グッドキル(2)
FWが建物の中を激しく機動する気配。FWの一機が壁を突き破って外に飛び出す。
がぁん、と銃声が無人の街路に響いていく。
狙撃に撃ち抜かれたFWは、がっくりと脱力して墜落した。
『今さら逃げても遅い』
ブレンデンが静かに銃弾を装填し直す。
歩兵部隊が次のターゲットめがけて移動する。別チームは仲間を助けに来たFWと交戦にもつれ込む。
そしてアメリアも。
「……来たっ!」
レーダーに反応がある。
FWが窓から身を躍らせて外に逃げた。
敵反応に気づいたサポートAIが鋭く銃口を向けた。巨大な対戦車ライフルを担ぐ、紛れもなく敵、というFWの姿がスクリーンに拡大される。
(――最悪)
アメリアはFWの安っぽさを呪う。
装甲化されていても、光学的な照準装置までは搭載されていないらしい。
装甲に銃眼を設け、外が見えるように隙間を開けている。
その空隙の向こうに、十五歳かそこらの、恐怖に強張る少年の姿があった。
「私が撃つの……!?」
サポートAIはすでに狙いを定めている。
あとは引き金を引くだけだ。
音速を超える銃弾がFWを鉄くずに変えるだろう。
中にいる少年もろともに。
銃声が響いている。
対戦車ライフルを構える二メートル近い機体と、生身の仲間が戦っている。
ブレンデンは作戦立案にあたりアメリアにこの場所を任せた。敵を仕留める役目として。
(もし、逃がしたらどうなる――?)
少年兵は壁を伝って、二十メートルの高さから無事に着地した。恐ろしく確かな技術を誇っている。
狙撃のために特殊な訓練を積んだ子供だ。
逃げかえっても裏切りを咎められることなく……次の戦場でも大いに辣腕を振るうだろう。活躍の場はうなるほどある。
たくさんの人を殺すことになる。望むと望まざるとに関わらず。
(彼が生きていたなら、なにが起こる――?)
あるいは、もっと近視眼的に言えば。
沙希がベルナルドを無事に捕らえたとしても、撤退する最中を狙撃されてしまうかもしれない。
少年兵は必死の形相で、左右に切り返しを交えながら街路を駆けていく。
建物の陰まであと十メートル。
(ああ、なんてこと……)
アメリアは気づいた。
少年には戦う技術がある。
それを向けてきた実例がある。
次も繰り返す動機がある。
もう生かしておく理由がない。
「ごめん」
撃発。
FWは建物の角に飛び込んだ。
機体が宙にあるうちに、追いすがった銃弾が後足をえぐり取って吹き飛ばす。
足を引き剥がされた衝撃で、軽量なFWは煽られる。空を泳いだ足が衝撃波に縮れていく。操縦席ふくむFW本体が建物の陰に隠れた。
対装甲の銃弾がコンクリートを打ち砕き、吹き飛ばした。
コンクリート片のシャワーがFWの全身を叩く。
建物は欠けた。
空いた空間に飛来した銃弾が、FWを貫通する。
薄紙のような装甲は引きちぎられて、FWが砕けて散らばった。
まるで投げ捨てた卵みたいに。
特殊技能を身に着けた才気あふれる少年兵は、肉片を散らして塵になった。たった数発の銃弾で。
サポートAIが自動でフォーカスを外す。
アメリアはロックされたトリガーを握り続けた。指が震えてトリガーから引き剥がせない。
「ぅあああッ!」
コックピットの床を蹴る。
一度では足りず二度、三度。四度目に大きく足を振ってメインスクリーンを蹴り上げる。つま先を強打して苦悶した。
「ぅ、ぐッ……あああう!」
押し殺した声を吐き捨てる。ようやく指をトリガーから剥がした。
「――許さない。絶対、絶対に許さない……こんな戦争!」
仕方がなかった。
やむを得なかった。
避けられないことだった。
心の中で唱和される紋切り型のお題目をアメリアは強いて振り切った。
条件つきなら許される。
――そんなことは、決してあってはならないから。
『アメリア』
ブレンデンの落ち着いた声。
彼がささやく。
『きみの仲間、沙希が言っていた。「こんなの絶対に間違ってる」と。……きみたちはとても気高いな』
「沙希が? へぇ……」
アメリアは苦笑して顔をあげた。
周囲にFWの反応はない。
ブレンデンの宣言通り三分で片がついた。
とはいえ沙希はとっくに先回りして、ベルナルドと対決しているだろう。
「お願いよ、沙希。あなたの正義感を信じるからね……」




