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ぎゃくさつ! ~JKのどきどき紛争傭兵ライフ~  作者: ルト
第三章 ファースト・ミッション
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殺意の爪痕(2)

 機体を降りた沙希の足が、格納庫ハンガーの床に触れるかどうか。


「沙希ィ!!」


 沙希はロザリーに突き飛ばされて脚部装甲に叩きつけられた。

 胸倉を握るロザリーの拳が沙希の喉元に押しつけられる。


「いでで、苦しい。ギブギブ」


 腕をタップする沙希に、ロザリーは怒りを爆発させる。


「ふッざけるな! お前、自分がなにしたかわかってんのか!? 人を――人を殺したんだぞッ!!」


 顔をしかめた沙希は、すげなくロザリーの腕を払おうとして――ビクともしない腕力に肩を落とす。

 グロリアの脚部装甲に押しつけられたままロザリーを見上げた。


「じゃあ、見殺しにすればよかったの?」


 沙希の切り返しに、ロザリーは口をつぐむ。

 二人を止めようとしたアメリアとジゼルさえも、思わずその足を止めた。

 沙希は、常の気楽な表情を消している。


「私たちは地上部隊を、味方を守るために派遣された。そして敵戦力が予想を上回って味方を追い詰めた。救助を待とうにも、敵は味方を包囲しようと動いていた。……私には、ああする以外に仲間の部隊を助ける方法が分からなかった」


 沙希を押しつける腕の力が弱まっていく。

 ロザリーの目から怒りが消えて、困惑と不安が宿り始めた。

 そんな様さえ、沙希は静かに眺めている。

 まるで実験マウスの反応を観察するような視線がロザリーの顔を這いまわる。


「あの状況、ロザリーならどうやって突破したの。教えてよ。次はもっとうまくやる」

「……あたしは」


 たった今まで力で押さえつけていたのはロザリーだった。

 なのに今、ロザリーは詰め寄る沙希に気おされていた。


「殺さずに解決できるならよかったよ」 


 沙希の静かな低い声が、まるで(なじ)るように叩きつけられる。


「でも敵は銃を持っているんだ。味方を今にも撃ち殺そうとしているんだ。お上品に取り押さえて武装解除する暇なんてなかった。みんなを突破してヴォーリャが一機来るだけでも、こっちは全滅したかもしれない。それでもロザリーは敵を殺さずに解決できた? ――ううん。易しく言い換えてあげる」

「沙希、だめ」


 ジゼルの制止を、沙希は無視した。


「ロザリーは、味方の命よりも敵の命を優先するの?」


 まるで凍った手で心臓に触れられたように。

 ロザリーは絶句した。

 彼女の怯えた目がハンガーの外に振り向けられる。担架で運ばれていった戦闘要員の姿はここからでは見えない。


「沙希。もう、黙って」


 ジゼルが強い口調で繰り返す。

 沙希は言い足りないと顔にありありと浮かべて口を閉ざした。

 うなだれるロザリーの手を沙希から引き剥がし、背中で庇うようにアメリアが間に立つ。


「沙希。発砲許可を待たずに撃つのは命令違反よ。もちろん射殺も。この件は詳細まで報告して処分を待ちます。異論は?」

「ないよ」沙希は肩をすくめた「ルールに従います」


 重々しくうなずいて、アメリアはロザリーを振り返る。


「ロザリーも暴力はダメ。それとメディカルチェックに回って。ジゼルもね」


 やや緊張した面持ちのジゼルと、消沈したロザリーをハンガーから追いやって。

 アメリアは沙希を振り返る。


「さっきの質問、ロザリーの代わりに答えてあげる」


――味方の命よりも敵の命を優先するの?

 アメリアは殺人現場を思い出しているようで、顔色が悪い。

 しかし眼差しは強く、視線の底にかすかな怒りすら燃やしている。


「答えはイエスよ。私たちは古代にあった山賊同然の傭兵じゃない。自明な敵だと判明し、責任を持った許可が出るまで、たとえ殺されたって人の命を奪わないわ」


 兵士の誇り(ソルジャーズ・オナー)

 アメリアの示して見せた誓い。

 沙希は静かにかぶりを振った。


「……そのルールには、従えないかも」




 PMCブラスト社はスフェールに臨時オフィスを構えている。

 手狭なミーティングルームに通された沙希は、机越しのジョシュアに見つめられていた。


「沙希。僕はきみに、良い話と悪い話をしなければならないようだ。どちらから聞きたい?」

「ほう。では、良いほうから」


 スチールの机に肘をついて両手を組み、ジョシュアは微笑む。


「よくやってくれた。きみのお陰で貴重な部隊が失われずに済んだ。あれほどの規模で万全な待ち伏せをされているとは、こちらも想定外だったよ。的確に対応できたのはひとえにきみの働きによる」

