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オーバーディスティニー  作者: 如月いさみ


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4/20

コーリコスへ 過去編

のんびりゆっくり時々思い出したように書いているのでいつか終わるのかなぁと思いつつ、最終は見えたのでゆっくりのんびり書いて行けたらいいなぁと思っています。

「お前達が怪物を封印するための手伝いをしろと命令された」

ルーシェルがドカッと小屋のリビングの椅子に座り告げた。


これから行動を共にする理由である。


イサミは「わかりました」と応え

「宜しくお願いいたします」

と付け加えた。

アーサーは軽く息を吐き出し

「しゃーねーな」

と言うのみであった。


つまり二人とも承諾すると言うことだ。

が、ルーシェルは黙って座るラルフを一瞥し

「表向きはな」

と言うと

「本当の理由は、お前達の監視役だ」

俺もラルフも

と付け加えた。


ラルフはルーシェルを軽く一瞥するだけで止めるわけでも嫌疑するわけでもなかった。

暗黙の了解と言うことである。


イサミとアーサーは顔を見合わせ

「僕たちを?」

「何でだ?」

と同時に告げた。


ルーシェルは二人を見ると

「別に二人を抹殺するつもりはない」

つーか無理だからな

「ただ、理由は言えんがお前たちを騙くらかして側にいるよりもお前達なら本当のことを言って側にいる方が良いと判断した」

怪物を倒す手伝いは実際にするからな

と応えた。


それだけの度量があるとルーシェルもラルフも判断したのだ。


イサミはにっこり笑うと

「本当のことをありがとうございます」

理由は分からないけど

「一緒に冒険を楽しみましょう!」

と返した。

相変わらず前向きポジティブだ。

アーサーも恐らく魔王も天王も二人が監視役であることを言うことを望まなかっただろうことは理解できる。


これまでの関係から『怪物退治』だけで自分達はすんなり受け入れるからである。

だが、その思惑を押しどけて言ってくれたのだ。


「ま、監視されて困ることもないからな」

怪物退治だけで無く

「冒険にも付き合ってもらうぜ」

そう告げた。


承諾すると言うことだ。


ただ。

そう、ただ。


アーサーは二人を見て

「食い扶持は二人とも自分達で用意しろよ」

俺はイサミの食い扶持だけしか用意しないからな

と胸を張った。


その実、料理や家事はアーサーがしていたのである。

イサミには定住するという認識がなかった。


元々冒険者の傀儡である。

野宿や宿で泊まるなどは慣れているが、一定の場所で家を持って暮らすという事がなかったらしい。


作って食べるというよりはアイテムとして口に含むという感じである。

ただ、既に己が旧世界で得たアイテムや食べ物がこの世界の本来の在り方ではないことは理解しており、驚くというよりは受け止めるという感じである。


イサミは一瞬アーサーを見たが少しだけ己の見識が甘いことを感じつつ困ったように笑みを浮かべた。

が、ラルフはアーサーの言葉に

「了解した」

と返し、ルーシェルは

「ケチくせえな」

とぼやいたものの

「魔王に請求してやる」

と返した。


一通り話の決着が付くと、ラルフが唇を開いた。

「それでコーリコスの件だが」

それにイサミもアーサーもルーシェルも目を向けた。


第六章 コーリコス


イサミとコーリコスの関係で最大のリンクは魔導原書である。

イサミはラルフとルーシェルをアーサーと共に魔導原書の保管している地下の書庫へと連れてきた。


「ここにあるのが魔導原書だよ」

冒険者のための本


ルーシェルは手に取り

「…読めんな」

と言うと

「先の戦いの術もこの中にあったのか?」

と問いかけた。


イサミは頷くと一冊を手に取り

「ここに書いている今の僕の中では最高の術かな」

と言い

「使い方に癖があるから早々は使えないけど」

と答えた。


「武器を剣に変えて魔力を物攻の火力に乗せるんだ」

まあそれよりも最大の利点は

「本来なら長い詠唱時間と発動時間を必要とする大きな火力の魔法を即時発動できるところかな」


…ただし10回目のみだけど…


それにラルフは「なるほど、そういうことだったか」と先の戦いを思い出しながら呟いた。


確かに一見なんのダメージもない術を戦いの中で連発していたが、最終魔法の即時発動のための準備だったのだ。


どちらにしても冒険者の傀儡以外読めないのならば自分達には意味をなさない。

だが、コーリコスではその語訳を利用しているらしい。


ルーシェルはラルフを見ると

「それで王族を監禁して魔道士達が政を仕切っているのなら」

まずは王族と接触しねぇとな

と告げた。


「問題は穏便にコーリコスへはいるほうほうだな」


それにアーサーは

「千年前なら俺もエスターの王族だったし他の国の王とも繋がりがあったけどな」

とぼやいた。


それにイサミは

「なら、ランスロットさんにお願いしてみるのは?」

と告げた。

「どーか分からないけど当たって砕けろは出来るよ?」


ルーシェルは「砕けてどーする」と突っ込んだが、それしかなさそうなので

「ま、やってみるか」

と告げた。


4人は話が決まるとランスロットのいる街へと向かった。


7大大国の一つサバラーナ。

イサミとアーサーはかつてこの国の王子シャールと行動を共にしていたことがある。


しかし、それも1000年以上前の話である。

今現在では良い思い出ということで、それを利用してコーリコスへのつなぎを作ることはできない。


4人は街の郊外に降り立ち、ランスロットの屋敷を目指した。

郊外から一般人々の家や店が並び、中心に向かって屋敷が増えていく。


そして、王城がそびえ建っているのだ。

ランスロットの屋敷はどちらかというと屋敷群の端にあった。


イサミは屋敷の門の前に立ち庭などの手入れをしていた庭師を見ると

「こんにちは!ランスロットさんいますか?」

と大きく両手を振って呼びかけた。


庭師の男性はイサミに気付くと

「おっ、でもどってきたのか?」

ボウズ

と笑いながら告げた。


「ランスロット様も先代のことも名誉回復したから出戻りか」


イサミはウンウンと頷き

「そうなんだ。良かったです」

それでお願いがあってきました

と返した。


後ろにいたアーサーは

「それで話かみ合ってるのか?」

何かがちぐはぐだな

と思いつつ、沈黙を守った。


庭師は「ま、待ってろ」と言うと屋敷へと向かった。

その直後に執事が飛び出してくると

「イサミ様!」

ランスロット様からお話をお聞きいたしました

「おおお」

と感涙し、門を開けると

「どうぞ、今ランスロット様は城で騎士団の訓練をしております」

呼びに行かせましょう

と屋敷へと案内した。


家名の回復の立役者だとランスロットから聞いていたのである。

まさにVIP扱いである。

が、ランスロットを呼びに行った従者は反対に城へと馬車で彼らを送ったのである。


サバラーナの現王であるハリーが希望したのである。

イサミ達は城に着くと客間に通され、飲み物やスイーツなどのもてなしを受けた。


ハリーはランスロットと連れ立って姿を見せると

「伝説の魔道士殿」

よくおいで下さった

と両手を広げてイサミを抱きしめた。


イサミは「あ、ありがとうございます」と驚きつつも返し、互いに席に座ると

「実はお願いがあって」

と告げた。


「コーリコスへ行きたいのですが」

お力をお借りしたいんです


現在、コーリコスはほぼ閉鎖状態である。

伝手が無くては入ることが出来ない。


それはエルドの町で噂に聞いたから知っていたのである。


ハリーは少し腕を組んで考えると

「実は先日の戦いの折にニセ魔道士を送ってきたのはコーリコスなのです」

他の国の王とも情報を交換したら

「どうやらコーリコスは貴方の噂を利用して怪物封印の解除をさせようとしているようです」

と告げた。


それにはイサミのみならず、アーサーやルーシェル、ラルフ、ランスロットまで驚きの表情でハリー王をみた。


「その危険な愚行を止めていただけるなら大いに力を貸しますが」

恐らくイサミ殿の顔や姿は分かっていると思います

「私に一計があるので可能ならば」

コーリコスへ先日の遺憾を込めて潜入のお手伝いいたしますが


イサミは首を傾げると

「一計?」

と問いかけた。


ハリー王は和やかに笑い

「目には目を、です」

と返した。


翌日、イサミたち四人とランスロット、そして彼の騎士仲間であるジャックとアランはサバラーナの使者としてコーリコスへと向かったのである。

が、ジャックとアランは正面に座るイサミを見て

「魔道士殿は姿も変えられるのか」

と呟いた。


アーサーは貴族の服を着て、髪型を軽く変えた程度だが、イサミは腰まで届く長い髪の少女の姿であった。


花を散らせてあしらったドレスを纏い、ハリー王に

「おお!それならば噂にある絶世の美人魔道士殿と言っても通るな」

と言わしめたほどである。


それにはルーシェルが

「美人よりは幼いが」

と突っ込んだ。


イサミは内心ホッとしつつ

「アバター装備の変更ですんで良かったです」

アバター自体を変化させるには

「限定ドロップだった変化の薬瓶が必要だったので」

二つしかもってないんですよね

「だから利用は一回ポッキリになりますね」

と告げた。


それにはラルフが

「なる程」

冒険者の傀儡は本来姿があってないようなものだからな

と呟いた。


泥に形はない。

だから、反対に千差万別のすがたをした傀儡が誕生出来たのだ。


ただ、イサミは

「でもこの姿が僕だから」

と応えた。


アーサーもそれに

「そうだな」

と応えた。


ただ、ルーシェルとラルフは羽根がある為にとりあえずはコーリコスの近くで既に潜入済みの神族の情報を受けながら行動を決めることにしたのである。


彼らはそう言う経緯で意趣返しのニセ伝説の魔道士潜入計画を実行したのである。



■■■



馬車がコーリコスの王都の門前に来ると門を見張っていた魔導士が彼らの前に立った。

「サバラーナの使者か」

何用か?


