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第23話 デパート(何で一階って化粧品売り場なんだろ)

 そんなこんなで放課後になった。


 隣に座っているアルビンが僕のことをじっと見てくる。


「な、何……?」

 

「なんだ、アルビン、もしかしてリリスに惚れているのか? まだ三月じゃあないだろうに」

 と、レズビアが茶化す。


「べ、別に何でもねーよ」

 と、アルビンが狼狽した様子で言う。


 僕もね、男だから気持ちはわかるからそんなに無碍にはしたくはないですけどね、それでもやっぱり男は全員お断りですよ。

 ただ、ちょっとからかってみたくなった。


「本当に~?」

 と、僕はアルビンに言った。


「は? 誰がこんな淫乱ピンクなんかに」

 

 それって僕のこと? だいぶひどくね? 髪の毛はピンクだけど、頭の中までピンクじゃないから。


「おい、このウサギ、リリスが淫乱ピンクなのは事実でも、そういうことを言うな」


「いや、事実じゃねーよ」

 と、僕はつっこむ。


「俺はお前らと違って忙しいんだ。帰るからな」

 と、言ってアルビンは教室を出ていった。


「何だよ、あいつ」


「そのビッチさ。さすが淫魔族の真面目といったところか」


「そんなつもりじゃかったんだけど」

 ちょっと男友達をからかう感じの軽い気持ちだったんだけど。


「相手がアルビンだったからまだよかったが、ほかの男だったら面倒なことになっていたかもしれないな」


「ごめん、反省してる」

 たしかにちょっとビッチっぽい行動をしてしまったかもしれない。気をつけなければ。


「別に反省する必要はないぞ。淫魔族の女として成長したってことだからな」


「うん、もう二度とこんなことやらない」


 そんなやりとりが終わった後、カーミラとスウィングが僕とレズビアの席にやってきた。


「よっしゃ! 待ちに待った放課後だぜい! みんなで遊びまくるぜい! さっそくデパートに行くぜい!」 

カーミラが頭の羽をぱたぱたぱたっと動かす。 

「ねっねっ、リリスちゃん、レズビィちゃん」


「そうだな。昼も言ったように、いろいろと買うものがあるし、それに服だって買ってやる」


「エッチなかっこうとかお断りだからね」

 それにメイド服にももう慣れちゃってるし。 


 はっ! 慣れちゃってる……?! この僕がメイド服を着ていたいと思っちゃってる?! この急速な慣れ方、マズいかもしれない。


「何を神妙な顔をしているんだ」


「いや、べ、別に」


「早く早くぅ〜」


「そうだな、さっそく行くとするか……」 

 レズビアはスウィングのことをちらっとを見る。


「はいはい、立ち去ればいいんでしょ。おじゃま虫は立ち去りますよー」 

 そんなことを言って教室から出て行こうとするスウィングの手を僕は取った。


「昼休みに一緒に行こうって言ったじゃん? そんなこと言わないで、スウィングも一緒に行こう?」


「な、ななな……」 

 スウィングは狼狽した様子で、僕の顔を見る。

「そうね、リリスがどうしてもって言うのなら、ついて行ってあげてやらないこともないわよ」 


 うわっ、やっぱこいつ性格悪いわ。こんなこと言わなきゃよかった。 



  ※   ※   ※ 



 魔界学園に隣接しているデパートは、僕のいた世界のデパートと同じようなものだった。お客さんが魔族だっていうこと以外は。


 ここに人間たちが迷い込んで、魔族たちがうわーって襲って食い殺して、かろうじて逃げ出した人間たちが屋上からヘリコプターで脱出する。そんな光景を想像した。


 まあ、それはどうでもいいとして――


 デパートの一階は化粧品売り場になっていた。女らしさをアッピールするようなにおいが充満していて、きれいな女性の顔が大写しされた広告が目につく。

 そういえば、どうしてデパートの一階って化粧品売り場なんだろうね。微妙に男には入りづらい雰囲気出しているよね。

 今は女の子の身体といってもなんとなくアウェー感を感じる。


「リリスちゃん、お化粧したらもっとかわいくなると思う」


「そ、そうかな。カーミラのほうがかわいくなると思うよ」


 僕がお化粧したらビッチ感がいや増してしまうような気がするんですけど、どうでしょうかね。


「えへへ。ありがとう、リリスちゃん」


「本来魔族には化粧品なんて不要だ。そんな人間のような真似事など……」


