1話 隔離世界グランドール
もう戦いは嫌だ・・・はっきり言って飽きた・・・死にたくない・・・
そう思った俺は戦いを捨てて、有名な国に足を運んだ。
グランドール王国、この国では戦いをしなくてもいいらしい。権力争い、強奪、喧嘩。やましいことが一つも起きない夢のような国らしい。
グランドール王国の住民になるにはいくつか条件がある。
一つは絶対に盗みを起こさない。
嘘をついてはいけない。
そして、最後グランドール国王に逆らってはいけない。
これが絶対条件。
「あなたは・・・この条件を守ると約束しますか?」
衛兵に聞かれた俺は彼の質問に答えた。
「ああ、約束する」
この国に来たからには全てを捨てなくてはならない・・・家族も友人も地位も金も・・・
そのかわりにグランドール王国での新しい生活が始まる。
グランドール王国は大陸の一番端にあるいわば、隔離世界だ。
武器を持たず、与えられた土地で静かにだが、幸せに住民たちは暮らしている。
「戦い」がないのだから・・・
もちろん、他国を干渉したりもしない。そのかわり、繁栄については外界から隔離されているため、自分達の責任だ。
働いて繁栄するのも、働かずに自滅したとしても、他の国は手助けしない。
そんな、隔離世界グランドールに今、一歩俺は足を踏み入れた。
「貴方は誰?」
グランドールに入って最初に喋ったのは、決して幼くはないが、顔にまだ幼さを残した15、16ぐらいの少女だった。
「・・・ベイク」
一言いって、俺は少女から目を反らした。
眩しい・・・少女の無邪気な笑顔は何人もの命を奪い、絶望の底までおいやられた俺には明るいどころか眩しかった。
「うん、ベイクね!ベイクは今グランドールについたばかりよね?」
「ああ、そうだ・・・」
「じゃあ、国王の所に行って住民戸籍を貰いにいかないとね!国王の所に行ってここに住みたい理由を言うの!そしたら住民戸籍は貰えるから・・・」
「あの・・・?」
「ん、何?どうしたの?」
「できれば・・・君の名前を教えてくれないか・・・」
「あ、ごめん!自己紹介がまだだったね!私はベル!城の近くの居酒屋の看板娘をやってるわ!よろしくね!」
そういうと、ベルは右手を差し出してきた。
俺は左手でベルの右手を握った。暖かい・・・もちろん夏だからじゃない・・・
「私は、居酒屋に何時でもいるから会いたくなったらいつでも来てね!」
そう微笑んで、ベルは城の見える方へとかけていった。
「さて、俺も行くか・・・」
俺はベルが走っていった道と同じ道を歩いた。
歩いていくと、確かに城の近くにはベルの言っていた居酒屋があった。
ここでベルは看板娘として働いているのか・・・たまにはよってみてもいいかな・・・
そう思いつつ俺は城の前に立った。城の前にいる衛兵はもちろん武器も持っていなければ、鎧も着ていない。
「ここに何の用だい?青年。」
衛兵は初対面の俺に優しく話かけてきた。
俺は衛兵の態度に少し戸惑いながらも・・・
「住民戸籍を貰いにきました。グランドールにきて始めにやることは住民戸籍を貰うことだと聞いたので」
と素直に答えた。
「そうか・・・なら入っていいよ、ただし王の前では失礼な態度はとらないようにね?後は自由だ。」
衛兵というのは他の国では硬い鎧に身を固めて、無愛想なイメージが俺の中ではあったので、拍子抜けしてしまった。
俺はにこやかな顔をしている衛兵に
「どうも」と一礼し城の中に入った。
城の中には、警備の格好をしたような者はいなく、まるでレストランの従業員のように人々が忙しく行き来していた。
「あ、はいはいはい。グランドール城に御用ですか?」
と黒いタスキードに身を包んだ髭をはやした男が俺の前に立った。
「今日はじめてグランドールに来たベイクという。ここで住民戸籍を貰う必要があると聞いたんだが」
「ああ、王に謁見されたいと・・・ならば私についてきて下さい。私は王の側近のドスと申します。以後お見知りおきを」
「あ、ああ。よろしく」
「あと、分かっているとは思いますが、王は気高き獣人。王の言うことは絶対です。もし王に逆らうようなことがあれば・・・グランドールからつまみ出しますいいですね」
ドスの顔は笑ってはいたが嫌とは言わせない独特な雰囲気を身に纏っていた。
「では、私について来てください」
俺はドスの後についていき、王の間の前まで来た。
「あとは、ご自分で・・・」
そういうとドスは今来た道を引き返して行った。
ドスの姿が消えるのを確認した後、俺は深呼吸をして扉を開いた。