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ぎゃくさつ! ~JKのどきどき紛争傭兵ライフ~  作者: ルト
第三章 ファースト・ミッション
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ファースト・ミッション(3)

 唖然とする生き残りヴォーリャをすり抜けて、沙希は駆け抜けていく。


「主導権を握らなくちゃ」


 集団というものは、数が多ければ多いほど行動から行動への間に連携のワンテンポが差し込まれる。

 寡兵のPMSC陣営には敵の隙を突くしか生存の目はなく、そして米国新鋭機グロリアはその間隙を狙うに相応しい性能を誇っている。


「だから、まずは――勢力の分断!」


 おたつくヴォーリャを置き去りにして、沙希は旋回していく。

 突破した沙希機に追随して別方向から追ってくるヴォーリャ、ツーマンセルを組んでいる。先導する左側に狙いを定める。


『沙希!』


 ジゼルの声と同時に、スクリーンの中で横殴りの火線がヴォーリャを襲った。

 即座に沙希もトリガーを弾き、火線を重ねる。

 十字砲火を浴びるヴォーリャの装甲面はグロリアの突撃銃では貫徹しないはずだった。

 鐘を打つような轟音は連なり、重なり、収束する。

 集弾効果で装甲が瓦解、亀裂から飛び込んだ弾丸に内部を蹂躙されてヴォーリャは(たお)れた。


「さんきゅージゼル!」

『バディだから』

「頼りにしてる」


 沙希は操縦桿をひねる。機体は背後を振り返った。

 仲間を立て続けに撃破されて、ヴォーリャは棒立ちに立ち尽くしている。敵は練度も士気も高くない。

 どぼっと濁った砲声とともに、散弾に殴られてヴォーリャは胸部に大穴を開けて倒れた。

 残るは七機のヴォーリャ。彼らの動きが変わる。

 アメリアたち全体を包囲する動きから、沙希一機を包囲する動きへ。


「やっべ」


 この距離ではステルス性能も意味はない。

 ロックオン照射を受けて沙希はフレアを次々と射出。燃える銀粉がぶちまけられ、破片が森や村の廃屋に振り落ちて火をつけた。

 燃える。

 踊る炎がミサイルのシーカーを狂わせ、グロリアの眼前を駆け抜けて木を砕く。


「あっぶな、んぉ! やべぇ!」


 火線が躍った。

 突撃銃の猛烈な掃射が沙希の周囲を押し包んでいく。

 沙希はうめいて機体姿勢を低くしたが、無駄だった。

 森は銃弾を防ぐには心もとなく、グロリアは隠れられるほど小柄な機体ではない。

 沙希のファイバーグラスにサポートAIがガイドを表示する。火線の薄いわずかな活路。

 ペダルを鋭く踏み込み、銃撃に機体を揺すられながらブーストを噴かして強引に突破する。

 だが十重二十重の銃撃は、とぐろを巻く蛇のように沙希を押し包んでくる。

 優勢火力ドクトリンの神髄だ。

 機体が二倍多ければ、砲の数もまた二倍多い。すべての被弾を無視できるヒーロー機など、ここにはない。


「やばいやばいやびあばばばば」


 激しく揺れる機体の中、ワイプ表示されるダメージコントロール推移をにらみつけながら沙希は操縦桿を繰っていく。

 滝のような銃声のはるか向こうで、ヴォーリャが一機、爆発四散する。アメリアとロザリーが倒したらしい。

 つまり、あの二人はまだ遠い。


「……このままでは死ぬのでは?」


 ぼやきながらも、沙希は機体の状態と、被弾した装甲音響から分析される敵の火力、相対距離をジゼルに送りつける。

 右腕部損傷。

 盾代わりにした突撃銃が給弾不良。

 熱探知破損。

 左膝損傷。

 周囲カメラが次々と途絶。

 右翼で動揺。


「――てぁっ!」


 銃弾の嵐が緩んだ瞬間、沙希はペダルを蹴り込んだ。

 ブースターが圧縮燃料を燃焼させて火を吐き出す。脳が内壁に張り付くような強烈なG。きゅうきゅうにフィットするスーツが身体を締め上げ、血流の偏りを防ぐ。

 だが、直角スライドで駆けた火線の中心から離脱した。


「ジゼル愛してるぜっ!」

『無茶しすぎ!』

「めんご!」


 沙希の突破を支援するジゼル機めがけて一直線。沙希は合流を優先する。

 沙希を追おうとしたヴォーリャの騎士兜が虚空のげんこつを食らった。爆発に呑まれてバスケットボールのように跳ねあがる。

 火力支援UAVファイアフライのロケットランチャーだ。自律AIで稼働するUAVは敵戦力を漸減(ぜんげん)させることに終始する。

 ジゼルと沙希に挟まれてパニックトリガーに銃を振り回すヴォーリャが一機。

 沙希機は文字通り土を蹴り、地面を這うブーストで木々をすり抜けていく。ペダルを目まぐるしく操作しながら操縦桿のセレクターを弾く。

 グロリアの手首装甲が前進。

 マニピュレータをボクシンググローブのように包んだ。


「そこだぁ――!」


――拳。

 RPGすら受け止めるFHの正面装甲に叩きつけた拳が、銅鑼のような音を響かせる。

 装甲をへこませることすら敵わない。

 が、構わない。

 アーク現象が(ほとばし)り、感電したヴォーリャは背筋をピンと伸ばした。それきりピクリとも動かず地に沈む。

 強力な電磁パルスで制御系を焼き切り、操縦不能に蹴り落とす武器だ。

 沙希はレーダーに目を向ける。これでヴォーリャは五機が沈黙。包囲網は完全に崩壊した。

 中破した沙希を省いてもグロリアは三機が残存している。

 優勢火力ドクトリンの、複数機がかりで一機を黙らせるトレード戦術は成立しない。

 沙希は真剣な表情でヴォーリャを見回し、真顔で口を開く。


「やったか。勝ったなガハハ。風呂入ってくる」

『わざわざ負けフラグを立てないで!』


 アメリアがきっちりツッコミを入れた。

 沙希は振り返る。炎上する装甲車の煙からさほど離れない距離で打ち鳴らせる銃声の坩堝。


「ジゼル、後は任せた」

『沙希、待っ……』


 ジゼルの制止を振り切って、沙希はペダルを踏み込む。

 高く跳躍した半壊のグロリアは森の土を蹴散らして着地した。


 足元で悲鳴。

 PMSC地上部隊を包囲するゲリラ民兵を、跳ねた土で蹴散らしたのだ。

 沙希は正面に目を向ける。

 爆破されて横転した輸送車の残骸をバリケードに、地上部隊は虚しい火力で包囲に応じている。

 たとえ練度が低くとも、民兵は数が多い。そのすべてがAKシリーズやそのコピーのアサルトライフルを装備しているのだ。どんな最新装備も、歩兵の範囲である限りはアサルトライフルの貫徹力を浴び続けて生き残ることはできない。

 そんな絶望的な戦いをしていたPMSCスタッフの顔があんぐりと目と口を見開いて、沙希のグロリアを見上げている。

 沙希は不敵に笑った。


「助けにきたぜ、ベイビーたち」


 合成音声に変換され、ざらついた機械らしい音になる。



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本作は金椎響様「さよなら栄光の讃歌」をもとに、本人の許可を得てスピンオフとして描いた作品です。

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