第24話 スマホ(略すならスマフォじゃないのかな?)
それから僕らは下着を売っているお店に行った。
赤、白、黄色、どの下着を見てもきれいだなー。なんかむらむらしてきちゃうなー。
男のときだったら絶対に入れてないぞ。
「おい、これなんかどうだ」
レズビアが僕に黒のパンツを見せてきた。
「って! これ真ん中に穴あいてるじゃん! エログッズでしょ、これ!」
「そう思うからそう見えるだけだ。むしろ実用的ではないか」
「いやいや、明らかにやべーやつでしょ」
「魔族にもいろいろいるからな。こういうのが入用な魔族もいるのだ」
「例えば?」
「淫魔族とか」
「やっぱエログッズじゃんか!」
「リリスちゃん、これとかどう? すけすけだよ!」
カーミラもまたとんでもないものを持ってくる。
「カーミラ、透けてるパンツとか持ってこないで。パンツは透けちゃあいけないんだよ」
「これとかどうかしら?」
と、スウィングもパンツを持ってくる。
「それ縞パンじゃん!」
「別にそんなに変なものでもないと思うわ。何をそんなにうろたえているのよ」
「いや、その……」
たしかに考えてみると、縞パンってそんなにエロいものでもないような気もする。でも、なんか、その……駆り立てられるものがあるよね。
「あんた何でもエッチな方向に考えるのね。やっぱり淫魔族の子ってそうなのかしら」
「そ、そんなことないから」
と、僕は言ったけど、一日のうち半分くらいはエッチなこと考える。当然だ。だって男の子だからね。
あと三割はスマホゲーのことで、一割はバイトのこと。あとの一割は……日本の政治とか哲学とか、うん、まあ、そういうの。
ほんとだよ? マイケル・サンデル先生の本も最初のほうだけ読んだから。電車が暴走して、ふたつに分かれたレールの先に、どっちにも人間がいて、どっちかを轢き殺さないといけないってやつ。僕の答えは、美少女がいるほうを助ける。以上。
「リリス、買ってきてやったぞ」
いつの間にかレズビアが会計を済ませていた。手には紙袋を提げている。
「ちょっと待って。買っちゃったの? もしかして、あの真ん中に穴の開いたやつ」
「安心しろ。普通のやつも買ったぞ」
「普通のやつ『も』ってことは、やっぱあれ買ったんだね……」
僕は断じて穿きませんからね。
「ただ、Qカップのブラジャーは置いてなかった。こないだ買ったところにはひとつあったが……。ここは品揃えが悪いな」
「えっと、Qって、数字の9じゃないよね?」
「当たり前だ。アルファベットのQだ」
ABCDEFGHIJKLMNOPQ……。
そういえばアルファベットの歌って、VWあたりからメロディよくわかんなくなるよね。
「ちょっと待って。この胸、そんなにあんの。てか、Qカップとかって存在するの?」
「存在するも何も、自分自身がそうだろう」
「ううっ、まさか……。そんなにあるなんて」
Qカップとか搾乳エロゲでしか見たことないんだけど。
何やら店内がざわついている。
「Qカップ?」「マジで?」「たしかに爆乳ね」「そんなの初めて見たわ」「拝んでおきましょうか」「おっぱいおばけね」「そうね、Qだけにね」
「出よう」
僕はレズビアの手を取って店内から出た。
カーミラとスウィングも僕らについて店から出てくる。
「しかたがない。ブラジャーは通販で買うことにしよう」
「通販とかあるの? じゃあ最初からそれにしてよ……」
こんな辱め受ける必要なかったじゃんか。
※ ※ ※
その後、僕らは服屋に行った。
「ねえねえ、これ見て、すっごくかわいい」
カーミラはバニーガールの衣装を指差す。
「こんなもの置いてあるとか、ここも普通の服屋じゃないでしょ。てか、これどんなときに着るんだよ」
「普段着にいいではないか」
「よくねーよ。女の子の服でももっとかっこいいのとかないの?」
「例えば?」
「どくろのついたTシャツとか」
それと、スキニージーンズに、とげとげがいっぱいついたジャケットね。
「何だその中学生みたいな発想は」
「うるさいなぁ」
「どくろのTシャツならこっちにあるわよ」
と、スウィングがその場所を示す。
たしかにその場所には黒のどくろTがある。
「でも、これリリスが着たら、どくろが乳でびよーんとなるぞ」
「でも、びよーんってなったどくろもかわいいと思うよ」
「ちょっと着てみればいいわ」
「やめとく」
たしかにびよーんってなって、スペースインベーダーの打ち落とされるやつみたいになりそう。
ううっ、Tシャツもまともに着れないなんて。
「ここもリリスに合うような服は置いてないな」
「また通販?」
レズビアは首を横に振り、
「なんだかんだで、やっぱりメイド服がいちばん似合うな」
僕もそう思うけどね……。悔しいことに。
※ ※ ※
次に僕のスマホを買いに行ったわけだ。
で、そこはごく普通のケータイショップのようだった。
でも、ここ魔界だよね?
