2.絶望と狂気の勇者
インフルエンザが流行ってますね
私はレスティア・フレイシス。17歳。
職業は、『勇者』。
『勇者』とはみんなが誰でも羨むスペシャル職業。
日々人のため魔王軍と仲間を集めて闘い、国から、そして何より助けた人達からの支援を受けながら生活していく。
『勇者』の持つスキルは強力なものばかりで、その上聖属性の魔法も使えるのです。
今は仲間の『聖女』、『魔導師』、『姫騎士』と一緒に冒険を続けています。
そんな私ですが、初恋の相手がいます。
2年前まで、テハレ村という田舎の村で私は住んでいました。
そこに住んでいる幼馴染の『ベン・テルメード』という人が私の好きな人です。
職業鑑定をうけ、『勇者』認定され、有無を言わずに国の都にお呼ばれされてしまい、彼とはしっかりとしたお別れの言葉を言わずにいました。
今日、私、もとい私たちのパーティはテハレ村の方面に向かっています。
目的は、テハレ村の付近にあるダンジョンの攻略。
私たちは、テハレ村に一番近い大規模街の『テールミッド』に来ていました。
そして今、馬車屋に行き、テハレ村への馬車を出してもらおうとしています。
「すみませんよろしいでしょうか?」
「ん?あー………そっその紋章は、ゆゆゆ、勇者様御一行でございまするでしょうか⁉︎」
この世界では、『勇者』という職業は羨望の対象であると同時に畏怖、敬意の対象でもあります。
ちなみに私は、こういう感じで謙遜されるのが嫌いです。
「はい、そうですが……その呼び名と敬語はやめてもらいませんか?」
『魔導師』のリエル・カーサーが言葉を発する。
緑色の髪を肩あたりまで伸ばし、前髪をヘアピンで留め、愛用の『幻宝珠の杖』を両手で握っている私よりも少し背が小さい17歳の娘です。
彼女との最初の出会いはテハレ村。
彼女を勇者パーティに入れたのは……ベンくんが取られないか心配だったから。
そんな彼女でも今は立派な『魔導師』で、我がパーティのとっても重要なメンバーでもあります。
「えっ、でも…………いいんですか?」
「はい」
「そうか、じゃあ気軽に行かせて貰うぜ」
言い方がフランクになった店の人。
そうそう、私はこんなんでいいのよ。
「テハレ村への馬車に乗りたいのですが……」
そう聞いたのは『聖女』のシフィア・ポルテート。
昔彼女は私とベンくんの姉代わりのような存在でした。
でも今は我がパーティのとっても重要な回復役のメンバーです。
「テハレ村、ですか?」
「うん、そうだよ」
相槌を打ったのは『姫騎士』のアイリス・ヴァリー・ユークリーデ。
黄金色に輝く髪を腰のまで伸ばし、白金に光るミスリルの鎧を着込み、腰に剣『ホワイト・ナイト』を差している、ちょっぴりおバカな16歳の女の子。
実はこの子、この国の第二王女でもあるのですが、なんでも国のために奮闘するため、その上に最適職が『剣士』だったので、私たちのパーティに入りました。
ですが、そんな彼女は今では国の騎士団を束にしても勝てない程の剣の使い手。
剣だけなら私と互角かそれ以上の力を持っているかもしれません。
「そういえば、テヘラ村って何なの?」
……ちょっぴりおバカだが
「テハレ村は私の故郷。生まれ育ったところ。テヘラじゃない」
「そして、レスティの愛しのベンくんに会いに行くの〜」
「ちょっ、シフィア姐⁉︎」
「そうそう、私が初めて見たときなんかレスティがベンさんの胸に顔を埋めてたのよ?」
「リエルまで!」
この二人は私の恋バナになぜかやたらと執着してくる。
「そうなんだ…じゃあ、テヘラ村に行けばレスティが四六時中話しているペンさんに会えるんだね!」
「あんた、直す気ないわね……いいよ!別に!開き直るよ!私はベンくんが好き!大好き大好きだーい好き!私とベンくんは赤ちゃんの時から一緒にいたの!物心ついた時から一緒にいて好きだった!彼が顔を向けてくれたら嬉しかった!目をそらすと寂しかった!私を遊びに誘ってくれた時は喜びを感じた!日が暮れて別れる時は空を憎んだ!ベンくんが好き!そう私はベンくんが好き!私に触れて来た時はもう頭が真っ白になるくらい心から幸せを噛み締めた!気づいたら下が湿ってて、火照った体をベンくんに悟られないようにするのが大変だった!テハレ村でずっとベンくんと幸せに暮らすんだなぁって思ってた!そこで『勇者』!確かに遠距離恋愛も悪くなかった!でも寂しいものは寂しい!住む場所を転々と変える私には手紙を送っても返事は来ない!それで2年の月日が流れてやっとベンくんに会えるんだもん!会ったら絶対に抱きついて、ベンくんのにおいをクンカクンカして、ディープキスをして……あ、そうだ!もう私、子どもを産んでもいいと思うんだよねぇ…だから、もういっそのこと今夜ベンくんに私の初めてを貰ってもらおうかな?……えへへへ、ベンくーん、早く会いたいよぉぉぉぉ………」
「「「「「……………」」」」」
あれ?どうしたんだろう?シフィア姐にリエル、馬車屋の店主に通行中の人達まで……なんで固まってるのかな??
「そっかー、じゃあ、早くテヘラ村に行かないとね」
「だからテハレ村だってば……まぁいいか、私も早くベンくんに会いたいし」
「あ、あぁ、その事なんですが………」
店主が、言いにくそうに口を開いた。
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テールミッドから馬車を飛ばして4時間半、レスティ一行は目的地に到着した。
「………なに、これ………」
だが、そこにあったのは前のようなのほほんとどこか抜けているような平和でのどかで心が緩やかになるような村の景色ではなく、木造りの建物は原型が止まっていないように崩壊し、石造りの建物ーーー教会とレスティアの家はなんとか全壊は免れていたが、ヒビや風穴が点々と存在し、とても住めるような場所では無かった。
そして何より、そこには誰も居なかった。
「酷いわね……」
「レスティ……」
「なに?ここ?」
3人は、あまりに酷い村の様子とレスティに困惑していた。
「あぁ、ハハッ♪」
「「「……⁉︎」」」
レスティアの目からハイライトが失っていく。
ほかの3人は、いまこの瞬間に恐怖を抱いた。
そのレスティアの目線の先にあるものは………
村の広場の真ん中に置かれた、少年ーーベン・テルメードの頭部だった。
この時レスティアを支配したのは、狂気と絶望だった。
「あぁ、ベンくーん、ここにいたんだぁ、わたしねぇ、このむらについてすんっっっごくベンくんのことしんぱいしたんだからぁ。だってたてものはみーーんなこわれて、むらのみんなもどこかにいっちゃってー、もぅ、みんないじわるだなー、せっかくわたしがかえってきたっていうのにみんなしていたずらしてー。でもやっぱりベンくんはわたしにやさしいんだねー。あぁ、わたし、もっともっっとベンくんのことがすきになっちゃったよぉ〜あ、みてみてー、あのよにんがわたしのいまのなかまなんだよぉあ、でもあんしんしてね、ベンくんはわたしだけのベンくんだからぁ、だれにもわたさないからぁ、だからぁ、ベンくんもずーーっっとわたしといっしょだよぉー?」
そう言い、レスティアは生首をマジックバッグの中にしまい込んだ。
「さぁ、三人とも、行くよ!」
これが、『狂気の勇者』レスティア・フレイシスの生まれた瞬間である。