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第11話 おしっこ(ってどうやればいいんだろう)

 このまま調教され続けたら、どうなるんだろう。従順なレズビアのメイドとして、よろしくこの魔界でやっていくことになるんだろうか。


 そんなのはまっぴらごめんだ。

 うん、自分を強く持たなければ。


 そう思いつつも、やっぱり食べてしまう。悲しいさがだね。


「なんだかんだで、けっこう食べたではないか」

 レズビアが僕のおなかを見て言う。


 ちょっと膨らんでいる。食べすぎちゃったかな。


「やっぱり食い意地張ってるじゃないの」

 スウィングがジト目で見てくる。


「スウィングに言われたくないんだけど」

 と、僕は言い返す。彼女も相当食べている。


「リリスちゃん、おなかぷっくりでかわいい」

 カーミラが僕のおなかをすりすりと触ってくる。


 それってかわいいの?

 あと、その妊婦さんみたいな扱いやめてくれる?


 それはとりあえず置いておこう。

 僕は今それなりに「マズい」状況なのだ。

 

「えっと、あの……」

 と、レズビアに耳打ちする。


「何だ?」

 と、レズビアも小声で返してくる。


「と、トイレ……」


 そう、僕は割りと前から尿意を催していた。


「行ってくればいいではないか」

 と、レズビアは右手の奥にあるトイレを示した。


「でもさ、この身体だし……。女の子の姿でトイレとか初めてだし……」


「どこの世界にメイドのシモの世話をする主人がいる」


「でもさ」


「便座に腰をおろして、パンツを下げて、放尿すればいいのだ。お前は幼児か」


「ねえねえ、二人で何話してるの?」

 と、カーミラが興味津津と言った様子で、僕とレズビアに尋ねてくる。


「な、何でもないよ」


「どうせ私の悪口とか、そんなんでしょ」

 スウィングがふてくされて言う。


「よくわかったな」


「むっ」

 スウィングは眉根を寄せ、

「いいわよ。おごってもらったのには、礼を言うわ。ありがとう。でも、これは貸しよ。あとで絶対チャラにするから」


「その必要はないぞ。爬虫類らしく地べたを這いずりまわっていればいい」


「だから爬虫類じゃないわよ!」


 そのやり取りをしている間にも、僕の膀胱がけっこうヤバい感じになってきた。


「と、トイレ」

 仕方なく僕はひとりでトイレに向かう。


 やばい~もれる~。



   ※   ※   ※



 個室に入り、鍵をかける。


 便器は普通の洋式のものだった。

 魔界にも洋式の便座があるんだ。

 変なかたちのものじゃなくてよかった。


 それでだ、まず、便座に座らないといけない。

 けど、スカートはどうしようか。


 うーん。このメイド服、ワンピースになってるから、スカート下ろせないぞ。 

 いや、下ろす必要はないのか。ぺろんと前のところだけめくればおしっこできそう。


 でも、そのまま座って、便座にスカートをつけるのは、ちょっとばっちい気がする。


 僕は結局、スカートの裾をばさりとめくり上げて一か所に寄せると、左手でそれをつかんだ。


 そして、便座に座る。

 これならスカートは便座に接触しない。


 おっと! 尻尾が便器にインするところだった。


 危ない危ない。


 僕は尻尾に力を入れ、ピンと立たせて、水没を防ぐ。


 そして、右手だけでパンツを少しずつおろしていく。


 その間、でかすぎる胸が右手の動きを阻害してくる。


 先にパンツを下すべきだったか。


 てか、ほんとこのおっぱい邪魔だなぁ……。少しレズビアに分けてあげられないかなぁ。


 で、なんとかパンツを下げきる。


 そして、ついに放尿開始。


 ジョロジョロジョロジョロジョロジョロジョロジョロ……。

 ジョロジョロジョロジョロジョロジョロジョロジョロ……。


 長い放尿だった。


 ふうぅ……。

 ああ、気持ちよかった。


 ウップス! 気を抜いて、尻尾がだらりと垂れさがるところだった。


 危うく尻尾がおしっこまみれになるところだった……。


 今度は尻尾も手でつかむことにするか。


 それで、ええと、最後はたしか、振るんじゃなくて、トイレットペーパーで拭くんだったな。


 うっ!

