不幸のデート(3)
表通りに戻る沙希たちの前に、ジープがつんのめるように滑り込んだ。
運転席から赤髪の女性が顔を出して腕を振り上げる。
「JK! お前なにやってるんだ!」
「ライザさん! いやどうもお迎えありがとうございます」
入国当日に、沙希と一緒になって武装組織からの襲撃を切り抜けたPMSCの戦闘要員。ライザは「早く乗れ」と後部座席を親指で示す。
沙希は頭を下げつつ、アメリアともども後部座席に乗り込む。ドアを閉めないうちから車が発進した。
「お前、今度はなにをした!」
「ちょっと、人をトラブルメーカーみたいに言わないでください」
「その恰好でよく否定できるな!?」
血染めの服にアサルトライフルを抱きかかえて、沙希は誤魔化すように笑う。
欧風の象牙色をしたレンガの路地をジープが走る。路上駐車の乗用車がひしめいてほぼ一車線に狭められた裏道だ。沙希はシートに身を沈めた。
「いやはや、とんだ不運だったよ……」
「まだ気を抜くには早い。そもそも軽率すぎるんじゃないの、街に降りるなんて」
防弾ベストと一緒に、淡々とした声が押しつけられる。
沙希はぎょっとして顔をあげた。アサルトライフルを抱えて座っている男性隊員の隣に、同様の戦闘服に身を包んだ小柄な少女が座っている。ヘルメットに頭が埋まるような小顔。
「ジゼル!? なんでいるの?」
「沙希たちが危ないって言うから無理言ってついてきた」
ジゼルの言葉に苦笑する男性隊員。ライザが苦さのにじむ声で口をはさむ。
「あんな実弾演習のスコアを見せられちゃあな。時間もなかったし、断り切れなかった」
「……ジゼルはずっと訓練してたんだものね」
アメリアが無理に微笑む。その表情はこわばって、顔色も悪い。
ジゼルは怪訝な顔をして口を開き、
車内が吹っ飛ぶような急ブレーキがかかった。
カーブする遠心力は一瞬で、投げ出されそうな衝撃。車のフレームがひしゃげる轟音。
「だあっ! ちくしょう、子どもだ! 爆弾を抱えてやがる!」
ライザが言いきらないうちに、男性隊員がドアを押し開けて転げ下りる。
彼は銃を構えて、車の前に飛び出した男児を撃った。子どもは両手に抱えた電気ポットのような改造爆弾ごとばったり倒れる。
ジープは子どもの爆弾を撥ねないよう急ブレーキをかけ、路上駐車のセダンに激突したのだ。
と同時。背後からエンジン音をうならせてミニバンが迫ってくる。
衝突の衝撃も抜けきらぬライザが歯を剥いた。
「クソがッ! つかまれ!」
吹っ飛ぶようにバック。直後に激突。
翻弄される沙希の体をジゼルが支える。
「ありがと……」
「銃持ってるんだから気を付けて」
ささやいてジゼルが顔をあげた。
ジープはリアバンパーでミニバンにぶち当たっていた。
タイヤを空回りさせて押しあいになる。だが事故車両の横を通れるほど下がれない。ライザが罵倒のスラングを吐いた。
「嵌められた! ジゼル、運転手を仕留めろ!」
「了解!」
ジゼルは車窓に身をくぐらせてアサルトライフルを構えた。
不安定な姿勢にも関わらず、ぴたりと銃を肩に構えてミニバンの運転席に火花を湧かす。運転していた十代の少年は身をかがめて這っていった。
「はぇ。見様見真似の私とは違うな」
沙希は防弾ベストを着込んで締めながら首を巡らせる。
ミニバンと半壊したセダン、路上に転がされた不発弾に囲まれてジープは動きを封じられていた。
ライザはギアを落としてミニバンを押しのけようとしている。男性隊員がフロントガラスの消えたミニバンに取りついて動かしにかかった。
アメリアの絶叫。
「沙希、後ろッ!」
沙希は弾かれたように振り返る。
セダンの向こう、細い路地から飛び出してきた中年男性がアサルトライフルを構えている。
沙希の反応よりさらにジゼルが早かった。
ルーフに銃を乗せるような体勢でジゼルが撃つ。中年男性は撃たずして路地に身をひっこめた。
沙希が舌打ちして辺りを見渡す。
強引に止められたジープを包囲するように、武装した男がおっちらおっちら走ってくる。どれも見覚えのある、街中で沙希たちを包囲した男たち。
「仲間の存在を勘案しても、私たちを制圧できるほどの大人数にはならないかな」
沙希はジープのドアを押し開けた。路上駐車の車列を乗り越えて歩道に立ち、銃を三発だけ撃つ。
後方から近寄ってくる男たちは慌てて路上駐車の車列に身を隠した。
「ぅはっ」
詰めていた息を吐いて沙希は顔をゆがめる。
反動で肩が潰される。そればかりか、一発撃つごとに反動で銃口がどこかを向いてしまう。フルオートの速度で銃身が暴れた。
「あッぶねぇなこれ! うっかり銃口がこっち向いたら死ぬんだけど!? つーか肩がゲロ痛ぇんだけどジゼルちゃん体どうなってるの!?」
罵倒しながらも歯を食いしばって再び構えた。
男たちが身を隠す車両めがけて銃を撃つ。首を伸ばして様子をうかがう男が再び引っ込んだ。
沙希は舌打ちする。
「これ狙いようがないんだけど。どうやって当てるの?」
引き金を引くと猛烈な反動が打ち据えて、見てみれば弾着地点のはじけた土煙が舞っている。過程が丸ごとすっぽ抜けていた。撃った弾がどう飛んでどこに当たったのか実感がない。
二メートルも離れてない至近距離から、拳銃で青年を撃ったときとは段違いのやりづらさ。沙希は早々に弾を当てることを諦めた。
「アメリア、ジープの前からは来てない!?」
「へ、えっ……! うん、平気!」
ジープから返事がきて、よし、と沙希はうなずく。
「連中は焦ってここに全戦力を投入してきた。あとはミニバンをどかしてジープを動かせば逃げ切れる!」
銃を構えて警戒する沙希は、
突然温かい重みに突き飛ばされた。押し倒されて歩道の真ん中に背中を打つ。
「痛ッて、えっ!?」
子どもだ。ほんの六歳くらいの少年が沙希に全身でタックルして倒している。震えるつむじを見下ろして唖然とした。
身をよじる暇もなく。
総身を貫く衝撃に血が弾ける。