一国の使者に高飛車な態度だがそれにランスロットが馬車の中から

「先日、そちらから派遣されてきた偽伝説の魔導士の件で」

とお伝え願えれば

「こちらは本物の伝説の魔導士殿を見つけ出したとも」

噂通りの美しい魔導士殿だ

とイサミを視線で見つつニコヤカに笑って告げた。


魔導士は一瞬険しい表情でイサミを見て

「わかった、暫しまっておれ」

と門の中に入ると詰所へと姿を消した。

が、すぐに出てくると門を開けさせてランスロットに

「魔導士長殿がお会いになられるそうだ」

その美しい伝説の魔導士殿にな

と鼻で笑うように告げた。


イサミもアーサーも内心ほっとしつつ、走り出した馬車の振動に身を任せたのである。


コーリコスの王都は昔と形は余り変わっておらずイサミはアーサーを見ると

「この分だと城の中の構図もあまり変わっていないかもしれないね」

と呟いた。


アーサーはふっと笑うと

「なら、隠れ通路まで案内できるぜ」

と小さく返した。


彼らを乗せた馬車は王城の庭に入ると止まり、そこで待ち構えていた魔導士たちと中央で守られるように立っていた魔導士長の出迎えを受けたのである。



第七章 魔導士長



深く布を被り重厚な雰囲気のする壮年の魔導士であった。

魔導士長であるズールは降り立った彼らをスーと流し見てイサミで目を止めると

「ほう、この愛らしい魔導士殿が伝説の魔導士殿と」

では怪物を倒したのはこのお嬢さんだということこか

と問いかけた。


それにランスロットはギョッと驚きつつ

「い、あ…いや、その通りで」

この伝説の魔導士どのと我々騎士団が一致団結して怪物を倒したということだ

と咳払いをして

「コーリコスから送られた魔導士は逃げ出しかけたのを王が捉え今事情を聞いている」

コーリコスの魔導士長に言われたと言っていたが

とズールを見た。


ズールはフフフと笑い

「なるほど」

そのお話はあとでゆっくりさせていただこう

「どうぞ、客間へ」

と後ろに控えていた魔導士に案内の指示を出した。


イサミとアーサー、ランスロットたちは案内されるままに城の中へと足を踏み入れたのである。


ズールは彼らを見送り、目を光らせると

「意趣返しか」

愚かしいな

「偽伝説の魔導士を用意するとはご苦労なことだ」

と呟いた。


「我々があの伝説となっているエスターの魔導士を知らぬとでも思っているか」

とにかく

「適当にあしらって国に戻ってもらうしかないな」


あの魔道具のことを知られては事だからな


そう呟き、ズールはふと

「だが」

サバラーナは怪物をどうやって倒したのだ?

と目を細め

「ま、それも確かめれば良い事だな」

と踵を返した。


イサミとアーサー、ランスロットにジャックとアランの5人は客室に通されるとお茶をそれぞれ用意された。


常であればその飲み物に疑惑は持たないが、これまでの情報からランスロットもジャックもアランもアーサーですら飲むのに躊躇した。

が、イサミは平然とカップを口に運ぶと飲みかけて、ランスロットたちを驚かせた。


毒を盛られていてもおかしくないのに…飲むか!?とジャックとアランは内心突っ込んだ。

アーサーも流石に手で制止し

「イサミ」

と見張る魔導士たちに聞こえないように小声で注意を促した。


万一、イサミと言う名前を聞かれて本当のことがばれると余計な危険があるかもしれないからである。


イサミはアーサーを不思議そうに見たが、彼が軽く首を振るのに頷いてそのままカップを置いた。


その直後にズールと数名の魔導士、そして、険しい表情をした女性が姿を見せたのである。

ズールはにやりと笑うと

「こちらがコーリコスのアン王女であられる」

と恭しく彼女に席を勧めた。


アンはツンとズールから顔を背け椅子に座ると

「ようこそ」

サバラーナのご使者の方

「コーリコスは歓迎いたします」

と告げた。


イサミはじっと彼女を見るとにっこり笑い

「初めまして」

やっぱりヒューズ王子に似ているね

と告げた。



アーサー以外の全員が首を傾げた。

アーサーは内心汗だらだら掻きながら

「イサミ」

と心で叫んだ。


イサミは彼女を見つめ

「あの魔導士さん、伝説の魔導士ではなかったらしいんだけど」

どうして偽物の魔導士をサバラーナに送ったの?

「コーリコスなら伝説の魔導士って言わなくても魔導士を普通に送っても良かったんじゃないの?」

と首を傾げて問いかけた。


アンは目を瞬かせてイサミを見た。

今のイサミは愛らしい少女の姿をしている。

が、置かれている状況を分かっているのかいないのか。


普通にこの状況なら絶対に言わないだろう。

彼女にもそれが分っていたが、目の前の愛らしい少女は平然と言ってのけたのである。


ズールは目を細めると

「なかなか失礼なことを」

あの魔導士に騙されていたのはこちらも同じ

「あの者が伝説の魔導士と言い我々はならばとそちらの国に送り出したのだ」

と告げた。


全員が『嘘だ』と心で叫んだ。

しかし今は敵の懐である。

警戒しなければこのまま消されることもあるのだ。


アーサーはちらりとイサミを見た。


イサミは「そうなんですか」と言い

「…でも、コーリコスは魔力を測る石がありますよね?」

確かめなかったんですか?

と首を傾げた。


「僕は前にそれで落とされました」

と言い、ハッとすると

「あー、そんなこともありました」

と困ったように笑った。


アーサーもランスロットも誰もがギョッとイサミを見た。

イサミは慌てて

「僕、伝説の魔導士だったのに」

ごめんなさい

と両手を彼らに合わせた。


ズールはイサミを見るとクククと笑うと

「なるほど…偽の伝説の魔導士に偽の伝説の魔導士を送り込んでくるとはな」

と言い、全員を見回すと

「それで一つお聞きするが」

怪物をどうやって倒した

と詰問した。


ランスロットは息を吸い込み

「それはこの伝説の魔導士殿と…僭越ながら我々と…だ」

と返した。


ズールは今更と言う感じで

「…なるほど、あくまでその子供を伝説の魔導士と」

と吐き捨てるように言い

「では暫くこちらで泊まっていただくとするか」

と立ち上がった。


瞬間にアンが

「逃げてください!!」

あの魔道具のエネルギー源にされてしまいます!!

と叫んだ。


ズールは慌ててアンを殴ると

「貴様」

と言うと周囲の魔導士に

「全員を掴まえろ!!」

と叫んだ。

が、イサミはテーブルに乗るとアンに手を伸ばし

「逃げよう!」

貴方の話を聞きたい

と笑みを見せた。


アーサーも向かってきた魔導士をパンチと蹴りで押し退けると

「逃げるぞ!」

とテーブルを越えてズールを蹴り、アンを抱き上げた。


ランスロットやジャック、アランも二人を守るように周囲を護衛し、全員が魔導士たちを倒すると駆けだした。


ズールは口元を拭うと

「この城から、逃げ出せると思っているのか」

と顔をゆがめ、起き上がった魔導士たちを見ると

「直ぐに増員してアン王女とあいつらを掴まえろ」

それと

とにやりと笑った。


「あの魔道具が動かせるように城の中庭に準備しておけ」

あいつらでテストをしてやる


アーサーは走りながら

「俺の後に続け」

隠れ通路は子供の頃に使いまくった

とニヤリと笑った。


それにアンが目を瞬かせると

「子供の頃に?」

貴方は?