 このトイレットペーパーめっちゃ硬いし。


 はぁ……。

 おしっこするだけで一苦労だな……。


 次回は、背中の翼で空中に浮かびながら、「恵みの雨だ~」とか言いながら放尿するっていうのを試してみようかな。


 ……って、何バカなこと考えてんだろ。


 トイレから出て、洗面所の鏡を見ながら手を洗う。


 ああ、やっぱりこの顔かわいいな。


 ピンク色のロングヘアに、大きな瞳に、桜色の唇に、柔らかい頬。

 頭もくるくるした角も愛らしい感じがする。


 これが自分じゃなければ、この淫魔に僕の童貞をささげていただろうな。



   ※   ※   ※



 トイレから出ると、レズビアたちはもうお会計を終えて待っているところだった。


「ごめんごめん。遅くなったね」


 僕らは店内を出て、再び堕落街の大通りに出た。

 相変わらず大勢の魔族が歩いていて、活気付いていた。


「さて、今日はここらで解散しよう」

 と、レズビアが言う。


「えー」

 カーミラが異議を唱える。

「せっかくリリスちゃんと会ったんだし、もうちょっと遊んでいこうよ」


「今日はメイドの仕事の初日ということで、リリスも疲れているのだ。そうそう、リリスも明日からうちの学園に入学する予定だ。だから明日もまた会えるだろう」


「そうなの? やった! リリスちゃんと明日も会えるんだ! 同じクラスならいいね」


「お父様が同じクラスになれるように取り計らってくれるだろう」


「何よ、その権力乱用」


「メイドと主人が違うクラスだったら、問題だからな」


「じゃあ、リリスちゃんはみんなと同じクラスなんだね。やった!」

 カーミラがまた僕に抱きついてくる。


 こればっかりは僕の幸せ。

 でも、カーミラに対してはちょっと心苦しい。

 だって、僕は元の世界、元の姿に戻りたいと思っているからだ。

 

 明日、目が覚めたら何もかもが元に戻ってないかななんてことも思う。

 カーミラはかわいいし、こんなに僕に好意をもってくれているけれど、やっぱりずっと一緒にいることはできない。

 それに、僕の元の姿を見たら、きっと嫌いになっちゃうだろうな。


 僕はちょっとためらったけど、カーミラの頭を撫でる。


 カーミラはとっても嬉しそうな顔をして、

「えへへ。もっと撫でて撫でて」


「う、うん」

 僕はもっとカーミラの頭を撫でてやる。


「ごめん、ちょっと涎垂れちゃった」


「ええ……」


 たしかにちょっと胸のあたりが湿ってる。

 やっぱりまだ僕の血をおいしそうだと思ってる?


 カーミラはハンカチを取り出し、僕の胸のところについた涎を、ぽんぽんとはたくようにぬぐう。


「リリスちゃん、ごめんね」


「なに女どうしでいちゃついてるのよ……」

 スウィングが呆れ顔で言う。

「また明日もあなたのそのでかいおっぱいを眺めないといけないのね」


「別に眺めなくていいから」

 スウィングに対しては何も思わない。

 むしろあっち行けって感じ。


「じゃあじゃあ、リリスちゃん、スマホのメアド交換しようよ」


「え? スマホ? 魔界にもあるの?」


「魔界にも?」

 カーミラが首をかしげる。


「何を言っているのかしら?」

 スウィングも僕の顔をぽかんとした顔で見つめる。


 痛っ!


 レズビアは僕の尻尾を固結びしてくる。


「何するんだよ……」

 僕は尻尾の結び目をほどく。


「カーミラ、スウィング。リリスはバカだから気にするな。この女はスマホもないようなクソど田舎の魔界の辺境から出てきたのだ。だから、スマホというのを遠い異世界のものだと勘違いしているのだ」


 なんか僕に新たな設定が追加されてしまった。


「あんたなんかすごいのをメイドにしたのね」


「これくらいのほうがちょうきょ……じゃなくて、教育のしがいがある」


「そうなんだ。じゃあ、私もリリスちゃんに都会のこととかいっぱい教えてあげるね」


「ありがとう」


 たしかに僕は魔界のことは何も知らないわけで、田舎から出てきて右も左もわからないって設定にしてくれたほうが、都合がいいといえば都合がいいけど。

 ただ、バカっていうことはないだろ。

 このままバカキャラにされるわけにはいかない。

 

「じゃあ、またねー」

 と、カーミラが手を振る。


 僕も手を振り返す。


 そして、カーミラとスウィングは、魔王城とは反対方向に歩いていった。


「リリスが元は人間のブサイクな男だったなんてことがバレたら問題だからな。発言には気をつけたほうがいい」


「わかったけど、ブサイクっていうのは余計なんだけど。元の顔は超イケメンだったから」


 レズビアは僕のことを「うわぁ……」みたいな感じで見てくる。


「な、何だよ」


「まあ、いい。リリス、帰るぞ」

 と、レズビアは僕の手を取る。


「う、うん」

 

 前にレズビアと手をつないだときは、魔王から逃げようとしたときだったから、あんまり気づかなかったけど、彼女の手も柔らかくて温かいな。


 僕は天を衝く尖塔がそびえる禍々しい魔王城――これから僕らが帰る場所――を仰ぎ見た。

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