20.兄妹の仲
「お兄様……?」
魔王城の一階、エントランス。
今からやっとめんどくさいこの場所から脱却できると思ったものを……よりによって忘れた頃に出会うとは……
周囲がざわついているが、僕の口元は変わっていないはず。
っていうか、なんで分かったんだ?
今の僕は、魔力も漏れてないし、シンボルとなるものも持っていない。
唯一の手がかりとして、ミューと共にいることなのだろうが、ミューが魔王軍第零部隊に配属されたことはあまり公にはなっていない。
というか、この間第七守護塔に行った時スシュロスに『誰ですか?このサキュバスは?』などと初対面のような反応を見せた。
その後ハードパルドやスティアにも会ってみたが、ミューの存在は知らなかったらしい。
そのため、ミューのことはあまり知られていないという結論に至ったわけなのだが、どうやらルネには知られていたみたいだ。
って、おいそこ!誰が無断欠勤野郎だよ!
もうその話はいいでしょうが!
とまあ考察ついでに外野にツッコミを入れていると、ルネは目の前に迫って来ていた。
「…………ボソッ」
ルネが何やら口ずさんだようだがあまりよく聞こえなかった。
……それにしても、見ない間、また綺麗になったんじゃないか?
僕と同じく艶のある黒髪の上にはぴょこんとアホ毛が飛び出ている。
これもまたこの子のチャームポイントだった。
そしてその後ろにはフリルのついた赤いリボンが……あれ?なんかどっかで見たことあるような……まぁいいか。
ツンとしたツリ目、肌のハリはシルクのよう。
スタイルも素晴らしく、出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいる。
身内贔屓ではないが『美少女』という言葉はこの子のためにあるんじゃないかっていうほど。
言っておくが僕はシスコンではない。
ただ本当に美しいのだ。
その美しさは他人からも評価されている。
魔王軍人気ランキング女性部門で長年一位の座を守り続けている。
ちなみに二位はアルちゃんだ。
顔は平凡な僕からしては羨ましい限りである。
「………だれ?」
左手を掴んでいたミカエルが声をあげ、僕に寄り添って来た。
まぁ仕方ないだろう。
ミカエルはこの世界に来てからまだ数日しか経っていない。
っていうか、なんか今一瞬ルネからさっきのようなものを感じたんだけど……誰に向けたのだろうか?
「この人は僕の妹で、『優喪雅失のルネ』で知られている、ルネ・テルメードだよ」
一応僕の方から名前を言っておく。
この短い間で気付いたが、今のミカエルは極度の人見知りであった。
そして、もうバレてるだろうしフードを外す。
すると、
「おお!あれはまさしくベン様だ!」
「あれが『無断欠勤のベン』……」
「近頃では引きこもりも追加されたらしいぞ」
「いや、だからもうそのネタいいから!しかも自分から引きこもってないから!軟禁されてたから!」
全く……一応上官なんだからもう少し敬ってもいいんじゃないかな?
とまぁ、ギャラリーに気が引き取られすぎてほったらかしにしていたルネのことを思い出し、話しかける。
「やあ、ルネ。久しぶりだね」
「…………………」
な、なんだ?
