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オーバーディスティニー  作者: 如月いさみ


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20/20

ENDING

長いような短いような。

現実のような夢のような。


そんな冒険の時間だった。


最終部 第一章 終焉の地


ギガント族のマシュと不毛の大地の入口で別れ、イサミたちは意を決すると不毛の大地と呼ばれる緑のない岩山と砂とだけの大地へと足を踏み入れた。


風が岩と岩の間を駆け抜けていく。

道に沿うように蛇行して見える夕刻の朱の空には同色の雲が浮かんでいた。


イサミは足を止めて空を見上げ

「僕はずっとどこか僕の意思以外の運命的なもので冒険をしてきた気がしていたけど」

でも今わかるんだ

「僕はきっと僕の意思で冒険をして楽しんできたんだと思う」

と呟いた。


地球のいさみのゲームでのアバター。

意思のない冒険者の傀儡。


だけど。

だけど。


本当は自分が作り出しそこで息づく者たちが作り上げた世界を見回りたくなったから目を覚ましたのだ。


アーサーは笑みを浮かべ

「初めから、イサミはイサミ自身の意思で冒険をしていた」

これからも

「そうすればいいってことだろ」

とイサミの横顔を見て告げた。


イサミはアーサーを見返すと

「そうだよね」

もっと

もっと

「世界を見て回ろうね」

と笑顔を浮かべ、横に目を向けた。


そこにルーシェルとラルフが二人を見守るように歩いていた。

セレトスから始まった怪物の討伐の旅。

人族の土地からエルフの土地。

そしてヨトムに天に地下と様々な地に赴いてここへとたどり着いた。


怪物を作り出した最初の場所であり、怪物を作り出した存在が待ち構える場所。

そして世界の始まりが記された場所でもあった。


ルーシェルは目の前に立ちはだかる岩の洞窟の入口を前に立ち止まり

「俺やラルフは言わば尻ぬぐいをさせられていたってことだな」

面倒くさい役を押し付けられたぜ

「戻ったら魔王に請求してやる」

と肩を竦めた。


ラルフはそれに

「これも役目」

何れは誰かがやらなければならないことだったのだ

「反対にアーサー…お前には感謝すべきだな」

と告げた。


「考えれば巻き込まれたという形だったのはお前だったからな」


アーサーはニッと笑うと

「別に巻き込まれたわけじゃねぇよ」

俺はイサミと旅を楽しんでいるだけだからな

と返した。


イサミは彼らを見ると笑みを浮かべ

「良かったら、また冒険してください」

いさみや冒険者は共闘が終わったら

「共闘ありがとうございます!またよろしくお願いいたします!」

っていうんだ

と告げた。


この戦いが終わったら

「言いますね!」


それにルーシェルが嫌そうに

「ああ!?面倒くせぇ」

冒険者ってのはそう言う風にしょっちゅう戦っていたのかよ

と業とらしく心にもない悪態をつき

「ま、暇になったら考えてやる」

と答えた。


ラルフは頷き

「わかった、天王の許しを得たら任務のない時は付き合おう」

と真面目に返した。


イサミはアーサーを見て小さく笑い、直ぐに正面を見据えると

「行こう」

と足を踏み出した。


彼らを追いかけるように夜が背後の東から迫ってきていた。


■■■


岩に掘られた扉。

4人が前に立つと静かに開いた。


空は茜の色が濃く深く藍に近い色合いに変わり始めている。

外は夜へと変わり始めていたのである。


イサミはコクリと固唾を飲み込むとアーサーを見た。

アーサーは笑みを浮かべ

「行こうぜ」

と呼びかけた。


ルーシェルもラルフも覚悟は決めている。


イサミは頷くと

「はい」

と答え、扉の中へと足を踏み入れた。


そこは深い闇と壁が作る入り組んだ迷路となっていた。


最終部 第二章 コカドリユ


目を凝らしても闇しか見えない。

というか、真っ暗である。


イサミはカバンを漁ると丸いふわふわと浮くライトを取り出した。

「まさか、これを使う日が来るなんて」

ヴァステーの地下牢の時の限定アイテムだったのに

「何か感動」


…。

…。

…。


何故?

