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怪物討伐の一歩

ノンビリゆっくり更新されていくかもしれません。

4人が訪れたエスターの王国は昔とそれほど変わっておらず王城を中心として町が広がり、城壁が取り囲んでいた。


町の家々はやはり何処か違う姿になっていたが、それは屋根の色や壁の色、出窓のカタチなどでさほど気にするほどの変化ではなかった。


城門を潜り、アーサーは段々になっている家並みの向こうにある城を見つめ

「懐かしいな」

と呟いた。


イサミも横に立ち目を細めると

「そうだね」

と答え、彼を見ると

「ここは、ずっとアーサーの故郷で僕の故郷でもあるよ」

と告げた。


「アルフレッドさんやアンソニーさん、そして、アーサーがくれた僕の故郷だよ」


アーサーは少し驚いた様子でイサミを見たものの、その言葉が嬉しく微笑みを浮かべると

「ああ、そうだな」

ここはずっと俺とイサミの故郷だな

と答え、足を進めた。


「陽も暮れてきたし、宿を探さないとな」


イサミは頷き後ろで立って町をやはり眺めていたルーシェルとラルフに目を向けた。

「ルーシェルさんとラルフさんも一緒の宿でいいですよね」


ルーシェルは「ああ」と短く返し、ラルフが「それで結構だ」と答えた。


アーサーは昔の記憶を辿り少し上り坂になっている道を進んだ。

「確か、少し先に前に宿屋があったんだが」


あれから千年以上経っている。

今もあるかどうかは分からない。


アーサー自身本来ならばエスター王国の第三王子であり、千年前なら王城へ普通に出入りで来ていた。

が、今は世代も変わりアーサーを知っている王家の人間もいない。


なので、故郷であるエスターへ戻っても宿で泊まるしか方法はなかった。


4人は坂を上ると四辻目を曲がって洒落た入口の建物を見た。

そこには宿屋の看板が掲げられておりイサミはそれを指差すと

「宿屋あったね」

と告げた。


アーサーは頷くと

「ああ、店の場所は変わっていなかったな」

と答え、扉を押し開けると中の受付で立っていた若女将を見た。


「3部屋空いているか?」


それに若女将は笑顔で

「はい!大丈夫ですよ」

と答え

「お代は先払いでお願いしますね」

と告げた。


「お一人さま5金貨ですよ」

アーサーはカバンの中から20金貨を取り出すと彼女の前の台に置いた。


彼女はそれを受け取り受付から出ると

「こちらへ」

と足を進めた。


5金貨は高くはない。

大体どの国の宿も同じである。


イサミはカバンをちらりと見て

「お金は変わってないんだ」

と小さくつぶやいた。


鞄の中にはサイフがあり、金貨がその中に溜まっている。

クエストの報酬。

怪物を倒した時に手に入るドロップ品の売買。


地球のいさみが自分を使って冒険を始めた当初は装備品を揃えたり、それこそ体力回復やMP回復のためのアイテムを購入したりといつも金貨がなかった。


だが、レベルが上昇していくうちに装備も整い、回復の呪文を手に入れてそれほどアイテムを消費することはなくなり、金貨は始めとは反対に溜まっていくようになった。


冒険の終りにはそれこそ大富豪並みの金貨が溜まっていた。

今も、必要な時にはそれなりの金貨を用意はできる。


イサミは若女将が案内するのに合わせて三人と共に部屋へと向かいながら

「…ずっとアーサーに甘えっぱなしだけど」

いいのかな

と心で呟いた。


そして、それぞれの部屋に入り、イサミはアーサーと同じ部屋で椅子に座ると

「アーサー、僕…ちゃんと金貨持ってるから」

必要な時は言ってね

と告げた。


アーサーはそれにふっと笑うと

「ああ、イサミの財布は大事の時のために取っている」

だから

「その時は頼むな」

と答えた。


イサミは頷き

「うん!任せておいて」

と答え、笑みを見せた。


アーサーは椅子に座って外を見ているイサミの横顔を目に、初めてあった時の彼を思い出していた。


光の中で眠っていた冒険者の傀儡。

正直、綺麗だと思った。


そして色々なことを経て、今更ながらイサミは変化しているのだと感じた。


「その変化も悪くないけどな」

と、アーサーは優しく見つめ心で呟いた。


その時、イサミはアーサーの方へ向くと

「そうだ」

あのね、アーサー

そう言い

「もしかしたら僕が冒険者だった頃に倉庫に預けていた荷物が城の中にあるかもしれないんだけど…思い当たる場所ある?」

開かずの間とか、謂れのある倉庫とか…

と問いかけた。


アーサーは軽く首を傾げて考えながら

「んー、俺の頃…でもいいんだな?」

と返した。


イサミは頷くと

「はい」

と答えた。


アルバートの言葉や始まりの村が存在していたことからアーサーの生まれるずっと前のエスター創建の頃だろうとイサミの中で確信があった。


なので、もしあの出来事が夢でも幻でもなかったならば、アーサーの時には既に荷物はあったことになる。


アーサーはイサミの視線を受けて記憶を探ると

「思いつくところはねーな」

ただ

「初代の王の部屋の鍵が代々王になると引き継がれるらしいけど…それはアルフレッド兄貴しか入れないし謂れも兄貴しか知らないからな」

とぼやいた。


「俺は王位を継がなかったから鍵も謂れも聞いたことはない」


イサミはコクコク頷き

「そうか」

と呟いた。


そして、アーサーを見ると

「その初代の王様の名前知っている?」

と問いかけた。


アーサーは苦く笑うと

「当り前だろ?」

一応王家の人間だったんだからな

と言い、イサミが「あわ、ごめん」と言うのに肩を竦め

「アルバート王だ」

と言っても話でも放浪癖があったらしくて

「弟のラインハルト王子が実際は執政を行っていたらしいけどな」

と告げた。


イサミは両手を合わせると

「やっぱり」

アルバートさんがエスターの初代の王様だったんだ

と言ったものの

「んー、けどその初代の王様の部屋に入りたいって言っても…だめだよね」

と天を仰いだ。


アーサーも腕を組むと

「今の俺では伝手が無いからな」

と答えた。


『千年以上前の王子だった』と言って乗り込んでも嘲笑を受けて放り出されるのが関の山である。


イサミは息を吐きだすと

「う~ん、機会があるまであきらめるしかないかな」

と呟き、立ち上がると

「ごめんね、アーサー」

気を遣わせちゃって

と言い

「寝よう、それでこれからどうするかルーシェルさんやラルフさんとお話しないと」

と告げた。


アーサーは首を振ると

「いや、俺こそ力になれなくて悪いな」

と答え、イサミと共にベッドへと身体を預けた。


周囲には夜の帳が降り、ポロポロと灯る家々の明かりと小さなざわめきだけが町を包み込んでいた。


翌朝、イサミとアーサーは目を覚ますとルーシェルとラルフの二人と合流し今後の話をしようと宿屋の食堂へと姿を見せた。


そこに一人の人物が4人を待っていたのである。


第一章 エスターの王


両側に二人の兵士を連れたその人物は先に席についていたルーシェルとラルフの正面に座り、食堂の中へと足を踏み入れたイサミとアーサーに目を向けた。


そして、立ち上がると

「今、こちらのお二人に話を聞こうとしていたのだが」

後でくる貴方がたに話をするようにと言われ

「お待ちしておりました」

と告げた。


「俺はエスター王国の第二王子エリアル」

この話は貴方がただけではなく

「ここ最近、外から訪れている人々にお聞きしていることなので警戒しないでいただきたい」


それにアーサーは腕を組むと

「なるほど」

それで?

「何かあったのか?」

と問いかけた。


それに兵士の二人がピクリと動いた。

王子に対する態度ではなかったからである。


いわゆる、無礼…という事だ。

が、イサミもまた

「うんうん」

何かあったの?

と問いかけた。


それにルーシェルはハハッと笑い、ラルフはフムッと腕を組んだ。

二人は一応完全なる部外者の上に天の国と地下の国の違いはあっても上層部の存在だ。


礼儀と言うモノを知っている。

アーサーも本来ならば知っているのだが、いわゆる自国でついついと言うことだ。


イサミは冒険者の傀儡である。

そう言う意味では一番礼儀を知らない。


エリアルは二人の無礼を静かな笑みで流すと

「旅をしているとお聞きしたが」

ここ最近でコーリコスへ出向かれたことはあるだろうか?

