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第40話 大団円(終わりよければすべてよし?)

 ここはおばあちゃんの家だ。十年前におばあちゃんがなくなってからはもう行っていない。


 縁側の向こうにはとうもろこし畑があって、さらにその向こうには鬱蒼とした雑木林が広がっている。

 遠くには緑の山々が連なっていて、その背後には真っ白な入道雲と、抜けるような青空があった。


「おばあちゃん、僕、女の子になっちゃったんだ」

 と、縁側に座っているおばあちゃんに言った。僕の姿はリリスのままだった。メイド服も着ている。


「ほにほにほにほにめんごいごった」

 おばあちゃんがにこにこしながら言う。そして、茹でたとうもろこしを取り出し、

「け、け」

 

「ありがとう」

 僕はとうもろこしを受け取り、むしゃむしゃと食べる。懐かしい味だ。

「今からね、僕もおばあちゃんのところに行くんだよ」


 ばしぃぃぃん!!!


 いきなりビンタされた。痛ぇ……。


「ばかこ! ごっぢさぐんでね! まんだはやぁだ。ほにほにほにほにほにほにほにほに……」


 おばあちゃん、ずーっと気になってたんだけど、「ほにほに」って何……?


 …………

 ………

 ……

 …


「おばあちゃん……」


「おい、私はそんな歳じゃないぞ」


「ん……ううっ……レズビア……?」


 目を覚ますと、レズビアの顔があった。僕はベッドに寝かされているみたいだ。


「リリス! よかった……」

 レズビアが僕に抱きついてきた。ぼろぼろと涙をこぼしている。


「僕、死んだんじゃ……」


「ばか、こうして生きているではないか」


「えっと、おなか刺されて……」


 けど、痛みはまったくない。おなかを触ってみたけれど、傷も完全にふさがっているみたいだ。どうやら助かったみたいだ。


 魔王が僕のベッドのそばに来て、

「魔族は回復力が高いとはいえ、そうとう危険な状態だった。魔界じゅうから医者や魔術師を呼んだんだ。君を助けるためにね。レズビアも毎日君のために頑張ってくれていた」


「レズビア、ありがとう」


「メイドを助けるのが主人の役目だからな」

 レズビアは手で涙をぬぐう。


「あ、そうそう」

 魔王が言う。

「私もリリスちゃんに抱きついていい?」


「何を言っているのだ、このクソジジイ」

 レズビアが一蹴する。


「魔王様、腕は……?」


「これか? うまいことくっついた。魔王だからな」


 そうか、魔王だからか。


「あの、瀬崎くん……じゃなくて、『伝説の勇者』は?」


「ああ、やつなら、治癒魔法の応急処置をリリスちゃんに施させたんだ。一緒にいた僧侶と魔法使いにね。それからやつらはおとなしく帰ったよ。もう魔界に攻め入ることはないって。全部リリスちゃんのおかげだねえ。まさか、『伝説の勇者』と知り合いだったとは」


「知り合いというより、僕の大事な友達です」


「そうか、もしかしたらこれからうまいこと人界と和平交渉が進むかもしれない」


 また会えるかどうかわからないけど、とにかく瀬崎くんが無事でよかった。それに魔界も救われたみたいだし。大団円ってとこかな。


「今回のことは世間的には『伝説の勇者』が淫魔族のおっぱいに魅せられておとなしく帰った、ということにしてある。おっぱいが魔界を救ったのだ」


「たしかに僕、おっぱい丸出しにしましたけど、あの、もっとかっこいい名分とかなかったんですか……」


「リリスちゃんを大々的に顕彰してもいいんだけどね。魔界を救ったおっぱいってね」


「やめてください。魔界を救ったおっぱいなんて広められたくないです」


「冗談だ。とにかく、感謝している。ありがとう」


「あの、『伝説の勇者』は僕に何か言っていましたか?」


「『本当に申し訳ない』って謝ってたよ。目を覚ましたら、山田によろしくって。あと、『あれはやっぱりデッドボールじゃないと思う』って言ってたな。何のことかよくわからないが」


 瀬崎くんもずいぶんと強情だな。彼らしいかもしれない。


 部屋の隅にドラゴンのワイちゃんがいて、彼が、

「ただの淫乱クソビッチだと思っていたが、見直したな」

 なんてことを言う。


 ここ病室みたいだけど、そのでかい図体、どうやってここに入れたの?


「僕はただの淫乱クソビッチですよ~」

 なんておどけて言う。


「リリス、これからずっと、私のところから離れるな」


「レズビア、リリスはペロンチョ界の人間だ。『伝説の勇者』でないことももはや明白だ。元の世界に帰してあげなさい」


「リリスは私と一緒にいる! どこにも行かないで……」


「レズビア……」


「わがままを言うなって。アルビンが白状したよ。君を元に戻すように術を組んでたんだって」


「はい。僕が頼んだんです。色じかけで。だからアルビンは許してあげてください」

 

 本来なら、「伝説の勇者」かもしれない人間を元の世界に帰すなんて魔族に対する裏切り行為だ。僕は彼に対して悪いことをしてしまった。


「君に迫られたら男はひとたまりもないだろうね」

 魔王は笑いながら言う。

「アルビンのことなら別に問題ない。私だってそもそも九割がたリリスちゃんのこと、『伝説の勇者』じゃないと思ってたし」


「それならよかったです。えっと、ベリトさんは?」


「地下牢に閉じ込めてある。処分はこれから私が決める」


「そうですか……」


「それでだ、もうあまり時間がない」


「え?」


「君はまる二日くらい寝てたわけだ。そろそろ時間だ。元の世界に帰るにはこのタイミングしかない」


「そんなに寝てたんですか……。カーミラとかスウィングにお別れを言う時間は……」


「もうないね」


「それは残念です……」


「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!」

 レズビアが僕の身体をぎゅっとしてくる。

「行くな行くな行くな!」


 ここにずっといて、レズビアたちと遊んで暮らすっていうのも考えた。いっぱい考えたんだ。けど、僕は……。


 彼女の髪をそっと撫でてやった。

「ごめん……」



  ※   ※   ※



「お前みたいな淫乱ピンクがいなくなって、清々するな」

 と、アルビンが言う。


 ここは魔王城の実験室だ。アルビン、レズビア、魔王がいる。

 僕は部屋の床に描かれた紋章の上に立っている。ここに来たときの、黒い下着の姿で。


「ほんとは僕とヤりたかったくせに」


「お前、自意識過剰すぎるぞ」


「そうか、たしかアルビンはロリコンだったね」


「ロリコンじゃねーよ!」


「リリス!」

 レズビアが泣きじゃくりながら再び僕に抱きついてくる。

「どうして行くんだ、ばか!」


「もしまた会えたら、みんなで海とか山とか行こう?」


「そんなこと言うならここに残ればいいじゃないか!」


「ごめん。でも、行かないと。カーミラとスウィングによろしく」


「レズビア、離れろ、そろそろ時間だ」

 と、アルビンが言う。


 僕はレズビアの身体をきつく抱きしめる。

 それから彼女は悲しげな様子で僕から離れる。本当に僕も心苦しい。心臓がきりきりと締めあげられるみたいだ。


「さよなら、レズビア……。あと、ついでにアルビンも」


「俺はついでかよ!」


「私はさよならなんて言わないからな」


「レズビア、また会えたら……」


 急に部屋の明かりがまぶしく感じられてきた。


 レズビアの姿が徐々にかすんでゆく……。


 やがて視界が真っ白になった。

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