ガールズ・フロントライン(3)
沙希はアメリアに問いかける。
「私たちは攻められてる側じゃない。無理しなきゃいけないような戦いじゃないのに、どうしてそんなに責任感じてるのかなって」
アメリアの表情は苦しげだ。
「……子どもを殺さなきゃいけないのは、怖いわ。悲しい。でも、私がやらないからって、子どもたちの運命が変わるわけじゃないでしょ」
「まあ、うん」
沙希はうなずいた。
ジョシュアの選抜したチームが、子どもを撃つくらいで怖気づくメンバーであるはずもない。
この作戦で、立ちはだかった相手は殺す。
たとえ子どもであろうとも。
「今回だけじゃないわ。子どもが紛争で殺されるのは、現実に起きていること。ただ、今まで目を逸らしていただけで」
善良な市民、そのお手本のような良心の軋みに彼女は耐えている。
「このミッションを成功させることで、子どもが巻き込まれる流れを少しでも緩められるなら……私が関わる意味はあると思う」
FH要員がひとり増減することによるミッションへの影響が、ささやかであるはずもない。特に沙希たちの機体はほかに何の任務がなく、オペレータ一人ひとりに専用の調整がなされた特別仕様だ。だからアメリアは参加する決意を固めた。
でも、だからって。
沙希が言いかけた言葉の機先を制して、
「無理しなくていいんだよ」
ジゼルがぎゅっとアメリアを抱きしめる。
「アメリアの気持ちはすごく正しい。でもね、高いところが苦手な人は、高所で人を救うレスキュー隊員になれない。無理しなくていいんだ。その気持ちは、もっと他のやり方で生かせるから」
「ジゼル……」
アメリアは小柄なジゼルの背中を撫でる。
弱冠14歳にして復讐に身を浸し、戦闘術を体に叩き込んだ幼い身体で抱きしめていく。
アメリアの肩が震えた。
「私……私だって……」
たまりかねたように
「戦争なんて嫌!」
叫んだ。
「殺したくない、殺されたくない! 人を殺してでも欲しいものってなんなの!? なんで子どもを使い捨てになんてできるの!! なんで民族浄化なんて発想が出てくるの……っ!?」
ジゼルに優しく髪を梳かれて、アメリアは激しく首を振った。
「でも! 違うの。違うの! 私は戦える。ただ、ただ……!」
ジゼルの肩に顔を埋めて泣きじゃくる。
「ごめんなさいパパ! ごめんなさいママ! 二人の望む人生を歩めなくて。二人の望む女の子になれなくて!」
嘆きのあまり血を吐くように。
「望まれた道じゃないけれど。それでも私は、必要なことをしたって胸を張りたいから」
アメリアは深く息をつく。
「見過ごせない。知らんぷりなんてできない」
溜まりにたまった後悔と後ろめたさを涙と一緒にぬぐい捨てて、
顔をあげる。
「私は抗いたい」
労わってくれたジゼルと気を飲まれる沙希に微笑を向け、アメリアは唇を緩ませる。
「沙希はすっかり忘れてるみたいだけど。私だって、もうヴォーリャを倒してるんだよ?」
はて? と首を傾げた沙希は「あっ」と間抜けな声をあげた。
森でヴォーリャに包囲されたとき。沙希が民兵を虐殺して回る直前に。
ヴォーリャの一機はアメリアとロザリーが倒していた。
「いちばんいい結末を導けるほど、私は自分の力を信じられない。たとえ次善の策しか選べなくても、目指す結末にたどり着けるなら――迷わない。私も非道を許せないから」
ただ、と再びアメリアは目を伏せる。
「普通に生きて、幸せになってほしいっていう願いを……無碍にしちゃった。自分がくやしい……」
沙希はアメリアの肩に手を伸ばそうとして、
懐の携帯端末が震え出して沙希は慌てふためく。
「ちゃ、着信……!?」
ジゼルが沙希にアイコンタクトをした。ここは任せてくれて大丈夫、と。
「……それじゃ、ちょっと出かけてくるね」
ジゼルにお礼を示して、沙希はそっと部屋を出た。