「フッフゥー? べた褒めじゃないですか、嬉しいですね。で、悪いほうは?」


 ジョシュアは両手を解き、静かに机に手のひらを乗せる。

 顔を寄せて正面から沙希を見つめた。


「よくもやってくれたな、沙希」


 表情は穏やかな微笑のまま。

 青い瞳に深い怒りが吹き荒れている。


「あんな一方的な虐殺はどんな報道(プレス)も許さない。今回は情報が広まる前に絞め殺すことができたが、もし発覚した場合、PMCブラスト社(われわれ)が外されるだけでは済まないぞ」

「でしょうね。だから頑張って撮影を止めさせたんですけど」

「情報漏洩は敵から起こるだけじゃない。きみの暴虐を目の当たりにした隊員のうち、三名がPTSDで本国に送還された。これから増えるかもしれない」

「オゥ……プロ軍人なら大丈夫かと思ってました。失礼しました」


 目を丸くした沙希は、殊勝に頭を下げる。顔をあげるなり沙希はきょとんと首を傾げた。


「でもてっきり、私にはそういう役回りを期待しているのかと。私の経歴を知ってて雇ったんでしょう?」

「……その通りだ。だが気づいてくれない方がよかった。きみや、きみの同僚には"死人の出る戦場"はまだ早いと判断されていたんだよ」


 だが、その結果は伝えられたとおりだ。

 沙希が暴走しなければ、部隊は全滅さえあり得た。

 ジョシュアは苦り切った口調で続ける。


「アメリアも言っていたけど、沙希の行動はあくまで命令違反として処分する。詳細は追って通告するけど、減俸処分が妥当かな」

「えっ、お給料下がるんですか?」


 がたっと椅子を鳴らす沙希に、ジョシュアの渋面は深くなる。

 苦々しいものを飲み下すようにうなずいた。


「……オーケー、わかったよ。部隊から死者を出さなかった感状と特別報酬を手配する。減額はそれで補填しよう」

「やったぜ。ありがとうジョシュアさん!」

「沙希」


 耐えかねるようにジョシュアが言う。


「頼むから反省してくれ」


 沙希は瞬きしてから、居住まいを正す。


「気をつけます」


 応える表情は悪びれない。


§


 寮に戻った沙希を迎えたのは重苦しい沈黙だった。

 リビングのソファにはアメリアとロザリーが腰掛けている。

 ジゼルはテーブル近くでバランスボールのうえに胡坐をかいていた。ピクリともしない。


「沙希。こっちに来て」


 アメリアの声は硬い。

 家族会議? と声が出る寸前で沙希は危うく声を飲み込んだ。どうやら冗談を言っていい雰囲気ではない。

 沙希は隣接したダイニングから椅子を持ってきて前後ろに座る。


「みんな、死体(アレ)見て気分悪くならなかった?」

「見てないから」


 ジゼルは端的に言った。


「必要以上には見せなかった」

「おぉ! さっすが」


 それでジゼル単機が沙希を止めに飛んできたのだろう。

 そして、実際にはジゼルの想像をはるかに上回る地獄絵図が広がっていた。

 優秀な立ち回りに感心する沙希に対し、ロザリーは渋面を作る。


「そういうお前は、どうして平気なんだ。普通の日本人じゃなかったのか?」


 沙希はわざとらしく考え込む。

 ちらりと目だけを一堂に向けると、明快に疑惑と不信感が沙希に向けられていた。ジゼルでさえそうだった。

 隠しおおせる状況じゃない。


「まあ、昔語りをしましょうかね……」


 沙希はため息交じりに肩をすくめる。

 あっさりと口を開いた。


「私、自分のおかーさんを殺してる(・・・・)んだ。だから、グロイのは結構だいじょうぶ」


 衝撃が静かに場を打った。

 沙希の表情は変わらない。まるで些末な失敗を明かすような語り口。

 かいつまんで言うとね、と沙希は語り始める。




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本作は金椎響様「さよなら栄光の讃歌」をもとに、本人の許可を得てスピンオフとして描いた作品です。

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[一言] 兵士の誇りソルジャーズ・オナー。  アメリアの示して見せた誓い。  沙希は静かにかぶりを振った。 責任を撮るのが怖いなら、人を殺すのなんて止めておけ。もしかしたら、或いは、そんなもの…
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