムも欲しいんだよねー…ちょうど君が身につけてる初期装備とか、新規プレイヤーに配られるちょっといいポーションとか…」
「わ、わかりました!差し上げます!差し上げますから!!」
モラルもクソもないチンピラ共にすっかり萎縮してしまったカモの身ぐるみを剥ぐと、俺はチンピラ共に合図を出した。
「よし、お前ら──」
「こ、これで助けてくれるんですよね!?い、命だけは!」
「やれ」
「かひゅっ」
哀れ初心者は滅多刺しにされて死んだ。カツアゲが成功して喜んでいるチンピラ共を冷ややかな眼で見つめながら、俺は一番近くにいたチンピラをぶっ殺した。
「がっ!?」
「テメェゾンビ!やっぱ最初から稼ぎ全取りする気だったなコラァ!!」
「あぁ!?誰がゾンビじゃボケカスがァ!!テメーら俺の計画に後乗りしただけだろうがよぉ!!俺に戦利品全部差し出すのが当たり前じゃねえのか、ああーん!?」
「ンだてめっコラァー!すっぞオラー!!」
「お゛お゛ん!?ッてみろやゴルァー!ッだらァー!!」
戦利品を漁る醜いチンピラ共を根気強く説得したが、聞き入れては貰えなかった。温厚で平和主義な俺だが、話してわからないなら仕方ないのでぶっ殺すことにした。
俺は二人にボコされて死んだ。
*復讐の甘い罠
ムカついたので、殺されてアイテムを奪われたことを警備兵に伝えた。丁寧にチンピラ三人の名前と人相、奪われたアイテムの詳細と俺がいかに残虐な手口で殺されたか説明したのでチンピラ共は捕まった。いい気味だ。
「ところで、君と似た人にカツアゲされて殺されたと通報があったんだが。奪われたアイテムも君が言った内容と同じだし、今さっき捕まえた奴等は君と組んでやったと証言している」
そんなことがあったんですか?それは許せませんね、右も左もわからない初心者を騙して恫喝するなんて。しかもあいつら、俺に罪を被せようって?善良な市民である俺がそんなことするわけないじゃないですか。あいつらに奪われた5000クレジットは、俺がコツコツ働いて稼いだ金です。決して人から奪った金なんかじゃありませんよ。
「アイテムを奪われたことは言ったが、5000クレジットなんて誰も言っていないぞ」
俺は自白した。
*改心
「なあ、ゾンビ。心を入れ替えて働こうや。やっぱりな、あんなことやっちゃ駄目なんだよ。また一緒に詐欺と偽造で地道に稼ごうや」
四人一緒の牢獄に入り俺が殺したチンピラにこう言われて、俺は目が覚めた。俺はなんて馬鹿なことをしたんだろう。こいつは俺の自分勝手な欲望で殺されたのに、水に流してまた一緒に働こうと言ってくれている。俺は感動し、思わず溢した。
「誰がゾンビじゃ殺すぞゴミが」
確かに眼の隈がヤバいのは事実だし、眼が死んでるのも事実だ。髪ボサボサなのも事実だし、なんか常にフラフラしてるのも事実だ。しかしそれはあくまでアバターの話であって、決して俺はゾンビではない。
「このゲームのキャラメイクって眼の隈とか死んだ眼とか作れねえだろうが。マジでなんでお前の眼死んでるの?」
知るかボケ。眼の隈も疲労でフラフラしてるのもリアルの健康状態が反映されてんだよ殺すぞ。
「やっぱゾンビじゃねえか」
俺はチンピラをぶっ殺した。
残り二人にボコされて俺は死んだ。
無事に刑期が延び、確かな友情を感じ合った俺達はニッコリ笑って固い握手を交わした。