と聞いた。


見たことはない。

隠し通路など王や王妃と懇意にしていても知らないことだ。


アーサーは彼女を見ると

「ヒューズは俺の幼馴染だった」

イサミもな

と笑みを浮かべた。


イサミも「うんうん」と頷き

「ヒューズさんにはこの世界の歴史を教えてもらったよ」

と告げた。


それにはアンもランスロットも、ジャックもアランも首を傾げるしかなかった。


アーサーは城の通路の壁の一か所を押すとずれた壁を押し開けて中へと入った。

隠し通路である。


それにはアンも驚きであった。

中には階段があり下へと続いていたのである。


■■■


こんな隠し通路を。

そう言ってアンはアーサーを見た。


アーサーは笑みを深め

「千年前と変わって無くてよかったぜ」

と言い、彼女を見据えると

「それでコーリコスではなにがおきてるんだ?」

あんたの言った魔道具とはなんだ?

と問いかけた。


アンは俯いたもののすぐに顔を上げて

「詳しくは分かりませんが」

怪物のコアというものを使った砲身です

と告げた。


「前に魔道士の多くいるコーリコスならと『怪物に対抗する力を持たないか』と黒いドロドロした塊を『怪物のコア』を氷で固めたものだと言って一人の男が持ってきたのです」

私たち王族や当時の魔道士長は得体の知れない者の危険なモノに手を出すのはと断りました

「しかしあの野心を元々持っていた副魔道士長はあの人物に接触してそれを手に入れたのです」

恐らくあの砲身の設計図も


アンは俯き

「魔道士達に王族や魔道士長は国を救う気が無い」

そう吹聴して元々の部下たちとあの魔道具を作り

「仲間に引き入れたのです」

同時に我々王族や魔道士長は牢獄に監禁し

「諸外国に知らせれば他のモノに危害をと」

そう言い唇を噛んだ。


「手始めに懇意にしていたエスターの王を唆したようですが、エスターの王は賢王です」

国民を無闇に危機に晒すことは出来ない

「自国で試してからにするようにと書簡を」

伝説の魔道士殿を一番よく知るエスターには偽物は送れませんので

「諦めたようです」


アンはいい

「ただ、コアを持ってきた男はあの副魔道士長に怪物のコアを吸収出来るのは伝説の魔道士殿のみで注意するようにと言われたようです」

と告げた。


それにアーサーは少し考え

「イサミだけってのは変か」

冒険者の傀儡なら

と言葉を止めるとイサミをみた。


イサミは首を傾げると

「如何したの?」

と問いかけた。


冒険者の傀儡なら怪物のコアとなっている始原の石の欠片を吸収出来る。

それは定説だ。


だが。


アーサーは腕を組み

「あの魔族は本当なら地下の国の連結魔導石を先の傀儡に吸収するはずだった」

が出来なくて膠着状態になった

と告げた。


イサミはハッと目を見開くと

「けど僕も普通の冒険者の傀儡だよ?」

と言い「もしかして」と続けかけたとき声が響いた。


「サバラーナに身を隠そうとする裏切り者のアン王女」

このままでは王族を犠牲にせねば国民の気は休まらんぞ

「逃げずに城の中庭へと姿を見せよ」


ランスロットは

「こちらを悪者に置き換えるとは」

と舌打ちした。


ジャックやアランも拳を握り

「権力闘争にはよくあることだが」

使者を巻き込むとは

「サバラーナと対峙しても良いという余程の自信か」

と呟いた。


イサミは息をつくと

「アン王女やコーリコスの王族の人を危険にはさらせないし」

良い機会だよ

とスカートの飾りである腰の大きな花を手にすると

「杖つけてて良かった」

とにっこり笑った。


それには全員があんぐりと口を開けた。


冒険者は冒険者。

武器を忍ばしていたのだ。


アーサーは上を見上げ

「ま、この騒動であの二人が動いてくれてると助かるが」

と歩き出した。


イサミはアンを見ると

「あ、そうだ」

その魔道具壊してもいい?

と問いかけた。


アンは可愛らしい容姿の少女の見た目を裏切る発言に

「えっ、は、はい」

と戸惑いつつ応えた。


イサミは「バフはないけど」と呟きつつき

「この装備も魔力付与あるから」

と呟いた。


五人は隠し通路を出ると指定された中庭へと姿を見せ、イサミは王族に向けられた大砲をみて

「アン王女あれが例の?」

と聞いた。


アンは頷き

「はい」

と応えた。


魔道士長はにやりと笑うと砲身向けて

「威力の試し打ちをしてやろう」

光栄に思え

と告げた。


瞬間、イサミは花の杖を前にすると

「我に応えよ、始原の原力」

ソウサ・オブ・グラディウス

と詠唱を唱え、杖を光の剣に変換させて足を踏み出した。


アーサーは周囲を取り囲む魔導士が驚きつつ向かってくるのを

「ま、体術は習っているさ」

とパンチと蹴りで抑えつつ

「エクスカリバーがあれば」

と呟いた。


瞬間に頭上から声が響いた。

「ま、これで一つ返したぜ」

とルーシェルがエクスカリバーをアーサーに投げて渡した。


そして、剣を手に突っ込むと

「餌食になりたい奴は来な」

と向かってきた魔導士を動けなくするために杖を斬り、足で蹴り飛ばした。


あくまで動けなくするだけなのだ。


それにラルフは

「一応、TPOはわきまえているな」

と言い、弓を他の魔導に向かって放った。


それもまた動けなくする程度に力を抑えている。

怪物相手ではないのでそれで十分なのだ。


イサミは背後でルーシェルとラルフが協力してくれているのが分ると

「よし」

とズールが大砲を向けた瞬間に

「レビンアロー!」

と大砲に向かって光の矢を落とした。


ズールは衝撃でしりもちを付き

「偽魔導士が」

と立ち上がりかけた。

が、イサミは大砲に向かって真横に光の剣を薙ぎると二つに割り露わになった黒いゲルに向かって

「レビンアロー!」

と衝撃を与えるとゲルと欠片を分離した。


それを見て粗方戦力を削いだルーシェルが息を吐きだすと

「じゃ、ついでだ」

と太陽の杖を手にすると

「我に従え、太陽の杖」

ソレイユグリューエン

とゲルを土に返すと袋へと回収したのである。


イサミは分離し青白いバリアを張った欠片を手にするとそれを己の中へと吸収しズールを見た。


ズールは大きく目を見開くと

「ま、さか」

ほ、本物の…伝説のまど、うし

とごくりと固唾を飲み込んだ。


イサミは剣を手に

「僕は伝説の魔導士じゃないよ」

エスター王族付き魔導士なだけだよ

と返した。


それにはアンも他の魔導士も、コーリコスの王族も誰もが驚きに目を見開いたのである。

エスターの王族付き魔道士は千年以上前から一人だけなのだ。


その人物こそ伝説の魔道士。


ズールはハハハと狂ったように笑うと

「まさか、偽物を装って本物が来るとは」

とヨロヨロと立ち上がり

「世界一の力を持つ気分はどうだ?」

我々が欲して手に入れられぬ力

「だが、神族と魔族は連結魔導石を吸収出来る唯一のお前をどうするか」

世界が敵になるときが来る

「お前は怪物以上の化け物だ!!」

と驚くイサミに半分になった大砲の口を向けた。


イサミは大きく目を見開くと

「…そんな、どうして世界が僕の敵に」

と一歩足を引いて、アーサーにルーシェル、ラルフを見て息を飲みこんだ。


そうだ。

今理由が分かった。


ルーシェルたちが自分たちを見張る理由。

いや違う。

ルーシェルたちが【自分】を見張る理由。


アーサーはイサミと共に理由に思い当たり

「イサミ…気にするな」

と足を踏み出した。


ルーシェルもまた舌打ちすると

「くだらないことを」

と言い

「イサミ」

と呼びかけた。


確かに、そうなのだ。

だが。

だが。


その時。

ズールは隠し持っていたゲルを封印していた氷の玉を動力盤に押し付けると

「消えろ…化け物が」

と大砲をイサミに向けて打ち込んだ。


「イサミ!!」

逃げろ!!