何が?

どうして?

と太陽の杖を手にしたルーシェルはちらりとアーサーを見た。


どうしてか聞けと言外に告げる視線を向けたのである。

ラルフも沈黙を守りつつジッとアーサーを見つめた。


デジャブである。


アーサーはハハッと軽く笑い、イサミを見ると

「冒険者にとっては感動することなのか?」

とフムッと考える素振りを見せた。


イサミは頷き

「うん、ヴァステーの地下牢のダンジョンを抜ける時だけしか使わないと思っていたから」

そう言う事ってたまにあるんだ

「そのクエストを解決するためだけにしか使わないアイテムっていうの」

だから

「他でも使うことになると驚くしこんなところでも使うんだーって感動するんだよ」

と告げた。


丁寧な説明なのだろうが…分からない。


ラルフは冷静に

「冒険者だけが持つ感覚なのだろう」

そう言う事もあると思えば良いかもしれんな

と呟いた。


アーサーもあっさり

「そうだな」

と理解した。


ルーシェルは

「あー、もう面倒くせぇ」

そう言う事で構わねぇ

と言い、太陽の杖を掲げ

「我の命に従いその輝きを放て」

と光らせた。


太陽の杖である。

そういう使い道もあるのだ。


イサミは目を見開いてそれを見ると

「凄いです!」

さすが太陽の杖ですね!

「そんな使い方があるなんてすごいです!」

と興奮した。


ルーシェルはふっと笑うと

「冒険者のあるあるでもう構わねぇ」

と己に言い聞かせるように呟き

「先を行け」

と促した。


アーサーはニヤニヤ笑いながら

「考えることを放棄したな」

と心で呟いた。


イサミは「はい」と応えると二つの光で明るくなった通路を歩き始めた。


その先に一体の怪物が彼らの行く手を阻むように待ち構えていた。

巨大なトカゲの姿をした怪物。


イサミは少し開けた空間に威圧的な空気を漂わせて右や左にうろうろと動くその姿を見て

「コカドリユ…やっぱりここヴァステー地下牢だったんじゃないのかな」

と呟いた。


アーサーはそれに

「イサミ、それは地殻変動で位置が変わってここにあるってことだよな?」

と聞いた。


イサミは頷き

「多分、コカドリユの後に3体倒して最深部にたどり着くと思う」

コカドリユ

「モーショポ…鳥の怪物」

最後はヤクルスっていう羽の生えた蛇みたいなやつだよ

と答えた。


「変わっていなければ、だけど」


三人はコカドリユを見つめ

「「「なるほど」」」

と答えると足を踏み出した。


最初のバトルの始まりであった。


コカドリユは低い不気味な声をあげ、4人を目にすると地響きをあげて突進してきた。

イサミとアーサーは顔を見合わせると同時に左右へと飛びのいた。


ルーシェルとラルフも飛びのき、ルーシェルは不敵に笑うと

「図体がデカいわりに動きは俊敏だな」

と言い、剣を両手に持つと

「しゃーねぇ、働くか」

と突っ込んだ。


アーサーは「あんたも早ぇんだよ」とぼやき

「ヘイト負けするわけにはいかねぇな」

とコカドリユに切りかかった。


ラルフは小さく息を吐きだすと

「…あれは個人技には長けているが集団戦にはやはり向いていないな」

と冷静に評価し弓を構えた。


ルーシェルはコカドリユの噛みつき攻撃を交しながら

「ああ!?普通の集団戦ならセオリーを踏むに決まってるだろうが」

お前たちだから俺は一番力が出る戦い方をすることにしてる

「気を使って戦うのは面倒臭ぇからな」

と笑った。


アーサーは「上等!」と言い

「ヴェヒッテン・アトラクト!!」

向きやがれ!!