と問いかけた。


ルーシェルとラルフ、そして、アーサーは心で「あー」と声を零した。

イサミはこくんと頷くと

「はい」

此処の前はコーリコスにいたから

とスパンと答えた。


「「「…」」」

三人は同時にイサミを見た。


エリアルは三人の表情を一瞬で読み取り一番裏表が無さすぎるイサミを見ると

「そうですか」

と微笑むと

「ではコーリコスの様子をお聞きしたい」

と告げた。


イサミは頷き

「はい」

と答えかけた。


瞬間にアーサーが口をふさぐと

「それはエスターの王子の方が知っていると思うが?」

と返した。


エリアルは腕を組むと

「なるほど」

それはつまりコーリコスの内情をある程度知っているという事ですね

とアーサーを見た。


「良ければ王城へ来て話をしたい」

お互いに隠し事なく


ルーシェルは高みの見物を決めるとアーサーの顔を見た。

ラルフもどちらかと言うと我関せずという感じで優雅に紅茶を口に運んでいた。


つまり二人は完全なる部外者を決めていたのである。


アーサーはイサミを見下ろすと

「…んー」

と悩んだものの、エリアルの連れている兵士の様子とイサミの荷物のことを思い出すと

「わかった」

行こうか

と答えた。


イサミはアーサーの顔を見上げ、軽く首を傾げた。

何故アーサーがコーリコスの話に慎重なのかが分からなかったのである。


エリアルはエスターの王子である。

ある程度だがコーリコスの事情は知っているとイサミは考えていた。


その上での話なのだろうと推測していたのである。

コーリコスや他の国からの情報でなく…旅人の生の声の方が信頼できると判断しているのだろうと思ったからである。


イサミはエリアルと共にアーサーやルーシェル、ラルフの後に付いて歩きながらハッと我に返った。

「はっ!」

と驚きの表情を浮かべると

「…あの後、どうなったのかな」

とヒタリと汗を浮かべた。


そうだ。

自分のコーリコスでの記憶はあの大砲に打たれた所で途切れている。


「もしも、あの後凄いことになってたら…僕…」


アーサーは背後で蒼褪めているイサミを見て軽く笑むと彼の背に腕を回した。

「後でゆっくり話してやる」

俺も言うのを忘れてたな

「だが、あいつらやランスロットたちのお陰で大事にはならなかった」

安心しろ


イサミはそれに顔を上げると笑みを浮かべ

「ありがとう、アーサー」

と告げると

「ごめんね」

と小さな声で告げた。


アーサーは軽く「気にするな」と言うと、宿屋を出て見えてきた懐かしい王城を前に目を細めた。


懐かしい。

懐かしい。

生まれ育った場所だ。


イサミはアーサーの顔を見て微笑み手を握りしめた。


ルーシェルやラルフは二人の後ろに付いて歩きながら軽く互いに肩を竦めた。

神族も魔族も寿命が長い。

いや、千年二千年どころではない。


長寿の部類に入るラルフなど始原に近い時から生きている。

いわゆるイサミよりも長く生きているのだ。


ルーシェルにしてもほぼほぼイサミと同年代だ。

それでも旧世界と呼ばれる遥か時間の彼方から生きている。


それでもアーサーやイサミのように時の移ろいによる孤独を感じないのは天の国と地下の国では変化が乏しいからである。


魔王は魔王。

天王は天王。

他の顔ぶれの変化も殆どない。


生活も。

風景も。

全てがそうだからである。


つまり、良くも悪くも時がほぼほぼ止まっている状態なのだ。


4人はエリアルに案内されて城へと入り、広々とした客間へと通された。

天井の高い廊下に重厚な扉。

そして、部屋を彩る王族が持つにふさわしい調度品の数々。


アーサーはソファに座り正面に腰を下ろしたエリアルに唇を開いた。

「それで何を聞きたいんだ?」


それにエリアルはメイドが運んできた紅茶を一口飲み

「コーリコスが数年前から近日まで閉鎖状態にあった事は知っておられると思っている」

と言い

「それが数日前に閉鎖を解除し我がエスターのみならず他国にも親書を送ってきた」

特に我がエスターには王家専属の伝説の魔導士のことが記載されていた

「近日内にコーリコスへ行かれたということなら…もしかしたら伝説の魔導士の噂などを聞いておられないかと思って」

と告げた。


「それと知っておられる範囲で構わないが、近日のコーリコスで何があったのかを」


アーサーは腕を組みチラリとイサミを見た。

彼の言っている伝説の魔導士は隣で紅茶を啜っているイサミだ。


それは千年以上前に自分が決めて永久的に専属魔導士とすることを兄のアルフレッドが決めた。

恐らくこの状況からその取り決めを今まで変更しようとする王族は現れなかったらしい。


イサミは紅茶を置くとエリアルを見て

「あの」

と言うと

「その千年以上前の王家専属の魔導士を変更しようとは思わなかったの?」

と「されてると寂しいけど」とポソリとぼやきつつ問いかけた。


エリアルはそれに静かに笑むと

「それは俺にも分からない」

と答え「ただ」と言うと

「一つには我が国は小国であるゆえに王家専属とするほどの魔導士をスカウトできなかったということ」

それに多少の怪物の出現はあったが王家専属の魔導士を必要とするほどの強靭な怪物が出現しなかったこと

「最後にどの王も伝説となる魔導士殿との縁を切りたくなかったと俺は思っている」

と告げた。


「ま、その魔導士殿が実は遥か昔に死んでいたとしても必要に迫られない限り変更はしないだろうな」


…。

…。

…。


確かに、とルーシェルとラルフとアーサーは同時に思った。

もちろん、遥か昔に死んでおらず彼の目の前で紅茶を飲んではいるのだが。


イサミはにっこり笑うと

「良かった」

と小さく呟き、エリアルに向くと

「コーリコスが閉鎖状態にあった理由が王族の人が魔導士長に囚われていたことは知っていたんですよね?」

その理由が怪物の封印を解いて核を手に入れるためというのも

と告げた。


「知っていること話してくれるお約束だったんですよね?」

それで何が知りたいんですか?