と、アーサーは叫ぶと駆けだした。


ルーシェルもラルフ、ランスロットやジャック、アラン達も足を踏み出した。

が、その彼らの目の前でイサミは呆然と立ち尽くし黒い光に呑み込まれた。


まさかの一瞬である。

イサミを飲み込んだ黒い閃光はその奥の城壁や家並みをも破壊した。


通り過ぎた後にはただただ抉れた土の後が残っているだけであった。


アーサーは呆然と凍り付いたように立ち尽くし、ルーシェルはズールをにらみつけると

「きさまぁ!!」

と駆け出しかけた。


絶望に似たイサミの瞳が胸を軋ませた。

それが怒りに拍車をかけたのだ。

が、突進しようとしたルーシェルの腕をラルフが掴んで

「まて!」

と制止し引き寄せた。


ランスロットたちも足を止めて目の前で起きた驚愕の変化に息を飲みこんだ。。

砲撃の衝撃で氷が解けたゲルが巨大化し砲撃のみならず周囲の土を黒く染めて、怪物へと変わったのである。


そして、驚いて逃げようとしたズールを一撃で吹き飛ばすと嘶きを上げた。

怪物の誕生であった。


魔導師たちは驚いて逃げまどい。

その場は騒然とした。


欲をかいた果ての姿であろう。


囚われていた魔導士長はそれを見て

「愚かな」

と呟くとアンと王族を見て

「王族の方々はお逃げください」

そして

「兵士たちを城の周辺に集め、国民は王都の外へ」

と呪文を唱え炎の玉をぶつけた。


「さあ!今の間に!!」

それにランスロットやジャック、アランも怪物へと向かった。


アンは戸惑ったもののこの騒ぎで駆けつけてきた騎士団たちも魔導士長を援護しながら王族に危険な場所から離れるように告げたのである。


アンはそれに

「父と母とアベルは逃げてください」

私は戦います

と言い、王と王妃、そして、弟なる王子たちを逃がし、魔導士長の横へ行くと

「私も王族の中では随一の魔導士です」

と呪文を唱え、火の玉をぶつけた。


だが、ダメージはそれほどでもない。


アーサーは混乱する中で一人動けなかった。

どうすればよいのか…分からなかったのだ。


ルーシェルは暫し黒い光の中でイサミのいた場所を見つめ、やがてアーサーを一瞥するとラルフに視線を向けると

「…このまま見捨てることも出来るが」

イサミと後で会った時にそんなことをしていたと知れば、な

と剣を構えるとアーサーの元へ行き

「しっかりしやがれ!」

あいつはそんなやわじゃねぇ

「信じて、今は戦え」

と言うと怪物へと足を向けた。


ラルフはそれに少々驚いたように目を見開き

「…中々、お前はかなりイサミを気に入っているようだな」

まあ

「私もだが」

と弓を怪物へと向かって放った。


「あの一瞬の光り…イサミは無事に違いない」


アーサーは二人を見ると一度深く目を閉じ、すぐに開けて怪物を見ると

「今は、信じて戦うしかないか」

と呟き、強くエクスカリバーを握ると足を踏み出した。


三人は怪物と対峙したのである。

その時、偵察に入っていた神族もラルフの部下で参戦し、生まれたての怪物は暫く堪えたがやがて断末魔を上げると形を失い黒いゲルに戻ると大地へと落ちて消え去ったのである。


魔導士長が火の玉で攻撃したが黒いゲルと始原の石の欠片を分離することは出来なかったのである。


アンは破壊された城内を見回し、それでも城外へと被害が及ばなかったことに安堵するとルーシェルとラルフ、そして、アーサーの元へと足を進めた。


「ご協力…感謝します」

このお詫びと御恩は必ずお返しいたします

言い、ランスロットやジャック、アランの方を向くと

「サバラーナにはご迷惑をおかけし申し訳ございません」

また被害の拡大を抑えていただき感謝しております

「正式に王族からサバラーナ王にはお詫びと感謝の使者を送らせていただきます」

と頭を下げた。


ランスロットはイサミのいた方を向き

「…イサミ殿は」

と呟いた。


それにルーシェルが

「心配するな」

あいつがあの程度でくたばるわけはねぇ

と剣をしまうとラルフを見て

「俺は暫く中の国に滞在する」

くたばりはしねぇと思うが

「どうなっているのかわからねぇからな」

と羽根を広げた。


ラルフもまた部下を見て

「お前たちは天王に報告するように」

私は天王の命令通りに中の国でイサミの行方を追う

と告げた。


そして、部下が去るとランスロットたちを見て

「今回の件は協力感謝する」

我々はイサミの行方を捜す

「運があればまた会うこともあるだろう」

と言い、アーサーを見た。


アーサーは二人の視線を受けて

「先は、間に合わなかった」

だがイサミの手を今度こそは掴む

「掴まえてみせる」

と言い

「俺も、イサミの行方を追う」

と告げた。


ランスロットはそれを見て

「…確かに伝説の魔導士殿があの程度で死ぬわけがない」

イサミ殿の無事を信じて我々は王に報告します

と言い、コーリコスの王族たちに挨拶をするとジャックとアランと共にサバラーナへと帰還したのである。


アーサーとルーシェルとラルフもまた、消え去ったイサミの行方を捜すためにコーリコスを後にしたのである。


王都を出た彼らの頭上に広がる空は青く、白い雲が何事もなかったように淡々と流れていた。


■■■


遠くで…声が響く。

良く知っている声だ。


イサミは覚醒する意識に小さく声を漏らし、薄く瞼を開いた。

「僕は…」

呟き、見上げた視線の先には逆光の中で自分を見つめる男性と木陰を作る木々と…そして、青々とした空が広がっていた。



第一章 転章



「気が付いたか?」


覗き込むように己を見ていた男性に言われ、イサミは目を瞬かせると

「は、い」

と返した。


良く知っている声だと思ったのだが目の前の男性は全く知らない人物で、イサミは身体を起こして周囲を見回し一瞬自分が何処にいるのか理解できなかった。


記憶が途切れる最後にあった風景はコーリコスの城壁と自分を照準として捉えた砲身だった。


何がどうなって。

自分が何処にいるのか。


イサミはグルグルとめまいがしそうな状況に

「あの、ここは?」

と目の前の男性に問いかけた。


男性はジッとイサミを見たものの『ふむっ』と少し考え

「始まりの村だ」

と答えた。


…始まりの村?


