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ジャイアント・グロウス(1)

 結論から言えば、保持できていた。


「かがくのちからって、すげー」


 アメリアの胸あたりを見ながら言った沙希の脇腹に、アメリアのフックが突き刺さる。

 ふぐっと身を折った沙希だが、その実、パイロットスーツは衝撃を完全に消滅せしめて届かせない。高価さに相応の性能があった。

 沙希も結局、パイロットスーツをぴっちり着込んでいる。

 歩きながら沙希は顔をしかめた。股間を絞めつけるタイトさが落ち着かない。むずむずと腰をくねらせる。

 沙希の後ろを歩いていたロザリーが嫌そうに言った。


「あんまり腰振るな、バカ」

「だって落ち着かない……」

「我慢しろ。その誘ってるダンスを披露して回るつもりか」

「マジで? そんなふうに見えた? ありがとう超我慢する」


 そんな落ち着かなげなやり取りをしながらハンガーに出た四人は、強烈な照明に手で庇を作る。


「やあ諸君。パイロットスーツは、ちゃんと着ているようだね。機能性はユニット・アイリーンが保証済みだ」


 ジョシュアの声。彼はタブレットを手にハンガーを監督するように立っていた。

 沙希は目をすがめてハンガーを歩く。


「なんでこんな明るくしてるんですか?」

「テスト前のメンテナンスをしていたから。手元が暗いと困るだろ」


 生返事しつつ、沙希はハンガーに居並ぶ四機を見上げる。

 格納スペースに一機ずつ、まるでパッケージにされるように納められたマットブラックの先鋭機。金属的な輝きを奪われた鎧の巨人は、息を潜めて出撃のときを待っている。


「これで、実機テスト……」


 アメリアの声が緊張に震える。


「そう構えなくていいよ。シミュレータと同じだ。そうなるように調整している」


 慣れたようすで声をかけるジョシュアは億劫そうでさえある。その姿に少なからず肩の力を抜いて、ロザリーは気合を入れるように身震いした。

 沙希は再度機体に視線を送る。

 マシンはシミュレータで計測した四人それぞれのデータに合わせてフィッティングされるという。

 今まさに、それぞれの整備チームに見てもらっているようだ。


「これから命を預ける人たちだ。お互い挨拶するといい」


 ジョシュアにそう促され、沙希は四番ハンガーに収められたグロリアに歩み寄っていった。


「うかつに近寄ると危ないよ!」


 いかにも整備士というツナギを着た白髪の女性が立ち上がっていた。水中メガネのようなゴーグルを額に持ち上げる。

 老婆だ。

 背筋がぴんと伸びているので若々しく見えるが、顔に刻まれたシワは深く、燃えるような白髪は乾いて細い。老婆はニィと頬のシワをさらに深める。


「よぅ。あんたが新入りのニッポニーズだね。ロボットと言えばニッポニーズだ、期待しているよ」

「なんか間違った期待してません?」


 挨拶より早い応酬に笑いを交わす。

 改めて、二人は握手をした。


「整備主任のムチコ・サルバートルだ。日系三世だよ」

「初めまして、八津沙希です。生まれも育ちも血統も、ぜんぶ日本の日本人です」

「しっかし若いねぇ……ハイスクールはどうしたんだい?」

「休学です。ちょっと事件起こしちゃって」

「ほう? 意外にいいタマじゃないか。気に入った」


 ばしばしと背中を叩かれて沙希は愛想笑いする。

 グロリアは装甲の隙間に這いずるようにして整備を行う。計測を終えて窮屈そうに脱出した整備員が装甲を閉ざす姿を見上げて、沙希はムチコに尋ねた。


「私、シミュレータ乗ってクソほど酔ったんですけど、実機大丈夫でしょうか?」

「シミュレータは酔うもんだ。実際に飛んでないからね。あんたに合わせたシートで、あんたの操縦に合わせて動く実機のほうは慣れてみれば快適なもんさ!」


 へぇ! と顔を輝かせた沙希は、慣れてみれば、というキーワードには気づいて真顔になる。

 豪快に笑ったムチコは老いて深みを増した愛嬌でもってウィンクしてみせた。


「ゲロぶちまけてもションベンちびっても、ちゃんと掃除してあげるから。安心して行ってきな」

「どっちも嫌だなぁ……」


 沙希はげんなりしながら機体に掛けられたハシゴに手をかけた。クライミングするように這い登る。

 胸部装甲をずり下げた隙間から手狭な操縦席に潜り込めば、豪華なリクライニングチェアが鉄材でぶら下げられている。シートには座るというより埋まるかのようだ。

 着座後は練習通り。HMDヘッドマウントディスプレイを兼ねたヘルメットをかぶり、起動手順に従って機体に刻まれた楔を一つひとつ外していく。スイッチを入れるとジェネレータが唸りを放ち始めた。

 機体が覚醒した。


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本作は金椎響様「さよなら栄光の讃歌」をもとに、本人の許可を得てスピンオフとして描いた作品です。

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