第3話 妨害召喚(よくも余計なことしてくれたな)
なんかこの僕が「伝説の勇者」とか言われちゃったわけだけれども、これまでの人生で、風を感じたことも、小宇宙を感じたこともない。ちなみに春が来たこともない。
「僕はただの一般人なんだけど……」
「ペロンチョ界での地位や立場などはどうでもいいことだ。星の巡り会わせとか、千葉ロッテの先発ローテとか、東証株価指数とか、今期のアニメの本数とか、そういった諸々の要素で、適性が決まるらしい」
「何そのとりとめのない要素」
「様々なファクターが複雑に絡み合っているということだ」
「でも、まさか本当に僕が『伝説の勇者』?」
さっき名前がちゃっちいとか言ってごめんなさい。
「正確に言えば、お前は『伝説の勇者』として召喚される予定だった男だ。小憎たらしいことに、あらゆるパラメーターがカンストするほどのチート能力を持ち、誰もがうらやむイケメンで、美しい女どもを何人も従えてハーレムをつくり、魔族をばっさばっさと殺しまくる、そんな『伝説の勇者』にお前はなる予定だった」
「え? マジで?」
まさか異世界召喚で俺TUEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEってやつ?
「ああ。我々の情報網によるとな」
「じゃあ、ちょっとその人界ってところに召喚されに行ってきます」
「そうはさせない。我々魔族としては、そんなふうにお前が『伝説の勇者』として召喚されては困るのだ。せっかく、私がこうやってお前を人界の人間どもより先に召喚して、それを阻止したのだからな」
「いやいや、そんなことできるの? 先に召喚して妨害するとか」
「こうやってできてしまったのだから、できるのだろう」
「じゃあ、僕はどうなるの? どうすれば、元に戻してくれるわけ?」
「元に戻すわけないだろう。お前を元の世界に帰したら、人間共はすかさずお前のことを召喚しようとするだろうからな」
「そ、そんなぁ」
「本来なら、お前のことをぶち殺したほうが、我々魔族にとって安全かもしれない」
レズビアはでっかいフォークみたいなものを一瞥する。
「ひ、ひえぇ!」
「しかしだ、生かしておけば何かに使えるかもしれない」
「何かって?」
「例えば私のメイドとか」
「メイド?」
「ちょうど私のメイドが自己都合で退職して、空きができているところなのだ」
「そんな理由で? 僕をメイドに?」
「いやならぶち殺すまでだが」
「ごめんなさい、ごめんなさい。こ、殺さないで」
「大丈夫だ。私は優しい主人だ」
レズビアは悪魔的な笑みを浮かべる。
「ぼ、僕はどうすれば……」
「どうもしなくていい。私のメイドとして働いてくれればそれでいい。ちなみに、変な気は起こすなよ。私はこれでも魔王の娘。それなりに力はある。対して、淫魔族の女は魔族の中でも最も弱い種族のうちのひとつだ」
「もしかして、僕が反抗しないように、淫魔族にしたってわけ?」
「もちろん、それもあるが、ごつい男の魔族を付き人に置くより、かわいい女のメイドを隣に置いたほうがいいからな」
「そんな個人的な理由……」
「そうだな、個人的な理由だな」
と、レズビアはつぶやく。そして、続けて、
「お前がどう文句を言おうと、これはどうにもならないことだ。不慮の事故で命を落としたとか、そう考えればいい。死んだ者には当然その先の人生はないが、お前にはこれから超かわいくて超エロい淫魔族の女として、そして私のメイドとしての人生がある」
「もういっそのこと殺して」
「よかろう。殺してやろう」
レズビアはでっかいフォークみたいなやつで、僕の胸をわらびもちをぶすりとやるように突き刺そうとしてくる。
「や、やっぱり殺さないで」
死にたくない。少なくともこの姿のままで死にたくない。
「そうでなければな。ところで、お前の名前だが」
「山田たかし」
「却下だ」
「却下も何も僕の名前なんですけど」
「かわいくない」
「かわいさを求められても」
「これから、お前の名はリリスだ。どうだ、かわいい名前だろう」
「ちょっとは元の名前尊重してよ」
「さて、さっそくメイド服を着せてやろう。行くぞ、淫乱クソビッチ」
「それ、まさか僕の名前? り、リリスでいいです……」