良く知っている。

というか、自分が誕生した場所である。


だが、確か始まりの村は砂漠の中へと消えたはずである。


イサミは大きく目を見開くと

「は?」

と驚きの声を発して立ち上がり周囲360度を見回した。


緑の木々に煉瓦作りの建物が整然と並び建物の戸口には鍛冶屋なら鍛冶屋の、道具屋なら道具屋の看板が掛けられている。


確かに見覚えのある懐かしい光景だ。


「始まりの村」

本当に始まりの村だ


イサミは呟いて目を輝かせると足を踏み出した。

もし、本当にここが始まりの村ならばあるはずである。


イサミは記憶をたどるように村の中央の通りを走り、鍛冶屋、道具屋、そして、宿屋の隣にある倉庫屋の前に立った。


看板には金庫の絵が描かれており、記憶通りの倉庫屋である。

行き成り走り出したイサミの後を追いかけてきた男性は呆然と立ち尽くすイサミを見て

「ここは?」

と問いかけた。


イサミはハッと気付くと

「あ、倉庫屋です」

此処に鞄に入りきらなかったアイテムとかを預けていたんです

と言い、店の前をうろうろした。


「店の人、いないのかな」


それに男性は肩を動かし

「いないだろうぜ」

と答えた。


「冒険者の傀儡が行き交っていたが大分前にいきなり消え去ってから、この村で働いていた村人は他の町や国へ移動したからな」

商売にならないし

「周囲が砂漠化し始めてからは他から人が訪れることもなくなったからな」


イサミは男性を見ると

「…そ、なんですね」

と呟いた。


男性は落ち込んだイサミに

「だが、倉庫はあるから…まあ、冒険者の傀儡がいたら開けられるんじゃないか?」

なんてな

ハハハと冗談を言って笑った。


イサミは少し考え

「そう、ですよね」

と言い、店のカウンターの中に入ると倉庫の扉に手を触れた。


魔法陣のようなものが現れ、扉が開いた。


イサミは固唾を飲み込み、中を見るとそこに在るアイテムが己の預けたものだとわかった。

「…呪で荷物が取り出せるようになってるんだ」

と言い、アイテムを手に息をついた。


「問題は…僕、今カバンを持ってないってことだよね」

でも

「この装備の取り換えくらいは出来るかな」


そう、今は少女のような装備をしている。

偽魔導士としてコーリコスへと乗り込んだ時にそう変装したからだ。


イサミにとっては己の荷物を取り出すだけなのだが、驚いているのは男性であった。


「おいおいおい、なんで開くんだ?」

他の店の扉も書の置いている建物も全て開かなかったんだが


そう、始まりの村には冒険者の残した様々な宝があるという噂でやってきたのだが、建物はうんともすんとも言わずに開かず、結局何も手に入らなかったのだ。


イサミはドレスを脱ぎ、倉庫にあった装備品を手にした。

「お気に入りの服の後に手に入った一番良い装備品なんだよね」

これにしようか

そうのほほんと言いながら着替え、呆然と立ち尽くす男性を見た。


「あ、すみません」

あの

言いかけたイサミに男性は我に返ると

「…お嬢ちゃんと思っていたが坊主か?」

と言い

「何者か聞いて良いか?」

と問いかけた。


「この始まりの村の建物や全てが術で封印されていて俺達には開けることが出来なかった」

恐らく冒険者の傀儡以外には開けれないようになっていると思ってるんだが


イサミはそれに視線を僅かに下げて

「…僕は、その冒険者の傀儡です」

と男性を見た。


「地球の冒険者からイサミと言う名前を貰って冒険をしていました」


男性は「ほぉ」と言いイサミを上から下まで見て

「…冒険者の傀儡は全員消え去ったはずだが」

と呟いたものの

「だが、扉を開けれるのは助かる、か」

と心で呟き

「俺はアルバートだ」

もし本物の冒険者の傀儡なら少し頼みたいことがある

「OKしてくれるならその持ち物の保管に協力するが?」

とイサミの後ろの倉庫をちらりと見て告げた。


イサミはアルバートの顔を見つめ、何故か知り合いのような気がして

「はい」

と応えた。


アルバートは笑むと

「じゃあ、少しここで待ってな」

と駆け出した。


イサミはその場に座ると辺りを見回して

「本当に始まりの村だ」

とぼやいた。


何があったのか。

全く分からない。


冒険者の傀儡として世界を回っていた。

しかし、その役目が終わり同じ冒険者の傀儡たちと共に泥に返った。


そして、目覚めた。

始まりの村が伝説となり、砂漠に埋もれた時代<とき>に。


イサミは倉庫屋の前で座りながら

「でも確かにここは始まりの村だよね」

と呟いた。


建物の並びも風景も。

全て記憶の中と同じだ。

いや、それ以上に自分が預けた荷物もあった。


だが。

だが。


イサミは空を見上げ

「だとすれば、アーサーやルー…」

シェルと言いかけて視線を下げた。


『世界がお前の敵になる』

化け物が!

言われて気付いた。


ルーシェルとラルフの二人が自分やアーサーと行動を共にすると言った理由。

恐らく二人の監視ではなく【自分】の監視なのだ。

神族と魔族が始原の石を吸収できる自分を見張らせているのだ。


イサミは顔を伏せると

「敵に、なるのかな」

みんなが

と呟いた。


大切な人たちだ。

戦いたくないし、敵なんてなりたくない。


だけど。

もし、天王や魔王が自分を倒すように命令したら…戦わなくてはいけなくなるのだろうか?


イサミはそう考えるだけで身体中の力が抜けるように感じた。

「僕は」

どうしたらいいんだろう

呟き、ふっと前に落ちた影に顔を上げた。


アルバートが袋を手に立っていたのである。

その横には馬車が止まっていた。


アルバートはイサミを見下ろし

「坊主、荷物をだせ」

この馬車に乗せて運んでやる

と告げた。


「その代わり、お前たち冒険者が読むという本を置いている古書屋から本を手に入れてくれ」

こいつがこれからの魔法開発に利用したいそうだ

言って顎をクィと馬車の方へと動かした。


そこに長髪の男性が立っており深く頭を下げた。

「私は北の国の王を務めております。ヒースと申します」

土地がら魔法の研究開発で国を下支えしていこうと思っており

「そのための参考として本を必要としております」

是非お願いしたい

そう告げた。


イサミは少し考え

「構いませんが、その…」

本は貴方がたには読めなかったと思います

と返した。


そうだ。

コーリコスのヒューズから本を見せてもらった時に自分には読めたがアーサー達には読めなかったのだ。


それに。

イサミは少し考え

「それに、冒険者と貴方達とは魔法の質が違うかと」

と言っていいのか悪いのか迷いつつ告げた。


ヒースはそれに笑むと

「魔法にお詳しいようですね」

と言い

「それも承知しております」

もしできるならば

「貴方の時間がある限りお手伝い願いたい」

貴方は読めるのですよね?