「その伝説の魔導士の行方ですか?」


アーサーはイサミとエリアルを交互に見た。

駆け引きのないのがイサミの冒険者らしいところだ。


冒険者は背後に国や何かを背負っている訳ではない。

もちろん何をしても良いと言うわけではないが、この世界で一番自由な存在と言えば言えるかもしれない。


エリアルは腕を組み

「一つはそれもある」

ただ親書を送ってきたコーリコスを本当に信じてよいのかどうかということもある

と告げた。


「王族からであったがコーリコスの魔導士長の反乱が本当に落ち着いて安全なのかどうか」

そこが一番知りたいところだ

「伝説の魔導士の話が書かれていたので信用しにくい事であるから」

旅人なら親書よりは信用できると思ってお聞きした


アーサーは内心「そっちで疑われているのか」と突っ込みつつ

「信じて良いと思うぜ」

と答えた。


「魔導士長は兵器に利用していた怪物が復活してその怪物に倒された」

それを俺は見ていたから間違いない

「伝説の魔導士は、まあ確かにいた」


もしかしたら

「エスターに人知れず帰ってきていたりするのかもしれないが、な」


イサミは頷き

「うんうん」

でももう伝説の魔導士っていうのやめた方がいいよ

「伝説になるほどのことしてないし」

と答えた。


…。

…。

…。


アーサーはイサミを見ると

「じゃあ、イサミの伝説のってつくのはどういう事をしたらだ?」

と問いかけた。


イサミは顔を顰め

「うーーーーん」

と言うと

「やっぱり、世界を壊そうとする怪物を倒すとかかな」

そう言うの伝説の勇者っていうしシナリオでもあったよ

と答えた。



アーサーはそこが冒険者のわからないところだなと思いつつ

「そうか」

と受け流した。


同じようなことをしている気はするが、それはイサミの中では冒険と言うくくりで伝説になることではないらしい。


ルーシェルはぶっと噴き出しかけ

「俺には冒険者の傀儡を理解するのは一生無理だな」

とぼやいた。


ラルフは冷静に

「伝説とは原因理由ではなく語り継がれるかどうかだと思うが」

と解説した。


エリアルは4人それぞれを見て顔を顰め

「…まあ、参考にはしておく」

しかし

「兄のエーテル王は伝説の魔導士に夢を持っているからな」

というか

「代々の王は伝説の魔導士の話を幼い頃から伝え聞いて夢を持っている」

だから俺も信じる、それだけだ

「その伝説の魔導士と共に国を旅立ったアーサー王子の話と共に聞くからな」

と告げた。


アーサーは額に汗を浮かべ

「…まあ、その伝説の話は良いとして」

コーリコスは近いうちに完全に正常に戻るだろう

「最も、魔導国家にもどるかは分からないが」

共に捕まっていた本来の魔導士長は魔導士長としての役目を理解していたと俺には見受けられたが

と告げた。


エリアルはそれに

「わかった」

大切な情報をすまない

と言い

「礼を」

と言いかけた。


それにアーサーはふっとイサミの言っていた言葉を思い出し

「なら、この城の王だけが代々引き継ぐ部屋にあるモノの情報だけもらいたい」

と告げた。


「あー、そうだな」

そこに

と言いかけ、イサミを見た。


イサミはぱぁと目を輝かせると

「サンタクロースの服!ありませんか!?」

と告げた。


それにアーサーもルーシェルもラルフもエリアルもイサミを凝視した。


サンタクロースの服?どんなのだ?である。

イサミは凄い形相で注目され

「え?」

と言うと

「大きな襟があって、全体は赤色のもこもこで、裾や襟裾は白いもこもこした服なんだけど」

とボディランゲージを加えて説明した。


冒険者の間では『サンタクロースの服』というと万国共通なのだが、この世界では共通ではないらしいというのがイサミの中で理解されたのである。


特徴があるモノでないとあったとしても分からないかもしれないとの配慮だったが見事に裏面に出たようであった。


イサミは腕を組んで唸りながら

「後は、紫水晶の剣かなぁ…説明しやすくてわかりやすいっていうと」

と言い

「紫水晶の剣はエクスカリバーと一緒で両手剣なんだけど刃が紫水晶で出来ていて凄く綺麗なんだ」

とニコニコしながら告げた。


「魔防が高くて魔法攻撃を仕掛けてくる怪物には良いよ」


アーサーは「なるほど」と言い

「けど、イサミが使っていたのか?」

と問いかけた。


イサミは魔導士だ。

確かに最新の魔法で杖を剣にして戦っているのを見たが、本当の剣を手にして戦っているのを見たことはない。

それに魔法一辺倒だと自らも言っていたような気がする。


イサミは頷くと

「ううん、僕は使わないよ」

と答え

「剣とか物防とか直接攻撃に対して高い防御を持つ装備品とかはなおくんのだよ」

僕となおくんはバディシステムで共通倉庫を使っていたんだ

と告げた。


「いい装備品とか剣があったからアーサーも使えると思って」

アーサーはなおくんのお古は余り良くない?


