第22話 マラソン(一緒に走ろうって言ったよね?)
僕ら、いちご組の女子たちは、校舎の裏手にあるだだっ広いグラウンドに行った。
グラウンドというより、陸上の競技施設のようだった。
トラックとフィールドがあり、周囲には岩肌をくり貫いて造られた観客席もある。
オリンピックとか開けそうな感じだ。
「すげー」
ここで運動したら、気持ちよさそうだ。
――こんなでっかいおっぱいがなければね。
その競技施設に、魔族の女子たちがわらわらと集まってくる。
「『いちご組』、『みかん組』、『れもん組』、『どりあん組』の4クラス合同の授業だ」
と、レズビアが説明してくれる。
「へえ」
最後のひとつだけ毛色違くね? どりあん組にならなくてよかった。
「よーし、小娘ども、集まったか」
体育の先生らしい男が言う。
何だよ、小娘どもって。
その先生は、上半身は人間でジャージを着ているけれど、下半身が馬だった。
ケンタウロスとミノタウロスのどっちだっけ。
まあ、どっちでもいいか。
それよりも下半身が丸出しでチンコ出てるのが気になる。すっごく気になる。でも、あんまり気にしないほうがいいよね。
「よーし、ふたり組みを作って準備体操だ」
「ふたり組作って」とかなんて恐ろしい呪文を吐くんだろう。
中学生の頃はその呪文で何度もHPを削られたものだ。
ただ、今の僕にはレズビアがいる。
「さあ、リリス、股を開くのだ」
「その言い方やめてくれる?」
「いいから早くしろ」
「わかりましたよ」
僕は地べたに座って、開脚する。
そして、レズビアが僕の背中を押してくる。
めっちゃ押してくる。
痛っ、痛っ、やめ……
あれ? 痛いと思ったけど、痛くない。
地面に両足を広げたまま、楽々僕の上半身は倒れていく。
男のときより柔らかい身体になってるみたいだ。
ただ――
「ちょ、もうやめて。おっぱい地面についてるから! おっぱいつぶれるから!」
「リリスが望むように小さくなるかもしれないぞ」
「ならねーよ!」
※ ※ ※
百体ほどの女子生徒が、スタートラインにつく。
なんか本格的なマラソン大会の雰囲気がある。
マラソン嫌いだけど、この感じは嫌いじゃない。それに周り女子ばっかだし。
「よーし、小娘ども、全員位置に付いたか? コースは、まずこのトラックを一周したあと、サッカー場の脇を通り、それから森の中のコースをぐるっと回って、最後にここに戻ってきてトラックを一周だ」
「森の中のコース?」
てか、どれくらいの距離あんの?
「あ、リリスちゃんは初めてだよね。教えてあげるから一緒に走ろう?」
と、僕の隣にいるカーミラが言う。
「私も一緒に走ってやろう」
と、レズビアも言う。
「うん、ありがとう」
でも、一緒に走ろうってフラグ感あるんだけど。
「それじゃ、始めんぞ」
体育の先生はぱーんとピストルを鳴らした。
――フラグは折られることなく、トラックを一周したところで、僕はみんなに置いてかれた。
カーミラにも、レズビアにも。
まあ、コースはとりあえず前の生徒についていけばいいか……。
僕はなんとか走りつづける。けど、予想どおりおっぱいがものすごい勢いでばゆんばゆん上下に揺れる。よけいに疲れるんだけど。
「あんた、それすごいわね……」
ふと、隣にやってきたスウィングが言う。
「そんなに見ないでよ」
「隣でぶるんぶるんやられてたらそりゃ見るわよ」
「これどうしようもないんだけど。えっと、スウィング、一緒に走ってくれるの?」
もしかして、けっこういいやつ?