と返した。


イサミはヒースがある程度のことは理解しているのだと考え

「わかりました」

それなら

と答えた。


二人の遣り取りを見ていたアルバートは袋を出して

「よし、商談成立だな」

坊主

「荷物を預かってやる」

と告げた。


イサミは頷くと

「はい!」

と答え、倉庫から自分の荷物を取り出しアルバートへと渡した。


すべての道具の回収が終わるとイサミは古書屋の方を指差し

「倉庫屋、武器屋、全てが一か所に集まっているから」

古書屋もそこです

と足を踏み出した。


武器屋の隣に古書屋があり、やはり店には誰もいなかった。

元々冒険者は古書屋に金を払って本を手に入れていたわけではない。


一定のレベルに達して古書屋に行くと本を手に入れることが出来るというシステムなのだ。

反対にレベルに達していない場合は店主に『君にはまだ早いな』とあっさり断れるのである。


イサミは店の中に入り

「う~ん、何か後ろめたいよね」

と言いつつ、本棚の前で両手を合わせると

「ごめんなさい」

と封印されている本棚の扉に手をかけた。


瞬間にやはり魔法陣がフワリと浮かび、扉を開けることが出来たのである。


本棚には何種かの本があり、イサミはヒースを見ると

「魔法の本で、いいんですよね?」

と聞いた。


「その、他にも本はありますが」

剣技とか

打棍とか


それにヒースは笑むと

「いえ、魔法の本だけで」

略奪が目的ではありませんので

「消えていく遺産を回収して利用できればと思っているだけなので」

と告げた。


それにアルバートはフムッと腕を組んで考えると

「なら、俺は剣技とか武術系を預かろうか」

と告げた。


イサミは「えっ」と思ったものの、確かにこのまま置いていても砂漠の中へと消えていくのを知っている。


そして、ヒースが恐らくコーリコスの王なのだろう。

コーリコスがこの本を大切に保管したお陰で自分は今の最高レベルの魔法を手に入れることが出来たのだ。


イサミは魔法の本…つまり、未来においての魔導原書を手にするとそれをアルバートに渡した。


この魔導原書は何れ数奇な運命の後にイサミの元へ来るのだ。

イサミは全てを取り出すと続いて剣技の本も取り出し、アルバートへと渡した。


彼が未来にどんな道を歩むのかは知らないが、きっとこの本も世界のどこかで出会うことが出来るかもしれない。


イサミはそう考えながら

「また、会おうね」

と小さく呟きすべての本を取り出して彼らへと渡したのである。


日は南天を越えて夕刻へと変わり、イサミとヒースとアルバートは馬車を身近に置いて始まりの村の中央にある公園で野宿をすることとなった。


そのさい食事を終えると、ヒースは紙とペンを手にしてイサミに

「この魔法の本の一番レベルの低いものをよんでいただけないだろうか?」

と告げた。


イサミは本を手にすると

「魔導原書の中で一番低いのはこれかな」

と最初に手に入れる本を持つと

「読めばいいんですよね?」

と告げた。


ヒールは一瞬目を見開いたものの何も言わず

「お願いする」

と答えた。


イサミは本を開くとゆっくりと唇を開いた。

これが、未来においてイサミが知っている魔導原書の翻訳本になるとはこの時には気付かなかったのである。


夜は更け、静寂が広がると三人は深夜に眠りに入った。


イサミは馬車の中で寝袋に包まりながら頭上に広がる夜空を見つめ

「アーサー…何時かアーサーも敵になるのかな」

と呟いた。


ルーシェルやラルフがそれぞれの長である魔王と天王の命令で【始原の石】を取り込める自分を警戒して見張りに来たことは間違いない。


巨大すぎる力。

それを彼らが恐れるのは仕方ないことだ。


だが。

イサミは目を閉じると

「僕は皆と争いたくない」

と呟くとそのまま深い眠りへと落ちた。


彼らと…できるならば彼らと楽しく冒険が出来たら。

そう祈らずにはいられなかったのである。



■■■



翌朝。

朝の陽光が瞼に溢れ、イサミは小さく欠伸を漏らしながら目を開けるとぼんやりと周囲を見回した。


コーリコスの王城から始まりの村へと転移した。

理由はわからないが、あの砲撃を受け意識を失って目覚めたら始まりの村であった。


コシコシと瞼を擦り

「ん、これが夢だったらって思ったけど」

夢じゃないね

と思わず「だよね」と溜息と共にぼやき、既に起きて朝食の準備をしているアルフレッドとヒースを見た。


アルフレッドはイサミが目覚めたとこに気付くと

「お、起きたか」

手伝え

と手招きをして呼び寄せた。


イサミは寝袋から抜け出すと

「はい」

と答え、ほぼほぼ出来上がっている朝食を目に

「何をすればいいんですか?」

と聞いた。


アーサーといる時は何もすることがなかった。

全てをアーサーがしてくれていたからだ。


冒険者の傀儡だった頃はそれこそアイテムを口にするという事はあってもそれは食事と言う感覚ではなかった。

まだ、地球のいさみの記憶の中にあった彼の日常生活の方が似通っているのかもしれない。


アルフレッドはスープをカップに入れると

「その簡易テーブルの上に置いていけ」

と手渡した。


イサミは小さな携帯テーブルを見て頷くと順々に渡されたものを置いた。

こういう事も実はしたことがない。


イサミはアルフレッドやヒースが席に座り、三人で向かい合って食事を始めるのに

「…今度からはアーサーの手伝いできるよね」

と小さくつぶやいて、ふっとズールの言葉を蘇らせると視線を伏せた。


『世界がお前の敵になるだろう』


世界が自分の敵になる。

そう思うだけで胸が酷く軋む。


敵になどなりたくない。

ただただ自分はアーサーと世界を見て回りたいだけなのだ。


この世界のまだ見たことのない場所や色々なところを巡って新しい景色を見たいだけなのだ。


「僕は、望んでなんていない」

世界一の力など望んでいない。

思わず呟き、ふっと視線を感じて目を向けるとアルバートとヒールがキョンとみていた。


イサミは慌てて

「あ、独り言です」

と答え

「スープもパンも美味しいし、僕好きです」

と付け加えた。


アルバートはそれに

「そうか、冒険者ってのは食べるものが違うのかと思ったぜ」

と笑みを浮かべた。


イサミは笑みを浮かべると

「うーん、違う部分は多分にありましたけど」

食べるものは一緒です

と答えた。


ヒースはふっと笑い

「冒険者への興味はあるが」

俺はせっかく手に入れた冒険者の魔法の本とこの訳を纏めて研究に入りたいのだが

と馬車に積んでいる魔導原書を一瞥した。


アルバートはそれに

「そうか、まあ、そうだな」

俺の方もそろそろ国に帰らないとエレーナが心配するからな

と笑い

「じゃあ、朝食を終えたらコーリコスに向かって出発だな」

とイサミを見た。


「イサミ、お前はどうする?」


イサミは「え?」と思わぬ質問に驚いたものの、確かに今後どうするかは決めなければならない。


どうしてここにいるのか?

それすら分からない状態である。


帰り手段なのど到底わかるはずもない。

だが、とにかくその手段を探さなければならない。


アルバートはヌーンと考えるイサミに苦く笑みを浮かべると

「まあ、行く当てがなければ」

これも縁だ

「とりあえず俺の国でも見ておくか?」

と誘った。


「その前にヒースを送っていくけどな」


イサミは考えたものの、始まりの村へまた戻らなければならないのなら、彼の国を見た後でも良いかもしれないと思いながら

「あの、はい!」

宜しくお願いいたします

とペコリと頭を下げた。


アルバートは食事を終えて立ち上がると

「よい、じゃあ…出立だな」

と食器を纏めてテーブルを畳んだ。


朝の明るい陽光が始まりの村を照らす。

イサミは出立前にもう一度だけ始まりの村の中央に立って周囲を見回し、人っ子一人いない静寂に目を細めた。


冒険者の傀儡も。

町で商売をしていた人々も。


もう誰もいない。


そして。

数十年、数百年、いや、千年後かには砂漠となってしまうのだ。


「…あの頃の事を思い出して寂しい気持ちにはなるけど」

アーサーと出会った頃のような

「縋りつく気持ちにはなってない」


僕は…変わったのかな

「今は、アーサーやルーシェルさんやラルフさんと会いたい」


イサミはそう呟くとアルバート達のいる場所の方を見て駆け出した。

その日の午前に彼らは村を後に北方にあるコーリコスを目指して旅立ったのである。


■■■


既に砂漠化が進行している状態であったが所々に木々があった。

それが始まりの村を離れるごとに緑が深くなっていく。


北に位置するコーリコスについてもそれは同じで緑の大地が広がってはいた。

そして、二回の野宿の後にたどり着いたコーリコスはやはり、イサミの知っているコーリコスの王城であった。


ただ、魔導士の学校もなく城はそのままだが町の様相はかなり違っていた。

人々の活気はなくまた家もそれほど多くはない。


ヒースは門を開けさせ、馬車を中に入れると驚くイサミに笑みを見せた。

「周囲に緑はあるが冬は雪が深く他の季節も気温はそれほど上がらず作物は育ちにくい」

我が国は農産業だけでは成り立たない


イサミはヒースを見つめ

「それで、魔法開発なんですね」

自然環境に左右されることがないから

と告げた。


ヒースは頷き

「ああ、冒険者の魔法には色々あるようで国を守る力にも交易にも役立つと考えた」

問題は魔法を使えたのが神族や魔族、そして、冒険者だけということだ

と告げ

「ただ、冒険者の魔法は神族や魔族の種族的な特別性ではなくあの始原の石の力を引き出す方法だったと思っている」

ならば我々にも可能ではないかと

と付け加えた。


イサミは自分が使っている術を思い浮かべながら自分たちが術を使うときには必ず魔法陣が顕現していたことを思い、言葉によって魔法陣を顕現させ術を放っていたという事ではないかと考えた。


実際には本を読んでその型通りのことをしていただけなのだが。

多分、地球のいさみも原理までは知らなかったはずである。


イサミはヒースを見て

「僕たちは、多分、その…魔導原書に書かれていた説明通りに言葉を発していただけだから」

説明文にもそう言うの無かった気がするけど

と呟いた。


ヒースはそれに笑みを浮かべ

「なるほど」

一度ぜひこの眼で魔法をみてみたいし

「その魔導原書を君に読んでもらいたい」

と返した。


イサミは考えつつ

「バトル以外でも使えるのがあるから、それなら」

それに魔導原書を読むだけならできます

と返し

「確かに考えたらヒューズ王子の時代には魔法をつかえたよね」

と心で呟いた。


今、自分がいるのはそれぞれの国の建国の頃なのだろう。

始まりの村が現存していたことを考えてもアーサーと出会った時間よりも前の時間に違いない。


その間にきっと色々開発されたのだろう。


イサミはふっと自分がコーリコスの試験に落ちた時のことを思い出し

「そう言えば、あの石の反応で魔導士の素養があるかないかを見ていたよね」

と呟いた。


それは最初にイサミがコーリコスの魔導士試験を受けて落ちた原因となった石のことであった。


あの反応は…何だったのだろう。

ヒースとアルバートはちらりと考え事をするイサミを見た。


アルバートは息をつくと

「イサミ、どうかしたのか?」

と問いかけた。


イサミは頷き、ヒースを見ると

「その、魔法を使えるかどうかの素養をみる石って…知ってますか?」

と問いかけた。


ヒースは苦く笑って

「魔導士の素養を見る石、か」

それは何に反応する石なのかだな

と言い

「そういうモノがあるのなら是非手に入れたいが」

聞いたことはない

とイサミに告げた。


イサミも考えつつ

「ですよね」

とぼんやりと答え、城の門前にたどり着くとふっとアーサー達のことを思いだした。


あれからどうしているだろうか?

