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第7話 調教(そんな言葉はやめてほしい)

 僕らはレズビアの部屋に戻る。


 レズビアは部屋の右手奥にあるドアを開け、その部屋の明かりをつけた。 

「ここがリリスの部屋だ」


 石造りの室内に簡素なベッドと戸棚があるだけだった。


「なにこれ、牢獄?」


 窓が鉄格子のため、余計にそう感じる。

 むしろ、牢獄よりひどいかもしれない。


 蜘蛛の巣とか張ってるし。


 ここで寝泊りするわけ? いやいやいや。


「前のメイドはあまり部屋とか気にしなかったからな」


「いや、気にしなすぎでしょ。前のメイドってどんな人……いや、魔族だったの?」


「蜘蛛魔族だ」


「蜘蛛魔族? 蜘蛛ってあの虫の?」


「ああ。上半身が人間で、下半身が蜘蛛なのだ」


「モンスターじゃん」


「魔族とモンスターは違う!」

 レズビアは例のごとく、でっかいフォークみたいなやつを僕に向ける。


「ひっ。だから凶器向けるのやめてって」


「お前は人間みたいなことを言うな」


「だって人間だし」


「もう人間は卒業したはずだ」


「卒業してないからね?」


「まだ魔族としての自覚と誇りが足りないようだな」


「そんなこと言われても、この姿にされてまだ数時間しか経ってないし」


 新しい職場とかに慣れるのだって、数週間かかったりするじゃないですか。

 まして、性別と種族が変わっちゃったわけで、それはそれは慣れるのに長い時間掛かるはずですよ。

 いや、慣れたくなんてないけれど。


 レズビアはでっかいフォークっぽいものをポケットにしまう。


 って、え?


「それ、どういう仕組みになってるの? 四次元ポケット的なやつ?」


「これは小さくすることもできる。でかくて割りと邪魔だからな。ちなみにフォークとして使うこともできる」


 あ、やっぱりフォークなんだ。


「リリス」

 レズビアが真剣な目つきで僕を見る。


「は、はい」

 僕は思わずかしこまってしまう。


「少しこっちに寄れ」


「う、うん」

 とりあえず僕はレズビアの近くに寄る。


 まさか、ぶすりとやってこないよね? ね?


 でも、あらためて見ると、レズビアの顔は整っていてとても美しかった。

 青い肌も、南国の海みたいに透き通っていて、きれいだ。

 ふっと彼女の紺色の髪から、清涼感のあるいいにおいがしてくる。


 魔族っていっても、女の子なんだよね。


 僕の心臓が早鐘を打つ。


 これってまさか、百合的な展開とかそういうの?

 据え膳食わぬはなんとかっていうし、やぶさかではないけれど、いや、こ、心の準備が……。


「さて」

 レズビアはおもむろに両腕を構える。


「え? な、何……?」


 レズビアは、突然――


 僕の胸をわしづかみにしてきた。


「ひゃ、ひゃあああああああああああ!」


 レズビアはメイド服の乳袋をむにむにむにむにと揉んでくる。

 揉みしだいてくる。

 まるで粘土みたいに上下左右に形が変形する。


「な、何すん……ひゃ、ひゃああああああ! あ、あああ……」


 さっき一瞬でも何かを期待した僕がバカだった。


「私が悪かった。まずは段階を踏まないとな」


「だ、だんはいぃ? あっ、ああっ……」

 僕の口から嬌声が漏れ出る。

 な、何でこんな……エロい声だしてんの、僕?


「まずは女としての自覚を持たせるような調教しないといけないからな。その次に魔族として、そして最後に私のメイドとなるように調教してやる」


「ちょ、ちょうひょうって……ふえぇ……」


「どうだ? 気持ちいいだろう?」


「ど、どふぉっへ……き、気持ちよくなんか……あ、ら、らめぇ……」


「まあ、これくらいで勘弁してやろう。これ以上リリスのアヘ顔を見るのは忍びないからな」


「はぁ、はぁ」

 僕は肩で息をする。

 マジでそんな顔してたの?


 恥ずかしいやら、気持ちいいやら、情けないやらで、もう消滅したいくらい。


「これでわかったろう? もうお前は男ではないのだ。胸を揉まれて、あえぎ声を出すなんて、完全に女だろう?」


「ぐぬぬ……」

 僕はずれたブラジャーをなおしながら、悔しげな顔をレズビアに見せる。


「しかし、なかなかの揉み心地だった。次はナマ乳だな」


「やめてって。ただおっぱい揉みたかっただけじゃないの? 自分の胸でも揉んでなよ」


「そ、それは私に対する侮辱か?」

 レズビアは眉根を寄せながら、苦笑する。


 マントで隠されているけれど、どうやら小さいようだ。


「ち、小さいのもいいと思うよ。あ、そうだ、魔術とかいうやつででっかくすればいいと思うよ」


「ふん!」

 レズビアは再び僕の胸をつかんできた。

 