すごい鋭い目線でこっちを睨んで来てるな……
そしてこの瞬間、とある人のスイッチが入ったらしい。
「ハァ…ハァ…ベン様……なんか興奮してきました」
そう、ミューは体をクネクネしながら火照った顔でほざいていた。
考えて見よう。
ミューは今僕と腕を組んでいる。
そしてミューの胸。
多分片方で頭一つ分あるのではないかと思うほどのもの。
そして体をくねらせている。
その結果、僕の腕が柔らかいギガント級マシュマロに包まれる。
そして、ふと不覚ながら『興奮』の感情を出してしまった。
それを、冷酷無比とも謳われた美少女は見逃さない。
「……胸ですか、お兄様………」
ふと、冷めるような冷たい声で言われた。
恐る恐る前を向いて見ると……
「ご主人様……なんか寒い」
身体中から冷気を放っていたルネがいた。
これはルネの固有魔法の『温度操作』と言って、その字の通りありとあらゆるものの温度を操作する。
「お兄様……女誑しとは……キモいです」
「いや待て、僕はそんなことした覚えなんかな」
「問答無用です!」
と、その瞬間、僕の右足は氷漬けにされた。
えぇ……まじかよ。
本気ですか。
やーっぱり、
色々とすぐ手が出るから……
「僕はお前が嫌いなんだよ」
その瞬間、さらに周辺の気温は下がった気がした。
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気付いたら、全身が氷漬けにされていた。
もちろん、僕自身ダメージというものは何もない。
このローブは、魔法による攻撃の効果を半減させる効果がある。
スッゲェなあ……作ったの僕だけど
とまあ、自画自賛しながら氷を内側からぶち破る。
そこにはもう、ルネの姿は無かった。
「兄妹喧嘩ですか?」
「………まぁ、そういうもんだね」
「………申し訳ございません」
「なんで謝るんだい?」
「いいえ、あそこで私が反応しなければ……」
「ミューは悪くないさ。悪いのは、僕であり、ルネでもある」
申し訳なさそうにしてきたミュー。
するとミカエルはまた僕に抱きついてきた。
「なんでご主人様は、ルネお姉ちゃんが嫌いなの?」
「ちょっ、ミカエル」
核心をつき質問してきたミカエルをたしなめるミュー。
ルネのことを僕は嫌いじゃないさ。
正直、妹として好きでもある。
「いや、いいんだ。ミカエル。僕は別にルネのことが嫌いなわけじゃないよ」
「じゃあ、なんで?」
その理由は、さっきも見たであろう、
「ルネは、昔から気に入らないことがあったらすぐ『温度操作』で攻撃するんだ。なんでも力が全てというわけでもないのにね。何か言いたいことがあるのなら、口で話せばいいじゃないか。それなのに、彼女は手を挙げることしかできない。それが結果的に力となったのならそれはそれでいいんだけど、それじゃあ人との付き合いは上手くいかない。上の座につくものというのは、常に下の者たちから敬われていると同時に妬まれているから。何事も、関係が大事なんだ。僕には必要はない。なにせ僕はそれすらもしのぐ力があるから。でも彼女にはそれほどの力はない。だから、あの性格が嫌いだと言っているんだ」
僕は一人でいい。
でもルネには耐えきれない。
彼女には必要なものだから。
それこそ、彼女が『喪失感』に襲われてしまう。
彼女にはもう2度とあんな思いをさせたくないんだ。
「果たしてそうなのかな?」
と、僕の考えを否定するように口を挟んでくる。
「………スティアか」
スティアルカー。
ちょっとした噂話から重要機密まで、『諜報部隊』とも言われている第四部隊。
その隊長は魔界、いや、全世界で最も速度が速い。
たとえそれは今さっき魔王城で起こったいざこざにだって迅速に駆けつけることができる。
「ボクは、ルネたんはベンの言っていた頃のようじゃあもうなくなっているように思えるけどね」
「そんなわけないんじゃないか。じゃあ今のはなんだったんだ?」
「分からないけど、ボクはルネたんが私情で他人を攻撃するところ、ここ数世紀は見たことなかったよ。多分、ベンにだけ特別なんじゃないかな」
「その意味は?」
「だから分からないって。ボクは『諜報部隊』だよ。伝えられるのは真実だけ。考察するのは、情報を伝えられた者の仕事さ」
……そうかい。
確かに、これじゃあ兄としても失格だね。
しばらく、ほとぼりが冷めてからまた話そうか。
「ミュー、ミカエル。とにかく僕らは僕らだ。今のことは忘れてくれ」
「………うん」
「かしこまりました………」
作者「思いがけずシリアスっぽくなっちゃったけど、理由ってしょうもなかったりするんだよね」
ベン「しーっ!それしーっ!」
ルネ「なんと!次回は私メインですよ」
ミュー「ルネ様も結構後書きだとキャラ変わりますよね」
ミカエル「ミューが言えたことではないと思う」
スティア「そう言うミカエルも、口数が増えてるんだよねー」
ミュー「そんなことより!次回更新は2/11です!ブックマーク、高評価、コメント、質問等よろしくお願いします!」