と剣を翳し、コカドリユの視線を引き付けた。


本来ならば両手剣を利用する冒険者がレベル30で覚えるスキル。

イサミのバディシステムで結ばれていたなおひこが使っていたヘイトを上げつつ味方の防御も高める技の一つであった。


ルーシェルはコカドリユが完全にアーサーをターゲットに据えると

「やるぜ」

と剣に魔力を溜め、闇色に輝かせるとその力を剣の力に乗せて解き放った。


ラルフも矢に魔力を込めて、弦を放した。

二人の攻撃はコカドリユの体力の半分を奪い、大きく仰け反らした。


イサミはそれを見つめ杖を手にすると

「コカドリユの攻撃は近距離範囲攻撃と直接攻撃の二パターンのみで、遠距離攻撃はない」

と以前のバトルを思い出しながら唇を開いた。


グラキエスワンドを翳し

「我に応えよ、始原の原力…ヴァンドトルネード」

と氷の竜巻をおこして地を凍らせると、素早くソニアメイルに杖を変えて詠唱した。


「我に応えよ、始原の原力…アルクスプランドゥール!!」

魔法陣が浮かび上がり光の矢がコカドリユを貫き霧散させた。


身体は消え去り、黒いゲルに包まれた欠片が氷の上に落ちた。


イサミはそれを目に

「レビンアロー」

と光の矢で分離し、欠片を回収した。


ルーシェルもまた太陽の杖を手に

「我に従え、光の杖…ソレイユグリューエン」

と黒いゲルを砂に戻すと回収した。


確かに黒いゲルは冒険者の傀儡の身体を組織する泥であった。

泥は泥。

問題は欠片の方にあったのだ。


それこそがこのダンジョンの最深部にいる人物のみが作りえたものであった。


イサミやなおひこ。いや、他の冒険者の傀儡が作られる前に魔王と天王によって作られた最初の最初の冒険者…所謂、地球のゲームで言うところの【β版】の冒険者の傀儡。


その中に紛れ込んだイサミと同じ存在。


イサミはそのことを思い、前を見据えた。

「決着をつけないと」

小さく心で呟き横に立ったアーサーやルーシェル、ラルフを見た。


「次へ行きましょう」


それに三人も頷き、再び彼らの前に続く闇の蛇行した洞窟の道を進み始めた。

岩を繰り抜いたように作られたダンジョンは外からの光はなく闇が深々と降り積もっている。


通常のダンジョンならばモブモンスターがいるのだが、ここにはいない。


イサミもアーサーもルーシェルもラルフも沈黙を守って歩いていたが、前方に開けた空間を認識すると足を止めた。


そこに次のモンスターが待ち構えていたからである。

第二の関門…モーショポであった。


■■■


闇の回廊を抜けた先にあった拓けた空間。

そこで蠢く生物の甲高い鳴き声がイサミたちの耳に届いていた。


イサミは三人を見ると

「間違いない…モーショポだよ」

大きな鳥の姿をしたモンスターで

「超音波と羽根を飛ばして攻撃してくるんだ」

と告げた。


「超音波に直撃すると気絶するから気を付けて」


アーサーはニッと笑うと

「了解」

と答え、足を踏み出した。


最終部 第三章 モーショポ


アーサーはモーショポに向かいながらエクスカリバーを構えると

「ルーシェルに先を越されると向かせるのが大変だからな」

と先の戦いでの事を言外に告げて、ルーシェルを横目で見た。


スピードではどうしても負けるのである。


ルーシェルはケッと鼻で笑うと

「俺よりイサミの方がヘイト高ぇだろうが」

俺に梃子摺るなら文句の前に精進しやがれ

と言い、モーショポへと突っ込んだ。


アーサーも負けずに

「負けるかよ」

とモーショポへとエクスカリバーを向けた。


「スクリュードライバー!!」

風の力を纏わせ剣先を突き立てた。


これもまた冒険者のスキル。

レベル50で覚える物攻のスキルであった。


モーショポは嘶くように声を上げてアーサーへと向くと口を開いた。


アーサーはその動作に

「きたか」

と吐き出された超音波を避けるとエクスカリバーを掲げ

「ヴェヒッテン・アトラクト!!」

と更にヘイトを上げてモーショポを引き付けた。