このコーリコスの城内で自分は怪物の核を利用した大砲に打たれてここに飛んだのだ。


あの後、あの怪物の核はどうなったのか。

アーサーやルーシェル、ラルフにあそこにいたみんながどうなったのか。


イサミはそう思い浮かべ、ズールの言葉を思い出した。

『世界が敵になる』


ルーシェルやラルフの長である魔王や天王は自分が始原の石を吸収できることを警戒して二人を見張りに付けた。

既にその発端と考えられるだろう。


もしかしたら、アーサーも。


イサミは俯き

「…僕は、嫌だな」

とぽつりとつぶやいた。


彼らと戦いたくない。

世界の敵になるくらいなら世界一の力なんていらない。


普通で良い。

強くなくても、皆と楽しく冒険できたら…それで十分なのだ。


立ち止まったイサミにアルバートは視線を向けると

「どうした、イサミ?」

と問いかけた。


イサミははっと顔を上げると首を振って

「いえ、その・・・大丈夫です」

と笑顔で答えた。


アルバートは少し不思議そうに見て

「そうか」

と応えると

「行くぞ」

と足を城へと踏み入れた。


イサミはその顔がどこかアーサーをほうふつとさせるのに目を瞬かせ

「…ん?アルバートさんってアーサーに似てる気がする」

と心で呟き、慌ててヒースとアルバートの後に付いて城へと入った。


そして、イサミが知っているほど重厚な雰囲気ではないが落ち着いた空気の漂うコーリコスの王城の中の一角にある客間へ案内され、そこで先ほど始まりの村で回収した本を前にしたのである。


ヒースは紙とペンを用意し

「君の言葉は通じる」

読んでもらえば記述は可能だ

と言い頷いた。


イサミは少々驚きつつ

「ヒューズさんと同じ方法だ」

と思いながら

「あの、その前に」

と言葉を続けた。


第三章 魔法陣の謎


「魔法を、実際にお見せします」

イサミはそう告げた。


ヒースは微笑むと

「ぜひお願いする」

と返した。


イサミの覚えた魔法はバトルのための攻撃魔法だけではない。


イサミは頷くと杖をカバンから取り出し

「我に応えよ、始原の原力…癒しの力」

ヒール

とアルバートに向かって回復呪文を唱えた。


別に怪我や生存値が低くなくてもこの術は使えるのだ。

MP消費が勿体ないだけで。


ヒースはそれを見て目を細めると

「なるほど」

と呟くと

「冒険者の魔法も陣を描いて発動するという事か」

と告げた。


イサミは「そうですね」と答えた。


ヒースは腕を組み

「だが、君の足元に浮かんだ魔法陣と共に浮かんだ文字らしいものは恐らく我々の知っている文字ではないな」

と告げた。


そう、二重円に幾何学模様が浮かび、その後に一つ目の円と二つ目の円の間に文字らしいものが浮かび上がったのだ。


ただ、それがヒースの知っている文字ではないので何を書いているのかは理解できなかったのである。


もちろん、イサミにも分からない。

そもそもイサミ自身には魔法陣の全景を見ることが出来ないのだ。


ヒースは手に入れた本をテーブルの上に置きイサミを見た。

「本の方も読んでくれないか?」


イサミは頷きかけてアルバートを見た。

アルバートには行くところがあるのだ。


そう、ヒースの国とアルバートの国は同じではない。


アルバートは二っと笑うと

「読んでやってくれ」

ヒースは俺の友だからな

「力になってやってくれ」

と告げた。


イサミはそれに少し視線を伏せると

「国が違うのに友達、なんですね」

と呟いた。


国同士の関係が良好な間は良いが、もしも、もしも、国同士が敵対したらどうなるのだろう。

そう、自分とアーサーもそうなのだ。


人族全てが自分を敵だと…あの世界に生きる人々すべてが敵だと言い出したら、アーサーも敵に回って自分を倒しに来るのだろうか。


アルバートはイサミの表情がかげるのを見て、優しく視線を向けると

「何か国同士の諍いで友人をなくしたのか?」

と問いかけた。


イサミは小さく首を振り

「いえ、そういうわけではないんですけど」

そうなってしまうのかなぁと思って

と呟いた。


アルバートとヒースを互いの顔を見合わせ同時に静かに笑んだ。

アルバートはイサミの肩に手を置くと

「で?イサミはどうなんだ?」

と問いかけた。


イサミは顔を上げると

「?僕?」

と短く返した。


アルバートは頷くと

「ああ、イサミは相手の国が敵対したら相手も嫌いになるのか?」

と問いかけた。


イサミは目を見開くと慌てて

「そんなことないです!」

僕はアーサーと敵対したくないし戦いたくないし

「アーサーとはずっと仲良くしていたいです」

と告げた。


「ずっと」

ずっと

「ずっと、冒険一緒にしたい」


アルバートは笑むと

「ならそれでいいじゃないか」

と告げた。


「イサミが国同士が敵対したら、そのアーサーって奴を嫌いになるなら」

それで終わりだ

「だが、イサミがアーサーと国同士や周りの状況がどうなっても、どうあっても、友としてありたいと思えばそう思い続ければいいだけだ」


イサミはそれに

「けど、アーサーがもし僕を敵だと思って戦ってきたら、僕、戦いたくないのに」

もし

と呟いた。


ヒースはそれに笑み

「なら、戦わない方法を探せばいいと思うが?」

そう言う事情で逃げるのは恥ではない

「分かってくれる日が来ないかも知れないが」

イサミがアーサーという友を大切に思い

「彼の幸せを思い続けるのは自由だからな」

と告げた。


「ただ、イサミの親友は真心が通じないやつか?」

国同士が険悪になったら直ぐにイサミを裏切るようなやつか?


イサミは首を振り

「アーサーもルーシェルさんもラルフさんもみんな僕に優しいし、本当なら言っちゃいけないことも僕のために言ってくれたし」

僕の心配してくれてる

「ただ、いつかみんな敵になるって言われて」

と返した。


アルバートはクスッと笑うと

「なら、悩む必要などないだろ?」

お前が誰を信じるかだ

「お前はお前の信じたいモノを信じて」

お前の守りたいモノを守り

「お前の正義を貫けばいい」

外野ではなくお前がどうかだ

と告げた。


「友を信じてやれ」


イサミは目を見開くと涙を滲ませた。


そうだ。

アーサーはずっと自分が始原の石を吸収出来ることなんて知ってた。


でも、変わりなくいつも自分と冒険してくれているのだ。


ルーシェルにしても魔王の不興を買っても自分達が見張りだと本当のことを言ってくれた。


それは自分を思ってくれての行動なのだ。


「僕が、ダメダメだったんだよね」

僕はみんなの敵にはならないし

「戦わない」


それだけで良いんだよね


アルバートもヒースは顔を見合わせて笑んだ。


イサミは微笑むと本を手に

「読みます!」

とページをめくった。


心は決まった。


帰りたい。

そう、アーサーたちのもとへ帰って自分の気持ちを伝えるのだ。


イサミは本を読みながらアーサーの事を思い浮かべ、帰還の道を探そうと決めたのである。



■■■


数冊の魔導原書を読み、イサミはアルバート共にコーリコスの王城で一泊した。


その間にイサミはヒースに頼みコーリコスの中を歩き回った。

自分が最後にいた場所はコーリコスの王城である。


帰還は最後にいた場所からではと考えなくもなかった。

が、イサミが大砲に打たれた王城の中庭へ行っても残念ながら戻れる場所はなかった。


そもそも。


イサミはコーリコスの城を一周して宛がわれた客室の窓際に立って

「どうしてこうなったか分からないし」

戻る方法とかどうなってたら戻るかとか分からないし

「戻れるのかな」

と呟いた。


そう言う事なのだ。


イサミは「移動魔法はあるけど効くのかな?」と一度目を閉じてすっと窓の向こうの月を見上げると

「でも、戻るからね」

アーサー

「僕、戻るから」

と告げるとベッドへと足を向けた。


夜は深々と降り積もり、その向こうに太陽の昇る朝が待ち構えていた。



第三章



翌朝。

朝食の席でアルバートはイサミに視線を向けた。

「俺はそろそろ国に帰らないといつまでも放置はできないからな」

イサミはどうする?


自分と一緒に来るのか、それとも行く当てがあるのか。

問い掛けたのである。


イサミは彼に聞かれ

「そうですよね」

僕がどうするか考えないといけないんですよね

と呟き

「その、元の場所に…アーサーのいるところに戻りたいんですけど」

今は方法が分からなくて

と告げた。


コーリコスの城を回って、自分が最後にいただろう場所に立っても何もなかった。

始まりの村でも戻ることはなかった。


ただ。

この時間の先にアーサー達がいる時間が続いているのならば…きっと巡り合える。


ならばその方法を手探りしながら探していくしかない。


アルバートはイサミが考えるのを見て

「ま、行く当てにも迷っているのなら俺の国に立ち寄るか?」

始まりの村で預かっている荷物もあるからな

と告げた。


イサミは「あ」と倉庫から引き出した荷物を預けっぱなしだと思い出し

「そう、ですよね」

色々試したいことがあるので

「それを試しながらアルバートさんの国に行きます」

と返した。


「戻った時に荷物をどこに取りに行けば良いか知っておかないといけないですし」


そう。

アーサーのいる未来のあの時に戻った後に荷物を何処へ探しに行けば良いか知っておかなければ手に入らないのだ。


イサミはそう答え

「よし、思いつく色々な方法を試してみよう」

と自分に檄を入ると朝食を口に運んだ。


それにアルバートもヒースも顔を見合わせると小さく笑って食事を始めた。


コーリコスの王城をアルバートとイサミが旅立ったのは太陽が少し昇った正午前であった。

アルバートの馬車に共にイサミも乗り込み見送りに王都の門まで姿を見せたヒースに手を振った。


「さようなら、ヒースさん!!」

必ず魔法使えるようになります!


