虐殺機関(1)
ロケット砲だ。
衝撃に傾ぐ機体の中で、乱れた映像の断片から沙希はすでに次の手を導き出していた。
ペダルを蹴り込み、ブーストを吹かす。
「ヴォーリャに撃たれた……っ!」
ヴォーリャが、稜線の下に隠された倉庫から姿を現していた。
バスケの試合でフェイントを入れるように、するりと片足をすかして一回転。
沙希のグロリアは地上を滑るように駆ける。
ロケットランチャーを担いだヴォーリャがうろたえるように身を引いた。
突撃する沙希の放った銃弾がヴォーリャの両腕と左足の付け根を破壊する。ヴォーリャが膝を突いた。
その眼前に、グロリアが立つ。
「おやすみ」
鎧甲冑の首元に差し込むようにして、銃撃。ぴくぴくと振るえてヴォーリャは斃れた。
顔を上げた沙希は強く笑う。
「まったく。大盤振る舞いじゃない?」
さんざめくWBの群れの中に、三機。
灰色のずんぐりした巨人が混じる。ヴォーリャだ。
うっそりと並ぶ巨人たちは、手に手に銃を構えて沙希のグロリアへ銃口を向ける。
観測するブレンデンがうなる。
『まさかFHを四機も配備しているとは……沙希、いけるか?』
「はっ」沙希は鼻で笑って操縦桿を握り直す「あたぼうよ」
グロリアのブーストが吼えた。
同時に、ヴォーリャの銃口が一斉に火を吹く。AKとは比較にならない重たい砲声が大気に轟いていく。
のたうつ蛇のような火線が山を這ってグロリアを追う。
横Gに歯を食い縛りながら沙希は操縦桿を手繰った。
ウェポンベイを解放し、マイクロミサイルが群がる羽虫のようにヴォーリャの横っ面を推し包む。
隣のヴォーリャを連なる火砲が打ち砕いた。沙希の銃撃。
倒してはいない。
「でも足を止めれば充分だっ!」
さながら巨人の舞踏会だ。
ステップの振動と伴奏の衝撃は人知の踏み入る領域ではない。
流れ弾ひとつで地面が爆発したように跳ねる。
転倒したヴォーリャが地響きを立てる。
割れた装甲の破片でさえ、子どもの胴体を両断するには事足りる。
跳弾と余波でWBが斃れていく。
それでもWBは逃げ出さない。
WBに見える年端も行かない子どもたちの顔は恐怖と絶望に歪んでいる。泣き叫びながら、がむしゃらに銃弾をばらまいている。
訝しげにその表情を目にしていた沙希は、ふとうなずいた。
「あぁ! 脱獄囚は"怖い看守"に殺される、ってヤツかな?」
進まねば上官に殺される。進めば敵に殺される。
選べるのは死に方だけだ。
敵に立ち向かって死ぬのか、怖気づいた神罰で死ぬのか。
コックピットのスクリーンを景色が目まぐるしく流れる。沙希は頬に笑みを刻んだ。
「つまり! このFHどもを撃破すれば、子どもは自動的に投降すると」
『沙希、下だ!』
「下ぁ?」
足元。
WBに乗った12歳くらいの少年が、大きな円筒を沙希に向けている。
RPG――ではなかった。
それよりも大きな弾頭、多い推進燃料、そしてパッシブシーカーと小さな羽。
「――ぉあッ」
咄嗟だった。
沙希はモードを切り替えてペダルを踏む。
大きく振り上げられたグロリアの足がWBの鼻先を蹴っ飛ばし、転んだ子どもは携行無反動砲を取り落とした。
沙希は地面ごと突撃銃で撃ち潰す。弾頭はその場で火の玉を生み出して消え果てる。
「あッ……ぶな――!!」
渦巻くような爆発の振動はFHの装甲に響くほど。
その独特な爆発にブレンデンが悲鳴に近い驚きの声をあげる。
『歩兵用のAFHMだと!? もうテロリストに渡っているのか!?』
FHは紛争を受けて作られた汎用機動兵器だ。
計算しつくされた複雑な構造はRPGの衝撃力を受け流し、数発の被弾では機能停止しないダメージコントロール構造をなしている。
しかし、だからこそ対FH専用のミサイルが作られ始めていた。
沙希は切り立った山の斜面に背を預けるようにグロリアを隠した。過熱した銃をぶんぶんと振る。
「あのさ、ごめん! 私ってスーパーアーミーじゃないから、WBの横槍までさばけないわ!」
『マザーマンタ! 爆弾をありったけ落とせ!』
叱声にも似たブレンデンの命令。
ヴォーリャの一機が空からの「げんこつ」を食らってうつむいた。爆炎に呑まれて吹き上がる。
沙希が動こうとした矢先。
ブレンデンの鋭い声が射貫いた。
『セダンだ!! おそらく子ども使いが乗っている!』
「――位置をちょうだい!」
沙希の統合情報表示にターゲットアイコンが映される。
廃屋に隠れていた車が、ヴォーリャとWBで築かれた壁の向こうを走っていく。沙希は一瞥してすぐにサポートAIに入力した。
山越しにセダンの進行方向を向いて、空を仰ぐ。
「方位ヨーシ、距離ヨーシ、速度ヨーシ。――撃てッ!」
ぼばばば、とグロリアに搭載されたマイクロミサイルとグレネードが空に吐き出されていく。
高く放物線を描いたグレネードは山の稜線を飛び越えて、セダンのボンネットを叩き潰した。空でぐるりと向きを変えるミサイルがセダンに食らいついて炎に飲み込む。
徹底的な爆撃に揉まれ、血の一滴髪の毛一本、残骸すらも残らなかった。




