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第19話 とにかく(って兎に角って書くよね? 何でだろ)

 魔界学園は、ハンパなく大きかった。あまりの大きさに圧倒される。

 建物というよりも、大きな岩山をくりぬいて造られたもののようだ。そして、その岩山がずっと向こうまで連なっている。

 仰ぎ見ると、岩肌に窓がいくつも開けられているのがわかる。その窓は整然と並んでいるのではなく、アトランダムにぼつぼつとおかれている。

 正面にはぽっかりと開いた大きな穴がある。そこが入り口なんだろう。

 まるで学園自体が巨大なモンスターのようだった。


「圧巻だね……」


「ざっと生徒数は七万くらいだな」


「七万!?」

 マンモス校ってレベルじゃない。もう、ひとつの街でしょ。魔族うじゃうじゃでしょ。


 実際、魑魅魍魎たちが、わらわらと門をくぐっている。まさに百鬼夜行だ。


「リリスちゃん、すごいでしょ。あたしも最初見たときびっくりしたんだから」


「うん、マジですごい」

 すごすぎて形容の言葉があんまり見つからない。


 校舎の中にはいると、ますます魔族に満ちていた。

 なんかすれ違う生徒、男子も女子もみんな僕のこと見てくる気がするんだけど。特に胸を。


「リリスちゃん、みんなが振り向くくらいの美少女だねっ」

 と、カーミラがうきうきした様子で言う。

 

 美少女だから見られてるっていうより、おっぱい大きいから見られてるんじゃないかな。


「その胸の大きさは、この学園でもトップクラスかもしれないな。胸を張るがいい」

 と、レズビアがそんなことをのたまう。


「そんなんでトップになったってうれしくないから!」

 どうにかして、これ縮まないかな……。


「堕落街にもいろいろ揃っているが、この学園内にも、巨大な食堂があるし、デパートもある」


「デパートまであるんだ」

 本当にひとつの街って感じだ。


「これから私たちは職員室に行って、担任に挨拶をしにいく」

 と、レズビアが言う。

 初耳だけど、たしかに僕は転入生だからね。


「うん、わかった。じゃあまたあとでねっ」

 カーミラはまたまた僕をぎゅっと抱擁する。


 やっぱカーミラはかわいいな~。



   ※   ※   ※



 職員室には、わりといかつい魔族が多かった。職員室って、やっぱり魔界のやつでも苦手だな。


 僕はレズビアに連れられ、東洋人ふうの銀髪の女性のところに行った。

 彼女はたしかに美人だった。ただ、下半身が白い蛇だった。

 とぐろを巻いている。マジで蛇腹構造になってるし、鱗とかもちゃんとついているしで、生々しいんですけど。


「君が例の転入生、リリス・リリエンクローンか……たしかに淫魔族だ……」

 と、白蛇の先生が言った。


 僕の名字初めて知ったんだけど。リリエン……なんだって?

 

 先生は僕の胸を見つめたあと、

「いちご組の担任のパイシャだ。よろしく」


「よろしくお願いします」

 僕は頭を下げる。

 そういえば、いちご組とかいうふざけた名前だったね。


「しかし珍しいな。淫魔族とは。この学園にも数十体の生徒はいるが、私は初めて受け持つ」

 と、パイシャ先生が言う。


「そうなんですか?」


「ああ。あまり入学許可が得られないからな。ほら、ほかの生徒に悪影響がでるかもしれないから」

 パイシャ先生は僕の胸を見つめる。


「僕は大丈夫ですよ。男子生徒を挑発したりとか、そういうことしないですから」


「そうだ。リリスは問題ない」

 と、レズビアが言う。てか、先生にもその口調なの!?