「レズビィちゃん、そんなことないよ。レズビィちゃんもお化粧すればもっともーっときれいになるはずだよ」


「私はそういうのは似合わない」


「うーん、たしかに……」 


 青い肌のレズビアが赤い口紅を塗った姿を思い浮かべる。うん、似合わんな。


「おい、今何か言ったか?」


「いいえ、何も申し上げておりません。美しいレズビア様」


「ふざけるな」


「ちょ、乳つねってこようとすんのやめて。ここ人前だから」


「そういえば、スーちゃんは?」


「たしかにいつのまにかいなくなっているな。置いていくか」


「そうだね」


「って! なに私を置いていこうとしているのよ!」

 突然スウィングが後ろから現れた。


「うわっ、びっくりした」

 振り向くと、スウィングの手には、化粧品の試供品が入った袋がいくつも握られていた。


「この爬虫類、どれだけがめついんだ。この短い間によくそんなに……」

 レズビアが呆れたように言う。


「た、試してみるためよ。上流階級のたしなみとしてね。あたしの一族がかつての栄光を取り戻したら、むしろこのデパートごと買ってやるわ」


「せいぜい頑張れよ」


「何よその反応!」


「あ、この口紅、リリスちゃんに似合いそう」 

 カーミラがスウィングの持っている袋をごそごそとあさる。


「ちょっと、それあたしの戦利品よ」


「どうせただでパクってきたやつだろうに」


「リリスちゃん、口閉じてて」


「ちょ、ここで塗んの? 化粧室とかあるでしょ。てか、そもそも化粧とかいらないし」


「そう言わずにさあ。ほらほら~」


「おい、何をやってるんだ。バカども、行くぞ」 

 レズビアが僕の尻尾を引っ張って連れてこうとする。


 その拍子に、カーミラが塗ろうとしていた口紅が、僕の鼻に突っ込まれた。


「ふがっ」


「あ、ごめん、リリスちゃん」


「ぎゃああ! 私の口紅にリリスの鼻くそが!」


 大丈夫。美少女の鼻くそは汚くないから。


「そういえば、リリスは鼻フックが似合いそうな顔をしているな」


「どんな顔だよ。てか、そういうこと言うのやめてって」


 忌々しいことに、僕が紐で縛られて、鼻フックを掛けられ、ギャグボールをはめられている姿を想像してしまった。

 僕はかぶりを振ってそのイメージを追い払う。


「リリスちゃん、やったねっ! レズビィちゃんに褒められたね」


「カーミラ、何にもよくないからね」 

 てか、意味わかってる? 


 はぁ……魔界の女子って騒がしいね。



  ※   ※   ※



 それから僕らは、エレベーターホールに行った。


「って、これエレベーターじゃないじゃん! 化けもんじゃん!」


 部屋の中には、大きな口を開けた怪物がいくつも待機していた。


「エレベーターだ」


「いやいや」


「リリスちゃん、知らないの? ワームちゃんの口の中に入って、上の階に上がるんだよ」


「ワームちゃんってこれ? この口に入るの? 食われちゃうよ」


「本当にあんた無知なのね。あんまりめったなこと言うもんじゃないわ。彼らは基本的にはおとなしいけれど、怒ることだってあるんだから」


「怒ったらどうなるの?」

 僕はおそるおそる尋ねる。


「そりゃ食われるわよ」


「ひえぇ! やっぱり」


「そういう事故は、数年に一度くらいはあるわ」


「それ、やべーやつだよね?」


「客を食べないように、十分に調教してあるし、十分な餌も与えてあるはずよ。だからよほど侮辱したりしなければ大丈夫よ」


「そうはいってもね……」


「リリスは本当に心配症だな。事故があるからといって、車にまったく乗らないなんてことはないだろう?」


「たしかにそうかもしれないけれど」


「リリスちゃんたち、早く早く」

 カーミラがすでに乗っていた。真っ赤な舌の上に立っている。


 レズビアとスウィングもワームの口の中に入る。

 しかたない。ままよ、と僕もその口の中に入って、舌の上に乗った。

 

 なんだか妙に湿ってて、生暖かいんですけど。


「ぎゃああああ!」

 僕は悲鳴を上げる。


「何だ、相変わらず騒々しいな」


「おっぱいのところに涎が垂れてきた」

 マジでえんがちょなんですけど。

 僕は急いでハンカチを取り出して涎をぬぐう。


「うわあ! 珍しい! リリスちゃん、ラッキーだね」


「どこがだよ」


 もうやだ。早くおうち帰りたい。

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