19.出発前と妹
ちょっとくだらん前話。
あれから数日後、僕はアルちゃんに呼び出されていた。
「例の件についてじゃが、このような物を用意した。肌身離さず持っておくがよい」
そう言い、ヴェルキシスが台車を持って来て、僕の前に止めた。
その台車に乗っていたものは……
「監視用の指輪じゃ。監視といっても、指輪の現在地をこの魔王城の監視塔に発信するだけのものじゃがの。それを3つじゃ。ミューと、奴隷にしたという天使に付けさせるのがよいじゃろう」
青い宝石の埋め込まれた指輪だった。
まぁ、ずっとつけていろっていうことは、所持者の魔力を吸うことにより発動するものだろう。
これを巻くのは簡単だ。
こういったものは、魔力が濃く集まっているところーー俗に言う魔力溜まりというスポットに行けば誤作動が起こる。
まぁ、あのアルちゃんがこれだけで終わりだとは思わないけど。
「それから、部隊長定例会議には緊急時以外はしっかりと戻って参加せよ。お主なら可能じゃろ?どんな遠距離のワープでも」
ワープできる距離が遠ければ遠いほど、消費する魔力は多い。
だが、僕の持つ魔力の総量は多い。
尋常じゃないほど。
だから、ちゃんと部隊長定例会議に参加しろと言っているのか。
ま、これについては仕方ないか。
大人しく従おう。
「あと、お主に任務を課す。まだどの任務を与えるか決めてはおらぬが、決まったらお主に使い魔をよこす。その際この指輪を頼りに探すゆえ、変なことは考えんようにな」
なるほど、そう来たか。
ただ単に連絡するだけなら通信の魔法を使えばよい。
だがもし僕が指輪を捨てたのなら、その使い魔は僕の元にはたどり着けない。
それで、僕が指輪を廃棄したことがバレる。
これは……想像以上に厄介だな。
何が何でも僕に仕事をさせる気か。
「これで以上じゃ。何かあったら、『通信』するように」
「はいはい、分かりましたよ」
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「とまぁそういうわけで、これから自由気ままに旅に出ようと思う」
一旦部屋に戻りミューたちに魔王城を出ることを伝える。
「私も、付いてっていい?」
「………もちろん、もとい、そのつもりだよ」
「ご主人様ぁ、好き」
いやまぁ、できれば一人が良かったんだけど。
どうせなら一人じゃできないことをやってみるのもいいかもしれない。
「それで、具体的にはどこへ行くのですか?」
今日は亀甲縛りのミューがそう聞いて来た。
胸が強調されてるため目のやり場に困るからやめてほしいんだよな、それ。
まぁ、どうせ言っても聞かないだろうけど。
というよりむしろ、『では罪深き私に罰を!』とか羨望の目線で言ってくるだろうから無視が一番だ。
ミカエルが来てから毎晩夜這いをかけられている僕だが、貞操は守り続けている。
第七守護塔にいた時は何か壊れてたんだな、うん。
やっぱり女の子を犯すのは僕の趣味じゃ無い。
あいや、別に欲がないわけじゃないよ?
ただ、洗脳して『性奴隷』という立場に落としてしまったため、ミカエルの中でも不本意ながら僕のことを好きと言ってくれているんじゃ無いかな?
っていうか、前のミカエルなんかすごく気が強かったし。
それはさておきどこに行くかっていうことか。
そういえば、『スカル・ベン』からの反応が無いな……っていうか、あんまレスティの噂を聞かないな。
じゃあ、とりあえずユークリーデ王国にでも行ってみようかな。
「僕はユークリーデ王国に行ってみようと思うんだよね」
「ユークリーデ王国……ああ、あのスシュロス様が倒した勇者が王子をしていた国ですね」
「あの国に何か、用?」
ミカエルが首を傾げ聞いてくる。
可愛いなぁ、もう。
「あぁ、いや別に。だから、単に自由気ままに旅をしようってことで。特に用は無いよ」
「分かりました。ベン様と共になら、どこまでもお付き合いいたします」
「そんな格好で言われても感動しないよ?」
そういうことで僕らはユークリーデ王国に行くことが決定した。
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魔王城のエントランス。
ここが魔界であることを忘れるほどにエレガントでゴージャスな魔王城は、エントランスに最も力を入れている。
魔王城のエントランスは全魔王軍に所属する者たちの情報交換の場でもある。
そのため、人が多い、多すぎる。
そして、広い、広すぎる。
同じ空間なのに一万の者たちはいるだろう。
そしてぎゅうぎゅうというわけでもないのだ。
ざっと見ると作戦会議をしているような小隊もあれば、単に雑談している者たちもいる。
魔王軍とは、基本自由である。
床はピカピカに磨きあげられた大理石で、通路にはフワフワのカーペットが敷かれている。
僕は部隊長クラスなのだが、頭を下げてくれたものはいなかった。
別に僕の知名度が低いわけでもなく、差別されているわけでもない。
ただ、その理由は僕の服装にあった。
漆黒のローブ。
所々にカッコつけで旧悪魔語の刺繍がしてあるが、そのどれもが僕がベン・テルメードであるヒントではない。
その上、フードもかけている。
真正面から見ても、僕の口元しか見えないだろう。
しかもこのローブ、発する魔力を遮断する特殊効果もある。
そのため、魔力に敏感な種族でも僕が純血悪魔であることはすぐには分からないだろう。
ちなみにミューはいつもと変わらず普通のサキュバスの格好だ。
だがミューは知名度が高いわけではないため、堂々としていても騒ぎにはならない。
まぁ、ちょっと他の悪魔よりも魔力が大きいが、部隊長クラスとまではいかないため、大丈夫だろう。
ミカエルは、真っ黒のシスターの服を着せている。
このシスター服は僕のローブと同様、魔力を遮断する。
堕天使の魔力は魔族や悪魔の放つ魔力とは一味違うため、隠さなければいけない。
まぁ僕と違って顔は隠していないが。
んでもって僕の左手を握るミカエルと、右腕を絡めるミュー。
まぁちょっと不自然だが、多分大丈夫だ。
さて、行くか!
と、自信こいてた自分をブってやりたい。
「お兄様……?」
「「「「えっ?」」」」
顔を振り向くと、大勢の魔族や悪魔を引き連れた、僕の
妹であるルネがいた。
ルネは魔王軍第一部隊隊長。
それほどの者が僕に気づくと、当然近くの者たちにも広がって行く。
「ルネ様のお兄様って確か……」
「そうだよ第零部隊隊長の!」
「『絶対絶望のベン』ですか!」
「ええ、あの伝説の無断欠勤し続けたっていう」
「ばかっ!お前!聞かれるだろうが!」
「でも、実力は魔王軍屈指っていうぜ」
僕が平穏を求めるのは間違っているだろうか?
っていうか!欠勤話はもういいから!
ルネ「え⁉︎私ってこれだけですか⁉︎」
作者「いやもちろん、次回も出すよ」
ベン「作者って基本無計画だからなあ……だから投稿が遅れたりするんだよ」
作者「返す言葉がございません」
ミカエル「そんなことより、次回更新は2/8。ブックマーク、高評価、コメント、質問等よろしく」