第6話 信じる心
「さて、じゃあ始めるぞ」
「わかりました。俺は取りあえずパピーに気付かれないような場所に隠れればいいんですね?」
「そうだ。手っ取り早く隠れろよ。パピーが待ちくたびれてやがる」
スタディに急かされて俺は取りあえず、ドラゴンから50mぐらい離れた叢に姿を隠した。
どこから合図の口笛が聞こえた。
バサバサバサという羽をはばかせる音が近づいてきた。
俺にはある考えがあった。
まず、ドラゴンを気配を消して誘きよせて、俺とドラゴンの距離を縮める。
そして、その後に姿を消して、気付かれないようにドラゴンの懐に入り込み、一瞬で鈴をこのナイフで切りおとす。
どうやって、姿を消すか?姿を消すことをこの大陸ではミスティックというが、俺はミスティックの達人だ。もちろん魔法とは違って、特殊能力というものなので、反則にはならないと俺は読んだ。
だいたい、姿を見せたままドラゴンに近づくことは不可能な事だ。スタディはおそらく、俺の能力に気づいたからこそ、俺に能力を使わせるためにこの試合を組んだんだと思う。
ドラゴンと俺の距離はだいぶ縮まった。5mぐらいといったところか・・・もちろん、ドラゴンは姿を消した俺の存在には気づいていない。
俺は足音をたてないようにドラゴンの懐に忍びこんだ。
よし・・・あとはこのナイフで首にかかっている鈴を切り落とせば・・・
あと少し・・・
ガッシャン!
俺は最後の最後でミスを犯した。切り落とした鈴を取り損なってしまったのだった。
ドラゴンが地面に落ちた鈴に気付かないはずはない。
ものすごい叫び声をあげてドラゴンは炎をあたりの草原に吐き散らした。
俺は何とか炎をよけていたが、ミスティックは解けて姿がドラゴンにも見えるようになってしまった。
ドラゴンは怒り狂い、逃げる俺を追いかけてきた。
「パピー、荒れているね・・・」
50m程離れたところで、スタディとベルは静かに戦況を見守っていた。
ベルは心配そうに、スタディは腕組みをしながら。
「ねぇ、お父さん?もし、ベイクが鈴を持ってきて、パピーが無傷ならうちでベイクを雇ってくれるんだよね?」
「ああ、そうだ」
「じゃあ、どっちかが傷ついていたら、どうするの?」
「失格として、城に連れていく」
「そんな・・・だってそんなの無理だよ?! 武器も魔法も使わずにパピーから鈴を奪いとるなんて・・・」
スタディは反論するベルを見て厳しい顔をした。
「ベル、今大事なのは出来るか、出来ないかじゃないってことは分かってるか? 」
「え?」
「大事なのは、どんなに難しいことでも、やるか、やらないかが重要なんだ。
俺は奴の度胸を試して、奴はそれを不平一つ言わないで引き受けた。俺はそれで十分だと思っている」
「ということは・・・」
「ああ、無事に帰ってこれれば合格だ。あとはベル、お前が信じてやれば、奴は必ず戻ってくる」
「信じる心か・・・」