そう叫んで、遠くなっていくコーリコスの王城を見つめた。

やがて、彼の血筋からヒューズが生まれ、魔導士学校を中心に魔導士が排出されていくのだ。

彼の思う国造りの一つが形となって七大国と並ぶ国となる。


イサミはコーリコスが見えなくなると前を向いて、伸びていく道を見つめた。


青い空と。

緑の木々と。

道は延々と続いていく。


アルバートは吹っ切れた表情のイサミを横目に

「ま、俺の国はもっと東にあるんだがな」

と告げ

「緑の多い、良い国だと俺は自負している」

と付け加えた。


イサミは笑顔で

「そうなんですね、楽しみです」

と答え

「僕、東の方にある国でとても良い国知ってます」

と告げた。


王城は綺麗で小さいが整備されていた。

アーサーの生まれた国。

エスターである。


アルバートは「そうか」と応えると

「なら、俺の国もその国に負けていられないか」

ま、弟が国を見ているから安心はしているが

「そろそろ本腰を入れて整えていかないとな」

と告げ、目を細めた。


コーリコスのヒースと共に始まりの村へと遠出をした。

かなり国を空けているが、弟王がいるので安心はしていた。


信頼できる兄弟だ。


イサミはアルバートの表情を見て小さく微笑み

「アルフレッドさんに似ているよね」

と呟いた。


アーサーの兄であるアルフレッドにアンソニーはどちらも仲が良く、アーサーを可愛がっていた。


エスターの国の兄弟は仲が良いのだ。


イサミは空を見上げ

「エスターは僕の国なんだよね」

アルフレッドさんがそうだって言ってくれたし

「帰りたくなったな」

と呟いた。


もうアルフレッドやアンソニーがいた時には戻れないだろう。

その遥か未来にまで自分はアーサーと共に歩んできたのだ。


「アーサーに会いたいなぁ」

イサミはそう小さく呟き、初めて郷愁と言う思いを感じたのである。


考えれば冒険者の傀儡だった頃は感情と言うモノが地球のいさみの借り物で、己自身に意思や感情はなかった。

だが。

あの時、バザールの会場で目覚めてから様々な感情が己の中に芽生え、知らなかった身体の感覚も知った。


暑い。

冷たい。


痛み。

癒し。

その扉を開いてくれたのはアーサーなのだ。


イサミは何処か心地よい馬車の揺れに身を任せながら目の前に広がる光景を見つめた。


二人が乗った馬車はコーリコスを出ると森の木々の間の道を行き、やがて、木々が草叢に変わると山の峰と延々と広がる草原の光景が広がった。


村や町の姿はなく、ただただ、蛇行した土の路と緑の草原が広がっている。


太陽はゆっくりと南天を越え、やがて、赤く巨大化しながら西の空へと沈んだ。

アルバートは草原の道でも少し広い場所で馬車を止めると

「今日はここで野宿だな」

と火をおこして、夕食の準備に取り掛かった。


ヒースがいくらかの食料を出る時に渡してくれたのだ。

使い古されたフライパンにベーコンと野菜を入れて炒め、主食はパンであった。


イサミは元々料理などしなかったので精々できることは野菜を洗うことくらいであった。

が、アルバートはナイフをイサミに渡し

「ま、料理くらいできないと旅は出来ないぞ」

と手伝わせ不器用にナイフを扱う様に苦い笑いをうかべた。


夜の野宿は月が出ていても闇は深く何処からか野生の動物の鳴き声が響いていた。


イサミは馬車の中で毛布にくるまって眠り、同じようにアルバートも向かい合うように眠りに落ちた。


何もない草原や森を抜け、二日の野宿の後に小高い丘を越えて見えてきたのはイサミが知っている王城であった。


「エスターだ」


それにアルバートは指をさすと

「?ああ、あれが俺の国だ」

エスター王国だ

「もっとも、風来坊な俺じゃなくて弟が仕切ってくれているけどな」

と笑った。


イサミは驚いてアルバートを見てハッと気付いた。

アーサーに似ているのも。

アルフレッドに似ているのも。

彼らの祖先なのだからそうだったのだ。


懐かしい。

アーサー達が自分に贈ってくれた故郷。


イサミは微笑み

「そうだったんだ」

と呟くと馬車から降り立ち、遠くに見えるエスターの国の王城を見つめた。


緑の峰に囲まれた王城。

イサミは「帰りたい」と呟くと唇を開いた。


「あそこが僕のホームなら」

我に応えよ、始原の原力…道を示せ

「ヴィラージュ・シュトラーセ・ルヴニール」


…アーサーのところへ戻りたい…


本来はホームへ戻る帰還呪文である。

まして、今いる場所は遠い過去だ。


イサミはふぅと息を吐きだし

「やっぱり無理だよね」

と呟いて、ふっと目の前の光景がゆがみだすのに目を見開いた。


アルバートもまた色をなくしていくイサミに

「おい!」

と足を踏み出した。


イサミはアルバートを見ると意を決し

「…アルバートさん!!」

貴方が作る国は

「エスター王国は…僕の故郷です!!」

凄く大好きな国です!!

「だから」

と叫んだ。


アルバートは足を止めると

「…イサミ」

と呟き、笑みを浮かべた。


「俺の城に荷物を預かっておいてやる!!」

何時か取りにこい!!


イサミは頷くと手を振った。

そして、完全にアルバートや馬車の姿が消え去り、今まで見ていた緑と色の違う丘の緑の色にすぅと息を吸い込むと

「きっと…ただいまだよね」

と呟き、踵を返してエスターの方へと向いた。


そこに驚いた表情でイサミを見ているアーサーの姿があった。

「イサミ!!」


イサミは笑顔で足を踏み出すと

「アーサー!!!」

と駆けてアーサーへと飛びついた。


「ただいま、アーサー」


アーサーはイサミを抱きしめ

「無事でよかった」

と言い、イサミの顔を見下ろしすっきりした表情のイサミに笑みを深めた。


「おかえり、イサミ」

俺はお前と共に旅をするためにいる

「忘れるな、俺はお前と一緒に世界の色々な場所を見て回りたいと思っている」


ずっと。

ずっと。

「お前の永遠と共にある」


イサミは何度も頷き

「ありがとうアーサー」

ごめんね

「僕もアーサーと一緒に冒険する為にいるんだよ」

信じるから

「アーサーを信じてる」

ずっと

ずっと

ずっと

「一緒に色々な場所を見ようね」

と笑いかけた。


それにアーサーの先を行っていたルーシェルとラルフが気付き、取って返して戻ってくるとイサミを見つけてルーシェルが駆け寄ってきた。


「まったく、心配させやがって」

お前はまだ俺との契約を果たしていねぇし

「てめーを敵に回して勝てると思うほどうぬぼれていねぇーよ」

そう言ってイサミの頭をガシガシと撫でた。


ラルフはそれに小さく笑み

「…良く戻ったな」

お前に嫉妬する下らぬ者の言葉など信じないことだな

「お前の側にいてずっと守ってくれている者の言葉を良く聞け」

お前が信じるに値する者がどちらであるか分からない愚か者ではないと思っている

と告げた。


イサミは頷くと

「ルーシェルさんにラルフさん、ありがとうございます」

きっと天王や魔王は僕を二人が見張っていることを知られない方が良いと思っていたんだと思います

「だけど、教えてくれたんですよね」

と言い

「僕、皆さんを信じます」

皆さんが大好きなので

と笑った。


ルーシェルは飾りのないイサミの言葉に照れ隠しに舌打ちして

「俺は魔族だからな」

ま、あれは口が滑ったってことだ

とぼやいた。


ラルフは真っ直ぐイサミを見ると

「冒険者の傀儡とはそういうものなのか」

普通は正直に言葉にするのは難しいのだが

「お前の言葉には裏がないとわかる」

私もイサミ、お前を良いと思っている

と答えた。


アーサーはイサミを見ると

「じゃあ、冒険の再開だな」

と告げた。


イサミは頷きハッとすると

「あ、その前にエスターに寄っていい?」

僕の倉庫に預けていた荷物があるかもしれないから

と答えた。


アーサーは頷くと

「ああ、ちょうど俺も国へ帰ろうと思っていたところだからな」

心を落ち着かせるにはやはり故郷が良いと思ってな

と答えた。


ルーシェルは

「俺は仕方ないから、一応付き合っていただけだ」

と足を踏み出した。


ラルフもまた

「まあ、どちらにしてもイサミの居場所の伝手がなかったからな」

と微笑んだ。


イサミは笑顔で

「ありがとうございます」

と答え、アーサーの手を握りしめて足を踏み出した。


4人は遠くに見えるエスターに向かって足を踏み出したのである。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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