アーサーはふっと笑うと

「いや、使わせてもらう」

と答え、ふっと天井を見上げると

「見つかればな」

と冷静に答えた。


そう、見つからなければやはり結局倉庫の荷物は時の彼方に消えたことになる。


エリアルはアーサーとイサミを胡散臭そうに見つつ

「…そのサンタクロースの服と紫水晶の剣だな」

兄に聞いてみるが

「後でお前たちの正体を喋ってもらう」

と立ち上がると部屋を後にした。


ルーシェルは腕を組み

「そりゃあ、怪しむだろうぜ」

お前らに偵察や諜報は無理だな

「特にイサミ、お前はな」

とチラリと見た。


イサミはしょんもり頷き

「はい、僕もそう思ってた」

と答えた。


ラルフはふっと笑うと

「だが、イサミは冒険者の傀儡だ」

それでいいとは思うが

と告げた。


4人が客間でそんな話をしている頃。

エリアルは兄であり王であるエーテルのいる玉座の間へと姿を見せていた。


約束は約束である。

己には入ることが許されない建国の祖であるアルバート王の部屋にある荷物のことを聞くべく訪れたのである。


■■■


エスター王国の建国者はアルバート王であった。

元々は地殻変動の際に国を失った民を彼が住める土地を見つけ誘導したのである。


いわゆる国替えに近いモノであった。

ただ、その地に城や町を築いたのは間違いなくアルバート王であり、建国の王であることに違いなかった。


城の中に長い時の中で代々引き継ぐようにアルバート王がしたのが自室の部屋であった。

王になる者だけが解放でき、その際に必ず伝えられていた言葉があった。


『この部屋に置かれた箱は預かりものである。必ず取りに来る者がいるので丁重に渡すように』


エスター王国の現王であるエーテルは一つ息を吐きだすとアルバート王の部屋を開け

「…紫水晶の両手剣にサンタクロースの服という鎧か」

この箱の中にそれらのものがあれば

「数千年前の王が言っていた人物となるが…まさか」


…人が数千年も生きていれるわけがない…


「だが」

もしも彼らがあの方たちだったならば有り得るのかもしれない


エーテル王は部屋の中にぽつんと置かれた箱を前に固唾を飲み込んでその蓋のカギを開けた。

それですらアルバート王以降初めてのことになる。


そして、その箱の中には多くの武器や杖、そして装備品の数々が入れられていたのである。


エーテル王はその中の物の一部を目に息を吐きだし、その部屋の壁に掲げられた一枚の色褪せた絵を見た。


第二章 伝説の魔導士


エリアルは玉座の間で兄王が戻るのを待ち、隣の部屋にあたるアルバート王の扉が開くと固唾を飲み込んだ。


エーテル王は鍵を閉めて一つ息を吐きだすと

「エリアル、お客人たちを玉座の間にお招きしてくれ」

と言うと玉座に座った。


彼の手には何もなかった。

エリアルはあったのか、なかったのか、推しはかる術はなかったがとにかく兄王の言う通りにイサミやアーサー達を呼びに戻り、玉座の間へと案内した。


名前は玉座の間だが実際には王との謁見の部屋となる。

エスター王国では最重要な部屋である。


アーサーはエリアルの後について玉座の間に入り正面の椅子に座る王を見た。


エーテル王はアーサーとイサミとルーシェルとラルフがエリアルと共に正面に立つと玉座の間から降り立ち静かに笑みを浮かべた。


そして、二人の前で膝をつくと

「良くお戻りいただきました」

エスター王国の伝説の王子アーサー様

「そして、伝説の我がエスター王族付き魔導士イサミ殿」

と頭を下げた。


「確かにアルバート王が残した預かりものと言われている箱の中に紫水晶の大剣と赤地のサンタクロースの服がございました」


イサミは安堵の息を吐きだすと

「良かった」

アルバートさんちゃんと残しておいてくれたんだ

と笑みを浮かべた。


アーサーはイサミに

「良かったな」

と言い、エーテル王の前に屈むと

「エーテル王、いま君が王だから立って玉座に座って謁見してくれ」

と告げた。


「俺たちはただの旅の者でしかない」

もちろん

「俺やイサミの故郷は永遠にエスターだがな」


エーテルは静かに笑むと立ち上がり

「その言葉感謝いたします」

と答え、エリアルを見ると

「良く連れてきてくれた」

と頷いた。


エリアルは固唾を飲み込むと

「あ、いや、おれは」

と動揺を隠せず4人を横目で見た。


エーテルは苦笑を零しつつ

「もし良ければ暫し滞在いただき…聞いていただきたい話がある」

と告げた。


アーサーはルーシェルとラルフをチラリと見た。

実はエスタ―で一泊し、その後は怪物退治再開の予定だったのだ。


だが。

だが。

