1.絶望の潜伏と勇者
どうも雲雀なるはです。
まだまだ未熟ですのでどうか暖かな目で見守っていただければ幸いです。
僕の名前はベン・テルメード
銀髪で、黒目。中肉中背(実際はもう少し筋肉質なのだが、所謂着痩せというものだ)の少年。
僕の村ーテハレ村はユークリーデ王国の辺境にある田舎な村だ。
この村はそれこそ裕福ではないものの、民は生き生きとしているとても良い村だ。
「ベンくーん!はーやーくー!」
僕の名前を呼ぶのは、レスティア・フレイシス。15歳の人間族。
ウェーブのかかったショートの赤髪で、真紅の目の女の子。僕の幼馴染だ。……胸は…控え目とだけ言っておこう。
この国では成人(15歳)になると聖職者から『職業鑑定』なるものを受けることになっている。
僕とレスティアは、まさに今日、職業鑑定を受けるのであった。
文字通り自分に一番適した職業を診てもらうもので、商人から騎士や魔法使いなどなど、いろいろな職業がある。
その中だも一際目立ってくるのがーーー『勇者』である。
この世界には魔王がいる。
大勢の魔族を従え、魔物を放ちこの世界を支配しようとしているというのは、この世界での常識だ。
数百年も前、先代魔王が勇者の手により討取られた物語もまた、この世界に住んでいる者なら知らない者はいないであろう。
よって、子供達は職業鑑定の時に勇者判定を受けるのを夢見ている。
レスティアも例外ではない。
「私は勇者になりたいな〜。ベンくんはー、大犯罪者?フフッ」
笑いながら冗談を言ってくるレスティ。
冗談と分かってるけども、流石に大犯罪者は無いんじゃ無いかな。
そんなこと言ったらさすがの僕でも傷ついちゃうよ。
「だったら、レスティは勇者として、僕を切り捨てないとね」
「……っ、そ、そんなこと……できるわけ…」
レスティは涙眼になり、オロオロし始めた。
あらら。こっちも冗談気味に言ったんだけど、どうやら本気にしちゃったみたい。
「こらっ!」
「いでぇ!」
「まーたレスティアを泣かせたのかい?」
僕に麺棒を叩きつけてきたのは、この村の住民のシャナおばさん。
巨体のドワーフと、なんか矛盾している人だ。
ちなみに、僕は赤ん坊のときにこの村の近くの森に捨てられていたらしく、それで僕を拾ってくれたこのシャナおばさんが育ての親となり、他の村人のおかげもありここまで僕は育った。
ベン・テルメードという名は、捨てられていた当時に着ていた服に書いてあった名前だ。
「いやー、レスティに冗談言ったらなんか本気にしちゃって。悪かった、レスティ」
「ううん、私も、ごめんね?」
レスティも僕に謝罪してくる。
そういう素直な娘、僕は好きだよ?
「全く。レスティアはいつもは普通なのにベンのことになるとおかしくなっちゃうんだよね。ベンもそれを知っててからかうんじゃ無いよ」
「ごめんなさい」
「あ、そういえばこれを二人にあげるよ」
そう言いシャナおばさんが渡してきたのは袋に入ったクッキーだった。
シャナおばさんはこの村ではパン屋をやっていて、余った材料でお菓子を作って僕らにくれる。
パン自体は普通なのだが、どちらかというと趣味で作るお菓子は絶品で、領主様が直に買いにくるほどだ。
……あれ?なんか僕の少ないぞ?
「あ、ありがとうございます」
「……なんで僕のはレスティのよりも明らかに少ないのさ」
「アンタは屈強な男だろう?少しくらいか細い女の子に分けてあげることくらい出来ないのかい?」
「屈強な女に言われても……」
「なんか言ったかい?」
「いえ何も」
レスティがか細いってのもねぇ。
実際村長との親子喧嘩で村長叩き伏せたこともあるし……男女差別反対!
