32.ツーオンツー
銀色で光る細剣。
恐らく表面には聖水が塗られているからだろうか、傷口がピリピリする。
もちろんこんな程度では僕は死ぬことはない。
というか、まともなダメージも受けてはいないが、正直背後まで気付かなかったことに対しては少しばかり劣等感を覚える。
「ベン様っ!」
「ご主人様……」
「大丈夫だ。問題ない」
とまあ、ミューとミカエルに心配させてしまったことに関しては少しばかり申し訳なく思う。
「くっ……あまりダメージは稼げなかったみたいね、メタちゃん」
「驚き……一滴で……ドラゴンくらいなら……即死」
聖水じゃなかった。
毒だった。
しかも猛毒。
そして、ミカエルとミューの攻撃が決まったはずのサンダルフォンは、ピンピンしていて怪我の片鱗すら見当たらなかった。
「どうして無事なんですか……?」
「サンダルフォンは魔法が全く使えない。でもその代わりに身体の回復力は半端ない」
左手で右のほうの黒い翼をいじりつつ、ミューの質問に答えるミカエル。
自己再生力が高い上にメタトロンによる戦闘力向上……確かに、これは脅威だ。
しかもメタトロンは気配を消して不意打ちを仕掛けてくることもある。
スティアかハードパルドあたりなら相性がいいけど、スシュロスにはキツイ相手、か?
まぁどちらにせよここで負けるということはあり得ないし、メタトロンに注意しながら戦闘を見守ろう。
「………はっ!」
サンダルフォンがミューに突進する。
ミューは少し反応に遅れ、カウンターではなく防御の構えを取る。
だがサンダルフォンは突如スピードを落とし、回し蹴りを仕掛ける。
ミューは右脇腹にくらうすんでのところで回避し、距離を取ったと思ったら、次はミューから仕掛けていった。
ミューの魔力でコーティングされた拳。
一撃で壁一枚なら余裕でブチ破るであろうそのパンチを連続で繰り出す。
だがサンダルフォンは躱し、所々に膝蹴りを入れてくる。
その一つ一つをしっかりとガードして行くミュー。
そして、攻防がひと段落ついたときに、ミカエルの槍がサンダルフォンのいた場所に突き刺さる。
メタトロンは、サンダルフォンが回避したところに突撃し、槍が突き刺さって隙ができているミカエルに細剣を振るう。
おい、それ猛毒が塗ってあるんだろ?
ミカエルに向けていいもんじゃないと思うが……
だが、ミカエルは突き刺さった槍を軸に回転し避け、そのまま遠心力で槍を抜く。
だがミカエルの目の前にはサンダルフォンがタメ技を用意をしていて、ロケットスピードでミカエルに襲いかかる。
しかし、ミューの中距離魔法で軌道が逸れ、ミカエルに躱されてしまう。
細剣の攻撃が躱されたメタトロンは、そもまま狙いをミューに定め、弱体化魔法を放つ。
だがミューはそれを反射魔法で反射させ……僕の方にやってきた。
僕は無効化させ、ミューの方を見る。
「あっ!申し訳ございませんベン様!これは、お仕置きレベルを上げないとですね!」
コイツ……狙ったのか。
SかMなのかよくわからん奴だ。
と、意識を取られていると、サンダルフォンが蹴りを連続でミカエルに打ち込んでいた。
ミカエルは物ともせず槍の持ち手部分で防ぎきり、横薙ぎ。
リーチが長いため、サンダルフォンも大きく避けなければいけなくなる。
「くっ……」
「サンダルフォン、無駄。ご主人様がいる限り、そっちに勝ち目はない」
「なんで記憶があるのにそっちについてるんだ!」
「戻って……来て」
サンダルフォンとメタトロンの勧告。
だがミカエルはこちらのものだ。
「ムダだよ。君たちの言葉は、ミカエルに届くはずがない」
だいたいこういうセリフを吐く悪役はこの後痛い目を見るのがオチなのだろうが、生憎そんなのは古い。
実際、ミカエルはもうすでに自分から僕の側についているのであって、そもそも堕天した天使はもうすでに半分悪魔のようなものだ。
元のミカエルに戻すには、もう一度洗脳魔法をかけるしかないが、これ以上やるとミカエルは壊れてしまう。
だから僕は責任を取り、ミカエルを渡すわけにはいかない。
「ミカエル。君の力を見せてあげなよ」
「ん」
刹那、ミカエルの槍『グングニル』が魔力を放ち出し……
翼に紫色の炎が灯った。
これは『魔槍グングニル』の力で、ミカエルが魔力を流すことによりミカエルの翼で炎の追撃がかかり、相手に大ダメージを与えることが可能となる。
「メタちゃんこれは……アレしかないね」
「……仕方……無い」
サンダルフォンとメタトロンが何やらプチ作戦会議をやっていたが、生憎今の状態ミカエルの実力はサンダルフォンを遥かに上回っている。
「どうしたんだい?まだ足掻くつもりかい?」
不気味な笑顔を見せてあげると、サンダルフォンはミカエルに突進した。
「無駄」
ミカエルは、その侵攻を難なく槍で受け止める。
「じゃ無いよ!メタちゃん!」
そしてサンダルフォンは、メタトロンに呼びかけーー
「はっ、しまった!」
咄嗟に何かに気づいたように、ミューが声を上げて、
「『転移』!!」
メタトロンが転移魔法を繰り出した。
瞬時に、メタトロンとサンダルフォンの姿が無くなり、『キルジスの監視塔』内に静寂が訪れる。
「うん、戦闘終了だね」
「申し訳ございません!ベン様」
「逃げられるとは、思ってなかった」
「いや、別に良いさ。上々だよ」
メタトロンの魔力パターンを見ていて、防げたっちゃ防げたけど、僕は今回はミューとミカエルに任せると言った。
そのため、特にはお咎め無しだ。
それよりも、ミューとミカエルのコンビネーションだ。
「どう思う?プチィーニ」
「せやなぁ、悪くなかったけん、ミューはメタトロンとやなくて、二人掛かりでサンダルフォンに向かった方がええとは思うたな」
おお、中々良い点を突いたプチィーニである。
「そうだね。これからは、戦況を見て相手側の戦力を考えて行こうか」
「はいっ!」
「ん」
何はともあれ、条件であった『討伐、もしくは撃退』の撃退の方に成功したため、ミューへのお仕置きはしなくてはならないことになってしまった。
仕方ない、彼女が望むことだ。
付き合ってやろうか。
ミュー「さて次回はいよいよSMプレイシーンですよ」
ベン「ちょっ、よだれよだれ!」
ミカエル「私も、頑張った」
ベン「そうだね、偉い偉い」ナデナデ
ミカエル「ふぁぁぁぁ」
作者「可愛い」
サンダルフォン「アッ鼻血が……」
メタトロン「…………はぁ…はぁ」
ミュー「ということで次回更新は2/28です!ブックマーク、高評価、コメント、質問等、よろしくお願いします」