第2話 謁見
俺は深呼吸をして王の間の扉をあけた。
王の間は豪勢なものかと俺は思っていたが、意外と狭く書類が数台と椅子に囲まれた机が一台あるだけだった。
王は椅子に腰を掛けて、本を読んでいた。
「君が新しくグランドールに入ってきたものか・・・」
獅子の姿をしたグランドール王はまるぶち眼鏡に手をやりながら、じっと俺を見つめた。
「はい。そうです。」
普段は敬語なんて使わない俺もこの時ばかりは、威圧感に圧倒され、思わず敬語を使っていた。
「なんで、グランドールに入りたいと思ったんだね?」
「・・・・答えないと駄目ですか?恥ずかしい理由何ですけど」
「ああ、答えない限りにはグランドールに住む許可を与えるわけにはいかん」
「そうですか。俺は大陸の西端にあるマリン帝国の軍人でした。それなりに、頭が良くて、武術にもたけていて、戦いでも多くの功績を挙げてきました」
「ふむ、それで?」
王は興味深げに聞き返した。
「実は最近変な夢を見るんです。俺が戦いで殺して来た人間の家族の夢です。」
「どんな、感じなんだね?夢の中でその親族は悲しみに溢れている?それとも・・・」
「いや、それが・・・無表情なんです。真っ青な顔で口から血を流して、無表情で俺の事を見つめているんです・・・」
「それは怖いな・・・夜なんか一睡もできないのか?」
「はい、俺・・・眠るのが怖くなって・・・」
夢の内容を思い返すで俺は足が震えた。そんな俺を見て、王はがっちりと俺の肩を掴んだ。
「よし、理由はよくわかった!ベイク、君はたぶん度重なる戦いで疲れたんだ。疲れているから、そんな夢を見るんだ」
「疲れているからか・・・」
「そう。だから、暫くここで疲れを癒すといい。君がグランドールで暮らすことを許可しよう」
グランドール王はにっこりと微笑んだ。
「はい、ありがとうございます!」
俺はグランドール王にお礼を言って王の間を出た。
グランドール王が獣人だということは聞いていたが、こんなに親身になって俺のことを考えてくれるとは思っていなかった。
それは驚いたことだが、素直に嬉しかった。
城の外に出ると、さっきの衛兵が駆けよってきた。
「どうだった、青年。うまくいったか?」
「ああ、おかげさまで」
「ああ、そうか。それはよかった、ここに住んでいる人はみんな、いい人ばかりだ。戦いなんか、忘れて安心してくらせ」
「ひとつ聞いてもいいか?」
「ん?何か質問か?」
「住民戸籍をもらったあとは一体どうすればいいんだ?」
俺の言葉を聞いた衛兵はああ、なるほどなと手を叩いた。
「そうか!君はここに来るのははじめてか!なら知らないのも無理はない」
衛兵ははるか遠くに見える家や店を指さした。
「その住民戸籍を見せて、ここに泊めてくれとか、働かせてくれと言えば、店側の泊められる人数に空きがあれば、OKだ。」
「断られることはないのか?」
「そりゃ、断られることもあるさ。でも愛想よく振る舞えば、たいていは検討してくれるさ」
「わかった、ありがとう!」
俺は身軽な衛兵にお礼を言ってある場所に向かっていた。
それは俺がグランドールに来て初めて話した、町娘ベルのいる居酒屋だった。