「ベンとレスティアは行くんだろう?良い結果、期待してるよ!」
「ありがとう、シャナおばさん」
「ありがとうございます!シャナさん」
ーーーーーーーーーーーーーー
いやー、シャナおばさんがくれたクッキー、これまた美味な。
バターの風味が程よく香り、食感もサクサクで……おあっと、もう空かい。
隣ではレスティがネズミみたいにちょびちょび食べてる。
「……あげないわよ?」
「ちっ」
「……あ、落としちゃった……いる?」
「…………」
「……ベンくんに無視された…グスッ」
……面倒くさいなぁこいつ。
気が強いのか弱いのかわかんない。
「ほらほら教会に着いたからもう終わり」
「うん。ベンくんが言うのなら」
そんな感じで、僕達は村の中央に建ててある小さな教会に足を踏み込む。
中には俺らと同い年、つまり15歳の少年少女で一杯になっている。
大体30人くらいだろうか。
この村の15歳は僕とレスティの二人だが、この周辺の村には教会が無いため、周辺の村の職業鑑定はこの村でやることになっている。
教会の中は掃除が行き届き、中央に置かれた女神像が存在感を放っている。
その像の前に、一人の女性が祈りを捧げていた。
癖の強いミディアムロングの栗色の髪の毛に、薄っすら水色の修道服。胸はレスティと比べ物にならんほどでかい。
その女性に、へスティは声をかける。
「シフィア姉、お久しぶりです」
「…あら?ようこそいらっしゃい。ベンくんにレスティアちゃん」
この人はシフィアという名で、歳は17。
この村出身の聖女で、僕らの姉のような存在だ。
2年前に職業鑑定を受け、聖女としての修行を終え、今は勇者パーティー候補としてこの周辺の地域を回っている。一年前にも一回会ったが、その頃はもう既に聖女としての貫禄が身についており、別次元の存在だと感じた。
話は逸れるが勇者という職業は魔王と違いこの世界でも複数人なることができ、今現在この世界に存在する勇者は十数名だとか。
それぞれの勇者達がそれぞれ自分に合ったパーティーメンバーとともに魔王討伐のため日々奮闘している。
「さて、多分全員揃いましたし、早速鑑定を行いましょうか」
うん。別に教会でやらなくても良いんじゃ無いか?すごい暑苦しい。
シフィア姉がまず一人目の女の子に手をかざす。
そして、緑色の髪の女の子の足元に魔方陣が生じる。
『職業鑑定』。
聖職者のみが習得できるスキルで、文字通り最適職の鑑定ができる。
ただし、鑑定できるのはベース職までだということだ。
例えば、職業鑑定で鑑定されたのがベース職のひとつの『剣士』だとすると、その上級職の『剣聖』や、派生職の『侍』などにも適正があるということだ。
お、魔方陣が激しく光ったな。
「きゃ!」
緑色の髪の子が至近距離の光をもろに受けうろたえる。
……シフィア姉そういうのは先にちゃんと言わないと。
「………………はい、鑑定完了!」
「う、うーん……」
「あら、ごめんなさい!私ったら注意するのを忘れるなんて!」
「シフィア姉は相変わらずこれといったとこでドジだね」
レスティが笑顔で言う。
ーーーーグサッーーーー
……うん、なんか刺さったような音がしたが気のせいだろう。。。
「え、えーっと、コホン。貴女の職業鑑定の結果、最適職はーーー」
「……こくり」
「『魔法使い』、です!」
「……うそ!やった!私魔法使えるんですね!」
緑色の髪の子がその場でピョンピョン飛び跳ねる。
魔法使いか。一応当たりといっちゃ当たりかね。
この世界の住民はみんながみんな魔力を持っており、ほとんどが『生活魔法』たるものを使うことができる。
少量の水を生成したり、火種たる火をつけたり、服を綺麗にしたり…etc
だが、戦闘魔法は魔法を扱うことのできる職業でしか使えない。
まぁ、種族とかにもよるけどね。
「『鍛治士』!」
「『剣士』!」
「『商人』!」
「『料理人』!」
次々と職業鑑定されていく。
僕とへスティは最後尾に並んで、レスティが一番最後になる。
「『騎士』!」
「『聖職者』!」
お、やっと僕の番か……………さて、よし。
僕はシフィア姉の前ーー祭壇に出る。
「次はベンくんだね〜」
「よろしくお願いします」
「ベンくんはどんな職業かな〜?」