やはり自国の王から相談を持ち掛けられると放置はできない。


大切な故郷なのだ。


イサミはにっこり笑うと

「いいよ」

とあっさり答えた。


そしてアーサーとルーシェルとラルフを見ると

「怪物退治の再開は話を聞いた後でも良いと思うんだけど」

と告げた。


それにルーシェルは

「勝手にしろ」

どうせ返事しちまってるじゃねぇか

「俺はゆっくりさせてもらうけどな」

と肩を竦めた。


ラルフは腕を組むと

「まあ、イサミの言う通りに聞いてからでも遅くはない」

それに

「後方の憂いにお前たちが囚われるくらいなら話を聞いてケリをつけてもらう方がこちらも助かる」

と答えた。


イサミはアーサーを見ると

「ね、大丈夫でしょ?」

と笑んだ。


アーサーは頷くと

「エーテル王、では話を聞こう」

と答えた。


エーテル王は頭を下げて

「感謝する」

と答え、唇を開いた。


イサミとアーサーが目覚めてから余り時間の経たない間に地下の国の混乱があり、その後にコーリコスの動乱があった。


つまり、二人は千年経った今をそれほどゆっくり知る時間がなかったのだ。

だから、何となく千年前の環境と変わっていないのだとイサミもアーサーも思っていた。


だが、世界は少しずつ変わり始めていたのである。


■■■


イサミやアーサー達のいる王城を取り囲むように広がる城下町では人々が日常を営み、降り注ぐ陽光の下で明るい活気の輪を広げていた。


動乱の多いコーリコスと違って小さいながらも一つの王族が脈々と国を守ってきたエスターは民が安心して暮らせるだけの統制はとれている。


その一翼を担っていたのが専属魔導士の伝説であった。

が、その魔導士であるイサミはそんな事とはつゆ知らず王城の一室でエーテル王とエリアルを前にアーサーやルーシェル、ラルフと共に紅茶を飲みながら向かい合っていた。


そう、エーテル王が王位につく前から既に顕れ始めていた異常事態について聞くためであった。


第三章 世界の異変


高い天井に踏み心地の良いカーペット。

そして、きめ細やかな彫のあるテーブルを挟んで座るエーテル王をイサミは見た。


「それで、何があったんですか?」


コーリコスの件は別としてイサミもアーサーも、ルーシェルもラルフも中の国で起きている事をそれほど詳しく知っている訳ではない。


イサミとアーサーは眠って千年の時を過ごし、ルーシェルやラルフは地下の国と天の国で暮らしていたのである。


つまり誰もが中の国の時の流れとは無縁の場所にいたのである。


エーテル王は彼らを見つめ

「実は」

と唇を開いた。


「竜の力が弱まっているのです」


アーサーとイサミは一瞬「ん?」と首を傾げた。

イサミは不思議そうにエーテル王を見ると

「アーサーの竜は普通だったような気がするよ?」

うん

「僕たちの家を巣にして子供も作ってたよね?」

とアーサーに視線を移した。


アーサーも頷きエーテル王を見ると

「どういうことか詳しく教えてもらいたい」

と告げた。


エーテル王は頷くと

「確かにあの地の竜は特別です」

しかし

「我が国のみならず他の国の竜は代々小さくなっているのです」

今では人を乗せることも出来ません

と告げ、立ち上がると

「こちらへ」

と足を踏み出した。


アーサーとイサミは座ってお茶を飲んでいるラルフとルーシェルを一瞥したが二人は小さく頷くことで「行ってこい」と促し、自分たちは行かない事を言外に告げた。


天の国と地の国にはそういう異変はないという事なのだろう。

つまり対岸の火事という事なのだ。


そうアーサーは理解し

「じゃ、行ってくる」

と言いイサミと共に部屋を出た。


ルーシェルは扉が閉まると同時にラルフを見て

「どう思う?」

と問いかけた。


その意味。


ラルフはカップを置き

「竜は天の国にいるユニコーンと同じで牛や馬、その他の動物とは違うものだ」

始原の力によって特別な力を持つ幻獣

「その竜が小さくなっているということは」

とルーシェルに視線を向けた。


ルーシェルは苦く口元を歪めると

「この中の国の始原の力が無くなり始めてるってことか」

と呟いた。


ラルフは視線を伏せ

「かもしれない…が」

もう一つは

と言葉を紡いだ。


アーサーとイサミは竜の小屋に行き目を見開いた。

どの竜も確かに小さくなっていたのである。


エーテル王は驚く二人を見ると

「お二人のおられるあの地の竜だけは変わりがない…つまりあの地とその他の土地には何か大きな違いがあるという事です」

と言い

「もし問題が無ければ」

この中の竜をお二人の土地に住まわせていただくことは可能でしょうか?

