異世界転生なんてもう2度としない!
拝啓
お父様 お母様
先立つ不幸をお許しください。
私は今悪魔じみた非人道的な悪徳商法に騙されて
ほぼ丸腰で異世界にいます。
目が覚めるとそこは一人の女性とその女性が座っていた椅子以外なんにもない空間。その空間に俺はぽつりと座っていた。俺の本能が告げている。俺は死んだのだ。と。しかし何故死んだんだ?……駄目だ。どうしても思い出せない。俺が悩んでいると。
「残念ながら貴方はお亡くなりになられました。」
そう真実を告げてきた女性は美しい白銀のロングヘアーに全て見透してしまいそうな透き通る目を持ち。スタイルも良く女性としては身長は高め。170はあるだろう。正直言って好みだ。そんなことを考えているとクスリと彼女は笑い。
「すみませんがその期待には答えられそうにはありませんね。」
……本当に見透されてしまった。かなり恥ずかしい。俺が顔を赤く染めているのをお構い無しに彼女は話を進める。
「今何故この状況になっているのかの全てを説明しましょう。まず。私の名前はリアム。運命を司る女神です。そして貴方の死因は、、、餅です。」
…………今なんていった?餅?餅って言ったか?
「貴方は餅をのどに詰まらせて呼吸できずに窒息死です。」
女神様が肩を震わせ笑いを堪えながら俺に言ってくれた。俺そんな年よりの死因Top3に入るような死に方したって言うのか?!俺まだ10代なのに!ていうか何で今餅食った俺?!今7月だぞ!俺は疑問と痴態に挟まれ冷静な判断が出来なくなっていた。いや。むしろ一周回って落ち着き始めた。。。のかな?女神様に話しかける。
「女神様?俺はこれからどうなるのでしょうか?やっぱり赤子からですか?」そう聞くと女神様は震える肩を落ち着かせ女神の風格を醸し出しながら俺に向かって話す。
「いえ。今から貴方には2つの選択肢を与えます。1つは貴方が今さっき申し上げたこの世界で生まれ変わるという選択肢。」
……この不思議空間に女神と名乗る女性。そして今の発言のこの世界。つまり別の世界があるってことを意味してる。つまりこのあとの台詞は……
「そして、もう1つの選択肢は今現在の姿で異世界に行くという選択肢です!」
やっぱり!そう思った俺は自然と小さくだがガッツポーズをしていた。異世界転生なんて全漫画好きなら喜ばないわけのないお誘いだろう。俺の心はもう9割方決めていた。
「今異世界では魔王軍の軍勢と人間軍の均衡が少しずつ傾き始めています。なのでこちらの世界からむこうの世界に引抜きをしようというわけです。それに赤子からやり直すと記憶がリセットされて貴方という存在が完全に消え去ります。しかし、異世界転生なら!貴方が前世でやり残したことのほとんど全てを叶えることが出来ます!」9割だった自分の意思が10割になった。そうなってしまうと考えるなど出来ないらしい。俺はこのときなにも考えないで返事をしてしまった。"異世界にいきます!"……と。
その言葉を聞いた女神様は急に笑顔になり、
「その言葉を待っていました!では今から貴方を異世界に送ります。貴方のご活躍とご無事を心より願ってます!」そう女神様が言うと俺の回りを暖かな光が包む。異世界送りの準備が始まったのだろう。異世界よ!今すぐ行くからな!
……俺はふと気づいた。
「そういえば女神様?何か武器をくれたりとかしないんですか?良くあるじゃないですか?どんな敵をも薙ぎ倒すチート級の剣とか死体でも蘇らせられる賢者の杖とか。。。」
結界の中で俺が言った言葉を聞くと女神様は急に目を反らした。
………急に嫌な予感がしてきた。するとさっきまでの女神様の笑顔と元気は何処へ行ったんだと聞きたいくらい俺にギリギリ聞こえる位の小さな声でごそりと呟く。
「……実はですね、最近起きたある事件のせいで急に異世界行きを望む人が増えたんですよ。。。で、そんな人たちにポンポンと神器を配ってしまったら。。。予備ストックの神器も神器を作る資金も底をついてしまいまして。。。」
俺は急に異世界行きが怖くなった。
「これから異世界に行く人は最低限のEを配布して行ってもらうと言うことに天界会議で」
俺は女神様が言い終わるまでに人生で一番キレていた。
「おいいいいい!!ふっざけんなよ!今最低限っつたな今!ろくなアイテムも金も無しでどうやってむこうの世界で過ごせってんだよ!あれだよ?!俺普通の人だよ!特殊能力も何ももたない奴が行ったってすぐ死ぬだけだろ!やめだやめ!異世界行きなんか止めた!もう俺の存在なんて終わっていいから赤子からやり直す!」そう思った俺は結界から出ようとする。しかし何故か出られない。何か見えない電撃のようなもので触れることすら出来ない。
「一度結界が発動すれば中の人は解界呪文を使わないと絶対に出られません。そういうもんなんです。」
女神様。いや。この詐欺師は。。。
「仕方ありません。ええ仕方がありません!これは貴方の運命だったのです!仕方ありませんが特別に少しだけ私の加護を差し上げましょう!有り難く思いなさい!女神の加護を貰えるなんて神器を頂くよりも光栄なことなんです!」
このくそったれが!
「おいお前!特別にとか言ってるけど半強制的に異世界へ送ろうとしたってことがばれたらお前の上司から文句喰らうんだろ!?わかってんだよ!俺も同じような状況に遭遇したこともあるんだからな!だから!早く俺をここから出してくれよ!」
「…………ない」
「?今なんつった?」
「解界魔法覚えてない」
「っ……!!」
言葉にならない怒りがこみ上げてきた。だんだん詠唱が早くなってくる。マズイマズイマズイマズイ。このままじゃあマジで能無し人間が異世界にいっちまう。。。
「っっ取りあえずだその詠唱を止めろ!それさえやめれば俺の異世界転送はないはずだ!だから一旦待って、お前の知り合いの解界魔法を使えるやつをつれてこい!それまで待ってやるから!なっなっ。」
「………ネーション」
「おいっちょっとまてお前!はやまるな!」
「アザーワールド・リンカーネーション!」
リアムがそう唱えると今まで俺の体を囲っていた光は輝きを増し、足下の結界陣は慌ただしく回り始める。これははじめての俺でも分かる!確実に異世界行きへの準備が整ったみたいだ!
「おい!せめて!せめて加護の内容だけでも!それだけでいいからくわし」
俺の記憶は…………ここで途切れた。
そして今。全く見たことのない景色の中。俺は立ち尽くしていた。