ルーシェルはそのタイミングを見計らってモーショポへと突っ込むと、素早く何度も斬りつけた。


絶妙のタイミングである。

ラルフはふっと笑うと

「さすが…魂の双子と言うべきか」

と呟き矢をつがえ、放った。


ルーシェルの剣にはデバフが掛かっているのだろうモーショポの動きが鈍くなる。

その効果と相まってルーシェルは多段攻撃を仕掛けるのである。


イサミはその攻撃にすらターゲットを移動させないアーサーのヘイトに杖を構えると唇を開いた。

「我に応えよ、始原の原力…ヴァンドトルネード」

倒した怪物が再度蘇らないように大地を凍らせた。


核が地に逃げないようにしているのである。


そして、杖を変えると

「我に応えよ、始原の原力…猛火で焼き尽くせ!」

ヴァルカン・エクスハティオ!!

唱え、魔法陣を己の下に描くとモーショポの足元から巨大な火柱を立てた。


大地から天へと上る火柱はそこにあるモンスターを一気に倒すほどの威力がある。

モーショポのHPは激減し、見計らったようにラルフが

「これで終わりだ」

と三発の矢を連射して仕留めた。


モーショポは霧散し氷の上に黒いゲルに包まれた連結魔導石の欠片が残り、イサミはレビンアローで分離すると欠片を回収した。


ルーシェルはゲルを砂に変えて回収し終えると息をついて

「あと一匹ってことだな」

とイサミを見た。


イサミは頷くと

「ヴァステーの地下牢ではそうだったんだけど」

と言い

「変わってなければ…次はヤクルスで最深部の扉が開くはず」

と告げた。


地殻変動。

それから数千年。


変化していてもおかしくはないが…ダンジョンの中はイサミが記憶と変わりがない。

そう、まるで時を止めたままのような状況である。


もしかしたら。

「……真似て作ったのかな?」


ラルフは考えに耽るイサミを横目に軽く肩を叩くと

「どうであっても行くしかない」

モンスターの根源を断たねば新しいモンスターが生まれ

「これまでの回収も意味を失う」

と告げた。


世界はモンスターに怯えたまま暮らすことになるということである。


イサミは頷き

「ですよね」

出来るならばやめてもらえれば助かりますよね

と呟き、足を踏み出した。


■■■


地下牢の最後の番人はヤクルスというモンスターであった。


イサミの遠い記憶にあるダンジョンの道を進み、前と同じ場所に羽を生やした蛇の姿をした巨大なヤクルスというモンスターが待ち構えていた。


最終部 第四章 ヤクルス


ヤクルスの特徴の一つは空を飛ぶという事であった。

洞窟内であっても羽根で飛行し上空から攻撃を仕掛けてくるのである。


しかもHPは高く魔攻が通りにくいのでこれまでのような大ダメージを与えることはできなかった。

しかも、その攻撃は広範囲でイサミはヤクルスが上空に上がると即座に守りの術を展開しなければならなかったために時間がかかるものであった。


「我に応えよ!始原の原力…守りの力」

サークレッドバリア!!

幸いなことに狭い洞窟内なので全員を守るだけの効果範囲がある。


ヤクルスは自らの身体を纏う硬質のうろこを飛ばして攻撃しイサミたちにダメージを与え、どちらかというとHPを削り合いながらの根競べの戦いであった。


アーサーはエクスカリバーを掲げ

「ヴェヒッテンアトラクト!!」

とヤクルスを挑発すると壁へと誘った。


ドーム型になっているので壁へ押し込めると天井との差がなくなり上方からの攻撃をしにくくなるのである。

しかも動きも封じ込めることができる。


ルーシェルは汗をにじませつつ

「結構考えてやがる」

と呟くと

「一気に片をつけるぜ」

と突っ込んだ。


イサミも杖をグランキエスワンドに持ち替えると

「ヴァンドトルネード!」

と地を凍らせた。


終わらせるつもりであった。


ラルフもまた弓をつがえ

「ここで終わらせなければ…こちらが不利だな」

と呟き

「全てを貫く闇の矢」

ヤクルスの芯間を抜け!