と告げた。


アーサーは戸惑いつつも

「ああ、俺は一向にかまわない」

しかし

「何が違うのか」

と顔を顰めた。


イサミもコクコク頷き

「僕ももちろん良いよ」

それで竜の変化を見ようとおもっているんだよね?

「エーテル王は」

と返した。


エーテル王は頷き

「そうです」

あの地は特別な土地で

「どの国も易々と何かすることは出来ない」

その権利を持つ者はお二人だけです

と笑みを見せた。


「もし竜に変化があれば、その情報は他の国とも共有して原因を探ろうと思っています」


アーサーもイサミも頷き、一番若い竜をエーテル王から預かることを決めてラルフとルーシェルの待つ部屋へと戻った。


ラルフとルーシェルはイサミたちが戻ると一度だけ視線を交して、直ぐに立ち上がった。

先に唇を開いたのはラルフであった。

「それで、どうするのだ?」


それにアーサーは

「竜を一頭俺たちの小屋に連れて行く」

そこで様子を見ることにする

と言い

「もちろん、一日や二日で変化があるとは思えない」

ということで

「連れて行った後は怪物退治にいく」

と返した。


イサミも頷き

「良いですか?ラルフさんにルーシェルさん」

と二人を見た。


ルーシェルは肩を竦め

「もう決めてるんじゃねぇか」

止めろと言えばやめるのか?

と呆れたようにぼやいた。


イサミはニコニコ笑うと

「確かにそうですよね」

と答え

「ありがとうございます」

と頭を下げた。


二人とも了承と言う事だ。


エーテル王も彼らに頭を下げると

「よろしくお願いします」

と告げた。


4人は竜を連れてエスターを後にするとイサミとアーサーの住む土地へと戻った。


緑の森林に泉。

そして、アーサーの竜の番と子供。


アーサーは連れ帰った竜を彼の竜に引き合わせると

「よろしく頼むな」

と森へと放した。


食料に困ることはない。

問題は竜同士がうけいれるかどうかだ。

が、竜の子供達と触れ合い無事にお互いを受け入れるのを見届けるとアーサーもイサミもその日は小屋で休むことにした。


夕食を終えてアーサーとイサミとラルフとルーシェルはテーブルを挟んで顔を突き合わせた。


何が原因か。


ラルフとルーシェルは顔を見合わせ僅かに小さな溜息を零した。

イサミは二人の様子に目を向けると

「ラルフさんもルーシェルさんも、思い当たることあるんですよね?」

と見つめた。


そう言うところは、目ざといのだ。


ルーシェルは息を吐きだし

「はっきりとはわからん」

だが

「ここの竜たちが口にするもの…特にあの泉の水には恐らく始原のエネルギーが含まれていると思う」

お前が眠りにつく場所だからな

とイサミを見た。


「始原の石がどんな風にエネルギーを発しているかはわからん」

だが

「中の国の石は今泥に覆われた状態にあるのと同じだ」

外の世界と断っている


その意味。


イサミは固唾を飲み込み

「それは」

と視線を伏せた。


ルーシェルは立ち上がるとイサミの頭を撫で

「だが、それは始原の石の意思だ」

お前のせいじゃねぇ

と告げた。


イサミとアーサーは彼を見た。

意味がわからない。

始原の石…つまり物体に意思があるというのだろうか?


ラルフは驚く二人を目に

「ルーシェルの言ったことは慰めや気休めではない」

と言い

「魔王と天王も一連の件からそう考えている」

とルーシェルを一瞥して直ぐに二人に視線を戻した。


アーサーは彼を見ると

「それはどういうことだ?」

と問いかけた。


『石』が…自らの意思でそうしているというとは考えもつかない事である。

イサミも二人を見た。


ラルフはイサミを見ると

「先の地下の国のことだが、イサミとあの傀儡は同じ目的で作られた」

それはわかるな?

と告げた。


イサミは小さく頷いた。

自分のバディであるなおひこと同じ姿をした傀儡のことだ。


同じ地球のいさみが作った傀儡。

姿も髪の色や瞳の色などを除けはほぼほぼ同じなのだ。


ラルフはその様子に一拍置いて

「あの傀儡は地下の国の始原の石を吸収し、裏切者の魔族の手先になるはずだった」

いや

「あの状況から本来ならその計画は達成していた」

とチラリとルーシェルを見た。


ルーシェルは無言を守ったが否定をするつもりはなかった。

確かにそうなのだ。

それだけの時間はあったのだ。


ラルフとイサミ、アーサーが駆けつける前に計画は達成されていて然るべきだった。

だが。


「計画は頓挫した」

イサミと同じ泥から作られた傀儡だったが

「あの傀儡は始原の石を吸収できなかった」


そうルーシェルが告げた。

ラルフは頷き

「天王と魔王はそのことに着目し我々を二人の見張りに付けたということだ」

と告げた。


「考えれば且つての冒険者の傀儡も始原の石に触れることはなかったはずだ」

それはイサミの方が詳しいのではないか?