「そ、そんなんじゃないわよ。上流階級はこんなことに精力は使わないのよ」
とか言いながらスウィングは僕と一緒に走ってくれる。
そして、サッカーグラウンドの脇に出た。
そこではうちのクラスの男子たちがサッカーをやっていた。
で、男子たちはばゆんばゆん揺れているおっぱいをガン見してくる。
もちろん兎耳男のアルビンもガン見してくる。
「おい、あれマジかよ」「すげーな」「土下座したら触らしてくれるんじゃね?」「いや、普通に触らしてくれるだろ。淫魔族の雌だし」
「おい、アルビン」
と、ひとりの男子が叫ぶ。
「は?」
アルビンの顔にボールが直撃した。
ふん、ざまあ見ろ!
それから僕らは森の中のコースに入った。
そこは舗装されていなくて、身体のバランスが取りにくい。
なんとか尻尾でバランスを取ろうとするけれど、どうしても身体がよろける。
そのつど、おっぱいが不規則に弾む。
てか、何で学校の中にこんな森があるんだよ。
「はぁ、はぁ」
わりとつらくなってきた。
僕は走るのをやめ、ゆっくりと歩く。
隣で走っていたスウィングも、僕に合わせて歩きはじめる。
「これ走りきるの無理じゃね?」
「無理ではないとは思うけど、たしかに面倒よね」
「ね、スウィング、僕ら翼があるんだし、これ使って空飛んでいけばいんじゃないかなって」
「それはルール違反よ。見つかったら……。前にずるした生徒は、居残りで腕立て伏せ百回とかやらされてたわ」
「腕立て伏せ……」
男のときでも二十回くらいが限界だったのに、この細い腕で百回? いや、無理でしょ。
「でも、ちょっとだけならたしかにバレないかもしれないわ」
「僕たちのほかに誰もいないみたいだし」
周囲をきょろきょろと見回して言った。
「そうね」
スウィングが僕の手を取ってきた。
「え、手つないで飛ぶの?」
「か、勘違いしないでよね。もしかしたらあんたが抜け駆けするかもしれないし。さあ、飛ぶわよ」
僕らはふたりで手をつないで飛行する。
しかし、数十メートル飛んだところで、
「あ、リリスさんとスウィングさん、ずるしてる~」
ソッコーで見つかった。
※ ※ ※
どうにかこうにか走りきって、競技場に戻ってくる。
息もぜーぜーやってるところで、さらに罰として腕立て伏せをやらされる。
でも――
「あの、先生、僕、おっぱいが邪魔でうまく腕立て伏せができないんですけど」
腕をきちんと折りたたむ前に、胸が地面についてしまう。
「あんた、どういう身体の構造してるのよ!?」
スウィングが驚愕したような表情で見てくる。
「ねえ、先生」
僕は上目づかいで体育の先生を見る。
先生は顔を赤くしながら、
「そうか、ならしょうがないなぁ」
「じゃあ、僕、やんなくてもいいんですか?」
「できないものはどうしようもないからな」
「先生、私だけやらないといけないなんて理不尽じゃないですか!」
と、スウィングが抗議する。
「ズルしたものに抗議する権利はないぞ。さっさとやれ」
「くっ……この駄乳、あとで覚えてなさい」
「ねえ、先生、スウィングさんも許してください」
「それはちょっとな……」
「先生!」
僕は指を組んで先生に懇願する。
「そ、そこまで言うならしゃーねーな」
「ありがとうございます!」
こうして僕とスウィングは腕立て伏せの罰から解放された。
「リリス……いちおうお礼を言っておくわ。ありがとう」
「何だよ、いちおうって」
僕、けっこう恥ずかしい思いしたんだよ。
「リリス、淫魔としてのレベルが徐々に上がってないか?」
と、レズビアがやってきて満足そうに言う。
「そ、そんなことないよ」
ふと、クラス委員長のオキュラも僕のところに来て、
「ねえ、リリスさん、ちょっといいかしら」
と、僕のことを呼び出す。
「リリスさん、そういうズルはしちゃいけないわ」
「僕はその……ちょっと先生にお願いしただけで……」
「今回はリリスさんが転入生ってことで、勝手もわからないだろうし、大目に見てあげるけれど、次はそうはいかないわよ」
オキュラの両目はにこにこしているけれど、第三の眼は僕のことをじっと見てくる。
僕は慌てて顔を背け、
「ご、ごめんなさい」
でも、オキュラの能力もズルくね?