と矢を放った。


総攻撃であった。


イサミはヤクルスのHPが急速に減るのを見て

「凄い」

と呟くと杖を火力の出るウィズダムロッドに変えて

「これで終わらせる」

我に応えよ、始原の原力

「アルクスプランドゥール!!」

と三つの魔法陣を前に描きそこから発せられる光の筋でヤクルスを貫いた。


ヤクルスは大きく畝って倒れると霧散し、黒いゲルに包まれた欠片が氷の地の上に落ちた。


イサミはレビンアローで分離すると欠片を吸収し息を付いた。

「やっぱり、魔攻が通りにくかったね」

と言い、洞窟の奥の扉が開くのを見た。


最深部への扉であった。


アーサーは汗を拭いつつイサミの側に行くと

「いよいよだな」

と告げた。


ルーシェルもラルフも臨戦態勢のまま二人を一瞥すると扉を見つめた。


そう、その向こうに怪物を産み出した存在が待ち構えていたのである。

数千年…この世界を混乱させ続けた元凶を作り出した存在。


それはイサミが身体を得る前に生まれ落ちた最初の冒険者…であった。

4人は足を進めると扉を抜け、黄金の髪をしたイサミと同じように意思を持つ冒険者と向かい合う事になったのである。


■■■


泥から作られた冒険者の傀儡。

本来ならば意思など持っているはずがない人形であった。


だが、イサミは意思を持って目覚めた。

そして、もう一人…黄金の髪に精悍な容貌をした彼の存在もまた意思を持って存在していたのである。


「よく、来たな」

いや

「この世界の意志からすれば予定調和と言うやつかもしれないな」


ロキは言いイサミを見つめた。

その視線には敵意はない。


だが、戦う意思はうかがえた。


最終部 第五章 ロキ


イサミは彼を見つめ返し

「僕はこの世界を作ったけれど、もう、この世界が何を目指し何処へ行こうとしているのかわかりません」

ただ

「貴方が作り出した怪物を封印しなければ、僕の大切な人たちが困るから…それを止めに来ただけです」

と告げ、視線を少し伏せると

「それと…多分、心のどこかで地球のいさみが持っていた冒険者の目的が残っているのだと思います。それも僕の一部になったから」

彼のゲームの感覚が

と付け加えた。


怪物を倒してレベルを上げる。

そして、色々なところを回って冒険を楽しむ。


ロキはふっと笑うと

「なるほど、な」

つまり

「言い換えれば世界の意志ではなく…あくまで自身の意思だということか」

と苦くつぶやいた。


イサミは頷き

「確かに僕がこの身体で目覚めたことは世界の意志かもしれない」

だけど

「僕は僕の意思でここへ来たんです」

怪物を産み出すのをやめてください

と告げた。


「どういう形であれ、この世界で貴方は唯一の僕と同じ冒険者の傀儡だから」

戦いたくないです


彼は酷薄な笑みを浮かべると

「それは、無理だな」

と言い、手を前に出し

「ゲームのβ版が終了し誰もいなくなった…その世界の中で俺だけ残った」

この世界の人間はどいつもこいつも俺を蔑んだ

「冒険者の傀儡だというだけで」

受け入れようとはしなかった

「同じ存在はいない…味方などどこにも」

と手を強く握りしめ

「その絶望と憎しみの中で俺だけに与えられたこの石の力を引き出す魔術を知っているとそして俺は怪物を産み出した」

と右手に剣を持ち、左手に盾を構えた。


「怪物の誕生を止めたければ俺を倒せ」