イサミはそれに少し考え

「はい」

確かにそういうクエストもありませんでしたし

「僕たちの魔法やスキル発動がその石の力を利用していた事すら知らないくらいでした」

と答えた。


そうなのだ。

目覚めてからそのことを知ったくらいなのだ。


イサミはラルフを見つめ

「ラルフさん」

もし僕が始原の石を吸収したせいで竜が小さくなり

「もっと中の国に異変が起きたら…どうすれば」

と視線を伏せた。


世界を元に戻すには自分が消えることが必要なのかもしれない。


アーサーはイサミの手を掴むと

「始原の石の意思なら、イサミが消えることを石はさせないだろうし」

万一イサミが消えても

「石はこの中の国に良いものにはならない」

もしかしたら第二のイサミを作るかもしれない

「何の解決にもならない」

と強く言い切った。


ラルフもルーシェルもそれに頷いた。


ルーシェルはイサミを見て

「ま、面倒くさいことはその内考えればいいだろうぜ」

それよりも今しなければならねぇことを終わらせるのが先だな

と告げた。


ラルフも笑むと

「竜は暫くここで暮らせばどうなるか分かる」

と言い

「世界に残る魔物を消滅させることが今するべきことだ」

それに集中した方が良いだろう

とイサミを見た。


イサミは見つめる三人を見て

「はい」

と答えた。


「ありがとうございます」

僕には始原の石の意思は分からないけれど

「その力が今は魔物を消滅させる力になっているのだからそのことを頑張りたいと思います」


それでみんなが安心して暮らせるのだから

「頑張ります!」


ルーシェルはふっと笑い

「面倒くさいけどな」

ま、悪くねぇ

と小さな声でぼやいた。


ラルフも笑んで頷いた。


アーサーは立ち上がると

「じゃ、明日から本来の目的である魔物を消滅させる旅の再開だな」

と告げた。


イサミも笑んで

「はい!」

と答えた。


4人はそれぞれの部屋へと向かい眠りについた。

夜は深々と降り、泉の周囲に闇の帳を広げた。


翌朝、彼らは魔物が封印されている場所へと向かった。


■■■


イサミとアーサーが眠っていた間にラルフとルーシェルはそれぞれの主君となる天王と魔王に命を受けて怪物の封印された場所を調べていた。


その基礎となったのは1200年前に彼らと交流していたエルフのヴェロが掻き集めた情報である。


エルフやドワーフなどは人間に比べて長寿である。

人は精々100年。

だが、彼らは500年それ以上生きる者もいる。


しかし、それでも1200年の歳月は長すぎた。


イサミとアーサーはラルフにそのことを聞き受け取った封印箇所の地図を目に1200年前に出会った人々に深く感謝したのである。


ラルフとルーシェルはそれを静かに微笑んで見つめ、彼らの言葉を待った。

イサミは二人を見ると

「ラルフさん、ルーシェルさんありがとうございます」

と言い

「僕はこの人族の地から始めたいのですがお二人はどう思われますか?」

と問いかけた。


それは距離の点からも、種族の力の点からも間違いではない。

単なる二人の種族贔屓ではないのだ。


ラルフは冷静に

「私に異論はない」

元々

「魔物を消滅できるはイサミだけだ」

他の点から見てもそれが一番効率的で合理的だ

と告げた。


ルーシェルは軽く

「俺は面倒なことはしたくねぇから考えることはお前らでやってくれ」

と答えた。


つまり、異論はないということだ。


イサミとアーサーは顔を見合わせると笑みを交し頷いた。

アーサーは地図の一か所を指差すと

「なら、先ずはここだな」

一番近いし

「順次回っていくと最後にエルドとラマンのエルフとの国境に到着する」

ここからエルフとの国境に向かって移動するのが合理的だろう

と告げた。


エスターの近くに封印されていた怪物は以前に倒し、既にイサミの中へと回収が終わっている。

復活することはないのだ。


全員の意思が固まると荷物を纏め、飛び立った。

空には一面青が広がり白い雲が何処かのんきに流れていた。


第四章 ミノタウロスとの再戦


アーサーが選んだ魔物の封印された地は人族の大地でも南にある場所であった。

エルフの大地の東と人族の大地の西が隣接している。

だからこそあの闇市は東の王国に存在したのである。


ただ、そこはドワーフの北の王国とも近い。

つまりドワーフたちが闇市に行くときは北の国からエルフの大地に入り闇市へと向かうのである。


アーサーは以前に討伐した魔物のことを思い出していた。

イサミもその時のことを思い出していた。


「一度、戦った魔物…」

あの頃に魔物の本体を知っていたらあの時に消滅できていたんだけど


その時には魔物の本体が自分の身体を作る泥と同じ泥を変化させたモノで且つ始原の石の欠片が利用されているなど知らなかったのだ。


アーサーはイサミの言葉に笑みを浮かべ

「しょうがねぇだろ」

あの時は誰も知らなかったんだからな

と言い

「だが、あの時の討伐のお陰でこの1200年の間は復活することはなかったんだ」

あれはあれでよかったんだ

と告げた。


ラルフはふっと笑い

「ま、そうだな」

と答え

「見えてきたぞ」

と前を見た。


エスター王国から南にある国…フイジーラ。

その国を形成する森林地帯。


そこにかつて怪物がいた。


イサミは生い茂る木々を見つめ

「目覚めて初めて対峙した怪物」

と呟いた。


…ミノタウロス…


その頃はまだイサミの力の源泉である始原の石の活性化が不安定でスキルが使えたり使えなかったりしたものだ。

しかし、今は…イサミは自身の体内に取り込んだ石から力を取り出すことも出来るようになっていたのである。


ただ、それはイサミに強い消耗を与えることになるので万が一の時まで使うことはなかった。


ラルフとルーシェルは封印場所の遺跡の上に立つとそれぞれの杖を手にした。