 で、今度は強くつねってくる。


「痛っ、痛っ! やめ、やめて! そこ乳首! ダメだって! ひゃああああ!」


「これも調教の一環だ」

 そう言うとレズビアは僕の胸から手を離した。


「調教って言葉使うのやめてほしいんだけど」

 僕は胸をさすりながら言う。

 何でこんな痛い思いばっかさせられないといけないんだ。


「それなら、訓練だな」


「……って、この行為自体やめて」


「それは無理な相談だ。さて、ちょうきょ……ではなく訓練がひとまず終わったということで、これから夕飯にしようと思う」


「ごはん?」

 そういえば僕はおなかが空いていた。

 ちょっとときめいちゃう。


「ああ、魔界の飯は、ペロンチョ界のものよりずっとうまい」


「そうなの?」


 でも、僕はペロンチョ界(相変わらずふざけた名前だ!)のものが食べたいんだけど。ラーメンとかカレーとか餃子とかピザとか寿司とか……。

 好きなものが子供っぽいって? しょうがないじゃん。好きなんだから。


「ああ、あまりのうまさにリリスも思わずアヘ顔をさらすことになるだろう」


「じゃあ、食いたくない」


「餓死したいなら、それでもいいがな」


「わかったよ。食べますよ」


「そうこなくてはな。これから『堕落街』に行って、夕飯をとることにする」


「『堕落街』?」


「魔王城と魔界学園の間にある歓楽街だ。そこにはうまい食べ物も、様々な商品も、色々な娯楽もそろっている。もともとは『多楽街』と言っていたのだが、あまりにも堕落する学生が多く、そのうち『堕落街』と呼ばれてしまったのだ」

 と、レズビアは説明すると、窓を指差す。


 窓の近くに寄って、外を見ると、夜闇の中にひときわ輝く一帯があった。そこが「堕落街」というやつなのだろう。


「魔王の娘なのに、歓楽街で食べるんだ?」


「庶民の生活も知らなければならないからな。さあ、リリス、屋上に行くぞ」


「屋上? 何で?」


「リリスの背中に乗って、空を飛んでいったほうが早いからな」


「え? また? さっき申し訳ないとか何とか言ってなかった? 僕そんなタクシー代わりみたいな存在なの?」


「降下していくのは楽だろう?」


「そうかもしれないけどさ……それでもけっこう疲れるんだよ?」


「それなら、リリスはここで待っていればいい」


「わかったよ。行けばいいんでしょ、行けば」

 

 はぁ……。

 今日何回ため息ついたんだろ。



   ※   ※   ※



「どうだ、綺麗な景色だろう」


 レズビアが言うように、城の屋上から一望する魔界は、とても素敵なものだった。

 

 もうあの日中の禍々しい色の空はなかった。

 黒々とうずくまっている遠くの山の稜線が、濃紺の空を区切っている。そして、頭上には無数の星がきらきらとまたたいていた。その星々の間を縫うように、金色のふたつの月が、仲良くぽっかりと浮かんでいた。


 眼下には、魔族たちの営みによる光がさっと広がっている。特に、堕落街であろうところは、より一層輝いていた。魔族たちも生き物で、こうやってそれぞれ暮らしているんだな、と感慨にふける。


 そうやって、景色を見ていると、レズビアが、

「女豹のポーズをしろ」


「何でだよ!」


「私がまたがりやすいからだ」


「嫌だからね」


「それならさっきのように無理やりまたがるまでだ」

 レズビアは背中に強引に乗ってこようとする。

 何? 君、子泣きじじいなの?


「ちょっと待って。わかった、わかったから」

 僕はしかたなく四つんばいになる。


 おっぱいが重力に従って、下に垂れる。

 ううっ……なんという屈辱……。


「なかなかいい尻をしている」


「いいから早く乗ってよ!」


 レズビアが僕にまたがってくる。


 さっそく僕は背中の翼に力を込め、はばたかせる。

 いつまでもこんな恥ずかしいポーズなんてとってられないからだ。


 そして、屋上の欄干を越え、魔界の夜空へと飛び込んだ。


 

   ※   ※   ※



 ああ、夜風が気持ちいい。

 すうっーと滑空しながら、魔界の営みを一望する。


「おお、すばらしい景色だ」


「うん、すごくいい景色」

 僕は眼下を見下ろす。360度のパノラマだ。

 この空を飛ぶ感覚はくせになりそう。


「よし、右に旋回だ!」

 レズビアはそう言いながら、僕の角を両手でつかんで、右に傾けようとする。


「僕の角は操縦桿じゃないから!」


  くそぅ……もし「伝説の勇者」になれたとしたら、真っ先に魔王城に飛んでいって、レズビアをこき使ってやるからな。

 それでとびきりエロいメイドのかっこうでもさせやる。


 …………

 ………

 ……

 …


「ぐへへ、レズビア、ずいぶんとかわいいじゃないか」

 伝説の勇者になった僕はレズビアに言う。


「くっ、お前、よくも……」

 とびきりエロいメイド服を着たレズビアは、スカートの裾をぎゅっとつかんで恥ずかしそうにしている。


「メイドさんならあれやってよ。『おいしくなぁれ、萌え萌えキュン』ってやつ。ちゃんと手でハートマークも作って」


「誰がそんなことを……」


「やってくれたら魔族のみんなを見逃してあげるんだけどなー」

 僕はチート能力を持ってるし、魔族なんて簡単に蹴散らせるんだよねー。


「や、やればいいのだろう。お、お、おいしくなぁれ、萌え萌えきゅ、きゅ、きゅん……」


「なかなかかわいいじゃん……」


「くっ……殺せ!」

 

 …

 ……

 ………

 …………


「おい、リリス、何にやにやしているのだ? 気持ち悪いぞ」


「へ?」


「て、ていうか、お、お、お、堕ちるぞ!」

 レズビアが慌てた調子で言う。


 気がつくと徐々に地面が目の前に迫ってきていた。


 うっ、うわああああああああああああああああああああああああああああああ!

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