「まぁ、別に職業鑑定で出た職業にしかついてはダメという規則はありませんし、僕は好き勝手やらせて貰いますよ」
………そう、好き勝手。
「ふーん。ベンくんらしいや。じゃあ、早速始めちゃおうか」
ふと後ろ目を見るとレスティが笑顔にこちらを見ていた。
眩い光と共に、僕は職業鑑定を受ける。……あぁ、眩しいったりゃありゃしない。
「鑑定終了」
シフィア姉が今までの愉快なテンションとは違い、いったて真顔でこちらを見ていた。
「鑑定結果、最適職は『村人』」
その言葉を聞き、辺りはざわめき始めた。
『村人』。
それだけ聞けば聞こえはいいが、上級職は無く、派生職に『町民』と『都民』があるだけ。
習得できるスキルも無く、戦闘職のように戦えなければ、商売職のように技術もない。はたまた盗賊職よりもタチが悪い。
別名【無能】職。
この世界では、最も忌み嫌われる。
そりゃそうだ。毎日が忙しい軍の中で一人だけそこらに居座り昼寝をしていたら、他の全員がそいつを嫌がるであろう。
……ま、ただのカモフラージュだしそんなのどうだっていいけどね。
「そうですか。ありがとうございます」
僕は祭壇を降り、テクテク歩く。
シフィア姉に小声で『ごめんね』と、レスティの横を通るときに『ベンくん……』などと言われたが、立ち止まらずに進んだ。
すると横らへんから声がかかる。
「まさか俺らの中に【無能】が居たとはな」
振り向くと、金髪で、筋肉がガッチリとついた少年が一人。
確かこいつは……『拳闘士』だったか。
「へ、こっち向いてんじゃねぇ!」
僕は腹からパンチをもろに喰らう。
「ぐっはっ」
そのまま吹き飛ばされ、壁に激突する。
口の中は鉄の味が広がり、口を開けると赤い液体が床に落ちる。
立とうとする僕にさらに追撃を仕掛けようと近づいてくる少年。
「止めなさい!」
僕の前には、シフィア姉が僕を庇うように立っていた。
「ちっ……命拾いしたな、【無能】」
「よくも、よくもベンくんを!」
シフィア姉に回復魔法をかけてもらいつつ、ぼやけた視界の中ではレスティが少年と対峙していた。
「へん、役立たずのゴミがムカついたから殴っただけだ」
「ベンくんを悪く言うな!」
「なんなんだおまえは、そいつの一体何を庇う?」
「友人として、幼馴染として、(……そして恋人として)当たり前じゃない!」
「【無能】にやる哀れなんてねぇよ。所詮は自分は何もできねぇくせに、他の野郎の施しばっか受けて」
「この……」
レスティと少年以外の者は、自分はどうしたら良いのか分からないような奴らと自分は関わりたくないという奴で半々だった。
そんな中、僕の受けたダメージはシフィア姉による回復魔法でほぼ全回復していた。
魔法の力ってすげーー!
「あの…大丈夫ですか……?」
そう声をかけて来たのは、一番最初に職業鑑定を受け、『魔法使い』認定を受けた緑色の髪の子だった。
「うん、大丈夫……多分」
「ベンくーん!」
レスティが泣きながらしがみ付いてくる。
「大丈夫?痛くない?動ける?私が誰だか分かる?」
「大丈夫。痛くない。動ける。レスティア・フレイシス」
「ベンくーん♡」
僕の胸に顔を埋めてくるレスティ。可愛い。
……緑色の髪の子がジト目でこっち見てるんだが。
シフィア姉は金髪の少年に説教をかましていた。
目があうと、なんか、すごい睨まれた。
あ、村の騎士につまみ出されちゃった。
「………ふぅ、ごめんねレスティアちゃん。続き、やる?」
「……はい、お願いします」
レスティが僕から離れてシフィア姉と祭壇に向かい、再び職業鑑定を始めようとする。
そこで、緑色の髪の子が話しかけてきた。
「……災難でしたね」
「まぁ、仕方ないさ。それに、あんまり僕はこのいうのは気にしないんだよね」
「ふふ、強いんですね。……あ、私はリエルと申します」
「僕はベン。ベン・テルメード。よろしく、リエル」
「はい、こちらこそよろしくお願いします、ベンさん」
同年代ではレスティの次に知り合った人だな。
お、魔法陣が光った。
「か、鑑定終了」
シフィア姉が何やら驚いた表情になってる。
「鑑定…結果……『勇者』」
そのあと、ひと段落つき落ち着いた教会の中にざわめきがもう一度走りだす。
………たった一人、全てを知っている様に微笑を浮かべる少年ベン・テルメードを除いて