第15話 淫魔、銭湯で溺死(なんてしたら目も当てられない)
僕とレズビアはふたりで湯船につかっている。
ああ、極楽極楽だ。
ただ――
僕のおっぱいはスイカみたいにぷっくりとお湯に浮かんでいる。
ああ、おっぱいってマジでお湯に浮くんだね。
「リリスが変な気を起こすからだ」
レズビアがむっとした様子で言う。
「別に、変な気なんて……」
いや、起こしてたな。
でも、レズビアもだいぶ変な気起こしてたと思う。
僕は翼をぱたぱたさせて、湯船の中を泳ぐ。
おおっ、これけっこう便利じゃん。
「おい、はしたないぞ」
「どうせ、僕とレズビアしかいないし」
僕は尻尾で水面をぱしゃぱしゃと叩いて、レズビアの顔にお湯をかける。
「うわっ! き、貴様……沈めてやろうか」
レズビアは僕の尻尾をつかむ。
そして、魚のように釣りあげようとしてくる。
「ちょ、何す……」
ぶくぶくぶくぶくぶくぶく……。
尻尾を吊り上げられて下半身が持ち上げられたため、上半身が湯船の中に沈んでいく。みっともなくお尻だけが水面に浮かぶようなかっこうになる。
僕は水中で翼とか腕とか足でばしゃばしゃともがいて、ようやく浮上する。
「ぷはぁっ! レズビア、それシャレにならないから」
レズビアは僕の尻尾から手を離す。
ふうぅ……。サキュバスのリリス、風呂の中で溺死するところだった。
「みっともないマネをするからだ」
そういえば、メイドやってるときに怪我とかしたら労災下りるかな?
いやー、下りないですよねー。
落ち着いたところで、湯船の縁に腕とおっぱいを乗せて、寄りかかった。
そして、レズビアに、
「レズビアは、兄弟と仲いい?」
と、聞いた。
「特に良いわけでもないというか、そもそもあまりお互いに干渉しない」
「僕は一人っ子だけど、それってちょっと寂しくない? いっぱい兄弟いるのに」
もし僕に妹がいたら、めっちゃかわいがるのに!
もし僕に姉がいたら、めっちゃ甘えるのに!
「別に普通だ」
「アネリアさんはレズビアに友達いないって言ってたけど」
「だーかーら! いないのではなく、あえて馴れ合わないのだ!」
「でも、レズビア、今日カーミラとスウィングと食事して、ちょっと楽しそうだったけど」
「それはリリスが……そう、リリスが楽しんでいただけだろう?」
「むしろつらいことばかりなんだけど」
レズビアに痛い思いをさせられるし、スウィングにディスられるし、変なもん食わされるし、みんなおっぱいばっか見てくるし、風呂の中で溺死しそうになるし。
もちろんカーミラと抱き合ったりと、楽しいことはあったけどさ。
「私が見る限りでは、ずいぶんと順調に適応しているような気がするがな。私の調教のおかげだな」
「だから調教言うのやめて」
たしかにレズビアに言われて気づいたけれど、まだ一日も経ってないのに、徐々に慣れてしまってきている気がする。
むこう1か月くらいは絶望に打ちひしがれて自暴自棄になってしまうかと思ったけれど、意外とそうでもない。
それがまた自分の心の中でもやもやする。
もっと絶望するはずなんだ、ずっとずっと帰りたい気持ちが強いはずなんだ、と無理に思おうとしている節もあるような気もする。
僕は元いた世界のことを考える。
父さん、母さん、それにバイト先のこと。
最近かわいい高校生が入ってきたなーとか。
あの社員またムカつくこと言ってんなーとか。
まーた鈴木はクレーム出してんなーとか。
バイトが終わって、コンビニでビールを買って、スマホゲームをやりながら飲む、と。
こないだガチャに1万課金しちゃったなー。
やべっ、魔界にいたらログインボーナスもらえないじゃん。
……むむむ、そんなにいい思い出でもないな。
いやいや、元の世界に帰らないと。元の身体に戻らないと。
ログインボーナスもらわないと!
物質文明最高! 人間最高!