「ペロンチョ界のものをいろいろと参考にしているのだ」
と、レズビアが説明してくれる。
「ふーん」
こんなに僕のいた世界と共通点があるなら、魔界でそれなりに生活するのは困らなそうだ。この身体でなければ、と残念に思うよ。まあ、この身体でなければ、カーミラやスウィングとは仲良くなれなかったかもしれないけれどさ。
「リリスちゃん、このピンクのやつとかかわいいよ」
と、カーミラが店内に陳列されている見本を指す。
「いやぁ……ピンクはちょっと」
しかも薄いピンクじゃなくて、どぎついやつ、いわゆるショッキングピンクなんだけど。
「それがいいな」
と、レズビアがうなずいて言う。
「僕はこのシックな黒がいいかなって」
「私がリリスに買ってやるのだからな。私の意見が優先だからな」
「ちぇっ、わかったよ」
しかたがない。ないよりはマシだ。
僕はそのピンクのスマホを手に取る。
ん?
なんか手触りが普通のスマホと違うな。
僕のいる世界とは違う材質で作られているのかな?
それでもろもろ契約して、店をあとにした。
僕はスマホの電源を入れる。
その画面にはアイコンが六つ並んでいた。
電話、メール、カレンダー、カメラ、電卓、時計だ。
「あれ、インターネットは?」
「そんなものあるわけないだろう」
「えー。もしかして、この六つの機能だけ?」
「そうだが。不満か?」
「これ『スマート』フォンじゃないじゃん」
「スマートとは何だ? スマホは『すっごい魔術の本』の略だ」
「いやいや、何それ。てか本じゃないでしょ」
「スマホンとも略すな」
「なにそのゾマホンみたいなの」
「もともとは本の形をしていて、そこには膨大な数の魔術が記述されていたのだ。それをコンパクトにして、持ち運びに便利なかたちにしたものがそれだ」
「うんうん、これができてから、すっごく便利になったんだよ。遠くのお友達とかと簡単に話せるし」
「あんた本当に何にも知らないのね……」
「リリスはクソど田舎の生まれだからな。いまだに狩猟採集生活をして洞窟で暮らしているようなところだ」
「それ田舎というより原始人じゃん」
やっぱりここは魔界、そんな都合よくはいかないよね……。
そんなやりとりのあと、僕はみんなとメールアドレスを交換する。
「ねえ、レズビィちゃんも教えて」
「まあよかろう」
「あたしはあんたのなんかいらないわ」
と、スウィングがレズビアに言う。
「私もそう思っていたところだ」
「まあまあ、そう言わずにさ。ね?」
と、僕はとりなす。
「じゃあ、僕のほうからお互いのをふたりに教えるよ」
僕がこの魔界からいなくなっても、レズビアがカーミラやスウィングとうまくやっていけるようにしたい。
……って、なんで僕はこんなにレズビアのことを心配してるんだろう。
ちなみに、魔界のスマホは、魔族の手のひらからちょっとだけ魔力を吸い取って動いているということで、充電は不要ということだった。
……って、それ大丈夫なん?