俺は…お前の冒険のラスボスになってやろう


イサミは杖を手にすると

「その孤独と絶望は理解できます」

僕も…同じだったから

「だから、貴方を救います」

と唇を開いた。


もしも。

もしも、アーサーがいなかったら…自分もこの世界の中で孤独に苛まされて絶望を感じていただろう。


心を閉ざし『何故こんな目に』と運命や世界に恨みを覚えていたかもしれない。


だけど、アーサーの存在が自分を救ってくれたのだ。

ずっと。

ずっと。

自分が存在したその時から…なおひこというバディとして、そして、アーサーという今を共に生きてくれる存在として。


ずっと。

ずっと。

孤独から救ってくれていた。


だから、今こうして過たずに居られるのだ。

人は……いや、生命と言うものはきっと孤独の中では生きていけないのだ。


「この戦いで怪物の根を断ち切る」


イサミの言葉にアーサーもルーシェルもラルフも頷いた。

アーサーは飛び出すと

「これ以上怪物を作られると世界の混乱は収まらない」

そうしたら

「俺とイサミの故郷も巻き込まれるからな」

絶対にここで終わらせる

と切りかかった。


ロキは避けると

「俺は世界が産み出した世界の意志だ」

怪物を作らせたのは世界と言うことになる

「世界の意志を覆せるか!?」

とアーサーの剣を盾で止めた。


ルーシェルはその間隙を縫って

「本当にめんどくせぇな」

世界の意志だとか関係ねぇお前の意志だろうが!

「これ以上面倒くさい状況になるのはごめんだってことだ」

と男へと剣を振り下ろした。


ラルフもまた矢を放った。

「天も地も…そして、中の国も落ち着かねば平和にはならん」

その為にもここで全ての元凶を断ち切る


ロキは大きく笑うと気の圧力で彼らを吹き飛ばし身体を変化させた。

それはもう冒険者の傀儡の姿ではなかった。


巨大な光り輝く巨神であった。


そして手をイサミに向けると

「我に応えよ、始原の原力…ワールドシャイン!」

と手の前に魔法陣を浮かべるとそこから光を放った。


イサミは咄嗟に杖を構えると

「守りの力!」

バリア!

と自身の前に光の盾を掲げた。


光はその盾を貫くとイサミを弾き飛ばした。


アーサーもルーシェルもラルフも驚いてイサミを見た。

イサミはユラリと立ち上がると

「大丈夫です!」

と杖を構え

「僕の知らないスキル」

恐らくβ版の特殊スキル

と呟いた。


巨神は静かに笑むと

「そうだ」

これが分るという事は杖以外のスキルも熟知しているという事か

と告げた。


イサミは息を吐きだし

「僕を生んでくれたいさみは僕のメインの杖となおひこの剣とそれ以外の弓も拳も調べていたから」

と言い

「貴方は拳みたいだけど…そのスキルは拳にもなかった」

と見た。


巨神は拳を見せ

「その通りだ」

と言い

「壊れ性能で…消されたということだ」

と笑った。


「だが、それだけではない」


巨神は言い腕をゆっくりと引いた。


イサミは三人を見ると

「アーサー、ルーシェルさんもラルフさんもサークルの中に入って!!」

と叫ぶと

「我に応えよ、始原の原力!!」

サークレッドバリア!!

「それから…」

ヒーリングサークル!!

とバリアと同時に重ねるように持続回復をかけた。


巨神は同時に腕を押し出した。


「根絶せよ…」

カタストロフ!