魔界なんて……魔族なんて……
………
……
…
「リリス、少しのぼせたか? ぼおっとしてたぞ」
「え? うん、ちょっと……」
「風呂の中で泳いだりするからだ」
「ちょっと反省してる」
「あがるか」
「そうだね」
※ ※ ※
湯船から上がって、再びシャワーを浴び、脱衣所に戻る。
そして、バスタオルで髪と身体を拭く。特に、胸の谷間と下乳は水が溜まるので、丁寧に拭いていく。
あと、角の溝とかも。
そういえば、太もものところにほくろがある。
これは僕の前の身体のときにも同じ位置にあった。
ちょっと共通点を見出して嬉しくなったけど、すぐにむなしくなった。ほくろの位置が一箇所同じだからって、何だっていうんだ。
それ以外の何もかもが変わっちまってるっていうのに。
ドライヤーで髪を乾かす。
髪長いからめっちゃ時間掛かる。
これマジで億劫だな。
うん、リリスちゃん、ショートカットも似合うと思うよ。
だから切っちゃおうよ、ねえ、レズビア?
ある程度髪を乾かし、パンツ(ピンクのふりふりのやつ)を穿く。
ううっ、僕がこんなかわいいおパンツ穿くだなんて……。
で、次はブラジャー(これもピンクのふりふりのやつ)だ。
でも、うまくつけらんない。
僕が悪戦苦闘していると、レズビアが来て、
「何をやっているのだ。お前は胸のでかい幼女か」
「だって、しょうがないじゃないか。初めてなんだし」
「本当に初めてか?」
「僕、ブラジャーつけるような男じゃないからね」
「まったく、やれやれだ」
レズビアは呆れ顔をしながらも、ブラジャーをつけてくれた。
やっぱりこの締め付けられる感じ、慣れないな。
それからパジャマを着て、カウンターのところに戻る。
メルビーさんは、僕らを見ると、にこにこした表情をして、
「ずいぶんとお楽しみのようでしたね」
「わ、私たちは特に何もしてないぞ」
と、レズビアが言う。
「そうそう、何もしてません」
「でも、きゃっきゃうふふしてる楽しそうな声が聞こえてきましたよ」
「メルビー、私たちはきゃっきゃうふふなんてしてないからな」
うんうんうん。
僕は首を縦に三回振る。
むしろ僕の悲鳴だと思う。
「だけど、もしほかのひとがいたら、静かにしてくださいね」
「ごめんなさい」
と、僕は謝る。
「いえいえ、謝らなくてもいいんですよ。今日はアネリア様とレズビアさまとリリスさんしか来てませんから。私もかわいい女の子ふたりがきゃっきゃしてる声が聞こえてよかったです」
「だからきゃっきゃなどしてないぞ」
レズビアは口をとがらせて言う。
「アネリア姉さんは何か言っていたか?」
と、メルビーさんに尋ねる。
「いいえ、特に何もおっしゃっておりませんでしたよ」
と、メルビーさんは言う。しかし、続けて、
「ただ……」
「「ただ?」」
「何が起こったのかだいたい想像できます」
メルビーさんがにっこりして言った。
「メルビーが考えていることはたぶん違うぞ」
うんうんうんうん。
僕は首を縦に四回振る。
「そうだ、牛乳を二本くれ」
と、レズビアがメルビーさんに言った。
メルビーさんはカウンターの後ろにある冷蔵庫から、牛乳の瓶を二本取り出し、僕とレズビアにくれた。
冷たくておいしそう。やっぱ風呂上りには牛乳だよね。
でも――
「これ、本当に牛乳?」
「当たり前だ。嫌なら飲むな」
レズビアは僕から牛乳の瓶を回収しようとしてくる。
僕は牛乳の瓶を抱えるようにして拒否し、
「嫌とは言ってないよ」
「もしかして精子とか飲みたいのか? この淫魔は」
レズビアがジト目で見てくる。
「ち、違うから。んなもん飲みたくないから」
僕も牛乳をごくごくと飲む。もちろん、腰に手を当てて。
ぷはぁ。
やっぱりうまい。
ようやくまともなものを口にすることができた。
「そういえば、これただでいいんですか?」
と、僕はメルビーさんに尋ねる。
「はい。もちろんお代はいりません」
「ここは魔王城の施設だからな」
「そういやここ君の家だったね」
銭湯が併設されてるとか、どういう家だよ。
まあ、ほかにも突っ込みどころはいっぱいあるけど。