ルーシェルはラルフを見ると

「じゃあ、さっさと解除するぞ」

と告げた。


「面倒事はさっさとすます」


ラルフはふむっと息を吐きだすと

「面倒事ではなく、我々の責務だが」

まあ

「早くすることに異論はない」

と返した。


アーサーはそのやりとりに

「…仲が良いんだか悪いんだか」

とぼやいた。


イサミはにっこり笑うと

「僕は仲が良い方に1000点」

と告げた。


アーサーは「何故、点数!?」と思ったものの、あえてスルーした。


ラルフは杖を翳した。

「宵闇の杖…闇鳴る杖」

封印のカギを開けよ


ルーシェルがそれに応えるように杖を翳し

「太陽の杖…光鳴る杖」

扉を開き導け

と告げた。


闇と光の杖が光り交差すると遺跡から光が伸び、ミノタウロスが姿を見せた。

封印の旅…初戦の開幕であった。


■■■


ミノタウロスは牛の顔をした怪物で残りのHPにより形態を変化して強くなっていく。


イサミは杖を構え

「初期の頃になおくんと梃子摺ったエリアボスだったんだよね」

と呟いた。


「形態変化の時に強力なダメージを与える攻撃を仕掛けてくるからそれで何度もやられちゃったんだよね」


懐かしそうに「うんうん」と頷き、アーサーを見た。

「僕がこの世界で目覚めて…みんなと倒した最初の怪物でもあるよね」


アーサーはふっと笑い

「そうだ」

イサミと共に戦った最初の怪物だ

と告げ、剣を構えた。


「行くぞ」


イサミは頷き

「はい!」

と応えた。


4人はミノタウロスを囲むよう四方に立った。


アーサーはエクスカリバーを掲げると

「俺が仕掛ける」

その後でそれぞれ攻撃をしてくれ

と言い、竜を向かわせた。


「くらえ!!」

ザンッとミノタウロスを斬りつけた。


ミノタウロスはうねるとアーサーに向かって腕を振り上げた。

イサミはミノタウロスのHPをみると

「やっぱり、アーサーの火力上がってる」

あの時に比べてダメが上がってる

と呟いた。


ルーシェルはふっと笑うと

「じゃ、俺も参戦させてもらうか」

面倒くさいけどな

と突っ込んだ。


残像だけが目に映るような素早い斬撃を繰り返し、ミノタウロスのHPを一気に半分まで削った。


ラルフはそれを見つめ

「私が出るまでもないが」

何もしないのも名折れだな

と言い、弓を構えて弦を引くと

「倒さぬ程度でなければな」

と矢を放った。


ミノタウロスはうめき声をあげ、周囲に衝撃波の前兆である青い光が広がった。


イサミは水属性の杖であるグラキエスワンドを手にすると

「我に応えよ、始原の原力」

ヴァンドトルネード!

と氷の竜巻でミノタウロスを攻撃し、同時に周辺の大地を凍らせた。


HPは既に三分の一もない次の一撃でミノタウロスを一気に倒せると思ったのである。


イサミは杖を天に向け

「我に応えよ、始原の原力」

アルク・スプランドゥール!!

と自らの前に三つの魔法陣を描きそこから光の筋を走らせた。


光はミノタウロスを貫き霧散させた。

一発であった。


ミノタウロスの核となっていた黒いゲルの塊が氷の上に落ち、イサミはそれを見ると

「あった!」

と竜から降り立つと駆け寄り

「レビンアロー!」

と雷を落とし、ゲルと始原の石の欠片を分断した。


ルーシェルは太陽の杖を構えると

「よし」

と呟き

「我の命に従い土に帰せ」

ソレイユグリューエン

とゲルを土へと戻した。


イサミは始原の石の欠片を自らの中へと取り込み回収すると近寄ってきた三人を見た。


アーサーは笑みを見せると

「これで、ミノタウロスが甦ることはないな」

と告げた。


イサミは「うん」と微笑んで頷いた。

もうミノタウロスによって苦しむことはなくなったのだ。


感慨に浸る二人にルーシェルは肩を竦め

「まだ、最初の一体だけどな」

とぼやいた。


「ま、だが幸先は良さそうだ」

手間がかからねぇのは良い


そう言う事らしい。


ラルフは苦く笑うだけで

「それで次はどこになる?」

とアーサーとイサミを見た。


アーサーは地図を広げると

「次に近い場所は…サバラーナなんだが」

と目を細めた。


「サバラーナのヒッポグリフォは回収が済んでいるし」

エスターのオストロールも復活はない

「そうなるとセレトスか」


…情報は伝承だけみたいだな…


イサミはそれに

「そうなんだ」

どんな怪物かドキドキだね

とあっけらかんと応えた。


アーサーはイサミをちらりと見て

「…」

と咳ばらいをすると

「ミノタウロスと違って今まで目覚めたことがないってことは…強さも何も分からないってことだ」


ミノタウロスはまだ一度戦って知っている所謂やりやすい怪物であった。

だが、次は違うのだ。


イサミは笑むと

「うん、でもこれからそういう怪物と戦っていかないといけないから」

大丈夫だよ

とそれほど大したことがないという雰囲気で応えた。


そう、傀儡だったころはその連続だったのだ。

新しいストーリー。

新しいマップ。

そして、新しいモンスター。


それは恐怖よりも楽しみに近かった。

負けながらも勝つ方法を探しながら冒険を進めた。


わくわくドキドキしながら…その方法を探すことに楽しみすら感じていた。


アーサーもラルフもルーシェルもイサミのあっけらかんとした様子に苦い笑みを浮かべた。

ラルフは「冒険者とはそういうものなのか」と呟き、ルーシェルは肩を竦めて「そういうものなんだろ、冒険者ってのは」とぼやいた。


アーサーは「そうなんだよな」と笑むと

「じゃあ、セレトスへ」

と視線を陽が沈む地平を見た。


その先に七大大国の一つセレトスがある。

旅は一歩を踏み出したばかりであった。

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