空間が波打つように揺らぎ衝撃が四人を襲った。

バリアを張っているとは言えダメージ軽減以上の威力で攻撃されればダメージはあるのだ。


アーサーはイサミの前に立ち、ラルフもまたルーシェルの前に立った。

二人とも衝撃に顔を歪めたものの起動回復により持ち堪えるとラルフが先陣を切り、矢を放った。


「スリープアロー」

矢は巨神の影を射抜き、巨神はガッと動きを止めた。


アーサーは駆け出すと

「ヴェヒッテンアトラクト!!」

と巨神の視線を向けさせたのである。


イサミは息を吸い込むと杖を前に

「ソウサオブグラディウス」

光の剣よ我に力を

と杖を剣に変えて駆け出した。


「スカイブレイド!!」

剣を振り上げ振り下ろした。


ルーシェルもまた二刀流で切りつけた。


イサミはレビンアローと剣のスキルを交互に混ぜながら巨神にダメージを与えた。

巨神はラルフの放った行動阻害の呪から解放されると

「この程度で」

とアーサーに拳を降ろした。


アーサーは避け

「スクリュードライバー」

と切りかかった。


ラルフもまた矢を放ち徐々に巨神のHPを削った。

が、巨神はにやりと笑うと

「全滅するがいい」

と両手を翳した。


「俺は世界の意志だ」

こうやって力を放出することもできる


両手は光り黒い玉が浮かび上がった。

恐らくスキルではない。


そう、石の純粋な力の塊である。


イサミは剣を構えると

「アーサー!ルーシェルさん!ラルフさん…僕の背後に回って!!」

この一撃を止めたら

「倒します!」

と言い剣を前にかざすと

「貴方が世界の意志なら」

僕はこの世界を作った責任者として貴方を止める

「だけど今ならわかる」

僕は…僕の意思でずっと生きてきた

「この世界はただ眠っていた僕を起こしてくれただけだ。その後の世界を守りたいのも、アーサーやルーシェルさんやラルフさんと旅をしてきたことも」

全部全部

「僕が望んだ…僕の意思だ!!」

と叫ぶと

「我に応えよ、あらゆる衝撃から守れ!!」

サンクチュアリガーディアン!!

と光の剣によって強力な盾を出現させた。


黒い玉がぶつかり光の盾とせめぎ合うように力をぶつかり合わせた。

玉は盾の前で破裂すると霧散し、イサミは飛び出すと巨神の足元に剣を突き立てた。


「我に応えよ、始原の原力」


同時にラルフは矢を放ち、ルーシェルもまた巨神へと剣を走らせた。

アーサーはエクスカリバーを振り上げると

「ダウンフォールインパクト!!」

と大地を切り裂くように振り下ろした。


イサミは巨神を見ると

「貴方にも貴方の意志がある」

それはきっと

「この世界で冒険した後に……貴方の世界に戻りたかった」

ごめんなさい

「今から貴方を解放する」

と笑みを見せると唇を開いた。


…ダークマターフィールド!!…


黒い魔法陣が広がり巨神を飲み込むと光の柱を天地に走らせた。

巨神は身体が消えていくのを前に

「…世界は、俺をこの世界に閉じ込め…孤独を…与えてきた」

だから

「俺は世界を…」

と呟いた。


イサミは巨神が消え去り巨大な連結魔導石を抱きしめると周囲を巡る光を片手に

「僕は貴方の時にきっと応えきれなかったんだと思います。そのせいで長いあいだ閉じ込めてしまってすみません」

さあ貴方の世界へ!

と巨大な連結魔導石を吸収し、周囲を巡っていた光を上に向かって放った。


その光は天井を突き抜けるとイサミがどこかで見たような景色を一瞬広げてそこへと消え去った。


イサミはそれを見つめ

「僕はいさみの中から生まれたと思っていたけど、本当はいさみのきっとこの世界を知ろうというワクワクとした冒険心に触れて目覚めただけだったんだ」

と呟き

「でも、やっぱり僕の中にはいさみがいて……あの世界もまた僕の故郷の一つなんだと思う。それが彼の中にも少しだけ残ってくれていると嬉しいかもしれないけど」

最初に抱いた冒険のワクワクと言う心が、と告げた。


ただ、今はもう自分がこの世界の存在だと分かる。


そう、アーサーやルーシェル、それにラルフ。

それにアルフレッドやアンソニー。

今まで触れ合った種族を越えた人々。

そして、自分はその全てを守りたいと思っている。


思い出したのだ。

この愛する世界を最初に作ったのは自分なのだ。

自分の心から生まれた世界はいつの間にか独立して成長を始めていただけなのだ。


イサミは連結魔導石を吸収し終えて本当の心を取り戻すとアーサーやルーシェルやラルフを見た。

洞窟内は地響きを立てて崩れ始めていた。


ラルフはイサミの顔を見ると

「…そうするつもりなのだな」

と呟いた。

ルーシェルはラルフを見ると

「どういう」

と言いイサミを見た。


イサミは彼らを見つめ返すと

「魔導石は僕の心。だけど、世界は独立して多くの命を生み出して僕の手を離れて成長した。ただ、僕はこの心の石が再び争いの元にならないようにしようと思います。世界を支えるモノが何であるか分からないようになるまで誰の手も届かない場所で眠ろうと思います」

と言い

「もし、何時か僕がこの世界のどこかで目覚めたときは…また一緒に冒険してくださいね」

共闘ありがとうございます!またよろしくお願いいたします!