「まあ、魔王様の推薦だからな……きっと優秀な生徒なんだろう」


「いえ、僕は別に優秀じゃ……」

 と、僕は謙遜する。


「私のメイドということでお父様は推薦してくれた。特に優秀というわけではないな。むしろアホだな」


「誰がアホじゃ」


「君については問題ないと思うが、男子生徒が浮き足立つかもしれない。淫魔族ということで、ワンチャンやれるかもと考えるかもしれない」


「ひえぇ……ノーチャンスですよ。ゼロです。皆無です」

 土下座されようと、絶対にないですから。マジで。


「しかしだ、気をつけたほうがいい。君の身体はずいぶんと扇情的だからな」


「は、はい……」

 でも、どうやって気をつけたらいいんだろ。



   ※   ※   ※



 教室に入ると、みんなの注目が一身に集まった。

 五十体くらいの魔族がいるみたいだ。


 教室内がざわつく。カーミラもスウィングも僕のことを見ている。


 僕は嫌な汗を、額に背中に胸にとだらだらかく。


 教壇の上に立って、スカートのすそで手汗をぬぐう。

「り、りりりり、リリスです」

 ヤベえ。変なふうに声が上ずってしまった。でも、ここは続けなければならない。

「い、淫魔族で、レズビアのメイドでし。よ、よろしくお願いしまし」


 教室から拍手が上がった。


「リリスの席は、いちばん後ろの空いているところだ」

 と、パイシャ先生が、窓際のいちばん後ろの席を示した。


 僕はその席まで行く。

 席に着くと、机の上におっぱいをでんっと乗せる。けっこうこれ重いからね。

 僕のちょうど前の席がレズビアの席だった。


 レズビアが振り返って、おっぱいつついてこようとするんだけど! そういうのやめて。隣にいるの男子だし。

 

 その隣の彼は、頭にウサギの耳を生やしていて、額に鋭い一本の角が生えていた。白い髪をおかっぱみたいな髪型にしていて、ブレザーの制服を着ている。


 色白でけっこうな美形だった。変な髪型してるけど。

 ちなみに、僕は男に興味ないですからね。何度でも言いますけど。


 それで彼、めっちゃ僕のこと見てくるんだけど。


「な、何……?」


「まさか」

 と、彼はつぶやいた。


 何がまさかなの?

 このおっぱいの大きさ?

 それなら僕だってまさかって思ってるよ。


「ひとのメイドをじろじろ見ていないで、自己紹介でもしたらどうだ?」

 と、レズビアが兎耳男に言う。


「今しようと思ってたとこだ」

 と、彼はレズビアに言う。そして、僕のほうを向いて、

「アルビン・バーチン。角兎魔族だ」


 そういえば、「とにかく」って、「兎に角」って書くよね? なんでだろ?


 兎に角、敵は作らないようにしないといけない。アルビンとかいうこの兎耳ともそれなりに付き合わないといけない。


 ――ちなみに、授業は始まってて、黒板に数式が書かれているけれど(数学もあるんだ)、ほとんどの生徒が気にしてないみたいだし、僕もスルーすることにしよう。


「よろしくねっ」

 僕はつくり笑顔で言う。

「その兎耳、もふもふしててかわいいね」


「別にかわいくなんてねーよ」

 なにこいつ、すっごく口悪くね?


「そういえば、耳って四つあるの? 左右についているやつと、上についているやつ」


「んなわけねーだろ。淫魔族ってやっぱりバカなんだな」


「ば、バカじゃないし」

 何でみんな僕のことばかばか言ってくんの?

 バカっていうやつのほうがバカなんだからね。


「アルビン、私のメイドを侮辱するな。侮辱していいのは私だけだ」

 レズビアが立腹した様子で言う。


 いつ僕がレズビアに侮辱していいって許可したの? 僕、どMじゃないんですけど。


「な、何だよ、レズビア。悪かったよ。謝る。ごめん」


 あ、意外と素直に謝るんだ。


「私じゃない。リリスに謝るんだ」


「悪かったな」

 と、言ったあと、アルビンはぷいとそっぽを向いた。


「僕こそ、ごめん、変なこと聞いて」


「アルビンは子供のころからの知り合いなんだ。不本意ながら」

 と、レズビアが嘆息していう。

「父の友人で、今の財務大臣の息子だ」


「幼馴染ってこと?」


「幼馴染というより、下僕だな」


「おい、誰が下僕だ。今じゃあ、俺は学園で魔術の成績はトップだ」


「そうなんだ、すごいね」

 と、僕はいちおう褒めておく。うん、でも七万人の頂点ってたしかになかなかすごい。


「私は総合ランキングで一位だがな」


「総合ランキング?」


「魔族の能力を数値化して、そのポイントを合計したものだ。つまり、私がこの魔界学園でいちばん強いというわけだ」


「え、そうなの?」

 レズビアってそんな強い魔族だったの?

 あんまりそうは感じないけれど。


「まあな」

 レズビアは得意げに言う。

「アルビンはたしかに魔術の技術力は高いが……こんなに腕も細い。実戦能力はまるでない」

 と、彼の腕を取りながら言う。


「な、何だよ、勝手に触ってくんなよ」

 アルビンはレズビアの手を振りほどく。


 このふたり、仲悪いのかな? ちょっと居心地の悪い席に当たっちゃったかな……。

 

 カーミラやスウィングを含めた十数体の女子生徒たちが、僕らから数メートル離れたところに、がやがやと集まっていた。おそらく転入生の僕と話したくて、やりとりがひととおり終わるのを待っているんだろう。


「えっと、みんな待ってるみたいだし、僕、ちょっとみんなに挨拶してくるね」

 と、言って、僕はレズビアとアルビンのもとから離れた。

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