と笑顔を見せた。


アーサーはイサミの手を掴むと

「俺はお前を待っているからな」

そう言う約束だったろ

と抱きしめた。


イサミはアーサーを抱きしめ返すと

「うんうん、ずっと、ずっと、ずっと」

側にいてくれたよね

「絶対絶対、また冒険しようね」

いつかどこかで

と言い、片手を上へと掲げた。


「我に応えよ、始原の魔導石……僕の心」

世界を収束し

「そして、再び紡げ」


ラルフはルーシェルの手を掴むと静かに笑んだ。

瞬間、光が弾けると世界を包み込んだ。


■■■


最終部 終章 エピローグ


「で、何が変わったか…よく分からんな」

ぼやいたのはルーシェルであった。


魔王宮の一角。

中庭の見える西ノ宮でくつろぎながら告げた。


イサミが消えてからルーシェルとラルフの報告を受けた魔王と天王が定期的に情報交換を行うようになった。


そもそも先の混乱の発端が自分達であり、世界の核である始原の石自体がイサミの心だった事を理解したのである。

それに神族も魔族も始原の頃ほど敵対心を持っているというわけではないからである。


その幾度目かの話し合いの後ことであった。


ラルフはルーシェルの言葉を聞きながら窓の外を見つめ

「連結魔導石が無くなったということと」

少し

「張り合いが無くなった事だろうか」

と少し考えながらフッと応えた。


ルーシェルは驚いたようにラルフを見て、笑みを浮かべると

「確かに…あいつらが騒ぎまくってた時は面倒くさかったが」

悪くはなかったな

と目を細めた。


今や天の国にも中の国にも地下の国にも怪物は出現せずあの頃とほぼ地形も勢力図も変わってはいない。


ただ、神族と魔族が今こうして情報交換して多少の親交があるように中の国でも人族、エルフ族、ドワーフ族、巨人族などが定期的に情報交換をしている。


もちろん、互いの土地に侵攻しない不可侵条約を締結した上でのことである。


ルーシェルは不意にラルフの横に進むと且つて泥と魔導石があった中庭を見て

「そう言えば…天の国でもあれは育っているのか?」

と聞いた。


緑の巨大な樹である。


ラルフは腕を組み

「ああ、ここと同じだ」

中の国は聖域の泉のところで高く伸びているらしい

「エスター王国の王が言っていた」

と応えた。


「天王は傷つけぬようにと我々に命令を下されたし」

恐らく

「イサミが世界を変革した唯一のものだと天王は思われたのだと俺は理解している」


…ルーシェルお前もそう思っているではないのか?…


ルーシェルは「まあな」と答え

「それに木を一本切っただけで大事になるのだけはごめん被る」

面倒くせぇ、と言い、彼らの更に先の上を見つめ

「ま、また気が向いたらアーサーの野郎にちょっかいかけにいくか」

イサミが目覚めるまで暇だからな

と笑った。


面倒くさいのは嫌いだと言いながら、面倒見は良いのである。


ラルフは苦笑しながら

「なるほどな」

と答え

「私もそれは同行がしたい気がするな」

また天王に許可を貰ってもよいか、と付け加えた。

「イサミが目覚めたらどうせお目付け役をいただくことになるからな。アーサーの動向は掴んでおく必要がある」


アーサーは世界各地を回り、時折こうして聖域の泉へと戻ってくる。

泉は相変わらず綺麗な水を讃え、中央の緑の巨木が天へと延び続けているのだ。

アーサーはその横に立ち

「イサミ、お前はその中で眠っているんだな。世界は少しずつ変わっている」

と笑みを浮かべた。

「今日はエルフの南の国に行ってきた。緑が広がって綺麗な花も咲いていたぜ」


そう言って黄色の愛らしい花を泉の際に置いた。

「ずっと千年でも万年でも……待っているからな。お前の知らないところばかりになってきっと冒険も楽しいだろう」


こうして世界は静かに緩やかに時を刻み、人々はその時間の中をそれぞれの未来を拓くために歩んでいた。


遥か遠い遠い昔に伝説となる魔導士とその魔導士と共に生きた騎士の説話だけを残して。


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